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19「滅相もない」5つの初依頼、厄介な小屋建て

〜イツキが受ける、ペナルティ依頼の内容とは?〜

 ペナルティの依頼での軽い説明を終え、依頼内容に移る。


「それでは一つ目の依頼ですが、北区画の方からペットの小屋を作って欲しいとの事です。なんでも特殊なペットで、自分が認めたものが作った小屋でないと壊してしまうそうで。その認める条件が勝つ事だった為、冒険者に頼む事にしたそうです」


 なかなか濃い生態をしている生物が出てきた。

 そもそも何故その様な生き物を飼おうとしたのか、今まで小屋無しで過ごしてきたのだろうから、いっそこのままでいいのではないか。

 色々思いつくが、イツキが尋ねた事、それは…


「魔物なのか?」

「恐らくはそうですね。申請をして審査を通れば、都市内に入れる事はできますから。暴れたりなど被害が出た場合、かなりの責任問題になりますが」


 普通の動物なのか、魔物なのか。

 自分より強い者が作った家(小屋)でないと住まない、それどころか壊すという唯の動物ではあり得ない生態をしているのだ。

 普通でないなら魔物しかないないだろう。

 魔物を飼って…というか都市内に入れていいのか、という意味で『魔物なのか?』と聞く。

 ソフィアもイツキの真意をしっかり読み取り、説明をした。


「この依頼は、そのペットをくだして小屋を作り、依頼人が充分だと判断されたら達成となります」

「分かった」


 ***

 *以下纏めていきいます


 *2つ目*

 同じく北区画の屋敷にて。

 毎日、夜になると急にドアが開閉したり、物が落下したり、悲鳴の様な声が聞こえたり、足音が近づいきたりする。

 原因を突き止めて、以後起きないようにして欲しい。


 *依頼達成目標=奇怪の原因解明と原因の除去。


 *3つ目*

 西区画にて。

 虫が大量発生していて困っている。

 異常な増殖の原因を見つけて、取り除いてくれ。


 *依頼達成目標=害虫駆除と異常増殖の原因の除去。


 *4つ目*

 中央区画にて。

 8になる息子の体術の指南をして欲しい。

 特に流派などはこだわら無いので、ある程度、基礎を作ってもらいたい。

 期間は長くとも9日で頼む。


 *依頼達成目標=依頼人の定める、対象者へ一定以上の体術の習得。


 *5つ目*

 北区画、孤児院にて。

 将来に向け、少しでもできることを増やしてあげたいので、算術や文字を教えてあげてください。

 期間は特に設けません。


 *依頼達成目=依頼人の定める、対象者へ算術と文字の習得。

 ***


「となります」

「ふむ」

(大きな伝となりそうなものは無い、か。あわよくばだったから良いが)


 5つの依頼の内容の説明が終わった。

 このペナルティである、市内依頼を受けた理由の一つとして、なんらかの伝になるかという狙いがあった。

 依頼主の詳細がわからないため、なんとも言えないが、大きな伝になる可能性は高くはなさそうであった。

 世界有数の鍛冶師や宿をルビルスから紹介してもらっており、そこから伝を伸ばしていけると思われるので、そこまでこだわってはいないが。


「なにか疑問はありますか?」

「これらを纏めて受けられるのか?」

「ペナルティという特殊な形式なので可能ですが…1日で全てやるのですか?そこまで急ぐ必要は無いと思いますが」


 説明が終わった後のテンプレとして、疑問点があったかを聞くソフィア。

 前半の依頼内容はなかなか突っ込みどころがあったが、イツキにとっては割とよくあることだったのでリアクション等は無く、一度に全てを受けられるかと聞いた。

 1ヶ月も猶予があるから急ぐ必要は無いと、ソフィアは抑えるように言うが。


「顔だけでも出しておいたほうが円滑に進むからな。やるのは小屋作り、害虫駆除と怪奇現象の解明くらいだ」

「半分以上やるじゃないですか…まあ、早く解決してもらえた方が、ギルドとしても助かりますけど。これ、依頼書です。 無理しないで下さいね」

「ああ、助かる」


 顔見せをしておくだけ、やるのは3つだけと言って、全部やるわけでは無いから良いだろうと、依頼を催促した。

 結局半分以上やるのかと多少呆れるソフィア。

 正直、全てを受けることは禁止では無く、溜まっている依頼を早く消化するのはギルドとしても助かる。

 渋々了承するが、無理をしない様気遣い依頼書を渡したソフィア。

 依頼書を受け取ったイツキは、片手を上げソフィアに感謝の言葉を言い、ギルドを後にした。


(珍しく誰も突っ掛かって来なかったな。面倒が無くて済むが)


 ギルドを出て一番に思うこと、それは最近多発する面倒事が無かったこと。

 依頼の事ではないのか、と文句が言いたいが、確かに誰にも絡まれず面倒事に発展しなかったのは珍しい。

 自分で珍しいと言ってしまう程、事が起きて(起こして)いたのだから。

 これは嵐の前の静けさなのか…。

 そんな予感を胸に…


(なにが起きようと、この惑星が爆散でもしない限り、どうとでもできる。起きるなら勝手に起きればいい)


 抱く事などあるはずも無く、なにも気負う事無く一つ目の依頼主の元へ向かった。

 先ずは小屋を建てに。


 *****


 依頼書に詳しい位置が記してあったので、その通りに移動し記されていた場所へ行くと、見えてきたのはそれなりの大きさの屋敷であった。

 それなりというのは、貴族や大富豪と言うほどの大きさでは無く、しかし金はあるのだろうと推測できるような大きさだから。


 今の時刻は午前8時前と少々早い気もするが、小屋を作るのに時間がかかると踏んでいた依頼主は、朝からでも問題ないと、注意書きのようなものをしていた。

 その為、イツキは先にこの依頼を片付ける事にしていた。


 防犯用だと思われる柵に囲まれた、それなりの屋敷だが、それに見合わないかなりの大きさの庭がかなり目立つ。

 この広い庭に、例のペットがいると思われる。

 眺めていては始まらないので、門へ近づく。

 この世界ではまだインターホンの類は見かけていないので、どう人の来訪を知るかと言うと…


「この屋敷に何か用か」

「冒険者ギルドで依頼を受けた」

「依頼?…まさか小…お家を建てにか?お前がか?…まあいい。今許可を取ってこよう」


 ドアが遠く、門に隔てられている場合は大抵門番が付いている。

 その門番に要件を告げ、家主などに許可を取りに行ってもらうのだ。

 この場合の門番とは、不審者などの見張りの意もあるが、基本は衛兵や護衛の様な戦闘を主としたものではない。

 形だけの剣を腰に下げた門番は屋敷の中へ消えた。


(1人だけか。無用心、と言えるところだが)


 門番は1人しかいない様で、要件を聞きに行かせたら忍び込むのも簡単そうである。

 大抵は1人が連絡、1人はその場に残るという2人体制だが、この家は違うらしい…いや、必要が無いのだ。

 何故なら…


(あれが、例の魔物か。あれがいればそこらの門番より、遥かに牽制になるだろうな)


 そう、魔物がいるから。

 全長2〜3mはあろうかという程の大きさの…狼、だろうか。

 門番が女性とともに現れ、その女性を守るかの様に隣を歩く魔物を見る。

 Eランクの冒険者なら確実に負けるだろう実力を持っていると、イツキは見抜いた。

 また、相手もイツキを見て唸り声を上げる。

 イツキを警戒し、しかし僅かに怯えを含んでいた。

 そこに、女性が…


「あら、貴方が依頼を受けてくれた方?…ここで立ち話するのもね。中に入ってらっしゃい。詳しいこともそこで話すわ」

「失礼する」


 依頼について詳しく説明するからと、中へ入る様に促す。

 さっさと小屋を建てて次の依頼に移りたかったイツキだが、割といい人脈を築いていそうな人物だったので、素直に従い悪印象を持たせない様にした。


「じゃあ、あちらに掛けて待っててくださる?」

「わかりました」


 屋敷の中の客室だと思われる部屋に連れられたイツキは、勧められるがままにソファに腰をかけた。

 敬う気持ちなどとこれっぽっちも籠っていない敬語を使うイツキ。

 その事には気づいていたが冒険者だしと流し、家の者が紅茶を運んできたタイミングで話を切り出した。


「依頼の事だけど、ミルちゃんのお家を作ってくれるって事で…いいのよね?」

「そうです」


 先ず。依頼内容の確認をする女性。

 出している依頼は小屋建てのみだが、勘違いなどの可能性もある為だ。

 もちろんあっている為、肯定をするイツキ。


「そう。ならいいわ。私はミリアーナ。この屋敷の主人なの。さっきの子はミルちゃん。よろしくね」

「私はイツキと言います」


 自己紹介を始める女性もとい、ミリアーナ。

 ちなみに、見た目は30代前半に見える、マダムといった風な女性。

 ランクを言うと話しが拗れると感じたイツキは名前だけに止める。


「正直戦う必要はなさそうだけれど…。ミルちゃんが警戒するなんて、あなたかなりの実力者のようね。そんな人が受けるとは思わなかったわ。何かやらかしたのかしら?」

「…」

「あら?本当の事だったのかしら。ごめんなさいね」

「いえ、滅相もない」


 滅多にする事のない、怯えを含んだ威嚇をイツキにしたミルちゃんを見て、実力者だと気づいたミリアーナ。

 話作りとして、実力者がわざわざこの依頼を受けた理由を冗談まじりで話す。

 しかしほとんどその通りであったイツキは、図星のような反応を『わざと』ではあるが、行った。

 その様子から、自分の冗談が当たっていたと思い、ほんの微かな罪悪感から、ミリアーナは軽く謝る。

 心の底からなんとも思っていないので、割と本心で大丈夫ですよと返した。


「そう?ならいいわね。それで、ミルちゃんのお家の要望ね。大きさはそこまで必要ないけれど…窮屈ってのもね。ミルちゃんが手足を伸ばして伏せると3.4m程度かしら。それを参考にして良い感じの広さでお願いね。他は………」


 こうして、ミルちゃんの小屋を作るにあたって、取り入れて欲しい事を聞き頭で組み立てていくのだった。


 *****


「長くなってしまったわね。なかなかの量になってしまったけれど、やれるかしら?」

「問題なく」

「あら、そう!ならお願いね?必要な材料は一通り揃えてあるわ。他にあったら、この子を近くに置いておくから、この子に言ってちょうだい。いいかしら?」

「はい」

「では、この方を彼処あそこへ案内して。あなたはこの子に着いて行って、そこに建ててちょうだいね」

「かしこまりました。それでは参ります」

「わかりました」


 召使いらしき人物について行き、庭に出ると玄関のすぐ側に誘導された。

 どうやら玄関の間近に建てたいようだ。

 来客の際などはかなり威圧感を与える事になるとは思うが、客よりペットを優先させた結果なのだろう。

 位置を把握したイツキは、材料はどこかと尋ねる為に侍女に顔を向け…


「ただいまこちらへ運んでいます。少々お待ちください」


 それを察した召使いが先に答えた。


「そうか」

「はい。それから、ミル様はお家を建てようと材料をこちらへ運んで来る際に現れます。そこで軽くのしていただくことになります」


 どうやら、ミルちゃんは自分の小屋が作られると察知できるらしい。

 それから少しの間をおき、木材なり工具なりが台車に乗せられ運ばれてきた。

 それと同時に、召使いの言葉通りミルちゃんが姿を現した。

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