50「危機管理も碌にない…」信じられぬ…、特別授業
〜イツキの言う、読心を防いだ方法を2人は信じておらず…イツキは信じさせる為に行動にでる〜
イツキが上げた、読心の類による思考の露呈を防ぐ方法を聞いた2人は、ピンとこなかったらしく、微妙な顔をしていた。
シンヤは、この嫌いな力が、その程度の事で防ぐ事が出来るものなのかと、疑っていた。
今まで読むことの出来なかった相手がいなかってせいで、その考えは強いのだ。
何より、心を閉ざす・思考を空にする…と言われても一体どんな方法なのか、具体的でない為に信じきれていない。
実際に読むことはできないのだから、そういった方法があるのは間違いないのだろう、とは思っている。
サリーもピンとこなかった。
多少なりとも裏に関わっていたサリーは、それなりに危ない情報を扱うに踏まえて、色々な対処法を学んでいた。
既に大半は忘れてしまったが、内容はともかくどういった対策があったかは覚えている。
しかし読心に対するものなど、顔を見せないや魔法的な防ぎ方しか無かったと記憶していた。
その為、イツキの言う方法に疑問を持ち、はぐらかされたのではとも考えていたのだ。
もちろんのこと、自分の学んだ方法が全てではないとは理解しているので、まああり得るのかな…くらいには信じている。
(信じていない、とよくわかる顔だな。…嘘ではないのだが、疑われ続けるのもな、つまらない。読心仕返してみるか)
まあなんと言おうとも、2人とも信じ切ってはいない事に変わりはなく、正確に伝えなかったとはいえ、事実であることを疑われるのは面白くない。
そう考えると、少し違った方法で正しいことを証明する事にした。
シンヤの十八番、読心術を仕返すと言う方法で…それも説明なしに。
「信じきれないか…お前の力など、魔法の力などなくとも簡単に防げる。具体的な方法?説明したところで理解できまい」
「…えっ?」
説明もなしに、いきなり考えていた事に答えを返されても、反応に困るだけ…それが大体の者が返す反応だろう。
たとえ考えを読み取る力を持っていたとしても、それは変わらない。
その為、間を置いて出た声は、若干何いっているんだコイツ…といったニュアンスを含み、イツキたちのいる部屋に乾いた風を吹かせた。
しかし、イツキの言った言葉はしっかり覚えていたシンヤは、もう一度リピートする事でどういった意味があったのか理解した。
自分の考えていた事、抱いていた疑問が何故か相手に伝わっており、その疑問に答えていたのだと。
そう理解したらどういった反応をするか…今迄通りである。
「なんっ、分かってっ?…え?え!?」
混乱する。
ポケットサイズのモンスターにも引けを取らない混乱っぷりである…他意も意味も特にない。
その様子にイツキは、自分が読心仕返した事を理解したのだと、察した。
そしてシンヤの混乱が治る前に、サリーも読み取る。
「一体どうしたか?私が読み返したからだな。そして技術は日々進化する。昔習った程度のものなど、今は参考にすらならないと思え」
「…?どう.い‥う…っ!なっ何故」
そしてサリーの反応も困惑でいっぱいであったが、流石というか、直ぐにイツキの口にした言葉の意味に気づく。
そしてシンヤ同様…と迄はいかず、驚きはするものの混乱はしない。
それでも取り乱すほどではないだけで、なかなか衝撃は受けた様である。
(これで良い)
さて、既に満足そうにも見えるイツキの目的は、信じ切らずに疑ってくる読心の防ぎ方を、信じさせる事である。
そこでとった行動は詳しく説明する事でなく、読心を仕返す事。
読心する事でどう信じさせるのか。
「読心を防ぐ方法を知れば、読心の会得にもつながる」
「そ、それが?」
「だから、読む事ができたのですか?そして先程の防ぎ方も合っていると」
防ぎ方を知っていればそれだけ応用が効き、その裏へ反転させる事ができる。
例えば将棋。
王を守る布陣を知っていれそれだけ、布陣の弱点や狙いが分かり、隙やカウンターを狙いやすくなるだろう。
もしくはサッカーやバスケなどのスポーツ然り、戦争や重要人物の護衛、暗殺然り。
だから、読心ができるのは防ぎ方を知っているからである、つまり防ぎ方を正しく知っているからなのだと。
そういう意味なのだが…
シンヤには上手く通じなかった様で、続きを催促する。
しかしサリーにはしっかり通じたので、シンヤに伝えるという意も含めて、確認する様に声に出す。
しかし、未だに信じておらず反応が悪い。
「その通りだが、信じないのだろう?だから、読心の類の──
イツキは、それでも反応は悪いだろうと予想済みであった為、予定通り話を進める。
先程の、防げるから〜云々はこの話へ繋げるための布石であり、次こそが本命。
一体何をさせるのか。
──特別授業だ」
読心とその防ぎ方を、特別授業枠で教えるのだ。
*****
「特別授業…ですか?それこそあの子たちに使って欲しいのですが…」
全くその通りである。
サリーが最初に抱いた感想…というか考えがその分も他の人孤児達に教えてあげて欲しい、というものであった。
子供達の将来のためにできる事を増やしたい、という目的の為に計算や文字を教えに来ている。
読心やその防ぎ方など、明らかに普通では知る事などなく、デメリットよりメリットの方がはるかに多いだろう。
ならばサリーの言う通り子供達に教えるべきではと思うが、イツキはその答えを用意していた。
「危機管理も碌にない、口の軽い子供達に…か?犯罪者達の格好の獲物だな?」
「…なるほど。それは、そうですね」
「そしてそれは、そいつの能力をバラす事にもなる。本当にいいのか?」
「えぇ!?」
精神の未熟な者へ教えるには優れたもの過ぎるのだ。
もし本当に、読心ができる様になってしまえば、つい自慢したくなるだろう。
そしてその欲求を我慢できるかと言えば、首を傾げざるおえない。
ニーシャやヨツトウなど利口で賢い、自制がしっかりできる者達はいいが、キースを筆頭とした一部の子達には難しい。
そしてその事が広まれば真っ先に狙うのは犯罪者たちである。
国や冒険者ギルドなども目をつけのは間違いないのだろうし、平穏とはかけ離れるのは想像に難くない。
教えるのを躊躇わせるのには十分な理由であり、その想像をしたのか若干青ざめて納得したサリー。
しかしダメ押しとばかりに、無駄な所で徹底的にやっていくのがイツキであり、今度はシンヤにもデメリットがある事を示す。
教える事になった切っ掛けはシンヤの能力であり、誰かがその事に触れてしまえばバレるのは時間の問題である。
イツキ達3人で口裏を合わせておけば、何の問題ない程度の小さなことではあるが…。
見事シンヤは狼狽、サリーへプレッシャーをかける事ができたので、イツキの目論見通りになってしまった。
「それに、お前が使える事には意味があるだろう。相手の邪心くらいはわかっても損はあるまい」
「…そこまで、考えてくださったのですか?」
「…偶々だ。こちらにも、譲れぬものがある」
デメリットだけでは終わらせず、最後にメリットを持ってくるイツキ。
相変わらずせこいと言うか…使いやすいだろうし効果的なのだろうが、やる事なす事が一々犯罪くさいのは何故なのだろうか。
…まあ、それはともかく。
イツキの提示したメリットは、少し前に現れた人攫いの様に、何らかの悪意を持て近づいてくる者達に直ぐ気づき、対処なり警戒する事ができる。
先制という、圧倒的有利な立場に立てるのだ。
孤児達と老婆など、取れる手段は限られるが、それでも十分なメリットである。
サリーも、心の内がわかるという有利さは分かっているつもりであったが、そこまで頭が回っていなかった。
イツキに言われてやっと気付き、そこまで考えていたのかと尊敬の様な感情を持って驚く。
2人のみに教える為に、サリーが上げるであろう意見を全て論破できる様に…とういう意味なら、確かにそこまで考えていたイツキ。
しかし、尊敬の念を抱く様な素晴らしい考えではないのだ。
サリーの問いに答えた様に、譲れないもの…譲りたくないものがあったから、若干ムキになっていると言えるほどやる気になっているのだ。
予定にはなかった事を組み込むほど。
…そう、2人への特別授業とは計画のうちではなく、急遽できたものであった。
予定が変わる事をかなり嫌っているイツキであるが、時折この様に自分から変えるのだ。
その大抵は、仲間の何かが絡んだ時である。
話は逸れるが、イツキが予定を変えた理由に仲間が関わってた例を上げると、似たものが多くなる。
例えば仲間が害された時、報復に動いた事。
仲間の頼み事に、予定を変えるだけの理由があると判断した時…技術習得の訓練など。
細かく別ればいくつもあるが、大体はこの様な理由だった。
今回も仲間が絡んでいる…とは考えづらいがどうなのだろうか、イツキが回想してくれることを願おう。
ということで話は戻して。
謎の理由で予定を少し変えたイツキ。
といっても、長期的なとこなどさらさらするつもりはなく、短い期間で習得させる事ができるからこそ、多少の変更は目を瞑ったのだ。
それでも早く終わるに越したことはない。
「主にそいつには読まれない方法を教える。お前は読む事に重点を置くが、防ぐ方法も覚えておけ」
「…分かりました。お願い致します。ほら、シンヤも」
「う、うん。…お願いします」
早速始めるイツキ。
先ず、何をするのかを伝える。
シンヤはそもそも、嫌でも考えを読んでしまうのだから、特に読心を教える事はない。
なので、防ぐ方法をほぼずっと教える事になる。
サリーは、当たり前だが読心もできないので
どちらも教えていく。
しかし、メリットで示した通り、防ぐよりも読める方が使う場面は多い筈なので、読心に重点を置いていく。
方針も決まると、まだ戸惑い混じりの2人を急かすように特別授業が始まった。




