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20「少し待て」その匂い、プロより?

〜現れたミルちゃん。そのミルちゃんに勝ち、無事小屋を作れるのか〜

 姿を現したミルちゃん。

 まずはその説明を…


 ***

 ミルちゃんとは大型の狼型魔物。

 正式名称、絆狼(ばんろう) =ティアーウルフ

 魔物としては珍しく同種以外とも繋がりを作る為、絆の名を冠している。


 特徴として、持ちつ持たれつの関係を作る魔物で、同じ絆狼でなく、ただの狼や全く別の魔物、もしくは人ともその関係を作る。

 例えば、森の主の庇護下に入る代わりに食料なり捧げ物をする。

 住処を借りる代わりに敵の排除を担う、または住処を提供する代わりに食料を貰うなど様々。

 こういったやりとりをする為か、かなり知能が高く、人の言葉を理解するような行動を取る個体もいる。


 基本的に、穏やかな性格をしておりいきなり襲ってくることは少ない。

 ミルちゃんの場合、餌と確保してその代わりに家とミリアーナを守っている。

 その為、穏やかな性格には見えないが。


 1番謎である、実力が上でないとダメな理由だが、ミルちゃんはすでに、住処はこの庭と認識している。

 その為か、小屋に入ることは住処を得る事ではなく、小屋を作った者の庇護下に入ることになると考えている。

 なので、自分より弱いものの庇護下に入っても意味がない、と今までは小屋を壊してきたのだ。


 ミリアーナ談。

 ***


 ミルちゃんだが、その眼には意気込みのような色が見て取れた。

 庇護下に入るに相応しいかを見極めようとしているのだろう。

 しかし、その相手が先ほど入ってきたイツキだと気づいていなかったのか、イツキを見た途端それは消え失せ、警戒と怯えが混じった。

 その変わり様を見た召使いは多少驚きのこもった声を上げる。


「珍しいですね。いつもですと今にも飛びかかろうとするのですが」

「…」

「このタイミングで戦っていただきますが…必要ないかもしれないですね」


 本当ならミルちゃんと軽く戦い、実力差を分からせる筈だったのだが、その必要が見受けられないのだ。

 何せ今、ミルちゃんは服従の意を表すかの様に、べたーっと地面に伏しているから。

 ミルちゃんはイツキの実力を正確に見抜いたわけではない。

 なら、何故完全に降伏しているか、それは…


『クゥーン』

(かなり賢い様だな。恐らくは、私に染み付く匂いを嗅ぎ取ったか)


 イツキに染み付く、どれ程念に洗おうとも、消臭剤の類を使おうとも消えることのない、濃密な匂いを嗅ぎ取ったから。

 その匂いとは──


(私が築き上げた屍を、感じ取った)


──死の匂い…死臭。


 イツキが地球にて、数多の生き物を殺してきた、その証。

 イツキが扱う気配とはまた違う、本能で感じ取るもの。

 誰もが感じ取れるわけではなく、同じ殺しを生業としていた者が、そしてこういった賢い獣が感じ取れていた。

 その為イツキでも隠しきることが出来ない…訳ではなく、必要がない為隠していないだけだが。

 そして感じとてしまったすべての者が恐れ慄いた…『一体どれだけの生物を殺せば、そうなるのか』と。


 そんな匂いを、狼系の魔物の中でトップレベルの知能を持つ種である、ミルちゃんは感じ取ってしまった。

 楯突くことなど考えない、考えられる筈がない…これは人の形をした死という現象そのものだ、と。

 そして、庇護下に入るには相応しい…いや、これ以上のものなどいないだろうと思う程であった。

 それに、自分がこの『死』の庇護下に入ったことにより、ミリアーナも守ることにつながると考えていた。


 もちろん、イツキにそんな気は更々ない。

 イツキの考えなど…いや、人と絆狼との考え方の違いを完全には理解しきれていないミルちゃんは、服従の意を見せた。


 イツキはと言うと、これで小屋を作ることができると、早速作業を開始した。

 あっという間に頭の中の設計図通りに木材を切り分け、組み立てて固定してと進めていき、10分掛からずに要望通りの大きさの小屋を作ったのだった。


 〜〜〜〜〜

 ちなみに、その手際の良さを間近で見ていた召使いは、唖然としていた。

 予定の何倍もの速さで終わらせ、何よりもプロ並み…いやそれ以上に丁寧に綺麗に頑丈に作られた小屋に、驚愕を隠せなかった。


(冒険者じゃなくて、建築に専念したほうがいいんじゃ?)


 という感想を心の中で抱きつつ。

 イツキがここまで手際が良いのは技能を修めているからだけでなく、地球で千を超える数の建築に携わったから。

 こういった小屋や木造建築なども、いくつも作ってきた為、ただ習得しただけの技能より、遥かにレベルが高いのだ。

 〜〜〜〜〜


 依然、唖然としている召使い。

 建て終わった後、どうするのかを聞いていないイツキは、召使いに指示を仰ぐしかないのだが…召使いが動かない。

 何故固まっているかは予想がついているので、声を掛けても問題ない…どころか待たせている時点で召使いが悪いので、躊躇うことなく声を掛けた、極僅かに威圧を混ぜて。


「おい」


 威圧されていることに気付けない程、小さな威圧しながら声を掛けることには、呆然としたり眠っていたりと、声が届きにくい者にも届きやすくなる効果がある…らしい。

 実際、召使いはハッと正気に戻っており、イツキが常用している事から事実なのだろう。

 そして、正気に戻った召使いは慌てつつも応じた。


「し、失礼しました。小…お家が出来上がったら先程の部屋へお連れする様言われておりますので、ご足労願います」

「少し待て」

「?はい。承知しました」


 実はミリアーナが地味にこだわっていた、小屋=おうちという呼び方、それは屋敷の者全てに徹底させている程なのだが、慌て過ぎてつい小屋と本音が出かけてしまった。

 直ぐに訂正し、建て終わった後の事を伝える…が、イツキにはまだ何かする事があるらしく、召使いを引き止める。

 部屋に戻ればいいと分かったイツキは、屋敷の中へ戻る前にとある用事を済ませる事にした。

 その用事とは…


(何時まで平伏している)


 未だにべたーっと伏している、ミルちゃんの事だった。

 持ちつ持たれつになるには、ミルちゃんからも何かを提供しなくてはならない。

 一体自分に何ができるか思いつかず、ずっとこの体勢のままだった。

 とりあえず、小屋を利用してもらわなければ依頼は終わったとは言えないので、イツキから提示する事にした。


「今度、仲間を集めろ。理解したか?」

「ガウゥ」


 本当に人の言葉を理解している様で、イツキの言葉に頷き返事の声を上げた。

 対価にはあまりならない気もしたミルちゃんだったが、本人からの言だったのでそれでいいのだろうと、納得する事にした。

 イツキは小屋に入っていくミルちゃんを眺め、召使いの元へ向かっていった。


 *****


 言伝通り、先程の部屋に戻ってきたイツキ。

 紅茶が出されたのだが、それがそれなりに質の良いものだったので、味を楽しんでいたイツキ。

 そこへミリアーナが入ってきた。

 イツキの対面に座ると早速話を始めた。


「もうお家が出たのですって?それなりに掛かると思っていたのだけれど、早いわね。本職より早いんじゃないかしら?」

「恐縮です」


 一番最初に触れたのは、完成のスピードだった。

 予定では昼は過ぎ、最悪1日では終わらないかもしれないとなっていた。

 本職ならいざ知らず、魔物と戦うことが主である冒険者に高望みはできなかった。

 それが蓋を開けてみれば、1時間どころか10分程度と、最早本職よりずっと早いという結果。

 なにより…


「なにより、出来が素晴らしいわ!速いのにとても丁寧に作られていて、しっかり建てられていたわ!結構頑丈そうだったし、ちょっとやそっとでは壊れなさそうだったもの。仕方がなく冒険者に頼んだけど、寧ろ当たりだったわね!」

「ありがとうございます」


 と、かなり興奮した様子でまくし立てるミリアーナ。

 しかしそれも仕方がないのだ。

 イツキが建てた小屋は、見るものが見れば分かるかなりの造りになっている。

 人の手のみで作られたとは思えない程無駄がなく、ミルちゃんが乗ろうともビクともしないであろう頑丈さも備えている。

 正直、ただのペットの小屋として使うには、かなり贅沢なものになったのだ。

 ミルちゃん大好きミリアーナには、そのくらいの方が嬉しいと思うのだろうが。


 多少本気で建てたといっても最高の出来を求めたわけでもなく、小屋程度でそこまで褒められてもなにも嬉しくないイツキは、簡潔に礼を言う。

 そもそも、作ったものが最高の出来だったとして、それを褒められようが喜ぶ精神などしてはいないのが、イツキである。


「さて、これで依頼は終了ね。これは持って行きなさい」

「これは…」

(追加報酬、か)


 終わりの雰囲気が漂い、これで次に移れると考えていたイツキだが、突然銀貨を5枚渡され、もう少しだけ掛かることを悟る。


「追加報酬よ。あれ程のものを買うとしたら全く足りないけど、そこまでは出せないのよ。ごめんなさいね」

「いえ、ありがとうございます」

「うふふ、あの出来で追加が何も無しはありえないわよ。それでね、ちょっとしたお願いがあるのよ」

「構いません」


 イツキが建てた小屋は、本職の者に頼んだら金貨2〜3枚は掛かってもおかしくない物になっているため、それほどの物を建てた礼として追加報酬を出したのだ。

 それでも、いくら良い出来の小屋とはいえ、市内依頼程度の追加報酬で銀貨がもらえるのはかなり稀である。

 それは依頼を出す市民に、銀貨を出す余裕がある者は少ないからであり、また銀貨を出す程の良い働きぶりを見せる者もそうそういないから。


 ただ、出した理由はそれだけではなかった様で、お願いあると言う。

 特に内容について思い当たることは無いが、せっかくあげた好感度をわざわざ下げる必要もないので、了承するイツキ。


「そう?ありがとう。それで、お願いっていうのわね?」

「…」

「そのフード、降ろしてもらえないかしら?」


 ミリアーナのお願いというのは、イツキが今現在被っているフードを、降ろして欲しいというものだった。

 実はイツキ、礼儀だなんだと言っておきながら、フードはずっと被りっぱなしだったのだ。

 ミリアーナはその隠された素顔が、内心かなり気になっていた。

 しかし実力者が顔を隠すことには大抵理由があり、おいそれと聞くことはできなかった。

 それでも気になり、ほんの少しだが見てきたイツキの態度から、聞いただけでキレる様なことなど無いだろうと思い、追加報酬を多めに渡した事を理由に聞いてみたのだ。

 そして、イツキの答えはもちろん…


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