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41「概ねは」『能力』、逃亡

〜相手の顔から考えを読み取る、力を持っていたシンヤ〜

説明があります

 孤児院にいる子供としては似つかわしくない、相手の考えを読むという能力を持つシンヤ。

 いや、ある意味ではこういった所だからこそ、見つかるのかもしれないが…。


 誰にも打ち明けていない、シンヤの持つ表情から相手の考えを読み取るという能力、その説明に入る…前に。

 先ず『能力』がどういったものか説明をしよう。


 〜〜〜〜〜

『能力』とは、異能とも呼ばれ、魔力を消費する力ではない、全く別の力のこと。

 先天的にも、後天的にも獲得する事のある、特別な力の事である。

 世間には認知されており、実際に幾人もの『能力』持ちも発見されている。

 しかしそれなりに希少で、例え持っていたとしても、ただの特技で片付かれてしまう場合もある、変わった力。


 もし地球なら、こう呼ばれていただろう──



──超能力と。


 つまり、地球でもテレビなどで見られる、念力や未来予知、動物と会話をする力の様なものなのだ。


 といっても、それらは力の弱いものの例である。

 中には魔物を操るものや災害を引き起こすなど、強力なものもあり、そういった強力な『能力』を持つ者もいる。

 かなり少数だが。


 『能力』を持つ者は恐らく、それなりにいると思われている。

 それこそ、千人集めれば、少なくとも一人は見つかるであろう程だ。

 しかし発見例はあまり多くない。

 何故なら『能力』の大半は力が弱く、耳が異常に良かったり、探し物をすぐに見つけられるものなど、自他共にただの特技だと思うようなものばかりだから。

 中には、訓練をすれば同じ事ができる『能力』すらあり、あまり自身の力が『能力』だと思う者が少ないのだ。


 ものによっては訓練で身につけられるなら、何故『能力』というカテゴリーがあるのかといえば、特技というには収まらない力があるから、というのもある。

 しかしそれだけではなく、もっと区別される理由がある。

 それは、正確さと劣化がないことにある。


 例えば、ただ生まれつき耳が良いものだと、聞こえる範囲は大したことがなかったり 、一度に複数の音を聞き取れきれない、年老えて耳が悪くなるなどがある。

 しかし耳が良い『能力』だと、効果は鼓膜が破れない限り半永久的であり、聞こえる範囲は者によるがkm優に超えるだろう。

 また、聖徳太子の様に一度に多数の言葉や音を聞き分ける事もできる。


 もしくは、シンヤの様な相手の考えを読み取る力。

 地球でも相手の表情の動きや目線の動きなど、様々な情報から相手の心情などを読み取る、メンタリストなんて者がいる。

 しかしこの場合、流石に百発百中とはいかず、訓練された者な読み取る事は難しかったり、不可能な事もあるだろう。

 それに相手の反応から、こう考えているのだろうという推測でしかない。


 これがシンヤだと…

 相手の顔さえ見えれば、相手の考えている事がスッと、頭に思い浮かぶのだ。

 別に読み取りたくて見たわけでなくても、思い浮かんでしまうし、その感情や想いが強く顔に現れていれば、そのイメージすら頭に浮かんでしまうのだ。


 これはいくら訓練しようと不可能なことだろう。

 その為、訓練により真似はできても区別されるのだ。


 また、『能力』持ちはギルドでも探されており、登録の際に質問される。

 この時に特殊体質もあるのだが、それはまた後…


 ちなみに、イツキは『能力』の事は知っている。

 ジャイの説明に含まれていたからである。

 ついでに言えば、シンヤの目の動きや態度から、ある程度予想しており、『能力』持ちであり相手の考えを読める、という事も予想の一つにある。

 〜〜〜〜〜


 さて、『能力』の説明の中でシンヤの持つ力も説明したが、割と強力な方の力で、無意識に相手の考えを読んでしまう。

 顔を見ただけでわかるのだから、もし対人戦などがあれば圧勝できる力だ。

 しかし、知りたくもないことを知ってしまう、ということでもある。

 そして知りたくもないことを知り続けた。

 また小さい頃は、読み取ったことをよく分からず口にしてしまっていた為に、不気味に思われ敬遠されていた。

 その過去の経験から、重度の人見知りになってしまっていた。


 孤児院の中でも若干人見知りはしており、サリーとミエリア以外には、未だに普通に接することができないでいる。

 だからこそ、ミエリアはシンヤが人見知りだと気づかなかった…もちろんサリーは気づいていたが。

 ただ、それでも孤児院の中では、そこまで警戒はしない。

 貧しい中、全員で一致団結して生きているので、あまり裏表がなく、つい読み取ってしまっても不快なことになることがないからだ。


 さて、ここで顔が見えないと、多少は人見知りが軽減される理由に入る。

 相手の表情…顔から考えを読み取ってしまう事が、人見知りになった原因の元なわけである。

 相手の顔が見えないということは、『能力』が発動しないということであり、人見知りの原因が、過去のトラウマが触発されないという事。

 だから、多少だが軽減されるのだ。


 ちなみに、1週間以上一緒にいてなんとも思われないと、話をしようする。

 孤児院のメンバーの殆どは、シンヤの声を初めて聞いたのは、出会ってから1週間以上経ってからなのだ。

 イツキの場合、顔を隠しただけで、初対面でも名前をつぶやいた事を考えると、顔を隠す事は思ったより、人見知り軽減の効果は強いのかもしれない。

 これは『能力』を持つシンヤだからこその効果なのだろうが。

 もし普通の子の人見知りなら、逆に怖がって話そうとはしないだろうから。


 と、いう理由で、重度の人見知りであり、それでも名前を呟く事ができたのだ。


 しかし、人見知りである事を知らなかったミエリアは、未だに驚いていた。

 今の態度と、普段の自分と接する時の態度が、全く別人の様に違うのだ。


「え、えぇ…。い、いつもはもっと大きい声で話をして。笑顔も見せてくれて。確かに無口な方だとは思いましたけど、人見知りには全く…」

「メアさんと院長の前だと、いつもそうです。でも、いない時は違うのです」


 ミエリアの言う、普段の姿は今とは似つかず、最早別人である様に思える。

 戸惑うのも無理はないと、それ程違いは大きく、その分衝撃も大きくなってしまったのだろう。

 ミエリアの言葉に続けて語られた、ニーシャの言葉にさらに呆然とするミエリア。

 そして、普段は見せないミエリアの様子に、子供だからこそ何かを感じ取ってしまったのか、周りの幼い孤児たちが不安そうにする。


 しかしその周りの変化にも気づかないミエリア。

 そして遂に、事態は大きく動く。


「っ」

「え?…シンヤ君!?」

「……なにかあったの?」


 ダン、と床を蹴って孤児院を飛び出したシンヤに、一瞬何事か理解できず、遠ざかっていく黒い影にやっと声を上げたニーシャ。

 ドアはキースが体を張って倒しそのままだった為、シンヤは無事外には出れた。

 それからすぐに、キースの様子を見ていたサリーが、異様な空気を感じ取り部屋から出てきた。


「シンヤはどうし…メア?…メア、貴女までどうしたの?」

「院長!シンヤ君が飛び出してしまってっ。どうしよう!」

「ニーシャも、落ち着いて。一体何があったの?」


 辺りを見回し、影にもシンヤがいない事に直ぐ気づくと、何があったのか尋ねようとする。

 しかし呆然とし呼びかけにも答えないミエリアに、さらに内心混乱が強くなるサリー。

 すると、慌てて駆け寄って行ったニーシャを、なんとか落ち着かせようとするも、シンヤが出て行ったという言葉に、また更に混乱が強くなる。

 ニーシャも焦りすぎて口調が元に戻っていた。

 そして、誰もが説明できなさそうな中、唯一冷静に佇む一人の男に、目を向けた。


「黒髪が人見知りである事をそいつが今知り、その状態に。黒髪はその空気に耐え切れず出て行った」


 そんな目を向けられたイツキは、またしても面倒な事に巻き込まれたと思いつつも、説明をする。

 かなり端折り、しかも名前をいわないために分かり難くなっているが、子供たちの一大事と、頭をフル回転させるサリー。


「確かに、メアは気づいていませんでしたか。それで知らずにいた事に呆然としていて、その状態になった事へ何かを感じて、シンヤが飛び出して行ったと、そういう事ですか?」

「概ねは」


 かなり正確なところまで当てて、状況を整理するサリー。


「…早めに気づかせてあげるべきでしたか…。いえ、今はそれどころではありませんね。イツキさん、お願いがあります」

「…なんだ」


 ミエリアが、シンヤが人見知りである事に気付いていない事は、わかっていたが、まさかこの様な事になるとは考えもしなかったサリー。

 早めに教えていれば、気づかせていればと後悔が募るが、今はそれどころではないと、その思考を打ち切る。

 そして、今の状況で動けて、かつシンヤを連れ戻せるであろう人物へ、頭を下げる。


 どんな頼み事をされるかなどわかりきってはいたが、確認の為、わざと尋ねるイツキ。


「シンヤを、連れ戻してはいただけませんか?」

「…ふむ」

「私からも、お願いします!」


 そして、予想通りシンヤを連れ戻して欲しいと頼まれる。

 そのくらいなら別に引き受けてもいいのだが、どういう方法で連れ戻したものか…と考える素振りをしたのだが。

 それを、引き受けるかどうか悩んでいると勘違いしたニーシャが、さらに頭を下げて頼みこんでくる。

 このまま誤解が進んでも面倒なので、取り敢えず了承したとの旨を伝えようとした。

 そして、だんだん騒ぎが大きくなってきたその時、一人の止まっていた時が動き出した。


「私が!行ってきます!!」

「っ!メア、待ちなさい!」

「メアさん!」


 バキッと、何かが割れて壊れるような音と共に、一般人とは思えない速度で孤児院を飛び出して行ったのは…ミエリア。

 ミエリアが踏み込んだ床は、足跡の形そのまま陥没していた。

 そして、珍しくサリーが声を張り上げて制止するも、既に影も見当たらない。

 先程まで呆然としていたミエリアに、シンヤを見つけられるとは思えない。

 余計に悪くなった状況に、若干のイラつきを覚えつつ、イツキも動く。

 そして…


「もういい、私が行く。お前らはここで待っていろ」


 イツキが一方的に伝えると、サリー達の返答も待たず孤児院を出た。


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