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21「G、とは」2つ目の依頼、特に多い虫は…

〜小屋建ての依頼を終えたイツキ。しかし依頼主であるミリアーナに頼み事をされた。その頼み事とは〜


 ミリアーナが告げたお願いは、顔を見せて。

 その答えは…


「…全く構いませんが」

「…あら、そうなの?顔を見せたく無いとかじゃなかったの?」


 イツキは、その他大勢に自分の顔を覚えられると不都合になる可能性も考えて、日常的にフードを被っているだけあり、依頼主ならばと普通に了承した。

 そしてフードを降ろすと、ミリアーナは…


「あらまあ、綺麗な顔立ちをしているのね。だから顔を隠しているのかしら?」

「ありがとうございます。…そういった意図はあります」


 多少の驚きは抱きつつも、至って冷静な反応を見せ、その顔立ちからフードを被っている理由を上げた。

 綺麗な顔立ちといっても、男という意味だとしか思わないイツキは、取り敢えず礼を言い肯定する。

 実際、フードを被っている理由の一つではある。

 フードを被らずに表を歩くと、目を集め性別問わず話し掛けられ、鬱陶しい事この上なかったのだ。


「そうよね。実力を知らない人とかは手を出してきたり、面倒が起きそうだものねぇ。見せてくれてありがと。…これかも贔屓にしてね?」

「はい、それでは失礼します」

(手を出す?同性愛者…いや、人攫いか?)


 顔が綺麗な男に手を出すといえばその者しか思い浮かばず、疑問を覚えたイツキ。

 本当は綺麗な女顔だから男と気付かず襲われる、という意味であったがもちろんそうとは思わず、また、地球で実際に同性と人攫いに襲われた経験がある為、それしか思いつかなかった。

 しかし、そこまで気にすることでもないとその思考を打ち切り、礼をして退出した。


 玄関までの道は別に遠いわけでも無いので覚えているが、後から案内の為か見送りの為か、召使がやってきたので立ち止まり先行させた。

 玄関を出て直ぐ、ミルちゃんと一瞬目が合ったが特にリアクションもなく、召使いと門番に見送られながらイツキは屋敷を出た。


 こうして初の依頼を終えた。


 〜〜〜〜〜

 イツキが退出し、ミリアーナが召使いに頼みごとを言う。


「彼、自然に出て行ってしまったけど…玄関まで案内をしてあげて」

「かしこまりました」


 イツキの後を追うため、部屋をあとにする召使い。

 ミリアーナは少し考えていた。


(彼…そう、彼よね。あの顔で男なのよね。初見なら絶対間違えるわ…一番の理由はそれかしらね?)


 男になど見えよう筈も無い、イツキの女顔についてだった。

 実力の高すぎる冒険者には何故か、男でも線の細い者が多く、服の上からでは筋肉のつき具合がわかりずらい。

 男にしては声が綺麗だったが、ミルちゃんのお家を建てに来る冒険者は、男という先入観があった為、そういったタイプの男がやってきたのかと思っていた。

 だが、顔を見た途端に性別がわからなくなってしまった為、男女どちらでも使える言葉で何とかしたが。

 反応を見る限り男でありそうだったので男と判断した。


(あれが巷で流行っている、『男の娘』なのかしら…もう完全に女の子じゃない。クールビューティーね)


 若干、どうでもいい方向へ逸れていっているが。


(でも彼、かなり有能そうだったわね…いえ、有能なんでしょう。実力者に加えあのお家の出来だけで十分贅沢できるレベル。万能そうだったし、繋がりはあったままがいいわね。今度指名しようかしら?)


 あのお家は本当にかなりの出来であり、そのお家をミルちゃんに提供できて良かったと、心の底から満足している。

 冒険者としてのイツキを気に入ったミリアーナは、繋がりは取っておきたいと、本気で指名依頼でもしようかと考えていた。

 今直ぐ考える必要はないと先送りにし…


「さて、ミルちゃんの様子でも観に行こうかしら」


 ソファを立った。

 〜〜〜〜〜


 一つ目の依頼を終え、タダ働きの筈がいきなり銀貨5枚という、市内依頼では破格の報酬を得たイツキ。

 しかし時間は予定より掛かってしまった。

 1〜20分程度の誤差なので慌てることも何もないが、予定が狂うことをあまり良しとはしない主義のイツキ。

 次の依頼では、状況によっては力技で速攻終わらせることに決めた。

 さて、その依頼とは…


 *****


 指定された家にやってきたイツキ。

 ここは西区画であり、次の依頼とは害虫駆除である。

 出来るなら同じ北区画の心霊現象とやらや、孤児院での勉強を片付けたかったが、どうせ夜にしか起きなかったり、時間が掛かるなどの理由から、後に回しにしたのだ。


 依頼書に書いてある家に向かっているのだが、裏路地らしい、建物が密集している為に薄暗く細い道を歩いていた。

 そして、依頼内容である虫の大量発生だが、ここに来るまで確かに虫は増え、今ではカサカサと何かが動き回る音がそこらじゅうからしている。

 その這い回る音だけでなく、虫の鳴き声もする。

 鈴虫の様な割と綺麗な鳴き声もきこえてくるが、やはり大抵は耳障りな音であり、中には奇妙な…鳴き声と思わしき音もしている。


 さらに、イツキの耳は異常に良いので、何百何千…いや、数万を超えると思われるその音らを聞き取っていた。

 イラつきからか耳障りさからか、イツキから若干殺気が漏れ出し、その殺気から逃げるかの様に音は遠ざかっていた。

 それでもまだまだその音を拾ってしまうイツキの耳だが、至近距離には全くいなくなったので殺気を収め、丁度たどり着いた目的地のドアを叩いた。


「おう、なんだ?朝っぱらか…もう朝って程じゃないか。…で?何の用だ?アンタみたいな怪しい奴に尋ねられる記憶はないが」

「…冒険者だ。依頼できた」

「ぉお!やっっと来たか!」


 今の今まで寝ていたかの様なセリフだが、ノックから直ぐに出てきた為違うのだろう。

 しかしこの男にとっては、先程勘違いしていた様に、朝早くにいきなりやって来たものなので、若干険の篭った言いようになった。

 それもイツキの依頼を片しに来たという言葉に吹っ飛び、笑顔満面・喜色全開で喜びを表した。


「いやー、助かるぜ。もうヤバいんだよここら。お前も直ぐわかったろ?そこらじゅう虫だらけ。いい加減冒険者は諦めて領主様のとこにでも行こうかと思っちまったよ」


 ペナルティ依頼とは名ばかりで、大抵が面倒な為に後回しにされ、時間が経っている依頼を片付ける為、という体が強い。

 今回のイツキが受けた依頼も大半がそうであり、低ランクでは達成できず、それ以上の者は稼ぎのいい討伐に向かう為に、ずっと放置されていた依頼を回されたのだ。


 余談だが、このペナルティ依頼を受けるような者は、大抵が何かをやらかした者である。

 そのためか、周りからの評価は低かったり嫌われていたり等する者が多いが、ペナルティ依頼片付けた後は市民からの評価が若干上がることもある。

 ある意味、問題児の救済措置ともなっている。


 この男が言っていた領主様へ〜云々とは、もちろんそのままの意味であり、この都市を管理する貴族のことである。

 都市の問題解決を冒険者達だけに任せるわけもなく、しっかり門番などの衛兵なりが常備している。

 しかしそれらを個人で動かすにはそれ相応の理由がなくてはならず、また金もかなり掛かり、基本的には冒険者に頼ることになるのだ。

 それでも面倒だったりで受けてもらえない依頼は、泣く泣く領主の兵に頼ることになる。

 なので喜びが強かったのだ。


「それで、詳しいことは?」

「あ、先にギルドカードだけでも見せてもらえるか?そしたら中で話そう」


 虫が大量発生しだした時期やその種類など、依頼書には書いてはいないが依頼主が把握しているだろう情報が、原因の解明につながる可能性もある。

 いや、そもそも依頼書には原因のヒントに繋がるようなものはなく、つまりノーヒントで始めるとなると、手当たり次第というかなり面倒な方法になる。

 それは避けたいイツキは、依頼主に詳しいことを聞こうと訪ねたのだ。


 しかし、そもそもイツキが冒険者かどうか知らない男は、その証明をする為にギルドカードの提示を求めた。


「ほら」

「おう、サンキュー。…Eランク?まあいいや、好都合。じゃ、中に入ってくれ」


 イツキに躊躇う事など無いので、魔力を流しつつ手渡す。


 男はカードを受け取ると、本人である事を確認し返そうとするが、その前にランクが目に入る。

 そのランクとは、実戦経験があるEランクであった。

 Eランクより上のものは大抵が討伐系や採取など、都市外の稼ぎの良い依頼を受ける。

 なので、そのEランクがこの依頼を受けた事に引っ掛かったが、男にとっては強い方が都合がいいのでそのまま流した。

 そして確認が済んだので、自分の家の中へ招き入れた。


「さて、依頼内容はお分かりの通り、そこらにいる虫の駆除と、大量発生が起きた原因を取り除いてもらう事。最低限、原因さえ分かっちまえばそれでも良いんだがな。なんかあるか?」

「虫が湧き出してきた時期、種類、特に多い種と場所、被害等の関係する事全てだ」

「お、おう。ちょっと待てな。えーと…発生しだした時期、だったか?そうだな…」


 先に口を開いたのは依頼主の男であり、依頼内容の確認をし、質問を受け付けた。

 予定通りイツキは知りたい詳細を一度に聞いた。

 たくさん、と言うほどではなくとも、一度に言われた男は、覚えられるかと言いたげな顔をしつつ、思い出していく。


「時期は…そう、めちゃくちゃ寒い時に気づいたんだったか。だから冬だな…うん、冬だ。で、次だが…ぁ……?…」

「種類」

「ああ!そうそう。種類は害虫系の虫全般だな。一番多いのはやっぱ、Gだな。」

「G、とは」


 30秒ほど頭を捻ってやっと思い出した事は、とても寒かった、であり、そこから冬に繋げた。

 次の質問が全く思い出せず呻いていた男だが、それに見かね早くして欲しいイツキは一言で続きを促し、スッキリしたと言わんばかりの笑顔で声を上げた。

 そしてでてきた種類は害虫という頭が足りない回答であり、人によって定義が違う括りだった。

 しかしイツキはその事には触れなかった。


 何故なら次に出てきた名前…の頭文字だと思われるものに、一気に気を引かれたからだ。

 地球でいうGな害虫といえば…そう、ゴキである。

 黒くてカサカサしていて、大抵どこにでもいる、生命力が高すぎるアレ。

 もし同じものなら解決しやすいと考えていたからだが…


「あー、知らねぇの?マジで?意外といいとこ生まれなんかね。Gっつうのは、生命力が無駄に高くて適応力もありながら繁殖力が異常な虫のことでな。そいつの正式名は──


 これはやはりゴキなのだろうか。

 しかしこの時イツキの頭にある別の生物が浮かんでいた。

 地球には居らず、この異世界にのみ存在しているあのファンタジー代表の一つとも言える緑色の小鬼…


 ──ゴブリむしだ」


 そう、ゴブリンである。


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