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44「何人もいないだろう」孤児院へ帰還、言語化不可能な涙

〜無事2人を捕らえたイツキ。孤児院に戻るとして、これからは?〜

 無事2人を捕まえ(?)、孤児院へ戻る途中。

 お礼を言ってから少し耐性がてきたのか、イツキの前でも多少の笑顔を見せるようになったシンヤ。

 まだフードは降ろしていないので、顔を見せてどうなるかは分からないが、大した進歩である。

 そんなシンヤとは逆に、ミエリアは笑顔を浮かべることはあっても、どこか無理をしているように思える態度をとっていた。

 つまり、どのような態度かといえば…


(早く話を聞きたい、ということか)


「ミエリア姉ちゃん、どうしたの?」

「え?」

「なんか、そわそわしてる」


 シンヤがミエリアの態度を表した通り、そわそわしているのだ。

 理由はイツキが推測した通り早く話が聞きたくて、できるならお願いを聞いて欲しくて。

 待ちに待ったその瞬間がついに目の前に来たために、とにかく待ち遠しい。

 その気持ちが態度に現れ、自覚して隠そうとするも無駄な努力となっていたのだ。

 …ミエリアは別に、イツキの殺人シーンを詳しく聞きたいわけではない。

 それに、まだ頭と体が別々に飛んでいく光景が頭にちらつき、気が落ちているのだから。

 態度がおかしい理由に、これも含まれているのだろう。


「あー、えっと…。あの人たちを追い払うイツキさんがかっこよくてですねっ、思い出していたんですよ!」

「へ〜、そうなんだ…」

「そ、そうなんです!だから気にしないでください!」


 そわそわしていた理由を慌てて答えたミエリア。

 咄嗟だったためその内容は、今でも頭にこびりついて消えない、イツキによる斬首シーンをがベースになってしまった。

 真実とはどう照らし合わせても重なる部分がない、全くの嘘にはなっている。

 事実と言えるのは追い払ったことくらいか…都市の外へ、しかも蹴り飛ばし投げ飛ばしで首も飛ばして、だが。

 まあ誤魔化す為なので問題はないのだろう。

 シンヤもそこまで気になっていたわけではないので、納得はした。


 つい目と心に猛毒なシーンを使ってしまったが、シンヤの返しに誤魔化しきれたかと、何とか気を逸らそうとする。

 その態度が逆に怪しいことに、ミエリアは気づかない。

 しかしシンヤは怪しむことはなかった。

 何故なら…


「うん、わかった」(ミエリア姉ちゃんがおかしいのはいつものことだもんね)


 挙動不審も、孤児院内では珍しいことではないから、そこまで気に止めることがないのだ。

 さり気なく、内心で毒を吐くシンヤ。

 自身でも毒を吐いているつもりはないので、無意識というか、つい事実を呟いてしまったのだろうが、幼子の無垢な心内は何と恐ろしい事か。

 …さて、話は戻して。


 たまに話をしながら孤児院へ戻るイツキ御一行。

 適当に走ったシンヤと、周りを見ずにそれを追ったミエリアに帰り道など分かる筈もなく。

 屋上に登った為に、地図が完全に頭にインプットされたイツキが先行して歩いていた。

 殆ど人見知りの症状がなくなったシンヤだが、イツキが先行している事も発症しない理由の一つであろう。

 1人を除いた、孤児院組2人で和気藹々とまではいかずとも、明るく話しながら、孤児院へ戻っていった。


 *****


 孤児院が見えてきてさらに歩き、未だドアのない玄関と、そこに立つ1人の歳老いた女性が視界に入った。

 すると、歳老いた女性…もといサリーを目に止めたシンヤは、先ほど感じていた不安や寂しさが戻ってきたのか、目に涙を溜め走り出した。

 もちろん、サリーの元へ。


「いんちょうっ、ごめんなさい!」

「……」

「*#€*〜〜〜っ!」

「あらあら、ぁ……ぇ」


 そしてサリーに抱きつくと顔を埋め、謝りながら泣き出してしまう。

 そんなシンヤを叱らず無言で撫でるサリー。

 頭を撫でられたシンヤは安心感が強まったのか、さらに泣き方が激しくなり、言語化不能な泣き声をあげる。

 イツキですら言語化を躊躇うであろう、凡そ人が発するとは思えない声で泣き続けるシンヤ。

 初めて…いや数回目でも驚きや呆れ、苦笑いなどが浮かんでしまいそうな変わった泣き声であったが、サリーにその様子はなく宥める。


(少なくとも、地球上に存在する発音で再現するのは不可能に近いが…あれが普通なのか)


 サリーが小さく呟いた言葉、『相変わらずねぇ』から、普段からあの泣き声である事が伺えた。

 だから、言ってしまえば慣れているのだろう。

 今はイツキの隣に立っているミエリアも、若干呆れを含む笑みを浮かべているが、動揺をかけらも浮かべていないのだから。

 しかし先ほどとは違い落ち着いているので、そわそわを吹き飛ばす程度の衝撃はあったようだ。

 そして本当に、イツキですら言語化が不可能に近いと言わしめるほど、特異な泣き声をしていた。


「…ちょっと変わった泣き声ですよね。初めて聞いたときは何事かと驚いちゃいました」

「この世界に、数人もいないだろうな。アレほどのものは」

「ふふっ、そうかもしれませんね!」


 ふと、ミエリアがイツキへ話しかけた。

 今でこそ特に驚く事もなく、眺めている余裕もあるが、初めて聞いた際はかなり驚いたものだ、と。


 その出来事があったのは、シンヤが5歳…約2年前の事である。

 急に院内に響いた奇怪な叫び声に、流石に初めて聞いた際は、一体何があったのかと孤児院内で騒然となった。

 サリーですら慌てて駆けつけ、かなりの大事となった。

 実は周辺に住む住人も何事かと様子を伺っていたが、慌てふためく孤児院の住人は気づく事はなかった出来事である。

 実際は転んで頭をぶつけただけだで、特に問題もなかった。

 ちなみに、シンヤは自分の泣き声が変わっている事に気付いていない。


 という事があったのだが、その時の事を懐かしげに思い出しながら、驚いたなぁと口にする。

 そんなミエリアへ、イツキは珍しくしっかりと相づちをうつ。

 イツキの言葉を冗談と受け取ったのか、面白そうに笑うミエリアだった。

 これは割と本気で言っているのだが、イツキのスペックを知らぬ者からすれば冗談にしか聞こえないのだろう。

 これ以上会話が弾むこともなく、2人とも口を閉じた。


 さて、シンヤが泣き始めてから時間は経っており、孤児院内へもその特徴的な泣き声がしっかり響いていただろう。

 つまり、その泣き声がシンヤたちの帰還の合図となり、子供達が奥から姿を現していた。

 そしてイツキ達も孤児院へ近づいていった。


「シンヤ君、おかえり!」

「うっ…」

「すごいねー?」「ほんとね」


 そして、シンヤが無事に帰ってきた事に喜ぶ者と、耳を抑える幼児達の姿が目に映る。

 帰還を喜ぶ者…ニーシャは喜びが強いためか、シンヤの泣き声をものともしていない。

 しかし幼児達はそうはいかず、耳を塞ぎ呻く者や呆れを見せる者などがいた。


 その幼児達の様子を見て、イツキは極僅かではあるものの、感心していた。

 何故か、それは誰も貰い泣きもせず、シンヤへの文句不満も飛び出さず、比較的大人しく見守っていたから。

 この世界…というより、この孤児院内の子供達の精神年齢の高さには、目を見張るものがあった。

 孤児達の中には自己紹介に出てこなかっただけで、4〜5歳ともっと幼い子達もいる。

 その子達も騒ぐ様子がない。

 この事実にイツキは感心していたのだ。


 さて、そうこうしているうちに泣き止んだシンヤ。

 みんなの前で泣いていたという事実に至ったのか、別の理由でまたサリーに顔を埋めた。

 いくらサリーとミエリアがいたとしても、この状況で人見知りが顔を覗かせないことはなかったということだ。

 このやり取りが延々と続きそうであるが、流石にストップが掛かる。


「ほら、シンヤ。中に戻るわよ?…それからイツキさん。連れ戻していただき、本当にありがとうございます」

「ああ」

「ミエリア、貴女は…あとで私の部屋に来なさい」

「はい!…アレ?」


 ずっと外にいるわけにもいかないので、中へ促す。

 そして、シンヤに掛かりっきりになっていた為に遅れてしまったお礼を、頭を深く下げておこなった。

 シンヤを抱いていたので不恰好ではあるが。

 イツキの返事を確認したサリーは次に、ミエリアの方へ向き若干威圧感のある声で部屋へ来いと言う。

 てっきり自分も何か言われるのかと思いきや、怒られるイメージしか思い浮かばない声で部屋に招かれたミエリア。

 まさかのその言葉に、奥へ消えていった院長に、少し呆然としていた。


「当たり前ですよ。メアさん、院長の制止を振り切って出て行ったじゃないですか…。それに床、見事に足型に窪んでますよ?」

「あ!忘れてました…。コレは、マズイですよね」

「まあ、はい。マズイでしょうね。あんな院長久しぶりに見ましたよ?ドアの件もありますし」

「う〜…どうしましょう、イツキさん!」


 呆然としているミエリアへ話しかけたのは、ニーシャだった。

 どうも、サリーが怒っている様なのだが、その理由が思い至っていない様子のミエリアに見兼ね、教えたのだ。

 珍しく怒声にも近い声を上げたサリーを思い出し、気落ちしていく。

 さらには床をへこませ、すっかり忘れていたドアを吹き飛ばした事も思い出し、流石のサリーでも怒りが振り切れるのではないかと、怯えるミエリア。

 若干涙目にまでなり、どうしようと頼ったのは、今日会ったばかりのイツキ。


「え…?」(なんで、イツキ…さん?…何かあったのでしょうか)

「謝るしかなかろう」


 まさかの相手に、驚きを隠せないニーシャ。

 年下とはいえ何年も一緒にいた自分達に話を振るのではなく、今日…それも会ってからたいして時間も経っていない相手に振った。

 それも割と本気で。

 ミエリアは意外と、最年長者という自負を強く持っている為、あまり頼ろうとする事はなかった。

 それでも、まだ他人といっても過言ではないイツキへ話を振った事が意外であり、かなり衝撃だったらしい。

 そして、ここまで短時間で仲が良くなるには、連れ戻す過程で何かが会ったのだと当たりをつけたニーシャ。

 内容までは分からずとも、見事に当たりである。


 さて、頼られたイツキはこれまた珍しく、流す事も適当に答える事もせず真面目に答えた。

 予想通りの質問(・・・・・・・)に、予定通り(・・・・)


「やっぱりそうですよね…。…あ、あの、後では何時……」

「先に部屋に入ってこい。それから…だな」


 謝るしかないとは思っていたらしく、抵抗は諦めた。

 それから、先ほどの事について話をするとの事だったが、何時なのか聞こうとするミエリア。

 しかし最後まで言わせず、まだ後回しにするイツキだった。


「…んぅ?」


 ニーシャが疑わし気に見ていた事に気付きつつ。

泣き声というと、音の高さのか大きさにつなげてしまうと思いますが、今話では文字て表すならという意味です。

ややこしいかと思いますが、作品ではなく説明下手な私を恨んでください…

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