33「間違っても…」足運びの完成形、指南させる為の指導
〜マリスへ、リレイが足運びの指南をできる様、指導を開始したイツキだったが〜
見本として数歩だけ、例の足運びを披露したイツキ。
スタッ…スタッ…スタッ…
「……」(何という………いえ、何時の間に?)
イツキを、その動きを見て。
ただ、歩いているだけである…その筈なのに見惚れてしまい、目を離すことができない。
ソレは只々、洗練された歩きだった。
モデルのように服やスタイルを良く見せる為の、そういった類の歩き方は、実はこの世界にも存在する。
しかし、イツキはそういった歩法をしているわけではない。
それだというのに、魅了されてしまうのは歩き方が美しく見えるからか。
イツキが今行った足運びは、マリスへ教える予定のもの、体重の移動や呼吸のリズム等を全てを極め、その全てを同時に…そして完璧合わせて使いこなして初めて、見る事のできる。
そういったものであった。
言葉で表せば、非常に短く簡素であるが、全くそういった事はない。
極めるとは、例えばスポーツの世界大会で、無敗であり、トップを取り続けるほど実力を付ける。
それ程の水準まで鍛え上げることを指すのだ。
そんなレベルまで幾つも鍛え上げ、さらに同時に使い熟すということである…果たして人間に可能なのだろうか?
まあ、イツキが行っているので可能なのだろうが、難易度は神業という言葉すら生ぬるく感じる…そういうレベルだろう。
神業がぬるいのなら、神にも難しいのか?…そんなこと知らないが、比喩表現である為、関係ない。
若干話は逸れてしまったが…
リレイは、イツキのその足運びに違和感を覚え、気づく。
何時、一歩目を踏み出したのか…注視していたはずなのに、思い出す事もできない。
見惚れていたから、ではない。
「見えなかった…か?」
「ええ。やはりタネはあるのですね」
「ああ。この足運びはな…」
1歩目が見えていない…気づいていなかった、それが分かっていたらしく、ほんの一瞬とはいえ考え込んだリレイの様子から、イツキは答えを言う事にした。
イツキのその言い方から、気づかなかったのはリレイ自分自身がどうこうではなく、足運びにその秘密があるのだろうと察する。
なにも誤魔化すようなこともないし、そもそもこれから教えるのだから、嘘を言う必要もない。
タネがあることを認め、切り出す。
「全てに通ずる、《絶対》なのだ」
「どういう…?」
そして、一瞬の間を空けて放たれた言葉。
いくらなんでも、それだけではリレイでも察する事は出来ず、聞き返す。
イツキの言う、『全てに通ずる』とは、どういう事か…
「どの歩法にも派生できる、という事だ」
「っ!…なるほど、だから絶対、ですか」
どの歩法にも派生出来る…つまり、この足運びを覚える事ができれば、歩法という技術なら全てを習得できるという事、応用が容易だということ。
そして、全てに通じるのなら、絶対と言えるわけである…歩法を習得するのに、絶対必要なもの、というわけではないが。
例えると、腕の振り方であったり腰の捻り方であったり、体重の掛け方などの『振る』基礎を、とある法則で習得した。
するとテニスや卓球、野球やゴルフまで、何かを『振って』打つという動作が、全てを上手くできるようになった。
振るという動作全てに応用が可能な基礎を、習得した為に。
若干違いはあるが、だいたいそんな感じである…適当に納得して貰えればそれで…。
イツキのものは、『振る』が『歩法』になるが。
「しかし、気付けなかったことと、どういった関係が?」
「全ての歩法に通ずるのなら、その効果が若干現れることもある」
「例えば、相手に近づいてきていることを、気づかせない歩法。それが現れたということですか?」
「ああ」
結局、リレイが一歩目を気付けなかった理由と、イツキの言葉にどう繋がるのか、見当もつかなかった。
その為再度尋ねると、また遠回しに伝えてくる。
しかしその言葉で十分だった様で、答えを導き出した。
どういうことかというと。
全て応用が可能ということは、ちょっとした…小さな効果なら、少し手を加えるだけで様々な歩法へ、変化させることができるということ。
なら、相手の立ち位置でも歩法に変化は起きるし、力の入れ具合や地面の違いから、勝手になんらかの歩法の効果が起きてしまう、という事だ。
今回の場合は、リレイの言う様な効果が現れたことになる。
正面に立つ者にしか効果のないものが。
…まあ実はイツキは、わざと一歩目のみ、足音は聞こえるのに歩く動きが見えない、という不思議な効果を持つ歩法を、使っていたのだが。
この足運びの発案者が、ましてや人外なイツキが、そういったミスの類をするはずがないのだ。
「…それを短時間で教えられる様になるでしょうか」
「お前が使うわけではない。そう難しいことではあるまい」
「まあ、そうですね。…では続き、お願いします」
予想より遥かに高い…高過ぎる基礎に、自分が教えることができるのか、自信がなくなってきていたリレイ。
すでに身についている、自身の足運びを上書きするのではなく、他人へ教えられる様になるだけだと諭され、気を取り直した。
そして、本格的に始まった。
〜〜〜〜〜
〜指導中〜
「…少しいいですか?」
「またか。なんだ」
「この足運びは、イツキ様が?」
「ああ」
それはマリスへ教える為に必要な事を、実践しつつ教え込んでいる時の事。
唐突に疑問を投げかけてきたリレイ。
質問が多すぎて、少々面倒になってきたイツキではあったが、今と無関係な事ではないだろうと、許可を出す。
その、リレイの疑問とは、基礎…どころか最終目標としても良いのではないか、という程の足運びを発案したのは誰か?というもの。
今までの規格外さから、目の前の人物が作ったのだろうと、半ば確信しながら確認の為尋ねていた。
返す答えは勿論、肯定。
「どういう過程で作られたのですか?」
「自分で考えろ」
「ダメですか」
しかし、発案したのは状況や方法などは答えてもらえなかった。
実際、どの様に作られたかというと…
地球に現存する全ての歩法や、様々な足運びを習得する。
そして、自分の使い勝手の良いものへアレンジをして、新しいものを生み出していくうちに、とある共通点を発見した。
その共通点は、上手く基礎に取り込んでみると、容易に別の歩法へ変化させる事ができた。
すでに習得済みのイツキにはほとんど関係ないが、仲間に覚えさせる分には、かなり役に立つ。
そう考えると、1日掛けずにその共通点を取り入れた基礎を完成させ、すでに出来上がっていた仲間達の足運びを、新しく作ったものへ上書きさせた。
さらに余談だが、その上書きする際に仲間に課した修練は、裸で戦場に立つ方がよっぽどましたと言わしめるほど、厳しかったという。
〜〜〜〜〜
1時間が経ち、疲労が見え隠れしだしたリレイ。
指導する際のコツを教え、マリスにどういった動きをさせればいいのか、しっかり記憶に刻ませた。
もちろん、マリスの体型に合わせたものを。
「いいだろう」
「…ありがとうございました」
そして、ある程度教えるだけなら問題ない程には、覚えた頃に合格を言い渡した。
肉体的に…というより、精神的に息絶え絶えといった状態のリレイは、なんとかお礼を先に言い、一つため息をついた。
「これはお前の息子専用に作ったものだ。間違っても他の者に教えるなよ?況してや、自分でアレンジなど…」
「しませんよ。あのようなことがあって繰り返すほど、私は愚かではないつもりです。それに…」
見た目はそうでもないが、割と疲労困憊の体をしているリレイへ、追い打ちをかけるかの様に釘をさすイツキ。
しかし嫌な顔一つせず、従うとの旨の受け答えをした。
他人に教えるなということは、マリス以外のことであり、別に『基礎の教え方が悪いから中止だよ?』となっても罪悪感など、そう覚えないと思うが。
きっと他人とはいえ、指南をする様な相手だから、マリスの様な目に合わせたくないのだろう…そう納得しよう。
ただ、従う理由をそれだけではない様で、それにと続ける。
「この足運びを広めるつもりはありませんよ。そうそう真似できるとも思いませんが…イツキ様の反感も買いたくないですしねぇ」
「別に…」
「はい?」
元から広めるつもりも無かったと言う。
見ただけで取り入れることのできるものではないし、教えたからといって、はいできました、とはいかない。
しかし一番の理由が他にあった。
イツキの反感を買いたくないというもの…よほど買いたくないのか、言葉にかなり力が入っていた。
そんな心境も知ってか知らずか、イツキの放った言葉一言は、まるで広まる事をなんとも思っていないかの様なもの。
そんなどうでも良さげなイツキの態度に、つい気の抜けた声を上げてしまったリレイ。
「この程度の技術など、広まろうとどうでもいい」
「こ、この程度ですか。この足運びだけでもかなりのものだと思うのですが…」(この足運びをベースにできれば、少なくとも、現存するすべての歩法は取得が容易だと思われるのですが…それが、この程度)
イツキの様に、完全に使いこなせる者はかなり少ないだろうが、例え半分だけでも覚える事ができたなら、変幻自在に歩法を使用する事ができる。
明らかに高スペック過ぎるものだと思うのだが、どうもイツキにとっては差して重要ではないらしい。
イツキが持つ、数える事が億劫になる程の数々の技術の中では、秘匿する程の技術ではないという事。
イツキの事を詳しくは知らない為、そこまで考えが至ったわけではないリレイ。
それでも、この足運びを軽視できるイツキに、一体どれほど詰め込まれているのかと、若干の畏怖を抱いてしまった事は、仕方がないだろう。
「まあ、イツキ様は良いかもしれませんが、私に広めるつもりはないです」
「そうか」
「ええ。…それより、1時間で仕上がるものなのですねぇ…」
そんな様子などおくびにも出さず、とにかく自分に広める意思はないとリレイは言う。
最初から態度で示す通り、どうでも良いイツキはおざなりに返事をする。
そして、本当に短時間で教えるだけとはいえ、覚える事ができた事に、リレイは心から安堵したのだった。
例えがかなり…この作中の中でトップレベルで分かり難かったと思いますが、なんとなくで良いので、『ああ、こういう事か』と納得していただけたらと思います。
こういったところにも、文才の無さや頭の回転の悪さなどが現れてしまいます……、うーん…。どうすれば。
こういった例えや説明でも、こうした方がわかりやすいなどの意見があれば、是非教えて下さいm(_ _)m
私一人では良い作品を作り上げるのは不可能なので~_~;
読者の方々がいてこその小説ですから^ ^




