表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/88

42「始まりの──始まりだ」追走、現れた者は

〜急に飛び出していったシンヤと、それを追って出たミエリア。そしてその後を追うイツキ〜

 孤児院を出たイツキは、そのまま真っ直ぐに進んでいった。

 飛び出した二人は幸いというべきか、同じ方向へ走って行ったので、余計に走り回るような面倒はなかった。


 2人が向かっていった方向をしっかり認識しているのは、イツキの探知範囲が広いと言うだけではなく、飛び出した後もしっかり気配を追っていたからである。

 そして気配を追っていると気づく。

 不思議なことに、未だに走って離れていくシンヤを、ミエリアは全く逸れることなく追っているのだ。

 その足取りに迷いは全くなく、ミエリアも気配か何かで追っているのではないか、と思う程躊躇いというものがない。

 しかし、2人の距離は少なくとも百m以上離れているし、シンヤは建物の間を縫うように走っているため、当然ミエリアの視界内にはいない筈である。


 まあ一体どういった理由があるのかはさておき、とにかく2人を確保しなくては、延々と走り続けることになる。

 その前にシンヤの体力がもたないだろうが、少なくともまだ走り続けることはできそうである。

 これ以上離れられると面倒だと、イツキは取り敢えず走り(・・)出した。

 …そう、またしても、イツキは歩いていた。

 そして漸く走り出した。

 2人が飛び出してから既に、5分が経とうとしていた。


 シンヤは、幼いといっても既に7歳。

 日本なら小学1〜2年生と、足の速い者ならとっくに頭角を現している年頃だ。

 この過酷な世界なら、例え貧しい環境でも体力は嫌でもつく。

 そしてどうもシンヤは、その頭角を表すものたちに含まれていたようで、眼を見張るほどの速さで走っていた。

 つまり、何が言いたいかといえば、5分でイツキとの距離はかなり離れてしまったのだ。

 たとえ居場所がわかっていても、そこまで行くのは面倒な話である。


 しかし、ミエリアとシンヤの距離はだいぶ縮まっていた…まあ、ミエリアはイツキと違いしっかり走っていたので、当たり前と言えるが。

 イツキの予想だが、目視できる程近づいている筈である。

 つまり…


(捕らえるために、本気を出す、か)


 シンヤを捕らえるために本気の速度を出すと、また予想した。

 イツキが、ではない。

 では誰か、それは──


『捕まえましたよ!』

『はあっ、えっ…?はぁ、はぁ…ミエリア、姉ちゃん!?』


──ミエリアが、である。


 *****

*ミエリア・シンヤ視点


 場所は主人公を離れ、此処ではシンヤとミエリアを追う…。


 適当に、しかし人の多い中心部は避け外側を走っていたシンヤ。

 目には少し涙を溜めていたが、走り回っているうちに乾いていた。

 走り続けてそれなりに時間が経ち、全力疾走ではなくともかなりスピードは出していたため、体力がなくなりペースは完全に落ちていた。

 それでも追いつかれるとは思っていない。

 誰かが追いかけてくるとは考えていないし、例え追いかけていたとしても、適当に走ってきた自分をそう簡単に見つけられると思っていないからだ。

 …いや、そもそも誰かを撒くために走り回っていたわけでもないのだが。


 衝動的に飛び出してしまったシンヤ。

 自分に所為で大好きなミエリアを困らせてしまったと、その事実に耐え切れずつい飛び出してしまったが…これからどうしようか、と。

 孤児院に戻らなくては生きていけないし、戻るしかないのだが、とにかく気まずい。

 何時戻ろうか…そもそも、此処はどこだろうか?

 当たりを見回すと一本道に入っていて、薄暗い不気味な場所に迷い込んでしまっていた。

 ここからどうしようかと考えていると突然、走っている自分の肩に手が置かれ、それと同時に大好きなあの人の声がした。


「捕まえましたよ!」

「はあっ…えっ?はぁ、はぁ…ミエリア、姉ちゃん!?」


 それは、ミエリアであった。

 此処にいるはずのない、ミエリアの突然の登場に驚き、足を止めたシンヤ。

 困惑して惚けていた人が、まさか追い掛けて来るなど全く考えもしなかったし、例え来るとしてもあの冒険者の人かな、と思っていた。

 なのに、来ると思っていなかった人が…況してや、まだ足を止めてすらいないのにも関わらず、見つかったことに、二重に驚いていた。

 そして、滅多にすることのない長時間の疾走に、足を止めた途端その疲れが気に襲い掛かってきた。


 息切れしつつ目の前の人物の名を呟く。

 名を呼ばれた少女、ミエリアは若干目を吊り上げ…


「もうっ…」

「ぅっ…」


 何かを叫ぶかのように、一溜め入れる。

 怒られると、目を瞑り緊張により体を硬くするシンヤに、ミエリアは溜め込んだ息を吐き出す。


「疲れたじゃないですかっ!!」

「………へっ?」

「へ?じゃないですよ、もうっ。みんなにも心配掛けているんですから、戻りますよ!イツキさんへの自己紹介も、まだ終わってないですしね!」


 てっきり叱られるのかと思っていたシンヤは、ミエリアの吐き出した言葉に、呆気に取られてしまった。

 疲れているといっても、汗もかかず息切れすらしていないのだが…まあ、それはともかく。

 そんなシンヤの様子に、軽い口調で孤児院に戻るよう促すミエリア。

 まだ自己紹介は続行させるようだが…。


「あの、怒らないの?」

「怒る?…なんでですかぁ?」

「え?い、いやだって。いきなり飛び出して、めいわくを…」


 一向に怒る気配のないミエリアに、何故怒らないのかと、戦々恐々となりながらも尋ねる。

 しかしミエリアは不思議そうに首を傾げて、むしろこちらが聞きたいと言いた気に、聞き返す。

 すると自分がおかしいのだろうかと、心の中で大量にハテナを浮かべつつ、怒られるであろう理由を正直に話した。

 自分の行動に何を思ったのか、尻込んでいく。


「うーん?確かに驚きましたが、私が(・・)怒ることじゃないですしね〜。悪いと思っているなら、それでいいんじゃないですか?」

「……」

「さ、取り敢えず戻りましょう?」


 シンヤが何を言いたいのか理解したミエリアは、怒る理由がない…いや、その事で怒るのは自分ではないと律儀に説明して、むしろ褒めた。

 怒られる理由が理解できている、と。

 そんな事はないと、歯を食いしばって心の中で否定していたシンヤは、返事もせず佇んでいただけだった。

 飛び出していった事を怒る人が、他にいるという真意には気づかなかったようだ。


 此処でじっとしているわけにもいかず、孤児院に戻ろうと、手を差し伸べるミエリア。

 すると後ろから声がした。


「戻りましょう、じゃない」

「え?」


 急にかけられた声に驚き、後ろを向くミエリア。

 どうやらイツキが到着したよう…


「嬢ちゃん達、おじさんに着いてきてくれる?」

「良い獲物がいるじゃねぇか」

「予想外の、収入だな」

「だ、誰ですか!」

「俺達かぁ?俺達はなぁ…」


 イツキではなかった。

 実はミエリアも、驚いたのは急に声を掛けれたからではなかった。

 全く知らぬ声を持つ何者かが、しかも後ろに急に現れたからだった。

 何となく当たりはついたミエリアだったが、反射的に何者かと聞いてしまった。

 完全にミエリアとシンヤを舐めているようで、わざわざ答える怪し気な男達…その答えはミエリアの予想通り…


「人攫いって奴だなぁ…ギャハッ」

「っ!」

「やっぱり!シン君、逃げ…」


 人攫い…つまり無理やり連れ去り奴隷商人などに売り払う、犯罪者であった。

 悪意の満ちた笑い声が響く。

 シンヤは相手の考えを読み取ってしまい、自分達の境遇がどうなるのか理解してしまった。

 一方、ミエリアは予想通りであった事に、驚きもせず直ぐさま、シンヤへ逃げろと伝えようとするも。


「おっと残念。そっちは通れない」

「っ!これじゃあ…っ!」

「逃げられないねぇ?…どぉする?」

「大人しくすれば丁重にもてなすよ。もし暴れると言うのなら…四肢は折っていこうか」


 逃げ道は全てふさがれてしまった…といっても、たいして広くもない一本道の中で、さらに仲間らしき男2人が後ろに立ち塞がっただけであるが。

 完全に逃げ場がなくなった事に、動揺を隠せないミエリア。

 その慌てる様子を面白がり煽る男と、穏やかな口調とは裏腹に物騒な事を呟く男。

 他に道を塞ぐ者なども含め、5人の男達がいた。

 相手は大の大人である。

 しかも対人もお手の物だろうし、実際声を掛けられるまで、一切気づく事はできなかった。


 ミエリアは別に、何らかの訓練を受けたわけではないが感覚は鋭い方で、後ろに人が立てば何となく気づく事ができる。

 他にも足音であったり、影であったり、気配であったり。

 その判断材料となるものを一切感じなかったとなると、とても一般人にどうこうできる相手でないのは、明らかだ。

 それに、シンヤを傷付かせるわけにはいかないと、無茶な特攻は躊躇われ、途方に暮れていた。


 また、シンヤは自分が飛び出した所為で、ミエリアまで巻き込んでしまったと、後悔に呑まれ立ち尽くしていた。


*****

*イツキ視点


 さて、今度は主人公に戻り。


 まさしく絶体絶命といった状況の中、イツキはというと。


「…」

(やはり遅かったか。何故こうも、面倒事へ一直線に走っていくのか)


 2人と人攫いの男達が見える建物の屋上で、2人を見下ろしていた。

 流石に呑気に歩いていることはなく、既に現場に到着していた。

 むしろ、イツキが走り出したのは人攫いが溜まっていた場所へ、シンヤとミエリアが突入していったからだった。

 それでも本気で走ったわけではないので、結局のところ間に合わなかった。

 そして、わざわざ面倒事へ自分から飛び込んでいったシンヤに、少しのイラつきを覚えつつ、どうしたものかと思案する…だったら最初から走れ、というのは無駄な意見なのだろう。


 さて、正直ただ助けるだけなら何の問題もない。

 男達の首を落とせばそれで終了なのだから。

 何が問題かといえば、その証拠隠蔽や切り落とす瞬間を2人に見られることにある。

 赤の他人なら見られようが気にしないが、これから勉強をつける相手に悪印象を抱かせるのはマズイ。

 それに、治安は良くなさそうなこの辺りでも、首が落ちた死体が転がっては騒ぎになるのは間違いない。


(さて、ね…いや……ならば)


 どうしたものか…と、数瞬の間に数十もの案を考える中、一つ自分にも利点のある案を思いつく。

 それは、この世界での長期的目標の一つに関わる。

 ただし、うまくいかなかった場合のデメリットも大きい。

 ということで、その案を実行した際のシュミレートを行い、失敗する可能性を導き出し、無駄や失敗の原因になりうるものを削っていく。

 また、成功する可能性を上げるために、幾つもの未来を想定してあらかじめ幾つもの変更内容を作っておく。


 そして出来上がった案は、しゃべる言葉の内容からトーン、タイミングやその他の仕草など、徹底したものとなった。

 ちなみに、この案の詳細を作り出してから、完成するまでにかかった時間は、10秒未満である。

 とても人間の脳が処理しきれるものではないが、まあそれは人外なイツキである、問題ない。

 こうして案はできた。

 後は予定通りのタイミングで割り込むだけである。


 そしてそのタイミングは、すぐにやって来た。


「さあ、計画の始まりの──


 イツキの無表情に、僅かにナニカが浮ぶ。


──始まりだ」


 世界が、恐れ慄く…かもしれない、その始まり。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ