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46「…渋る事がある」下手な誤魔化し、声なき言葉

〜キースに認められ、一歩目を踏み出したイツキ。他の子たちの自己紹介は?〜

 *イツキ


 場面は戻ってイツキ。


 ミエリアを見送った後、キース以外にも自己紹介をしていない子達全員が簡単に紹介された。

 名前と歳を言うだけだった為、大して時間も掛からずに終わり、こうして総数15人の孤児達による自己紹介は終了した。


 ***

 孤児院の年齢による人数分けをすると…

 17歳──ミエリア…1人。

 15歳──キース、ニーシャ…2人。

 8歳──ヨツトウ…1人。

 7歳──ミミ、リリ、シンヤ…3人。

 6歳──0。

 5歳──タイン、他2名…3人。

 4歳──5人。

 4歳未満──0。

 計15人となる。

 紹介されていない子達の名前などは、後で出る…かもしれない。

 ***


 この15人全員に教えるわけではなく、4歳の5人はまだ勉強はさせないらしいので、5歳以上の10名に教えることになる。

 この世界はともかく、イツキがいた地球…の日本では一クラス30人前後の子供達を1人の教師が教えていた。

 そのことを考えれば10人は少ないといえるだろうし、面倒は見やすい。

 科目で担当教師が変わったりしている為、人数が少ないからといって教えやすいかといえば一概には言えないが、今回教える事は文字と計算だけなので楽だろう。


 何が言いたいかといえば、予定より短い時間で教える事ができそうである、という事。

 20人近くに上ると多めに見て予定を立てていたのだが…半分である。

 ノートなど記入物が気軽に使えないとしても、問題など全くないほど余裕ができた。

 お陰で計画に専念できると考えいると…


「う〜ん…」


 何か深く考え込みながらミエリアが部屋から出てきた。

 どうやらサリーによるお叱りは終わったらしい…が、サリーとシンヤがまだ出てこない。

 その事を疑問に思ったキースが尋ねた。


「院長とシンヤはどうしたよ?」

「…あ、シンヤくんは部屋で寝ています。院長は付き添っていて」


 深く考えていた為に一瞬反応が遅れるも、しっかり説明はした。

 納得したのか、そこまで疑問に思っていたわけではないのか、ふーんとおざなりに返事をする。


「メアさん」

「…ん?何ですか?」

「なにをかんがえていたのですか?」


 すると続けて質問をするものがいた。

 舌足らずな敬語を使う男の子…ヨツトウである。

 キースはサリー達がいない事を真っ先に聞いたが、ため息をつき唸りながら出てきた事の方が気になる事ではなかろうか?

 現に周りの…と言ってもニーシャやイツキだけだが、キースが先に聞いた事が2人の行方であった事に呆れていた。


 更にヨツトウの場合、悩みがあるなら聞いて少しでも軽くしてあげよう、という気遣いも含まれていた。

 しかしキースにはその様な考えなど、そこらに転がる石粒ほども存在しない。

 この違いが、自分を棚に上げた発言や空気の読めなさに繋がってしまうのだろう。

 逆にヨツトウは、礼儀正しいなど高評価に繋がったわけである。


 さて、話を戻して。


 何を考え込んでいるのか、そう聞かれたミエリアは…


「う、んと…ですね。……。………」

『??』


 もの凄く言葉に詰まり、説明しようと口を開くもすぐに閉ざしなかなか答えない。

 言葉が見つからないといった様子のミエリアに、周りの者たち…これも数人だけだが頭がハテナで埋まる。

 しかしイツキには、違ってみえた。

 何が違うのか?…それは。


(誤魔化そうと嘘を考えている、と。…提案されたか?)


『説明しようと言葉を探している』のではなく、『聞かれた事を正直に言えず、誤魔化す為に嘘を考えている』様に見えた…いや、そうだと見抜いたのだ。

 つまり、何を考えているのか?という質問に対し、答えたくない為に必死に嘘を考えているのだ。

 しかし都合のいい嘘など思いつかず、口を開きかけては閉ざしてを繰り返していた。


 壊れた機械の様に開閉を繰り返す事数十秒、嘘を思いついたのか諦めたのか、ミエリア意を決して答え…


「いや〜なんでもないですよ!」

「…え?あ、そう…ですか」

『…』(いや〜、じゃない!)


 なんでもないとはぐらかした。

 溜めに(悩みに)溜めて(悩みんで)吐き出した言葉がはぐらかすもので、呆気に取られてしまい何とか返事をするヨツトウ。

 ミエリアが何と答えるか、聞き耳を立てていた他の者たちはまさかの韜晦とうかいに無言になるも、心のうちで叫ぶ。

 見事に同じ言葉を…キースまでもが。

 イツキはといえば。


(やはり嘘が思いつかなかったか。馬鹿過ぎる答えだが、何とかなるとでも…思っているのか)


 結局嘘が思いつかなかった事は特に何も思っていない様だが、あまりの馬鹿すぎる誤魔化し方に、あり得ないと分かっていても裏があるのではないかと疑う。

 しかし本気で何とかなると考えている事を見抜いてしまう。

 頭痛ではない、精神的な頭が痛いとはこういう事を指すのだろうと改めて実感していると、空気の流れが変わった事を察知する。

 別に風の吹く方向ではない、場の感情のことである。

 皆のミエリアを見る目が、一体何事かという興味から疑わしき者を見る目に変化したのだ。

 一体何を隠しているのか問い詰めようとしている者たちを見て、イツキはミエリアへ助け船を出すことにした。


「何を渋る事がある。素直に言えばいいだろう」

「っ、イツキさん?」

「は?なに、あんた知ってんのか?」


 ミエリアがなにを隠しているのか確信を持っているわけではないが、大体の予想はついているイツキ。

 恰も自分を知っている風を装い、一旦注目を自分に集めた。

 知っている筈のない人物から声をかけられ、焦る様に名前を呼んだミエリアと、気に入らない相手が横槍を入れてきたことに突っ掛かるキース。

 風向きがまた変わったこと察知するとミエリアへ合図を出した。


 〈〈何を誤魔化したいのかは知らないが、手伝ってやる。合わせろ〉〉

「え?え?」


 合図といってもアイコンタクトやサインで伝わるわけがないので、少々…かなり特殊な方法を使う。

 声を出さずに相手に言葉を伝えるという、テレパシーかとも思えるイツキ自身の技術を使って。

 誤魔化したい内容は知らないふりをするが。

 突然声が聞こえたミエリアはそれはもう戸惑い挙動不審となるが、イツキが注目を集めたばかりの為か、目を向ける者はいない。


「で?何なんだよ」

「2人を連れ戻す際に人攫いにあったことだろう」

「はあ!?」「え!?」

「そうなのか!?」

「ホントですか!?メアさん!」


 しびれを切らしたのか、キースが急かしてくる。

 急かされたから、というわけではないが偽の答え…人攫いに絡まれた事を答えるイツキ。

 絡まれた事自体を本当の事なのでミエリアも合わせやすいだろうと、このネタを選んだイツキ。

 そんなイツキの考えなど知らず、自分たちの知らぬ間に人攫いと出会っていたと聞かされ、かなり驚いた様子のキースとニーシャ。

 孤児は人攫いの標的になり易いだろうから、敏感になっているのかもしれない。


 その話題の張本人といえば…


「え?…いや、その〜」


 更に慌てていた。

 急に声をかけられたと思ったら周りの人たちには聞こえていない様で、その現象に何なのか不思議に思っていた。

 するとイツキが、自分が言いたくない事とは別の事を言い出したので、合っていない筈なのに逆に慌ててしまっていた。

 そんなミエリアの様子にイツキは面倒そうにしながらも、もう一度口以外から言葉を発する。


 〈〈いいから話に乗れ〉〉

「じ、実はそうなんです。ただ皆に心配させないように、と…」(どうなっているんですか〜っ)


 もう一度聞こえた言葉に内心では更に慌てるも、アドリブにしては上手く乗っかれたミエリア。


「ただ、イツキさんが追い払ってくださったので、何事もなかったですよ?」

「そ、そうですか。ふぅ、良かったです」

「…ふーん?そいつがねぇ」


 そしてミエリアは上手く話を纏め、そのお陰か、騒ぎもなく落ち着きを取り戻していく。

 ニーシャは安堵から止めていた空気をため息のように吐き出し、キースは若干意外そうにイツキを見た。

 イツキが意外に力持ちである事を知らないが故の反応だろう。

 イツキはイツキで意外なほど上手く乗り切ったミエリアに少しだけ、意外さを感じていた。


 これで誤魔化しきれたかと、周りにバレないように息を吐くミエリア。

 すると何故か隠したい事があるとバレ、しかし協力してくれたイツキへ、軽く頭を下げた。


 さて、ひと段落ついたところでイツキがどの様に言葉を伝えていたのか、説明しよう。


 ***

 まず、ミエリアが耳にした言葉は声ではない。

 声帯を震わして発した音を声とするならば…であり、空気の振動による音なのは間違はない。

 つまりイツキは声帯ではなく別のものから振動を起こした。

 声帯で震わした言葉になる様に。

 では、何で振動を起こしたか…それは。


 指…いや、爪である。

 爪同士をこすり合わせて音を出していたのだ、それもミエリアにのみ向けて。

 言葉を口、声帯を震わして発した際の振動を、爪をこすり合わせる際に発する振動で再現したのだ。


 おそらく、イツキが風系統の魔法が使えたら、ただ空気を振動させて対象にしか聞こえない言葉を発する、という事を簡単に行ってしまうだろう。


 空気の流れによる振動でないのに何故、声と同じ事ができるのかは不明である、申し訳ない。

 また、爪で何故振動方向を限定できるのかも謎である。

 イツキが人から大きく踏み外しているから、で納得してほしい。


 ちなみに、この方法でよく仲間への伝達手段として使用しており、また対象の気を逸らすなど使い勝手が良いため、仲間たちにも教え込んだことがある。

 それなりの時間を掛け全員取得はしたものの、流石に動かずに集中しないと使えず、これ以上の成長は見込めないと終了した。

 これは使い物にならないとイツキは判断したのだが、この判断にキレてイツキに襲い掛かった者がいた。

 凡そ人には習得不可能であろうことをさせて、結局使えないとは何事かと、そういう理由だった。

 もちろん瞬間にボロボロにされ、返り討ちにあっている。

 まあ、余談である。

 ***


 説明は終わり、孤児院へ戻る。

 感謝を終えるとミエリアはハッと何かを思い出した様に突然、イツキの方へ顔を向け慌てて口を開く。


「あ、あの!院長がイツキさんのことを呼んでいました!」

「…メアさん、遅過ぎですよ」


 ミエリアが部屋から出て行ってから、既に数分経っている。

 明らかに待たせているわけである。

 そのことを知らされたイツキは…


「そうか」


 と、驚くことも動揺することも何もなく、無言で部屋に向かっていった。


 サリーの、イツキを呼んでくる様ミエリアに頼んでいた声が聞こえていたからである。

 なので特に動じる事もなく、指定された部屋へ向かっていった。

声に関して、ですが。あれは少し適当な部分もあるので、イツキだからと流して頂けると、助かります~_~;

明らかにおかしい点などは指摘して頂けると、はい。助かりますので。

よろしくお願いします。

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