表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/88

24「Gの巣」研究所、隠蔽

〜隠されていた、地下にある謎の施設。ここで何が?〜

 巨大な虫がいた理由であろう、研究テーマ。


(魔物化、か)


 手に取った紙には、基本的なことなのだろう事が記されていた。


 ***

 魔物化とは読んで字のごとく。

 本来は魔力を持たないはずの動植物に、なんらかの理由で魔力が宿り、魔物と化すことである。

 魔力を相手に流し込み、譲渡なり魔力操作の阻害なりをする技術があるのだが、それを魔力を持たないものに行ったところ、姿形が少し変わり魔力を宿し、魔物となる事があった。

 それを魔物化と呼ぶ事になった。


 自然界でも魔物化が起きる事は確認されているが、原因ははっきりしていない。

 ***


 散らかった地下室の中で、原型をとどめしっかり読むことのできる資料を眺めるイツキ。

 研究の記録らしき紙や、走り書きをした半ば破れた紙も落ちている。


(資料を見るに、自然界で魔物化が起きる理由を調べていたのか。そして個人的に……Gの研究、か)


 今回の大量発生の件がやっと解決した。

 何が起きたかというと…


 ***

 まず、腐っていた何かが、研究をしていた主で間違いない。

 この主は、魔物化の研究とゴブリ虫の研究を同時に進めていた。


 魔物化の研究には主に、普通サイズの虫かご程度の大きさのケースに虫を入れ魔力を充満させたり、薄くさせたり、環境を変えて変化を見ていた。


 ゴブリ虫の研究ではいくつものケースに分けて飼育しており、産卵の瞬間を観察するためのケースや、食事や睡眠をとる時の観察をするためのケースなど、用途毎にわけていた。


 ゴブリ虫は放っておいてもどんどん増殖していき、餌がなければ共食いをして喰った以上に産み、際限なく増えていくので定期的に間引く必要があった。

 間引きの際に気づかぬうちに逃げ出した個体がいたが、それに気づかず放置。

 その個体が魔物化実験のケースに侵入し、流石にその際に逃げ出した事には気付いたが、興味があったためゴブリ虫を魔物化実験に使用。

 成功してしまい、魔物となったゴブリ虫。

 経過観察中、ある時巨大化している事に気づく。

 次の日になると二周りは大きくなっており、マズイと思いここまでの経緯の記録をつけ、処分しようとするが失敗し襲われ死亡した。


 幸いこのゴブリ虫は、魔物化したせいか繁殖力がなくなっていたため、魔物のゴブリ虫は増えなかった。

 しかし他の、ただのゴブリ虫はどんどん増えていき、ケース内から溢れさらに増えていった。


 空気穴である、地上に繋がる穴からゴブリ虫が逃げ出し、都市の虫…というかゴブリ虫か大量発生した。


 実は他の虫に関してはただの産卵時期で増えていただけであり、Gが異常に増えていたからそう思い込んでいただけであった。

 そのことがわかった理由とは、資料の中に産卵時期のものがあり、時期が丁度被っていたのだ。


 巨大な虫達がいた最下層のフロアで、ゴブリ虫以外の巨大な虫がいた理由は、開きっぱなしになっていた壊れていない魔物化ケースに、他の虫が入り込んだのではないかと思われる。

 流石にそれは資料にないので、状況を見たイツキの予想であるが。


 半年もの間生きていた理由とは、無駄に高い虫たちの生命力と、共食いである。

 ***


 原因の解明は終わり原因も無くなったと言える。

 何故ここの主は、個人的にゴブリ虫の研究をしていたのか、しようとしたのか理解できないが、既に終わったことである。

 何の意味もないことを考えても仕方がないので、依頼完了に向けて動き出す。


 あとは都市の西区画に散らばっているGを、粗方始末して終了になるが、一体どのように減らすのか。

 イツキが取れる手は限られており、そうなると何を使うかを予想するのは、そう難しいことでは無いだろう。

 しかし、まずはこの地下から出なければいけないわけだが、このフロアにも別の入り口などなかった。

 しかし男は頻繁にではなくとも出入りはしていたようだ。

 なら男がどう出入りしていたかというと…


(所謂、魔法陣か)


 イツキの言ったように、魔法陣といえば誰もが思い浮かべるような模様が、部屋の片隅にあった。

 特に光ったりも回っていたりもしていないが、男の記録…というより個人的な日記だろうか。

 その日記に転移魔法陣と書いてあったので、文字通り別の場所へ転移して、外に出ていたのだろう。


 しかし残念なことに、使い方など書いてはなかったしイツキにもわからない…やればできてしまいそうだが。

 それに、どこに転移するかもわからない為、試すのは憚られた。

 そうなると出口は廃屋からしかなく、地上まで上がらなければならない。

 なのでイツキは『トンッ』と軽く地を蹴って飛び上がり…


(…刃を持つGを持って行っておくか)


 勢いが落ちてきたところで『トットッ』と軽い音を立てて2回ほど壁を蹴り、10m近くある高さを楽々登りあがった。

 今朝に一角馬の首を落とす為に跳び上がった際も、助走ありとはいえ、ひとっ飛びで数mの高さまで上がったのだから、特に驚くことでもない。


 無事、穴から飛び出し地上に戻ってきたイツキは、軽く廃屋内を見渡し、目に付いた未だに残る数万の虫の死骸を見て、いくつかその死骸を持っていくことにした。

 依頼の達成とはあまり関係がないが、例の、無謀にも突っ込んで行った男がボロボロになった原因。

 その説明として見せる為に、持っていくことにしたらしい。


 取り敢えず原因はわかり、その原因は取り除けたと言えるので、依頼主の男に報告しようと廃屋を後にしようとしたが…


(この穴は、放置するわけにはいくまい。どうするか)


 地下へ繋がる、イツキの開けた穴の処遇を考えてからにしようと、とりあえず止まる。


 そもそも、何故穴をどうにかする必要があるのか。

 それは、地下で謎の研究(まあ、謎ではなくなったが)がされていた事がわかれば、多少は事が大きくなり面倒ごとに巻き込まれると、イツキは考えたからだ。

 つまり、地下で見た事は喋らず、無かった事にするつもりなのだ。


 どう考えても報告するべき事だが、どうでもいい都市より自分が優先のイツキに、そういった清い思考など存在する筈もなく。

 報告しなかったせいでこの都市が滅ぶなり、大事件が起きようとも、自分が巻き込まれなければ気にも留めないだろう。

 なので、楽な報告をせず隠し通す事にしていたのだ。

 先に楽をすると、後で大きくなった面倒がやってくるというのに…


 しかしそんな事すら構わず、 穴をどうするかを考える。

 穴をどうにかするというのも勿論、穴に落ちたりまた虫が増殖したりと2次災害を防ぐ…という様な善行ではない。

 研究施設を見られないように穴を塞ぐにはどうするか、という意味だ。

 もし魔法があれば、例えば土魔法などで塞げたりできるのかもしれない。

 しかし再三言う通り、まだイツキは魔法を使う気はないし使えない為、ファンタジーな塞ぎ方は行えない。


 後は何かで蓋をするというものだが、余程上手く隠さなくては後でまた様子を見に来るであろう、依頼主の男たちに見つかってしまう。

 また、上に乗られた際に重さに負けて割れてもいけない。

 そのような都合の良い材料がある訳が…


(あれでいいか)


 あるようだ。

 空など見えないのに、天を仰ぎ見るイツキ。

 そこにあるものは、天井。

 つまり、イツキは天井を蓋に使うつもりなのだ。

 床と材料が同じであり、穴を塞げるだけの大きさもあるのでちょうどいいと言える。

 雨ざらしになっている上辺と床との差はあるだろうが、そこまで頭が回る者はいないだろうと、いい加減に決めつけ、穴を塞ぐ活動を始めた。


 行う事は2つ。

 穴の縁を切り斜面を作る。

 その真上にある天井を穴に嵌るように切り、そのまま落として嵌め込む。

 というものだ。


 特に考えもせず決めた通り、先ずは穴の縁を斜めに切り、斜面を作る。

 使う道具は例の刀。

 それを床に対し穴側に斜めに差し込み、そのまま周りを1周した。

 鼠返しの様に逆斜面に切ったなら、切り離した際にそのまま落ちていくだろうが、その逆の切り方をしているので勝手に落ちる事はない。

 なので適当に切り分け蹴落としていった。

 加工し終わった穴を、横から見た断面図で見たら、鋳物を作る際に使う砂型の湯口の様に見えるだろう。

 イメージがつかないなら、『砂型 湯口』で出てくるだろう…何がとは言わないが。


 そして次はその穴の斜面に嵌る様に、天井を切っていくのだが…

 今度は穴の斜面とは逆なので、鼠返しの様な逆斜面になる。

 ちなみに断面で見たら、底辺が短く上辺が長い台形に見えるだろう。


 まあそれはともかく、一体どう天井を切るのか。

 それはというと…

 穴の大きさである、約直径5mより少し大きめに切り落とし、落下中に逆斜面に切るという、無駄に早業なことをして予定通りの形に変えた。

 そして上手く蓋(天井)が穴に嵌る軌道で落ちていき…


 ズス…


 若干不恰好な、低く響く音を立ててぴったり嵌った。

 うまく嵌った為に響き渡る様なような音はせず、これのおかげでまた、誰にも気づかれることはなかった。

 後は断面が綺麗すぎる天井の穴を違和感が無いよう適当に砕き、隠蔽工作は終了した。


 なんだかんだでかなり時間をかけてしまったイツキ。

 もう予定よりさらに遅れてしまっている。

 隠蔽工作に力を入れすぎなのである…まあ、然程時間は掛かってはいないのだが。

 これが楽につながると信じたいものである。

 まあ何はともあれ、頑張っただけあり、違和感を感じない程綺麗に蓋をすることができた。


 しかし、イツキはそうなるよう調整したので当たり前のことであり、特に感慨に浸ることもなく、今度こそ廃屋を後にした。


 *****


「おい、終わったぞ」

「!おお、どうだったんだ!?」


 外に出て、言いつけ通りに若干離れた場所で待っていた男。

 イツキに声をかけられ、やっとイツキが出てきたことに気づき、結果を催促する。


 地下に研究所があり、そこで大増殖していた…と馬鹿正直に話す訳にもいかないので、考えておいた嘘を言う。


「解決はした。Gの巣だと思われる塊を破壊した」

「巣?聞いたことねぇが…だからこそ大量発生したってことか?…虫の大群はどうしたよ?」


 巣があったことにしたようだ。

 割と適当だが、誰でも思いつきそうという意味なら、確かに適当にではある。

 イツキの嘘に対し、一人で勝手に納得した男。

 しかし、廃屋に入るにつき、最大の懸念事項であった大量の虫はどうしたのかと聞く。


「全て始末した。後処理は任せる…おい」

「な、なんだよ。そんな怖ぇ声出して。つか全部殺したのかよ、スゲーな…」


 そこは正直に全て殺したと答えた。

 今も廃屋の中には死骸が大量に残っているので、後処理だけは任せようとし、後処理の方法を思い浮かべた瞬間、男への文句が浮かびあがったイツキ。

 その浮かんだ文句の内容がなかなか頭にくるものであり、若干声が低くなるイツキに、あからさまにビビる男。

 イツキがさらりと述べた、全ての虫を殺したという言葉には驚きとともに、信じられないと反応したが。


「ここの何処が、周りに燃え移る」

「……あー…悪い」


 それは、燃やしてはダメなのかというイツキの問いに、周りにも広がる可能性が〜云々の話である。

 しかし実際は石造りであり周りも同じため、延焼するかというと首を傾げる様な所であった。

 イツキも、死骸は燃やせばいいだろうと考えたところで、石造りで延焼などするか?という答えに至り、文句が飛び出してしまった。

 そもそも、ここに到着した時点で気づかなかったイツキもイツキだ。

 …まあ、それだけGの鳴き声に意識を持って行かれた、ということだろう。


 男も周りを見て、気まず気に謝ったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ