表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/88

38「…考えているのだろう」枷、気づけた事

〜『物を大切に』その言いつけが枷になっていたと知ったサリーに、イツキが言う事は〜

──子供らしくさせたらどうだ?


 イツキの言葉にハッとなった、サリー。

 孤児たちが指を、そして物を計算に使わない、その理由を…回りくどく突いた言葉。

 しかしその回りくどさも、孤児たちを心から愛し大切に思って来たサリーには、何の妨げにもならず、真意を理解してしまう。

 物を大切にさせ過ぎたが為の弊害。


「そうだったの…」

「院長、大丈夫ですか?」

「…えぇ」


 珍しく目に見えて落ち込むサリー。

 何があったか理解していなくとも、良くないことはすぐに分かるミエリア。

 珍しく落ち込む院長の姿に、心配し声を掛けるがミエリアだったが、返ってくるのは気の無い返事。

 仕方のないことだろう。

 小さい頃から面倒も見てきた子供たちに、貧しい現状故にずっと言いつけてきた、『物を大切に』という方針が、大げさに言えば枷になっていたのだから。

 愛していた分、ショックは大きい。


 ただ、ここで黙らないのが、我らが主人公。


「暇があるなら変えろ。それがためだ」


 慰めの言葉など、ない。

 含まれていたのは、叱咤と意味。

 枷になっていたのかと落ち込んでいる暇があるなら、変えて枷を外してやれ、という叱咤。

 それを今すぐ行うことが、孤児たちにも、サリーにも為になることだと、意味を示す。

 失意の中にある者に掛けるには、いささかキツい言葉にも思えるが、慰めはイツキの役ではない。

 その(慰め)の役割は…


「いんちょー、どうしたの?」

「おなかいたい?」

「だいじょうぶ?」


(こいつらがいる)


 そう、孤児たち。

 サリーが何りよ愛し大切にした、掛け替えのない者たち。

 それはもう、この世の何よりも特効薬になるだろう…だからこそ、逆に深く落ち込んでいるわけだが。

 実は来客中により、ミエリア以外の計算ができる2人が、気を利かせて離れさせていたのだが、サリーの落ち込んだ様子から近寄って来たのだ。


「院長、どうされました?」

「何かされたのか?」


 たどたどしさのない、しっかりとした口調。

 この2人が、ミエリア以外の計算ができる者たちである。

 ちなみに前者が女子、後者は男子である。

 最初は小さな子供達を抑えていたのだが、途中珍しく目に見えて落ち込み出した、自分たちの母親を見て、駆けつけていた。

 女の子の方が一体どうしたのかと、そして男の子は原因であろう来客者であるイツキへ、敵意の満ちた視線を向け、何があったかを問う。

 そんな、子供達の様子を見てサリーは…


「…ふふっ、イツキさんは意外と、優しいのですね」

「…なに?」

「いいえ、なんでもありません」


 少し、笑いをこぼしイツキを褒め出した。

 わざと厳しい言葉をかけたことを、子供達が慰めに来ることを想定してのことだと、理解したから。

 イツキとのことを、優しい人だ、と。


 その、唐突なサリーの言葉に、言っていることは理解しても聞き返すイツキ。

 若干不本意そうな雰囲気を出している。

 しかしサリーは笑いながらも答えない。


「はいはい、静かに。心配かけたわね。もう大丈夫だから…」

「え…?あの、大丈夫なんですか?」

「本当か?」

「えぇ、大丈夫よ。まだこの人と話を続けるから、もう少しこの子達の様子を見ててあげて?」

「無理しないでね」

「分かった。ほら、お前ら行くぞ」


 そしてパンパンと手を叩くと、心配の声を上げていた孤児達を静まらせ、もう大丈夫だと伝える。


 余りに急な変化に、若干呆然としてしまい、つい聞き返してしまう女の子と男の子。

 しかし、それなりに長い間、サリーと一緒に過ごしてきた2人は、本当に大丈夫なのだと理解した。

 サリーも2人が理解できているの悟ると、まだイツキと話があると言い、もうしばらくの間他の子供達の面倒を見ていてと頼む。

 2人は結局折れ、仕方がないと一言念を押し、子供達を引き連れて離れていった。


「うふふ、ごめんなさいね。あの子も、私を守ろうとしてくれただけだから」

「別に」

「それに、ありがとうございます」

 

 子供達を見送る…といっても数メートルだが、まあ見送ると、イツキへ謝罪するサリー。

 どうやら、イツキへ敵意の満ちた視線を向けた、男の子と態度を詫びているようだ。

 正直、あの程度の視線など気にも止めないし、ましてや、腹を立てることなどあり得ない為、割と本心で気にしていない。


 だがまあ、予想していたのだろう。

 イツキの返しに特に反応する事もなく、それにと続けて、礼を言う。

 何を指しているのかといえば…


「あの子達の枷を教えて下さり…そして、まだ間に合うと、私にはあの子達がいると、気づかせてくれいただき。感謝の念しかありません」

「そうか」


 失意の中、イツキが送った叱咤の言葉へのものだった。

 いくら枷になっていたことがショックだろうと、何だろうと、そのまま付けっぱなしにするよりも、早く取り除いてやる方が遥かにマシだ。

 そして、自分が枷になっていた事にショックを受けているより、子供達を優先するべきだという事を、気づかせてくれた。

 また、枷になっていたとしても、あの子達は付いてきてくれるという事を、改めて知る事ができた。


 あのまま、イツキに会わずに過ごしていたら、気付く事ができなかったかもしれない。

 その為の、お礼だった。

 …何だかんだ、今日だけで依頼外の人助も行っているイツキ。

 あの、外道っぷりはどうしたのか…まあ良いことではあるが。


「さて、依頼の話に戻りましょうか。どう考えても合格ですが、メアはどう……あら?」

「…うぅ」

「…メア?そんなすみで、どうしたの?」


 さて、若干話は逸れたが、依頼の…教師事をするにあたって、どれ程教えることができるか試していたわけだが。

 孤児院内の問題もひとつ解決でき、知っていることとはいえ、口頭だけでもかなり分かりやすい教え方に、合格を出すサリー。

 むしろここで合格を出さず、何時出すというのか…イツキより上の者など、先ず来ないだろうから。


 そういう訳で合格を出したのだが、お試しを受けていたのはサリーだけではない。

 サリーを除く孤児院最年長の、メア…もといミエリアがいる。

 なので、ミエリアにも一応聞いておこうと話を振ると、何時の間にか近くには居らず、部屋の隅で膝を抱えていた。

 その姿は、『ズーン』という効果音がよく似合う暗さを纏っており、一体どうしたのか、サリーは引き気味に尋ねる。


「いいですよぅ、私なんて…私なんて……」

「ど、どうしたのかしら?」

「恐らく…」


 しかしブツブツと、聞いている者まで暗くなりそうな事を呟く、ネガティブメア。

 流石に、滅多にないその変な様子に、気持ち引きつつも心配してきたサリーだったが、意外と理由は思い至らない。

 ここで、イツキは恐らくと前置きを置き、ああ(ネガティブメア)なった原因を話し出した。


「お前が落ち込んだ際、心配し近寄ってきた者たちの輪に入れず、除け者にでもされたと考えているのだろう」


 サリーが落ち込んでいるのは分かり、心配していたミエリアだったが、理由がわからず、うーんと悩んでいたのだが…。

 その間に他の子達が集まってきて、気づけば蚊帳の外。

 みんなも理由はわかっていないことは察したが、何となく輪ができていた。

 しかしそこにミエリアは入れず、次第に思考がネガティブになっていき、サリーがスッキリした頃にはネガティブメアの出来上がり、だった。

 その為、完全に空気になっていた。


「…あら、まあ。それはごめんなさいねぇ。…大丈夫?」

「…。ふぁい…すみません、大丈夫です。…私もイツキさんで、全然良いと思います」


 そのことを聞いたサリーは、ただ単純に申し訳なく思い、あまりの落ち込みように今度はサリーが心配する番になった。

 そのことに気づいた、という訳ではなさそうだが、迷惑をかけていると思ったのか、謝ると同時に気持ちを入れ替えて、なんとか元に戻った。

 それとついでに、イツキが教える人で良いと同意した。


「そう?貴方も無理しないでね?1番頼りになる年長者さんなのだから」

「はい。もう大丈夫です!」

「ならいいわね。それじゃあ、依頼の件はイツキさん、という事で完全に決まりね。まあ、他に当てがある訳でもないけれど。改めまして、よろしくお願いします」

「よろしくお願いします!イツキさん!」

「ああ」


 纏っていた暗いオーラが、だんだん消えてきた事を何となく感じたサリーは、無理をしないようにとだけ注意する。

 殆ど元気を取り戻したミエリアは、先程までの様に明るく返事をして、もう大丈夫であることを再度伝えた。

 その様子を見て、完全に大丈夫と判断したサリーは、1番大事な話…勉強を教える人がイツキで確定した。


 といっても、元からイツキを断る理由はなく、むしろやっときたチャンスを逃したくないという思いが強かった。

 ペナルティ依頼になるだけあり、この依頼を受けようとした者は全く居らず、多少の悪点には目を瞑るつもりでいたのだ。

 なので、取り敢えずどの程度教えられるか試したわけである。

 結果は言うまでもなく、最高であった。


 ちなみに、この依頼がペナルティになっていることは、基本的に依頼人は知らない。

 もちろん今までの者たち全員、たまたまやってきたのだと思っている。


 さて、イツキに任せることが決まり、これで一旦落ち着いた。

 イツキに決まったのなら、することは一つ。

 それは…


「それじゃあ、イツキさん。こちらに来てもらえますか?みんなに紹介します」

「分かった」


 自己紹介である。

 子供達の集まる場所へ、誘導するサリー。


「皆、こっちにいらっしゃい。貴方たちに勉強を教えてくれる方がいらしたわ」


 そう言って子供達も呼び寄せた。

 勉強をする事になるといって、起きる反応といえば嫌そうな『えー!』といったものだが、ここで上がった声とは…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ