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40「お前にもできると…」孤児たちの自己紹介、黒髪の

〜キースを除いた、孤児たちの自己紹介が始まった〜

 ミエリアから始まった自己紹介。


「次は、私?…名前はニーシャです。計算が少し、読み書きはできます」

「ニーシャちゃんは、キース君と同い年で、15歳なんですよ!」


 最初の紹介が最年長だったからか。

 次に声をあげたのは、孤児院内でミエリアの次に年齢の高い、計算ができる2人のうちの1人だった。


 ***

 水色の髪の毛をショートにしており、15歳の割には大人びた顔立ちをしている。

 目の色も水色で、肌の色は白目。

 貧しい暮らしの為か痩せ細っているが、それでもなかなかの美少女。

 身長は高くはなく、150cmを少し超える程度だろう。

 ***


 まだ不満はあるのか、若干躊躇い気味の自己紹介であったが、これから教えてもらうにつき必要だと思った情報…今できることも伝えた。

 ミエリアとキースの言い合いで、イツキが先生になるのは仕方がないと考えているのだろう。

 そこにミエリアが入り込み、計算ができるもう1人であるキースを出し、同い年だと紹介した。

 わざわざキースをニーシャの紹介に使ったのも、この場にいないキースを気遣ってのことだろう。


 ニーシャの紹介を聞いたイツキは、軽く頷くと次を促した。


「え、ぼく?…ぼくはタインっていうんだ。…えっと、あんまりべんきょうはとくいじゃないです」

「ふふ、でもタイン君は、すごい努力家なんですよ!よくお手伝いとかもしますし、良い子です!」

「メアねえちゃん、ありがとう」


 誰も口を開かない為、ミエリアが近くにいた少年の肩を叩き促した。

 まだまだことばはたどたどしく、幼さが見える。


 ***

 暗い青の髪色をしている。

 髪は長くも短くもない長さで、癖っ毛の様であちらこちらに跳ねている。

 まだ幼い為か、これといった特徴は見いだせない顔付だが、小さい子好きなら抱きしめたくなる様な愛らしさはある。

 目の色は髪と違い、少し緑掛かっている青。

 5歳で、身長も1m未満、少しだけ日焼けしている。

 ***


 その少年…タインは自分の名前を言うと数秒考えて、勉強が得意ではないことを伝えた。

 恐らく、ニーシャを真似たのだろう。

 するとミエリアがまた付け足してくる。

 全員に付け足しをしていくのだろうか?…最年長者という自負がある為かもしれない。


 また、軽く頷き次へ促す。


「じゃあわたしたちかな?」「そうよね」

「わたしはミミで…」「わたしがリリ」

『わたしたちは、ふたごなの!』


 今度はミエリアに促される事もなく、自己紹介は始まった。

 喋り方が特徴的な2人が同時に。

 どうも双子のようで、顔は瓜二つ、声も違いが分からないほど似ており、何より息がぴったりである。


 ***

 2人とも髪色は綺麗な朱色をしており、ロング。

 西洋の人形というのだろうか、こちらも綺麗な顔立ちをしている。

 あまり痩せ細っている印象は抱かない。

 目の色も2人は同じであり、色は爛々と輝く赤。

 7歳で、身長は1m程度、健康的な白の肌。

 ***


 どうも呼び間違えてしまいそうではあるが、孤児院ではどうなっているのか。


「この子たち、いつもミミちゃんが先に喋って、リリちゃんが後なんです。それ以外は見分けるの大変ですけどね!頭は良いですよ!」

「そうか」

「まあ、間違えても本人達は気にしてないので、どんどん呼んであげてください!」

「いや、問題ない」


 どうも、話す際は先に喋る者と後に喋る者で判別しているらしい。

 なら話していない時、1人でいる時はどうしているのかといえば、見分けるのは殆ど諦めているようだ。

 そして勉強は、計算こそできないが、それはただ単に習っていないだけであり、習えばすぐできるようになると思われる程には、頭は良いとの事。

 それと、名前を間違えられる事には慣れているのか、それともわざとそうしているのからなのか、間違えられても気にはしないと言う。

 なので、間違える事など気にせず、名前を呼んであげて欲しいと、ミエリアはイツキへ伝えた。

 しかしイツキは、問題ないと言う。

 何が問題ないのかといえば…


「うーん?…もしかして、見分けられますか!?」

「ああ。…お前にもできると思うがな」

「…私にですか?」

「まあいい、次だ」


 瓜二つの双子を見分けられるという事。

 つまり呼び間違える事などないので、名前を間違える云々を心配する事はないということだ。

 そのことに至れたミエリアは、かなり驚いた様子を見せる。

 まあ、それもそうだろうが。

 何せ、見た目は2人を並べて注視しても、全く違いが見つからない程だ。

 身じろぎの仕方から他の仕草まで同じであり、声も判別がつかず、どの要素で見分けることができるのか、見当もつかないからだ。


 実際、イツキがどの様に見分けているかといえば…


(似ているだけで全く同じなわけではない。クローンでもあるまいし。顔も声も仕草も、殆どは微かに違う。まあ、平均的な目でいえば厳しいか)


 ごく僅かな違い。

 イツキの異常な視力は、聴力は、そして頭脳は、その微かな違いを捉え見分けることができているのだ。

 イツキ自身も、自分の五感などが他人より、遥かに優れている事は理解しているので、普通なら見分ける事が厳しい事は認めていた。

 …その筈なのに、ミエリアにも見分ける事は可能だと言った。

 その事が信じられないミエリアは、しかし気になりイツキに尋ねるが、流された。

 いいかどうか判断するのはミエリアだと思うが、イツキが勝手に先に進めるのであった。


「…じゃあ、つぎはヨウ君!」

「あ、はい!…えっと、ぼくはヨツトウといいます。みんなはヨウって呼んでます。少しだけ、文字もよめます」

「ヨウ君は礼儀正しくて、読み書きが少しできるんです!将来有望ですよね!」


 気にはなるがつぎを促されてまで、理由を聞くわけにもいかないので、つぎの子を指名した。

 この子もたどたどしい口調ではあるが、敬語を使っていた。


 ***

 髪色は青よりの緑で、肩にギリギリ付かない長さのサラサラ髪。

 幼さのある顔だが既に真面目そうな雰囲気がある。

 目の色は薄い緑。

 8歳、120cm程、日焼けはしていないが、かといって白くもない。

 ***


 自分に振られるとは思わなかったのか、一瞬たじろぐが直ぐに自己紹介を始めた。

 この少年…もといヨツトウもミエリアの様に省略して呼ばれるらしい。

 やはり計算はできないが、多少は文字を読む事ができるという。

 そこにミエリアが、書く事もできる事と、分かりきっている事だが礼儀正しい事を付け足した。


 8歳で裕福でもないのに、多少の文字の読み書きができるのは、将来を期待させるに十分な才なのだ。

 ちなみに15歳のキースとニーシャは、1年ほど前から計算が出来るようになったのだが、これは決して遅くはない。

 何度もいうようだが、この世界では識字率は低く、そもそもまともに学ぶ機会は訪れない。

 都市などはともかく、小さな村などは殆どの者が無学だ。

 村長などに学があった場合は自ら教える、という事もあるが、まずそういった事はないのだ。

 その為、15歳でも十分であり、仕事先も探せば直ぐ見つかる程度には、優れているのだ。


 15歳でそうなら、8歳だとどれだけ早いか理解できるだろう。

 王都に住む者や貴族などの裕福な者だと、6歳になる頃にはある程度計算も、できるようになっているのだが。


 ということで、この世界で見ればかなり優秀だと判明したヨツトウ。

 軽く頭に入れると、イツキが促す前にミエリアが、また別の子を促した。


「…」

「ほら、名前だけでも…ね?」

「…しん…ぁ…で…」

「えーっと…あれ?どうしたんでしょうか?」

(シンヤ、ね。所謂東の生まれか。それとも似ているだけか)


 しかしミエリアの促しにも答えず、黙りする男の子。

 もう一度、名前だけでいいからと言えばやっと名前を口にしたが、真横にいたミエリアでさえ全て聞き取れない程、小さな声だった。


 ***

 髪色は黒く、短めに切りそろえている。

 顔の作りは日本人の様に平たい。

 目の色はこれまた黒い…もちろん瞳孔が。

 7歳、痩せ気味で身長は110cm程。

 それなりに日焼けしているが、元かららしい。

 ***


 隣にいるミエリアが聞き取れなかった声を、イツキは聞き取れたらしく、しっかり名前を聞き取った。

 シンヤという名前の響きや黒髪、何より顔の作りから、日本に似ている可能性のある東の国を思い浮かべていた。


 しかし、そのシンヤの様子に、何故かミエリアが困惑していた。


「メアさん、どうしました?」

「え?いや、シン君どうしたんでしょうか?声ちっちゃいですし。なんか、人見知りみたいな…」

「…メアさん、知らなかったのですか?シンヤ君は…」


 ミエリアの困惑っぷりに、ニーシャがどうしたのか尋ねると、シンヤの様子がおかしく感じているとの事。

 ミエリアのシンヤへ抱く普段の様子とは、活発とは言えないが、ハキハキ喋って明るい良い子、というものだ。

 

しかし今は真逆、声は小さく纏う空気は暗い。

 まるで人見知りをしている様だと感じたミエリアの言葉に、若干の呆れと驚愕の混じる目を向けたニーシャ

 知らなかったのか、ということは皆は知っているということであり、この姿も珍しくないということだが。

 ミエリアの知らなかった、シンヤの事実とは…


「そのまま、人見知りですよ?それも結構重症の」


 ミエリアが感じた通り、人見知りであったらしい…何故知らなかったのか。

 最年長者のわりに…まあそれはともかく。

 人見知りにも軽いものから重いものまであるが、シンヤの場合は重症だという。

 実は、イツキが来てから今の今まで、一言も喋らず不自然にならないよう計算して、陰に隠れていたのだ。


「えっ、そうだったんですか!?」

「本当に知らなかったのですか」

「うん。そうなんですか…重いわりに名前言えましたね」


 ただ、重症と言うわりには小声でわずかとはいえ、話すことができた。

 ひどい者だと顔もろくに見れず声を出せず、最悪パニックを起こしたり体調の変化などの症状まで現れるのだが、シンヤは違った。

 その理由が、イツキの今の状態にある。

 それは、サリーもミエリアもキースも、誰も彼もが触れなかったこと。


 それは、今も被っていたフードである。

 顔が見えないと逆に不安になりそうな者だが、少なくともシンヤは違った。

 相手の表情が見えている方が人見知りは強く現れ、逆に表情が見えない程軽くなるのだ。

 何故、見えない方が良いのか…それは、相手の表情が分からず、何を考えているか理解することがないから。


(他人の本音を見過ぎたせいで、人を避けるようになったか)


 実はシンヤは、相手の表情から考えている事を読み取ってしまう、変わった力の持ち主だった。

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