48「面倒は私が見よう」力の制御は、導かれたのは…
〜ミエリアに、力の制御が出来るよう助けてあげて欲しいと、頼まれたイツキ。どうせ引き受けるのだろうが〜
サリーのお願いに対し、『いいのか?』と質問を返したイツキ。
追加報酬を出していいのか?という風にも取れるが、その本意とは…
「……」
「今は抑えているだけだが、あの力を多少でも使えるようになれば、そこらの人間など相手ではなくなる」
「そう、でしょうね」
「それで、いいのだな?」
ということである。
珍しく長文で話しているが、これでも所々端折っており、いまいち意味がわかりにくい…なので解説していく。
まず始めに、イツキの言う内容は全てミエリアのことである。
そのことを踏まえ、『今は抑えているだけ』というのは、手当たり次第に壊さないよう異常な力をセーブしている、ということ。
結局物を壊してしまっているが、もしセーブを一切していなければ孤児院は今頃崩れていただろう…というのがイツキの考えである。
そして次に、『あの力を〜相手ではなくなる』とは、力を抑えることに意識を割いている今ですら、ドアを吹き飛ばせる。
それなら、多少でも力をコントロールでき、余裕が生まれれば、その分さらにコントロールに意識を割くことができる。
そうなれば相手が多少腕が立っても、文字通り力でねじ伏せることが出来てしまうだろう…と、いうことである。
そしてイツキの『いいのか?』という問いかけの意味だが…ミエリアにそのような力を与えて『いいのか』と聞いていた。
この場合の力とは、筋力などの力ではなく、持てる術のことである。
そして何故、イツキがそのことを気にするのかは置いといて。
仮にミエリアがイツキの言う力を得てどうなるのか…もちろんのこと、別に傲慢になあるわけではない。
なら何かといえば…
「孤児院を助けるために、冒険者にでもなるだろう。力を活かす、最も簡単な方法を」
「…」
「冒険者として活動する危険さは、理解できるだろう?」
資金の足りぬ孤児院を少しでも助けるために、稼ぎの良い冒険者にでもなるだろう、と。
ちょっと腕が立つ者…冒険者で言えばEランク程度だが、簡単にねじ伏せてしまう力を活かすなら、一番簡単なことは冒険者になることであろう。
しかし冒険者とは、一般市民より遥かに命の危機出会いやすい。
力を持ったと言っても、所詮はDランクからCランク下位程度だろうし、力だけで生き延びる事が出来る程甘くない。
何より、ランクが上がればそれだけ、依頼の厄介さは上がっていく。
つまり…
「死ぬぞ」
「っ…」
そう、たった一言、非常に短い言葉であるが、何よりも最悪な結果。
生の終わりを、サリーの知らぬ場所で迎えるかもしれないのだ、と。
長くなってしまったが、その覚悟があるのか、と聞いていた。
改めて突きつけられた言葉に、顔を歪めるサリー。
もちろん、イツキの言う予測は絶対ではないし、可能性の一つでしかない…のだが、ミエリアの性格を考えるとかなり高い。
サリーもその予想に行き着いていた。
しかし力を持て余している現状はどうにかしてやりたい、そんな葛藤が繰り広げられていた。
「そう、よね…。多分、私との約束も、力は扱えていると耳に入れないでしょう。あの子達を引き合いに出しても…」
「それでも、やるか?」
「……」
サリーの言う約束とは、2人の間のみで交わされた、ミエリアが誤って人を傷つけないためのものである。
しかしその約束も、力をコントロール出来るからもう必要ないと、聞く耳を持たないだろうと。
誰かの為に、と決めたことはなかなか曲げず、無茶も平気でする子だだから、余程の事でもない限り止まらないだろうと。
しかし、ミエリアにはもっと楽に生活してほしい。
ぐるぐると思考がループする中、イツキが急かすように尋ねる。
どうしようかと迷いに迷い、イツキに催促されたことにより焦燥感が募り、老体には堪えたのか思考がぼやけていくサリー。
的な判断などできそうにない状態のなか…
「それなら…」
悪魔の如きイツキの囁きが…
「本人が望む通り…」
サリーの頭を侵食していく。
「…どうだ?」
そして、イツキの提案を聞くと何かに誘導されたかの様に、他の選択肢を考えることもなく、肯定的な意思を見せた。
「その方が、いいのかもしれないわね…」
もしこの光景を、多少でも良心を持った、心理に詳しい学者なりが見ていたのなら、即座に間に割り込み会話を止めていただろう。
何故か…そう難しい事ではない。
スレスレではない、完全に犯罪といえる行為が行われていたから。
先に…イツキがサリーに提案した事、それは──
「お前と同じ道を歩ませてやれ。子が同じ道を行くことは珍しい事ではあるまい?面倒は私が見よう。力もほぼ完璧に扱わせてやる」
サリーが歩ませたくないと思っていた道。
少しとはいえ自分が辿った、血に塗れた許されざる道。
本来なら選ぶ筈のない選択。
──暗殺者へと誘う、死神の囁き…
ここで、選ぶ筈のない選択を選んだ理由、その理由が先ほどの会話の間に入る〜犯罪行為云々につながる。
それはイツキが、サリーの無意識の領域を揺さぶり、操り、発見と自覚の困難なとある精神状態に持っていったから。
それは…
(この程度でいいな)
マインドコントロール…つまり、洗脳したからである。
この世界でも洗脳は犯罪であるので、イツキの行為が分かる者なら、ということである。
それも、操り人形の様にあからさまに怪しいものでなく、小さな小さな…しかし強力な洗脳。
表層部や根っこ全体、あるいはまるまる全ての思考を変えたのではなく、極一部を捻じ曲げた。
ミエリアへの想い、そのとある部分を変えたのだ。
それも自分の職業に誇りを持つ親なら、我が子へ持ってもおかしくない、夢ともいえる考え方に。
それは、自分を目指して同じ道を歩んでほしいという、親心…同じ道を強要させる様な親心は知らないが。
まあ、それはともかく。
余程自分のことをダメ人間だとでも思わない限り、目指して欲しいと…もしくは目指すと言われれば嬉しいと、そう思うだろう。
そんな考えを、サリーに持たせた。
危険な冒険者の可能性か、力の制御を諦めるかの選べぬ選択を迫られ、思考があやふやな状態で3つ目の選択肢が現れる。
しかし歩んで欲しくない道だからと却下する筈が、その3つ目の選択肢は前の2つを両方とも叶えるものであり、かつそのタイミングで『親の道を子が〜』と、刷り込む。
そうすることにより忌避していた筈の暗殺者の道…ミエリアが殺人者になるということが、意識から逸らされたのだ。
大雑把に例えれば〜冒険者になる事もなく力を制御できて、更にミエリアが私と同じ道を歩む→とても嬉しい→殺人をして欲しくないという思いが目から逸れる〜…といった感じである。
もともとサリーは、ミエリアに殺人をして欲しくないから、自分と同じ道を歩んで欲しくないと考えていた。
それなのに、自分と同じ道を歩んでくれる嬉しさだけで、その考えが逸れた事にはもちろん、理由がある。
ミエリアに殺人をして欲しくない理由をすり替えて、問題ないと思わせた。
血に染まった、不幸しか待たない道を行かれるのが嫌だったから、冒険者同様に命の危機が身近になるのが嫌だ、という風に。
そしてイツキがミエリアを預かるから、その心配は無用であると。
少し無理のある話だが、殺人をして欲しくないという思いを逸らせる為なので、バレない程度には雑になっている。
…長い説明はこれで終了である…が、少し余談。
イツキは、操り人形レベルの洗脳を施して、違和感を持たれない様に日常生活を送らせる事は、不可能ではない。
しかし今回はそこまでする必要がなく、かつ時間が足りないため施さなかった。
それでも、綻びが出ない様に他にも捻じ曲げたりしているので、本人も含め誰も気づく事はないだろう。
*****
さて、ミエリアに暗殺者への道を承諾させたイツキ。
何故暗殺者を目指させるのか、洗脳をしてまでする必要があるあるのか、など疑問がたくさん生まれた。
しかし説明できる事は少ない…なので追い追い。
サリーの望まぬ、ミエリアの暗殺者への道が決まったので、話は進む。
「では、力を制御する術は教えてやる」
「ありがとう、ございます。それで、報酬ですが…」
「不要だ」
「…え?」
イツキが部屋へ呼ばれた本題、ミエリアに力の制御をする助けをして欲しい、という頼みを了承したり
既に、先ほどの様子がなくなり、落ち着いているサリーはそのまま頭を下げる。
そして、それなりに重要な報酬の話は移る…筈が、報酬は要らないとイツキは拒否した。
予想外の言葉に少し呆然とするサリー。
冒険者や裏の仕事につく者は大半が金目的であり、たとえ貰える物が道具であっても、要らないと突っぱねる者はまずいない。
その為に呆然とする程意外だったのだが…思考に靄がかかっているようだ。
若干洗脳の影響が残っているのかもしれない。
「いいのですか?大した物ではありませんが…」
「不要だ。ただ、何時からかは未定だが、長期間此処を出る事になる」
「っ!…長期間ですか。どれ程?」
「さあな。1年前後か。本人の希望にもよる」
確認の為、再度尋ねられたが、同じ言葉で拒否する。
報酬が要らない理由のように語った話は、ミエリアを鍛える為に短いとは言えない時間、別のところへ行くという。
可能性としては考えていたのか、当たって欲しくない予想があったかのように、息を飲むサリー。
人によって長期間を指す時間は異なる為、どの程度なのか把握しようとする。
分からないと前置きのように答えながら、1年前後とそれなりに詳しい期間を提示した。
詳しい期間は、ミエリアが帰りたい、まだ続けたいと意見を聞いて決める予定なので、分からないといったのだ。
ほぼほぼ検討はついているが。
「そう…あの子なら、妥協はしないでしょう。遅くなってしまうかもしれないのね」
「…」
「仕方がないわね。それでは、本当に報酬はよろしいのですね……はい、分かりました。メアのこと、よろしくお願い致します」
中途半端に終わらせる事はないと、やりきってから帰ってくるだろうと予想し、時間掛かってしまうと思ったサリー。
当分は会えないのだと、寂しさが募るがまだ暫くは此処にいるのだと、気持ちを切り替える。
最後に報酬は要らないのか確認して、ミエリアをよろしくと頭を下げた。
洗脳云々、分かり難いですよね…すみません。あれでも3時間かけて悩みに悩んで纏めたのです。許してくださいorz
もっと読者様方に伝わる表現を学んでいきますので、今はどうか、拙い文章ですが読んでいていただけると、嬉しいです。




