表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/88

37「子供らしく…」計算を、言いつけ

〜イツキがどの程度教える力があるのか、試すことになった。どうせ問題はないのだろうが、果たして〜

「さて、教えると言ったな」

「ええ。それが、一番よくわかりますから」

「どの状態を前提にすればいい?」

「…どういうことでしょう?」


 イツキの教師事が始まる…前に、どの程度教えることができるのか。

 それを確かめる為に、先ず院長であるサリーと、多少は文字や計算を覚えているメア…もといミエリアに、口頭で計算を教えることになった。


 しかし、イツキはどの様な状態を前提にして教えれば良いのか、勝手に判断するわけにもいかない為、問う。

 イツキの簡略化した問いでは理解できなかったサリーは詳細を求め、ミエリアは目に見えて、ハテナを浮かべている。


「既に知識を持っているのか、いないのか」

「…ああ、はいはい。そういうことでしたか」

「?…どういうことなんですかぁ?」


 もう少し詳しく話せば、理解の声を上げるサリーだったが、残念ながらミエリアには理解できなかった。

 さて、どういうことかというと。


 用紙を使わず、口頭で教えることに問題は無い。

 しかし、教える相手によって教え方やその難度が変わるのは当たり前である。

 今から行うのは、イツキの教師事がどれほどのものかを試すこと。

 そして、試すということは、何かを知る、確かめる為に行う。

 では何を確かめたいのか?

 イツキの教え方で、どれだけわかりやすく覚えやすく、理解させることができるのか、である。

 分かりやすかったかどうか判断するのは勿論、サリーとミエリアだが、ここで問題が出る。


 二人とも多かれ少なかれ、学があるということ。

 既に知っていることを教えても、分かりやすいかどうか判断しずらい。

 なら、二人の知らない事を教えればいいのか。


 孤児に教えることを前提にして、既に習得済みの文字や簡単な計算を教えるのか。

 それともサリーやミエリアに合わせて、知らないであろう知識を教えれば良いのか。

 その事を聞いていたのだ。


 見栄を張ったのではなく本当に納得した為に、納得の声を上げたサリーは、イツキの言いたい事がなんとなくだが理解し、少し考えるそぶりをする。


「そうねぇ…様子を見る程度いいから、あの子たちに教えるものがいいかしら。…あ、でも、口頭じゃ難しいかしら?」

「問題ない」


 そして結論は、実際に教える方法をして欲しい、というもの。

 サリーの言う試すとは、『見極める』という程真剣なものではない。

 ただ、どういった方法で教えるのか、そもそも教えること自体できるのか。

 それを知りたかっただけで、イツキの能力が孤児たちへ教えられる程度にある事が分かれば、それで良かった。


 まあつまり、イツキの考え過ぎ…というか、本気になり過ぎだったのだ。

 場合によるが、受けた依頼には手を抜かないという、イツキのちょっとした決まりが影響した結果である。


 という事で、前提が分かったところで、お試しを始め…


「アレらは、何ができる」

「…ああ、あの子達(孤児たち)ですか?2人だけ文字の書き読みと、1〜2桁の足し引きの計算が出来る子がいます。その子達以外は文字が読めるかどうか、ですね。一桁までの数字は知っていますよ」

「院長がたまぁに教えていましたから!自慢の子達です!」

(ふむ…これなら早く終わるか。追加さえなければ、だか)


 なかった。

 それもそうだ。

 教え方など、その対象の状態によって異なる。

 孤児に教える予定の方法を試すのなら、まずは孤児たちの状態を知り、孤児たちに合う教え方を作らなくてはならない。

 といっても、既に幾つも作ってあり、その中から絞るだけで、大した手間もない。


 そういう訳で、どういった事が出来るのかを聞くと、意外にも進んでいた。

 全員が多少なりとも文字が読め、2人に限っては読み書きと、1〜2桁のみとはいえ足し算と引き算が出来るという。

 孤児がここまで出来るというのは、かなり珍しい。


 例えば、ただの農民なら数を数える事はできても、文字を書く事などできないし、計算などまず無理だ。

 大抵は1から数えていくという、非効率極まりない方法でやり過ごしている。

 裕福ではないとはいえ、しっかり生活ができる農民でその程度である。

 生きる事すらままならない孤児に、書き読みなど出来ると考える者など、そうはいないだろう。

 孤児院という、しっかりとした住む場所がある為、驚愕に目を見開く…なんて程珍しい事ではないが、それでも中々ある事でもないのだ。

 更に2人は、簡単な計算まで行える。

 そこまで覚えているのは偏に、暇があれば勉強をつけていた院長のお陰だと、胸を張っていうミエリア。

 ドヤ顔を晒しても、納得のいく理由である。


 思ったより進んでいた事に、これならば予定より時間をかけなくて済むと、考えるイツキ。

 追加がなければ、というのは、さらに教える事が増える事を危惧しているのか、はたまた別の件があるのか。

 まあ何にせよ、何事もなく進めばいいが、そうはいかないのだろう。

 そんな予感を、イツキは感じていた。


「それでは、始める」

「はい、お願いしますね」

「よろしくお願いします!」


 そして、やっとお試しは始まった。


「計算の仕方を教えていく。数字の並び…1〜9は分かるな?そして……………」


 *****


 始めて10分が経った。


「………………この様に、足し算とは前の数字に、後の数字分増やす事を指す。例えば、この果物が………………」


 数字の増え方、2桁目に突入した数字の数え方、そして物を使って、足し算の説明へと移る。

 口頭でとは言ったが、用紙さえ使わなければいいため、例えに物を使う事はありだった。

 そして授業風景だが、サリーはともかく、ミエリアはやる気に満ちていた。

 それは偏にイツキの飴と鞭の使い方の上手さにあった。


 ずっとイツキが喋りっぱなしではなく、回答を2人へ求めたり、実際に他の物で計算を例えさせるなど、やり取りのある方法だった。

 そして、上手くいけば少し褒めて気分上げた後に、悪い点を指摘することで、思い切り落とす。

 地面に激突する前に掬い上げ、褒美をチラつかせつつ煽ることで、モチベーションを上げていく。

 単純な者ほど効果はあるが、上げ下げを見誤ると一気に破綻する、割とシビアな方法を使用していた。


 しかしミエリアは見事に引っかかり、褒美の為に人生でトップレベルのやる気を出していた。

 ちなみに褒美とは、屋台で売っている串1本である。

 隣でサリーが目を白黒させている程、最初のブー垂れ具合から変化しており、それだけイツキの飴と鞭の種類やタイミングが合っているのだ。

 サリーは年の功か、引っかかる様子はない。

 イツキがわざとそうしているのかもしれないが。


 こうしてさらに10分が経過した。


 *****


「…………………答えは小さくなる。例外はあるが、それが引き算だ。まあ、果物が5個ある内、2つ食べたらどうなる?」

「3個になる!」

「ああ、その通り。式で表すなら5-2。その答えが3というわけだ」

「…5から2を引くと言って、すぐ引けるものなのでしょうか?」


 足し算は終わり、引き算に移った3人。

 イツキのやり方も理解し、スムーズに進んでいる。

 ミエリアだが、どうも彼女も簡単な計算はできたが、理解し切っている…わけではなかった。


『確か…これにこれを足すと、これになるんでしたよね!』


 とは、授業中の言である。

 つまり、組み合わせで答えを覚えていただけであり、計算していないのだ。

 これをできると言っていいのか、判断がつかないが、正解はしていたので、できると言えるのだろう。

 しかし、それも今日まで…順調に理解し始めていた。


「最初の内は、指でも使って、一つづつ引いていけばいい。慣れれば即答できる」

「指…ですか。そうですね、何故今まで使わなかったのでしょう?」


 サリーの疑問に、指を使って足し引きをしろと、実際にやらせてみながら言う。

 そのイツキのやり方に、驚くサリー。

 そう、何故かこの孤児院の者たち…といっても数人だけだが、その数人は暗算が素早く行えないのに、必死で頭の中だけで計算しようとする。

 目の前のサリー然り、ほか2名の計算ができる者然り。

 この事に疑問を抱いたイツキは、何故物で例えようとしないのか推測をして、むしろ最初は物…指や駒などで例えた方が良いと、伝えた。


 ちなみにミエリアは組み合わせで答えを出す為、暗算も何もないのだ。

 それでも指で計算させると、すぐ納得と驚嘆の声をあげ、今ではすらすら計算している。


 そして、暗算に固執する理由だが、イツキの推測であるが…

 まず、この世界で物で例えた計算がない、なんて事はない。

 普通に屋台のおっちゃんが、算盤そろばんの様な物で計算しているのは確認している。

 では何故、物で例える発想が出なかったのか。

 それは…


(孤児という立場や、貧しいというこの現状、だろう)


 金がなく満足に物も使えず、節制節約に、子供達も何らかのお手伝いをする必要のある、貧しい現状にあった。

 院長は、子供達に物は大切に扱うように、無駄遣いはしないように、割と厳しく言いつけている。

 やんちゃなお年頃の子供達が、つい物を壊してしまう…という事が一度もないのだ、この孤児院では。


 そしてその貧しい現状を、孤児たちがしっかり理解できているというのも、言いつけをしっかり守る理由の一つ。

 そこらへんにある物で、振り回したりなどで遊ぶ事もなく、孤児院内で過度に追いかけっこなどする事もない。

 もしかしたら、ぶつかって壊すかもしれないと、理解していたから。


 その状態で、計算にわざわざ身近にある物で、例えようなど思いつかないのだろう。

 物は正しく利用し、長く持たせようとするあまり、こういった応用が利かなくなってしまったと。

 余計な事をして壊さない為に。

 それが、きつく言い聞かせている、サリーにも及んだのだろう…そう、イツキは推測した。


 指を使わない理由は、物を例えに使わないという固定概念と、指や物を使って数字を教えず、最初から文字で教えた為だと思われる。

指を立てて、1.2.3.と教えていけば、指を使うことくらいは行なっていても、おかしくないのだから。


 イツキは院長がそう言いつけている事は、もちろん知らない。

 しかし、やんちゃなお年頃の子供達が、物を大切に扱い、やけに周りに気を配っている様子を見て、そうではないかと予想した。

 院内にある物の大半が、かなり使い古されていた、というのも予想した理由の一つである。


 …ミエリアは、唯一の例外となってしまうか。


 サリーの疑問に、そう考えたイツキは少し、アドバイスをした。


「物を大切に扱わせるのは良いが…」

「「?」」

「子供らしくさせたらどうだ?」

「!?」


 それだけで、物を例えに使おうとしない理由を察せたらしく、サリーは驚愕の表情を浮かべた。

この話の勉強の仕方や、計算の例えは私が考えた物なので、おかしな部分があるかもしれないです。もし見つけましたら、教えていただけると助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ