16「知るか」攻撃魔法、基礎の基礎
〜魔物については聞き終わったイツキ。次はバーギス達に移る〜
4人がやけに速いスピードで解体を始め、不思議に思っていたバーギス。
イツキは、魔石以外を譲るという会話が聞こえたからだと理解していたが、素知らぬふりをしていた。
「なんだ、あつら。いつもより速ぇし、普段からそうしろよ…まあいいか。さて、次は俺らか…なんかあるか?」
「そうだな、別にお前らでなくても良かったが…丁度いたしな」
「俺ら個人じゃないと。候補はいくつかあるが…どれとも言えねぇなあ」
4人への文句もそこそこに、本題に入るバーギスだが、特に自分達に質問されるようなことがあるか、思いつかなかった。
そのために、何があるのかとイツキに聞き、返ってきたものは丁度良かったという、自分ら個人ではなかった。
それなら思いつくはずもないが…
個人でないなら、なんらかの能力…例えば、戦闘スタイルだったり、魔法や道具などが推測出来るが。
実際は…
「あの女2人、だな」
「あ"ん?」
「…そう、いきり立つな。体目当てだと思っているのか?」
「…あー、すまん。ついな。ローニアとエミャリーだと…魔法か?」
「ああ」
パーティの女子2人の魔法だった。
イツキの言い方が悪く、またバーギスが過敏に反応したため軽く悶着があったが…イツキの言葉に、直ぐ冷静になり謝った。
誤魔化すかの様に話を戻し、2人に当てはまる共通点から魔法かと当たりをつける。
察しはつくが、どうでも良かったイツキは特に何も言わず、バーギスの予想は当たりのため、短く肯定する。
「魔法の何だ?特に珍しいものはないと思うが…」
「あいつらはB寄りのCランクだったな」
「なんだ?いきなり…まあ、そうだな。昇格も近いしそう言えるが、それが?」
「まず攻撃魔法のやつから行くが…」
「ローニアな」
パーティの魔法使い2人に、特別な魔法が使えたりも、希少な属性を持っていたりもしないため、まだ何も思いつかないバーギス。
その疑問に答えることもせず、イツキは先に攻撃魔法を使う、ローニアから聞くことにした。
名前を呼べとでも言う様にローニアの名前を出すが…
「あれの威力は普通なのか?」
「……はあ。そうだなあ…Cランクとしては十分と言えるし、今のままでもBランクとしても通用はするな」
「あまり一角馬には効いていなかったが」
「あの一角馬は魔法耐性が高いからな。いや、物理特化以外は魔法耐性が高いんだ」
努力の甲斐も虚しく、訂正されても名前は呼ばないイツキ。
実はイツキ、基本的に名前は呼ばず、『おい』だったり、『お前・貴様』などの二人称で呼んでいるのだ…かなり今更だが。
認めた者や親しい者は、ちゃんと名前で呼んでいる。
まあ、それはともかく。
バーギスたちのパーティと一角馬との戦闘を見ていた際にイツキが、攻撃魔法の威力が低いと行っていたのを、覚えているだろうか?
その低い威力が普通なのかを今聞いているのだ。
実際は魔物の魔法攻撃による耐性が高いために、あまりダメージが無いように見えただけだった。
なので実際、それなりに威力はあったのだ。
「なるほど。…詠唱破棄の類はないのか?」
「詠唱破棄か。そりゃあるが、あいつらは簡単なのしかできねぇな。できたらとっくにAランクになってるだろうな」
(存在はしていると…当たり前か)
魔法が確認されてから、既に千年は軽く超えるだろうから、何らかの技術が生まれてもおかしくはない…いや、生まれていなければおかしい。
ただ、魔法を使うためには詠唱をしなくてはならない、という固定概念があった為に、詠唱破棄が生まれるまでに数百年かかったと言われている。
「…お前は魔法、使えるのか?」
ふと、思いついたことがあったため、聞いてみたところ…
「ん?おお、使えるぞ。威力は無いに等しいし、一言とはいえ詠唱しなきゃなんねぇし、戦闘では使い道は無いな」
「何かやってみせろ」
なんと、簡単なものだけとはいえ、魔法が使えるらしい。
Bランクなだけあって、割とハイスペックなのかもしれない。
戦闘に使えないということは、着火だったり手を洗うなどにしか使えないのだろうが。
間近で見ておこうと、魔法を使うように言うイツキ。
「はいはい。じゃあ、基礎の基礎の火を出すだけの魔法な」
「〔此処に在れ〕、『火よ』」
ボッ
流れ的に、見せてみろ、とか言ってくると考えていたバーギスは、適当に返事をして承諾した。
短く詠唱をし、魔法名を口にした途端、掌に炎が現れる。
それを見たイツキは…
(詠唱を唱えると同時に、微量だったが、体に流れる魔力が掌に集まっていった。詠唱のせいか、そう自分で集めたのか。どちらにせよ目の前で観れた事は大きいな)
「これは手のみか?」
実は魔力探知をしており、バーギスの中の魔力の動きを見ていたのだ。
その為、目の前で魔法が発動する瞬間を観て、魔力がどう動いていたか見えたことに、満足だった。
気になる事がある為、他にもまだまだ聞くつもりであった。
炎を出せるのは掌だけか?という意味の質問だが、その答えは…
「うーん、どうだろうなあ。考えた事もなかったからな。…無理、だなぁ。少なくとも俺にはできねえ。魔法が得意なやつ、うちならローニアとエミャリーならできるかもな」
「そうか」
バーギスにはできないが、もしかしたら魔法特化のローニア達ならできるかもしれない、というものだった。
魔法はイメージ、という事が多いので、固定概念に縛られたバーギスには、別の場所から炎を出すのはできなかったのかもしれない。
「出来る可能性があるならいい。お前は熱くないのか?」
「ああ、これか?全然。詳しい原理は忘れたが、自分の魔力で出したものは、基本的に自分に影響は出ないらしい。この炎が別の物に燃え移ったら、熱く感じる様になるぜ」
可能性があればそれでいいと、終わりにした。
次は、実はずっと出し続けていた、手の炎に移った。
見た目掌から数cm上に火があるわけで、熱くないのか、という疑問をぶつけた。
イツキ自身はその炎から熱を感じているので、バーギスはどうなっているのだろうか、と。
もちろん、熱さは感じていなかったようで、簡単にその理由も説明した。
「…分かった、もういい」
「お、そうか。…っと。ふう、少し疲れたな。…んで、次はエミャリーの魔法か?」
「ああ」
知りたい事はまだあったが、バーギスから全てを聞く必要もない為、これで終わりにした。
それなりに長い間、簡単とはいえ魔法を使い続けた為、疲れをあらわにするバーギス。
軽く呼吸を整えると、魔法関連では最後だと思われる、エミャリーの魔法についてに入った。
「エミャリーの魔法だと、回復や強化なんかの補助系だが、何から?…最初からね、了解」
「…」
「なんだよ?その通りだろ?」
「まあな」
「ほらみろ。…さーって、何から話すっかなー」
実はバーギス、何から話せばがいいかを聞いておいて、イツキが答える前に『最初からね』と勝手に話を進めていたのだ。
実際その通りであった為いいのだが、ちょっとバーギスが調子に乗ったので、軽く威圧をする。
威圧をいただき、流石にやり過ぎたかと、あからさまに話を変えた。
「言っとくが、補助系はあんまり詳しくねぇぞ?正直、エミャリーから聞いたほうが早い」
「時間がないからいい」
「ふーん?確かにそれなりに時間は経ってるか。ならそうだな、………………ってところだな。これ以上は専門の奴に聞いてくれ」
「十分だ」
魔法使いではなく、さらに補助系は完全に範囲外のバーギスは、専門のエミャリーに聞いたほうがいいと進めるが、時間がないからと断った。
実は信用が全くできないから、聞かないだけだったりする。
バーギスは、イツキの危険性をしっかり把握できていて、口も硬く頭が回る者だったので、一切内容は喋らないだろうと信用し、聞いているのだ。
そしてバーギスの知る事を話し、イツキは十分だと答えた。
この内容はまた後で。
「これで終わりか?」
「そうだな。もういいだろう」
「あっちの解体は…済んでんな。あんたはどうすんだ?」
一角馬の次は魔法の事を聞き、それだけで終わった。
正直、説明が面倒になったのだ。
もちろんイツキが、聞くのを。
「魔石を取りに行く」
「そりゃそうだろうが、そうじゃなくて、これからだな…そういや、素材は本当にそれだけでいいのか?」
「ああ。前にも言ったが、私の事は何があっても話すなよ?」
これからどうするか、もちろん朝食を食べに宿へ帰るが、馬鹿正直に答える必要もない。
魔石を取りに行くとわざと見当違いな事を言い、話を逸らした。
「分かってる。ただ、この魔物は誰かが倒していったって事にしていいか?使ってた武器は大剣にしておくし、一瞬しか見えなかった、図体はでかかったって事で。どうだ?」
私の事を話さない、という条件は守ってもらわねば面倒な事になるので、念を押すイツキ。
その事を守る為には、自分たちでは倒せないはずの魔物の素材を持っている、辻褄合わせをしなくてはならない。
報告する事になった時に言うつもりだった嘘を、これなら別に問題ないか?と聞くと…
「…いいだろう。だが、魔石はどうする?」
「あー、魔石な。…気がついたら無くなってた、あいつが持っていったんだろう、でどうだ?」
許可を出した。
だが、魔石だけはイツキが持っていく為、素材の中に魔石が無い事になるが、それはどうするのか。
適当な思いついた事を口にしてみた。
色々とおかしな部分があるが、考えることが億劫になってきたのでこれでいいかと、若干投げやりになりイツキに聞く。
「知るか。追求されるのはお前らだ。私の事さえ言わなければ、どうでもいい」
返した言葉は、知るか、である。
自分から魔石はどうするのかと聞いておいて、知るかとは酷い返答である。
まあ、魔石の事は考えているのか?という確認のため聞いただけだった為、この案どう?と聞かれても、知るかとしか言えなかったのだろうが。
言い方は他にもあったろうに…
「おし、ならこれでいいな。そろそろあいつらのとこに行くか」
バーギスは全く気にした素振りもなく、仲間のところへ戻りに、イツキは魔石を取りに歩き出した。
4人の元へ着く前に、イツキが口を開く。
「あいつら4人にも余計なことは言うな」
「あいつらにもか?質問攻めにあうと思うんだが」
「それこそ知るか。適当に去なせばいいだろう」
「…どうにかしてみるか」
仲間にも何も話すな、と。
命を預け合う大切なパーティにまで隠し事はしたくなかったのだが、仕方が無いと受け入れた。




