17「ではな」別れ、面倒事
〜話を聞き終わったイツキ。魔石を受け取ったら?〜
「おう、お前ら」
のんびり歩いて、4座り込んで休憩しているところへ着いたイツキとバーギス。
一角馬だった毛皮や肉など、素材が綺麗に分けられている。
長く話していたり、途中では魔法を出したりしていたので、少し心配していたパーティメンバーは…
「お、リーダー!やっと終わったのか!ずいぶん長ぇはなしだったな!」
「おかげでもう解体終わっちゃったよ」
「それはお前らのスピードがやけに早かったからだろ!?なんだあの速さ!普段からそうしろっての…たくっ」
無事帰ってきたリーダーに安堵と、未だ微かに残る恐怖から、少しテンションを上げて出迎えた。
そんな心情に気づいたバーギスも、はしゃぎ気味に答える。
そんな中、魔法使い2人組はというと──
「なんの話をしていたんですか?」
「あいつに聞け」
「リーダーにですか?なら後で聞いてみますけど…」
ただの興味本位だが、いったいどのような話をしていたのかを聞くエミャリー。
ここで適当な嘘をついて、バーギスとの違いが出ても面倒なので、バーギスになすりつけるイツキ。
チラチラとイツキを伺っていたローニアは、軽く気合いを入れると…
「あの、助けてもらったのに、警戒しすぎて、ごめんなさい、ね」
と切り出した。
しつこく騒ぎ立てたことを謝りたかったようだ。
既にどうでもいいと意識の外に追い出していたイツキは、しつこく謝られても面倒だと形だけ許した。
「もういい」
「そう?ありがと。もっと冷静にってよく言われていたけど、これからはもっと気をつけてみるわ」
「…そうか」
──といった具合にイツキと会話をしていた。
ほとんど一方的だったが、一応会話と言える程度にはイツキも受け答えをしていた。
しかし心の中では…
(なんだ、こいつら。あいつの方に行かないのか)
と、何故リーダーの方へ行かないのか…わざわざ自分に話しかけてくるのか…何より、面倒に思っていた。
実際のところ、声や体つきから同性だと思い込んでいるからだった。
さらに、女性でありながらSランクの実力を持っていることに、尊敬の念を抱いているから、近寄ってくるのだ。
だとしても、流石にずっとひっつくことはなく、しばらくして、2人ともバーギスの方へ行った。
男3人の輪にローニアらが加わり、盛り上がるパーティー。
いい加減さっさと帰りたいイツキは、空気を読まずに割り込む。
「おい、いい加減帰る」
「ああ、悪い。そうだったな。なあ、魔石は?」
またしても、すっかり忘れられたイツキ。
声を掛けられたバーギスは魔石がどこにあるか知らず、流石に地に置いていないだろうと、誰が持っているかを聞くと。
「あ、それならビリッツさんが持ってませんでした?」
「うん、あるよ。…はい、魔石ね」
「ではな」
「本当にもう行…」
持っていた本人が名乗りをあげる前に、エミャリーがビリッツの名をあげる。
特にやましいことがあるわけでもない為、すぐ手渡す。
魔石を受け取ったイツキは特に何も言わず、一言呟くとその場を後にする。
「くの…か!?」
『!?』
「消えた!?」
全速力で。
帰る方角を見られると、居場所が推測され面倒だと考えたイツキは、いっそ姿を見られなければいいと、文字通り目に止まらぬスピードで森の方へ駆けた。
全力で走った結果、バーギスたちを庇いに入った際の半分以下の時間で森に着き、バーギス達はイツキの事を完全に見失った。
こうして、バーギスたちとあっさりと別れた。
とある、後で話すと言った事を言わずに。
*****
森に入ってからは速度を落とし、また木々の上を駆けて、枝から枝へ飛び移って都市へ戻っていった。
その途中では、手にした魔石を観察していた。
(魔石からもあの一角馬の魔力はするのか…いや、体から出てくるのだから当たり前か)
魔力を見ると、例の一角馬の魔力を感じた。
イツキは魔石の事を詳しくは知らないため、体内にあるのだから、その魔物の魔力がしても全くおかしくはない、そう結論付けた。
詳しい事は受付嬢にでも聞けばいいだろうと、そこで魔石への思考を止め、軽く周囲を探知しながら走った。
行きとは違い森をまっすぐ突っ切るだけなので、20分掛からずに都市に着いたのだった。
*****
都市の壁が見えてからは、地面に降りて軽く走っていたイツキは、門まで100m程のところで歩きへ変え、ゆっくり門へ近づいた。
そろそろ7時を回る頃なのだが、出てくる者はいるても都市に入る者はいないようだ。
おかげで今朝と同様に並ぶ事なく手続きに入る。
「戻ってきたか。ずいぶん長かったな」
「…ああ」
言われずともギルドカードを提示するイツキ。
ギルドカードを受け取り、かなり早い時間帯に鍛錬と外へ出て行き、なかなか帰って来なかった新米冒険者だと確認すると、話し掛ける。
実は、外に出てから2時間半以上経っているため、鍛錬にしてもかなり長い事になる。
何か異常があったのか、確認も兼ねて話し掛けたのだが、返ってきた言葉は『ああ』の短い肯定のみ。
落ち着いていたし何もなかったのだろうと結論付けた衛兵は、中へ入る許可を出す。
「まあよし。入って良いぞ」
約3時間ぶりの都市内だが、もう開いている店も増えた為か、さらに活気付いていた。
早朝と比べ見違える様な様になっている。
一番のピークはやはり、冒険者なり、働きに出かけた者なりが帰ってくる夕方だろう。
しかし、快晴な朝という今の状況が手伝ってか、そのピークに引けを取らない賑やかさになっている。
この都市内の変わりように、イツキは唖然と…
(これなら、昨日の屋台はやっている…か?どうやらやっているな。出している時間帯を聞き、後で尋ねるとするか)
する訳もなく、タレが良かったという例の屋台がやっているかを、かなりの種類が混ざった匂いの中から、そのタレを嗅ぎ分け既に始まっている事を知る。
しかし、これから宿で朝食を食べる為、今から買い食いをする事は控えた。
屋台を出している時間を聞き出したこと以外、特に何もなく宿に着いたイツキ。
そのまま安息の森に入ろうとすると、扉の横に立っていた、厳ついスキンヘッドの男に睨まれる。
都市に入ってからも魔力探知をしていた為、近づく前から気づいていたが、昨日や今朝とは違い、宿の扉の横にガードマンの様な人物が立っていた。
それなりの実力者ではある様で、先ほどのバーギスのパーティメンバーの剣士よりは動けそうである。
睨まれようがなんだろうが気にせず、扉を開けようとすると、イツキの腕を掴むように横から手が伸びてきた。
触られたくないイツキは、瞬時に腕を引っ込め僅かに距離を取り、相手を注視する。
そして一言、「なんだ」と。
すると、そのガードマンと思しき厳つい男は、軽く目を見開いてから、ニッと笑う。
「なんだ、いい動きをするじゃないか。すまんな、不審者かと思ったが、高ランク冒険者か何かか?」
「お前に関係ない」
どうやらイツキのことを不審者と思い、邪魔をしたようだ。
大した動きではなかったが、腕をつかもうとあと数cmと迫った手から逃げ果せた事や、男の攻撃射程距離のギリギリ外にまで、瞬時に距離を空けたイツキを見て、実力者だと判断した。
少なくとも自分以上の。
不審者と間違えただけでなく、自分以上と理解しても上から目線のような姿勢は変わらず、失礼極まりない奴であるが。
高ランクかと聞かれたイツキだが、本当のランクを言っても面倒な事に発展しそうであったし、実際に関係はない為、そのまま中に入ろうとする。
次は邪魔をされる事もなく、やっと宿に入る事ができたイツキ。
(何故こうも面倒が起きるのか。これも地球との差か?)
宿に入ろうとするだけで起きる面倒ごとに、いらない地球と異世界との違いを発見した。
今回は、高い宿を利用するようなお偉いさんにも実力者にも見えず、フードで顔を隠しているために、余計に不審に見えたイツキも僅かに悪いと言えるが。
扉を潜るともちろん食堂が目に入るわけだが、席はかなり埋まっていた。
しかし、冒険者や酒場の者と違い、とても静かに食事をとって、静かに賑わっていた。
〜〜〜〜〜
朝に宿に入ってきた者に目を向ける利用者達だが、反応が二手に別れ、先程と比べ少し騒がしくなった。
二つの反応とは、昨夜にイツキを、その顔を見た者であり、その美貌が見れると騒がしくなったもの。
もう一つは昨夜のことを知らず、フードを被って入ってきた何者かに眉を潜め、険のこもった視線を向けるものだ。
しかし、昨夜の事を知らぬ者たちは、周りが騒がしくなり、何かを期待するようにその何者かを見ているため、不思議にも思っていた。
それもすぐに理解した…フードを降ろし素顔を見たことで。
〜〜〜〜〜
朝に宿に入る者は少ないだろうから、やけに注目を集めているのかと思ったイツキだが、険のこもった視線もあった為…
(フードを被ってるからか?それにしては別の…期待か?何故)
フードをしているせいだと当たりをつけ、フードを降ろそうとしたが、それとは別に期待のような視線もあり、疑問が残った。
特に問題もないないだろうと、フードを降ろすと、食堂に一瞬の静寂が降り…
『っ!?』
((うおぉぉおおお!!))
そして驚愕と、声なき歓喜が起きた。
場が、そして自分を見る目が、一瞬にして変わった事を感じ取ると、面倒事が起きる予感を感じ、朝食を遅らせる事にし自室へ戻った。
イツキへ話しかける為かこちらを見ながら立ち上がる者もいた為、若干威圧を振り撒きながら。
無事誰にも話しかけられずに2階への上がると、下の階からいくつかため息が聞こえた。
(昨日といい何なんだ)
実は昨夜に食堂でフードを降ろした際も、数秒の間、シン…と静まり、呼吸も忘れて固まる宿の利用客の姿があった。
イツキの料理が運ばれて来る頃には正気に戻っていたが、流石に食事中に声をかけるものはいなかった。
食べ終わる時を今か今かと待ち構える周りの者に、嫌な予感を覚えたイツキは、食べ終わると同時に1人だけ威圧をして、気絶させた。
気絶させられた者は椅子から転げ落ち、その音に全員が気を逸らした瞬間、気配を完全に消して誰にも気づかれる事なく部屋に戻った。
実力者が誰もいなかった為に、気配を消しただけだと気づく者もいなく、目を逸らした瞬間に消えた謎の美女に、また騒ぎになった事は言うまでもないだろう。
(毎回こう面倒だと、ここを紹介させた意味がない。部屋で食事ができないか聞くか)
毎回こういった事があっては面倒だと、部屋で食事がとれないかを、後で従業員に聞く事にしたイツキ。
机や椅子もあり、部屋には茶を作るための器具もあるので、可能性はあると考えていた。
(30分程でいいな)
下に降り、部屋で食事が可能かどうかを、聞きに行く時間の事だ。
降りる前に、食堂に止まっている者がいないかを、確認してからだが。
では、後30分、何をするかというと…
(ギルドにはもう、それなりに人が集まっているのか。やはりギルドマスターは桁違いの魔力量だな)
魔力探知の練習である。
そして、30分が経った。
15話でつい魔石の説明を挟みましたが、イツキが魔石の事を詳しくは知りません。




