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25「まあな」大量発生は…、その後

〜ゴブリ虫退治は終わったイツキ。あとは依頼達成の言葉を貰うだけだが〜

 男が気まず気な空気を放っていた中、いつまでも突っ立っているのに飽きたイツキは、口を開く。


「まあ、いい。とにかく片付いた。後は経過を見て判断しろ」

「分かった。ちょっと中見てくるわ」


 依頼内容の原因の排除は終了したといい、虫の駆除はすぐにはわからないだろうから、少しの間様子を見て減ったかどうか判断しろとと伝えた。

 男は話しかけられたことを、これ幸いとうまく流れを作り、この場から離脱を図った。

 まあ、中が気になっていたのも事実ではあったが。


 廃屋の中へ入っていく男を見送るイツキ。

 今は天井に穴が開いている為、中の様子がよく見えることだろう──


「うえっ!?キモ!なんだこりゃ!!」


──万の虫の死骸が…


 叫びながら走って出てきた男。

 中に入ってから数秒で出てきたのだが、その数秒のラグは現実を認めるのに掛かった時間だろう。

 虫がひっくり返ったり砕けたりしたモノが数え切れない程あるのだ…正直、イツキが廃屋へ入っていった時よりも、精神的に来る光景になっている。


 少し話はそれるが、イツキがゴブリ虫に抱いた感想が…


『見た目はゴキブリだな。若干別種の虫の、気色悪い部位が合わさった風か…』


 という、つまりゴキブリよりアレな見た目の虫なのだ。

 緑色になったままの死骸もありながら…


 それが更に気色悪い感じになって、数万固まっている…もうこの世の終わりの様な気分を味わえるだろう。

 そんな光景を見た男は、若干青白い顔をしつつ走ってイツキの元へ戻ってきた。


「よく、あの中を平気で入られたな…尊敬するぜ。……ところで巣はどうしたんだ?なんもなかったぞ?」

「気色は悪かったが、別に…。巣は粉々に砕いた」

「…なるほどなー」


 何分にもあの廃屋に留まっていたイツキへ、若干本気で尊敬の視線を向ける男。

 中を見ていたのは短い間だった…というよりも、フリーズしていたから出てくるまでに間があったわけだが…

 フリーズしていてもしっかり観察は出た様で、巣らしきものが無かったのを不思議に思い、所在をイツキに尋ねた。


 実際巣など無いのだが、本当のことを言うわけも無く、それっぽい嘘をつくイツキ。

 男は、粉々になったものもあるので、それが巣の破片だと誤解して納得した。


「あの量のGを見たのは初めでだわ…あんなにいれば短時間でどんどん増えるだろうしなぁ」

「だろうな」

(あれほどの数の虫を見ること自体稀だろう。いるとするならイナゴか…。この世界にいるのかは知らないが…地球と似た環境だ、いる可能性は高いか。それも巨大なやつが)


 男の言葉に、肯定の意を示すイツキ。

 確かに万の虫はあまり見ることは無いだろう。

 アリや、一度にたくさんの卵を産むものが一気に孵化したりすれば見るかもしれ無いが、体長5cmを越す大きさか、成体の大群はそうそう無いだろう。

 地球ではテレビで異常発生の映像が流れることもあるが、生身で見ることなどそうあることではない。

 大群といえば思いつくのはイナゴ、という者も多いと思うが、イツキもそれに漏れずイナゴを連想し、いらぬ出現フラグを建てるのであった。


「…ああ。これ」

「ん?なん…うぉ!?」


 イツキは忘れていた何かを思い出した様に声をあげ、何かを男の元へ放り投げる。

 何かと聞こうとした男だったが、しかしそれは自身の驚愕によって叶わなかった。

 何せ、イツキが投げてきたものとは…


「いきなり何投げてきてんだ!これ──


 とある勇敢(無謀)な男がズタボロになって戻ってきた理由として、男に見せてやろうと持ってきたもの。

 不可解な傷の説明として、わざわざ持ってきたもの。


──Gの死骸じゃねぇか!」


 男が叫んだ通り、Gの死骸である。


「まあな」

「まあな、じゃねえ!!しかもこれ…デカくね!?」

「煩い」


 しかも通常の個体より大きく、2倍はあると思われる程だ。

 前足に鋭い刃を持つ、あの数万の大群の中で数百匹もいなかった、突然変異だと思われる種だ。

 こんなものを何の説明もなくいきなり放られれば、話など止めざるを得ないだろう…まあ、何気に上手くキャッチしていたが。

 そんな男の心の叫びに、しかしイツキの反応は軽かった。

 そんな態度に若干切れ気味で喚く男に、耳障りに感じてきたイツキは、またしてもバッサリ一言、『うるさい』と。


「ぐっ…だってよぉ、こんなんいきなり投げつけるか?何なんだよ急に…」

「前足」

「前足ぃ?…おっ?これ刃物じゃん!………ああ!これで斬られたりしたのか!なるほどな〜……?」


 イツキに怒られ、ぶつぶつ文句を言いながらGの後ろ足をつまみ、プラプラぶら下げる男。

 一向に気づく様子のない男へ、前足を見ろと言うとさすがに気づいたようで、鋭利な足に驚きを見せる。

 それから、何故切り傷があったのかは納得ができたようだ。

 …まあ、大概この男も反応は軽いと思うが。

 納得し、うんうんと頷いていた男が、何かに引っ掛かったかの様に首を傾げ、イツキに話しかけた。


「Gが減るのはまず間違いないとして、他の虫はどうなんだ?」


 他の種は廃屋にはほとんどおらず、Gしか減らないのでは?と、考えたようだ。

 実際は産卵期と重なっていただけで、段々元通りになっていくと思うが。

 果たしてイツキの答えは…


「恐らくだが、他は産卵期がが被っただけであり、Gが急増し、それに被ったから勘違いでもしたのだろう」


 研究施設で知った事実を自分の予想であることにし、事実をありのまま伝えた。


「ふーん?そうなのか?」

「知るか。以前はどうなんだ」

「以前?去年とかか?…さあ?俺ここ来たの寒くなる前くらいだし。1年経ってないんじゃないか?」

「……そうか。なら他の者に聞いておけ」

(知るか、何故疑問系なんだ。自分のことだろうに、使えない)


 しかし男の反応は、あっそう?といった風で何も考えていないものだった。

 仕方がないので去年よりも前はどうだったのか聞くが、男もこの都市に来たばかりの為分からないと言う。

 その答えすら曖昧であり、若干頭に来始めたイツキは話を切った…心の中で文句は言っているが。


「…ん」

「どうした?」


 急に声を上げたイツキは、どうしたかと尋ねてくる男に、しかし反応はせず、何か重要なことを忘れて今思い出したという風な、沈黙を漂わせだした。

 といっても、男にとってはただだんまりしている様にしか見えないが。

 そして、やっとイツキは思い出したのだ。


「依頼は、どうなんだ」


 さっさと片付けて次の依頼へ移らなくては、と考えていたことを。

 予定より既に数十分は遅れており、こんなに話している場合ではない、と。

 なんの為に力尽くで終わらせたのか、面倒な隠蔽工作をしたのか、意味がなくなってしまう。

 それなのにも関わらず、少し話し込んでしまっている今の状況を把握し、依頼達成の合否を尋ねた。


「あー、Gがあんだけ死にゃあ減るだろうし、他のは違う、なんだろ?なら依頼達成、かな」

「そうか。まだ増える様ならギルドへ会いに来い。受けてやる」

「へ?あ、マジ?…ならそん時は頼む」


 状況を見るに、一番増殖していたGの根城は壊滅し、普通の量へと落ち着いていくだろう。

 他の種に関しては1年のサイクルの一環であり、問題にすることではないらしい。

 ならば、達成といえるだろうと考えた男は、イツキへ達成だと伝えた。

 すると、イツキはさっさと別れるかと思いきや、少しだけ話を続けた。

 その内容も、Gや他の種がまだ増え続けている様なら、またイツキが受けると言う、ちょっとした気遣いを見せ。

 この話に、男は意外に思い若干疑いながらも、頼むと言った。


「ああ。ではな」

「おお、ありがとな。助かったぜ!」


 そして、今度こそいい雰囲気で別れたのだった。


 因みに、珍しくイツキが気遣いを見せたことだが、これは何かを狙ってのことではない。

 元来、イツキは何でも屋であり、アフターケアもしっかり行っているので、後々問題が起きた際は必ず解決に向かっていた。

 その為この依頼でも、何かあればまたやると言ったのだ。


 時刻は9:50を過ぎた頃であり、予定ではこの時点で9:10だった。


 〜〜〜〜〜

「…行ったかぁ。それにしても、不思議な奴だったな。最初はなんだと思ったけど、これで害虫野郎は見ない様になるかね」


 長い間放置され続けた、大量発生した虫の対処の依頼を片付けていった、謎の冒険者を見送り呟く男。

 朝から急に尋ねてきた、フードを被った怪しげな人物。

 何者かと思えば、出してからかなり時間が経っている、依頼を受けた冒険者だと言う。

 ローブ越しでもわかる細い体から、正直そこまで期待はしておらず、ついはしゃいでしまったが内心ガッカリ感もあった。


 しかし、念のためにギルドカードを提示させると、そのランクはEでありギルドに実戦経験ありと認められている、駆け出しとはいえ立派な冒険者だったのだ。

 これならイケると、沈んでいた心が急浮上した。


 終始フードは被りっぱなしで顔は見ていないが、ギルドカードで男であることは確認している


「まあ、あの虫の大群を見て落ち着いている女が、早々いるとも思えなけどな」


 顔は分からず、しかし声は女と間違えてもおかしくはない綺麗な声で。

 愛想はなく、声に起伏もなく、感情が動いた様子も見られず、その割に時々やけに迫力があるというか、威圧感があるときもあった。

 そんな、とにかく謎な者であり、謎なEランク冒険者が何故、この依頼を受けたのかも不思議でしょうがなかった。


「あの廃屋から出て行ったGもかなりいるんだろうけど、それは流石に駆除は難しいもんな。自然の流れで減ってくれればいいけどな」


 廃屋にいたゴブリ虫は全滅した。

 しかし全てのゴブリ虫がその場に留まっているわけもなく、また、廃屋から出て行く様子を見ている者も何人もいる。

 その外に出て行った数は恐らくそこまでではないだろうが、それでも千2千は超える。

 異常な数とは言わないが、それらが繁殖したらあっという間に、またそこらで見かけることができる様になってしまう。


「ま、そしたらまた頼めばいいやな。なんか良いって言ってたし。…あれ?」


 まだ増える様なら、引き受けてやると言っていたことを思い出し、思っていた以上に何かすごかった先程の冒険者をまた思い出す。

 そしてふと、頭に浮かんだことがいくつかあった。


「名前なんだっけ…?カードに、なんて書いてあった?…うーん。…てか、どうやってあの数殺したんだろうな。巣も粉々にしたって言ってたし。魔法かなぁ?」


 名前が全く思い出せず、ギルドカードに書いてあった名前はランクへ注意が行き過ぎて、ほとんど見ていなかったのだ。

 どうやって依頼の際に頼めば良いか悩んでいたが、数え切れないゴブリ虫をどうやって殺したのか、という疑問が湧き、それも消えた。

 巣を粉々にしたと言っていた事から、魔法だろうと適当に当たりをつけた。

 Eランクにはその様なことはできないとも知らずに。


「…あ。…まあ、受付の人に人相言えば伝わるか。今考えなくて良いよな」


 依頼を頼む際は、受付の者にどういった人物だったかを伝えれば、何とかなるだろうと結論を出し、出す時にもっと考えれば良いと先送りにした。

 疑問は消えスッキリした男は、そのまま元いた家に帰ろうと歩き出し、しかし、すぐに立ち止まる事になる。


「ぉおう!?なんだなんだ!?な、なんか、足裏がヒュッとした!」


 何故なら、背中に悪寒が走る、と言うが、その感覚が足裏に一瞬だけしたから。

 あまりの気持ち悪さと気味悪さから、立ち止まって残った少しの恐怖を振り払う様に、地団駄を踏みながら喚く男。

 しかし時間が経つとその感覚も薄れ、気の所為と無理やり納得させ、今度こそ家に帰っていった。

 それでも、若干早歩きで急いで帰った。

 その為に、とある事に気づく事ができなかった。


 地面にいたゴブリ虫やその他の虫たちが、至る所で死んでいた事に…

 〜〜〜〜〜



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