2「ふむ…」刹那の初戦闘、知識・金を求めて
戦闘時などに効果音をつけていきます。話が一区切りしたところで、どの効果音がどのアクションによるものなのか、説明する会を設けるのでそれまで待っていただければ幸いです。
(さて、ここで生きていくなら、まずは知識と金か。近くに都市がありそうだ。まずはそこに向か…)
とりあえず、目的を決め一歩目を踏み出した──
「ガァッ!」
──瞬間、脇の茂みから、襲いかかってくる影。
鋭い爪がイツキの首まであと数mmと迫り、切り裂くッ──
スッ、ドサッ
──ということがある訳もなく。
潜んでいたことがわかっていたかの様に、紙一重で躱し、すれ違いざまに首を切り落とす……手刀で。
頭が体から離れ、地面に落ちる。
それが合図だったかのように、5頭の影が飛びかかってくる。
その影は狼のようだ。
狼たちは連携をして仕掛けてきた。
前方から2頭が同時に、後方から2頭が時間差で爪での切り裂きを。
残りの1頭はイツキの足に、前方の2頭と同じタイミングで噛みつきにかかる。
イツキは…
スッ.ドゴッ「ギャン!」
ベキベキッ…ドササ…
ドッ!グチャッ「グギッ」
前方から来る2頭を間をすり抜けて避けると同時に、足に噛みつきにきた狼を蹴り飛ばし、後ろを振り返る。
あまり力を込めていないような蹴りだったが、蹴ったとは思えない音とともに、狼が悲鳴を上げて吹き飛ぶ。
時間差でやってきた後方の2頭の間をすり抜け、すれ違い様に一瞬だけ、タイミングよく首を握り…首の骨を圧し折る。
首が折れ、即死した2頭は飛びかかった勢いそのままに、地面に落ちる。
最後に、イツキが間をすり抜けて避けたことによって、後ろに駆けていった2頭。
その2頭が再度イツキを襲うために、イツキの方へ振り向いたタイミングで、1頭は蹴り飛ばし、もう1頭には蹴倒しつつ胴体をスタンプをする。
1度目の蹴りより威力が高かったのか、蹴られた狼は悲鳴さえ上げれずに絶命する。
スタンプをした狼は踏まれた部分が潰れ、臓器がはみ出している。
そのわりには、足が汚れていないが…どうなっているのやら。
ちなみに、最初の蹴られた狼は勢いよく木にぶつかり、血を吐きながら絶命していた。
木にはヒビが入るほどの威力だった…
こうして、異世界の初の戦闘を十秒掛からずに終える。
*****
「ふむ…」
襲ってきた狼の死体を観察するイツキ。
(狼…明らかに地球にはいない種だが)
それもそうだろう…
尻尾が2本あるのだから。
龍がいるなら尻尾の2本や3本くらい…とも思うが、地球の獣は普通なのだ。
僅かにファンタジー生物がいるだけ。
そんな事より…
(これでバランスがとれるのか?…まあ、いい。それよりもこれらをどうするか)
ちょっと思考がずれたが、死体の処遇を考える。
毛皮や牙が金になるかもしれない。
筋が多いかもしれないが食用にもなりそう。
しかしイツキは。
「………」
放置。
(必要もあるまい。歩いて行くのに邪魔になる。それに匂いにつられて、無駄に獣が寄ってくるだけだろう)
と、無視して歩き出す。
特に驚くこともなく対処して見せたイツキだったが…もちろん、最初から自分を狙う存在には気づいていた。
その、狼に気づいていた理由。
それは感覚の鋭い、獣にも勝る五感と、圧倒的情報量を何ということもなく処理する脳にある。
イツキの知覚範囲はその場の環境にもよるが、最大だと3kmを優に超える。
今回は、獣特有の臭い(ちょうど風上にいた)と、不自然な葉の揺れ、葉・土を踏みしめた音、わずかに漏れ出る呼吸音。
殺意に視線とヒントのオンパレード。
人外なイツキにとって、これで気づくなという方が無理である。
むしろ一つで十分気づけた。
これらの察知能力によって、活気のある音を聞き取り、冒頭の『都市が近くにある』ことに気づいた──
「ぐあっ!」「やめろっ!」
「死ねーっ!!」
──争い事があることも。
どうやら商人とその護衛が盗賊に襲われているらしい…会話的に。
ここでイツキが考えること、それは…
(これで知識と、多くはないだろうが金、物資が手に入るな。二股狼を引きずるより遥かに良い)
である。
商人らしき人物を盗賊から助け、周辺の情報と報酬を貰うつもりらしい。
狼の素材を持って行くよりは楽、と。
……まあ、最初から謝礼目的とは流石であるが。
正義感などつゆもない。
こうして、動き出した…
…ゆっくりと、歩きで。
*****
「商品はすべて差し上げます!どうかっ、いい命だけは!」
「持ちもん全部もらうのは当たり前だ!俺らは盗賊だぞ、馬鹿かお前!?」
笑い声が響く。
咽せるような血の匂いが満ちるこの場で。
街道らしき、整備された(といっても均してあるだけだが)幅のある道に、人の死体が5体。
すべて、護衛をしていた者たちのものだ。
盗賊は10人で全員無傷、護衛は全滅しており、盗賊が圧勝していた。
襲われている人物は、イツキの予想通り商人であった。
「何より、こんなちっぽけなもんで何言ってやがる!これで見逃せる命は蟻一匹だけだなっ」
何がそんなに面白いのだろうか。
再び笑い声が響く。
確かに少ない荷物であり、食糧や調味料、生活用品が少々あるだけである。
質が良いわけではないため、安く仕入れたわけでもないなら、高く売らない無い限りは大した収入にはなり得ない、そんな品揃えだった。
実は、イツキが大して金はないだろうと予想していたのだが、由縁はここにあった。
荷車が走る音によって重量を推測し、商品であろう物が跳ねる音、盗賊の会話で確信を得たのだ。
「さぁて、お前にも死んでもらおうか」
「ひぃっ」
絶望的状況。
盗賊の1人が武器を振り上げ、もはやここまでか…というところでイツキは──
──まだ歩いていた。
バッチリ見えるところまで近づいてはいたが、助けに急ぐ様子はない。
やろうと思えば木々の隙間を走り抜け、一瞬のうちに盗賊のところまで間を詰めることができる。
そのため慌てないのだと思われたが…
「死ねぇい!」
盗賊が武器を振り下ろす!
そして──
「ガッ!」
ザクッ!ドサッ。
「ハハハハハ!」
──高笑いが響き、首が落ちる…
『商人の』
少ない量だが食料などを手に入れ、盗賊たちは満足気であった。
イツキは、どうしたのだろうか…
*****
盗賊たちは集まり、今回の成果を確認する。
「ホント、大したもんないっすね」
「金も少ないな」
「まぁ、この程度の商人なら行方不明になったところで騒がれまい。面倒がなく食糧やら金目の物が手に入っただけマシというものよ。女がいればもっと良かったんだかな!」
満足気であったわりには、1人の男がそうぼやくが、親分らしき図体のでかい男が上機嫌そうに言う。
「なるほど!流石ジャイの親分っすね!よく考え…」
「れてないな」
コロッ…ドサッ…
「ッ!誰だテメェは!!」
ここでやっとの登場。
商人が首を落とされる瞬間もゆっくり歩いてきたイツキ。
ジャイという名前らしい親分を賞賛していた男の首を切り落とし、それに気づいたジャイが威嚇する。
しかしイツキは──
(商人だけならともかく、この護衛たちも一緒に行方不明になる。大したことのない獣しかいない、この森の街道で5人も。盗賊に襲われたのは明白だろう。もしくは、強力な何かが発生したと考え、多少なりとも捜索隊の類は出る筈。つまり面倒は起きるわけで…馬鹿だな)
──と馬鹿にしていた。
(何より、こんな人通りのある場所でこの死体。誰がどう見ようと盗賊被害の現場だろう。それとも、わざわざ後片付けでもするのか?)
と、付け足して思考している。
この思考には数秒使っていたので、側から見るとだんまりとしている様に見え…
「誰だって、聞ぃてんだろうが!」
と、痺れを切らして怒鳴る。
だがそれでも攻撃は仕掛けない。
多少なりとも頭が回るのは確かのようで、一瞬で近づいたのか、高い隠密性があるのかは分からない。
だが誰にも気付かれずに、ここまで来たという事実に様子を見ている。
(咄嗟に出た言葉ではなく、本当に誰かと聞いていたのか。聞いたところでどうするのか…そもそも馬鹿正直に答えるものがいるのか?…いそうだな)
答えるつもりはなく、少し無駄なことを考えつつ無視していた。
仲間がやられ、しかしだんまりのイツキに周りの盗賊たちがキレて──
「テメェ、よくも!」
「何黙ってんだ!」
──などと、イツキに斬りかかる。
「バッ!?」
ジャイが声を上げる。
何者か分からず、実力者であると思われる女。
逃げるかどうか考える途中で、他の奴ら全員が斬りかかってしまったのだ。
バカと、止めようとしたのか、何だったにせよ間に合わず…
…ッ、スッ…
ドサドサドサッ…
コロコロッ…
…パリンッ、カシャン…
斬りかかってきた8人、全員の首をすれ違いさまに切り落とす。
盗賊たちは、護衛5人を奇襲して倒していたのだが、例え倍の人数での奇襲だろうと、無傷で圧勝できるというのは、それなりの力量が必要になる。
頭に血が上っていてもイツキを囲んで斬りつける、簡単な連携はして見せる程度には、実力を持っていた。
しかし、イツキはその程度など歯牙にも掛けず、周り全てを把握しているかのように無駄な動きをせず、首を切り落としていった。
この時間、僅か2秒未満…目に追えぬ早技。
しかし、もしこの場にイツキの動きを追える者がいたなら、まるで舞のような綺麗な動きに、魅入ってしまったかもしれない。
そんな、洗礼された動きだった。
今回手刀ではなく、盗賊の1人が持っていた武器を奪い、それを使って切り落とした。
剣を奪われた者は、あまりの速さで剣を奪われた為、手から無くなった事に気づく事もなく、絶命していた。
お世辞にもいい武器とは言えない、手入れのされていないボロボロの剣。
切れ味は最悪だろう。
それにもかかわらず、綺麗に切り落としたが、それこそイツキの持つ技術のなせる技。
だが、剣は耐えきれなかったようで、切り終えると同時に根元から折れてしまう。
いや、親分以外を殺し終えているのだから、耐えきれたともいえるのか。
柄のみとなった元剣を放り捨てるイツキ。
8つの首が転がり、首無しの身体が地面に伏す。
さらに血の匂いが満ちる。
ジャイは悟った。
さっさと退散するべきだったと、相手にしてはいけなかったと。
逃げたところですぐに追いつかれ、やられるのがオチだろうが。
「さて…」
「ッ!?」
ジャイに向き直るイツキと、それにビビり、殺されるのかと後ずさる男。
イツキはその男を──
「お前にいくつか質問する。答えろ」
「え?」
──殺さない。
実はイツキ、商人を助ける気などさらさらなかったのだ。
助けても、貰えるかもわからない僅かな報酬を貰うよりも、残った商品、それから盗賊の持ち物。
それら全てを手に入れたほうがいいだろう、そう考えていた。
効率は良いのかもしれないが、発想はかなり外道である。
「お前の疑問はいちいち挟むな。口答えは許さん」
ジャイはそれなりに知恵もありそうだったので、そいつから聞けばいいと考えていた。
穏便に聞くつもりはないが。
「いいな?」
「…は、はい」(ヤバい、まじて殺されるっ!?従わねぇとっ!!)
命の危機を感じ取ったジャイは素直に従うことにした。
(…この場所で聞くのもな)
「…少し、場所を移す」
「へ?あ、はい!」
わざわざ死体に囲まれて質問をする意味もなく、森の中へと場所を移した。
「ではまず…」
こうして質問を開始した。
この世界の常識。通貨や地理、人間以外の種族や魔物という生物の事など、思いつく限り、ありとあらゆることを聞いた。
ジャイは子供でも知っていることや、それで今までどうやって暮らしてきたのか、と疑問に思うようなこと聞かれた。
非常に気になったのだが、勝手なことを聞けるわけもない。
首無しになるのはごめんだ、と。
そうして、イツキの質問に1時間以上もの間、答えていった。
〜〜〜〜〜
「そういえば…」
「はっ、はいっ!」
「お前、あの商人たちの死骸…」
「?、はい…」
「後片付けでもするつもりだったのか?」
「はい?何故ですか……い、いいえ、無かったですが」
(やはりそうか…バカか…)
ふと思ったことを聞いてみたイツキ。
何故その様なことを聞いてくるのか、全く心当たりが無かった為、つい聞き返してしまったジャイ。
イツキの手がこちらに伸びようとした気がした為、すぐに答えるが、その答えは否定。
つまり、これで考えが及んでいなかったバカだと、証明された瞬間だった……
〜〜〜〜〜