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15「他言無用」助けた理由、一角馬

〜バーギスのみを呼びたしたイツキ。助けた理由がやっと明らかに〜

 腕を組みバーギスを待つイツキ。

 歩き出してすぐ、反省会を始めたことには気づいたが、わざわざ止めるまでもないだろうとそのまま離れた。

 しかし、反省会は思いの外長引き、待たされることになっていた。

 そして、ようやくやって来たバーギスへ一言。


「遅い」

「…いや、すまん。…マジで」

「…悪かった」

「は?何が?」


 イツキの言葉に、素直に謝るバーギス。

 正直、反省会の途中ですっかりイツキの事を忘れていた。

 仲間を背に悠々と歩き出してはいたものの、実は長時間放置していることに気づき、若干焦っていたし、心の底から悪いと思っていたのだ。


 しかし、唐突にイツキが謝ってきた為、その罪悪感も吹っ飛び、謝られた理由を探す。

 思い当たる節がないバーギスは少し悩んでいると、イツキの口から答えが出た。


「あからさまに怪しくて…な?」

「うぇ!?…聞こえてたのかよ!?どんな耳してんだ、お前…」


 イツキが離れてから10分近く経っている。

 その間、イツキにとっては茶番の様な反省会が始まり、途中では場を明るくするためか、なじられたりと恩人にしては酷い扱いを受けているイツキ。

 別には気にしていないが、やはり少しは思う事があったのか、それとも聞こえていたと言いたいのか、皮肉のつもりで言い放った。


 その皮肉に、それなりに離れていたにも関わらず、悪口が聞こえていた、という事がわかり、驚きの声を出す。


「…まあいい」

「お、おう。すまん…」

「…」

「…」

「……」

「……」

「それで、目的だったか」

「!…ああ。そういや、そうだったな」


 お互いにだんまりとしていると、このままでは話が進まないとイツキから本題に入る。

 急に話しかけられ驚くバーギスだったが、その内容に落ち着きを取り戻す…すっかり忘れていたが。


「この事を話すに、条件がある」

「条件?」

「ああ、それを呑まなければ話さない」

「…それで生かして返すつもりもないってか?こっちに選択肢はねぇ。従うさ」

「そうか」


 別に殺すつもりなどないイツキだったが、バーギスは勝手にそう思い込んでいた。

 わざわざ別に訂正する必要もない、むしろ好都合だとイツキは何も言わなかったが。


「それで?条件とやらは、なんだ?」

「私のことは検索するな」

「……だけか?全然構わねぇが。…で、俺らを助けた目的は?」(あん?…これだけか?)


 そうまでしてつける条件が気になり、続きを催促するが、検索しない、という簡単なものが一つだけだった。

 もっと面倒だったり、命が掛かったりするのかと身構えていたため、警戒しつつも内心拍子抜けしていた。

 バーギスにとっては、条件をのまなければ殺されるという、間違った前提があった為に、勘違いが起きたのだ。

 そんな事があったが、話は続く。

 イツキが助けた目的を口にする。


「情報、だな」

「情報?何のだ?」

「色々だ。聞く事に答えろ」

「ものによるぞ?答える事ができない事もある」


 やはり、情報が欲しかったようだ…他に無いのだろうか?

 まあ、それはともかく。

 一口に情報といっても色々ある。

 どんなものかバーギスが尋ねた。

 しかし、一番知りたい肝心な部分をそのまま『色々』と返すイツキにの答えになっていない返しに、答える気がないのだと推測する。

 そして、命が懸かっていようとも答えられないことはあるとだけ付け足した。


 冒険者とはいえBランクともなると、ギルドからの信用が増し、機密情報の様なものを知る事もある。

 なのでそういった事は答えられないと、ぼかして断りを入れたのだ、


「別にそういった事は聞かない。ここであった事だけだ」

「ここ?…っつうと、魔物とか俺らのことか?」

「ああ」


 しかしバーギスの心配は無用である。

 イツキが知りたいことは今ここであったことであるから。

 その事を短く答えると、バーギスそれだけで察する事が出来た。

 そしてお互いに理解したところで、問答が始まる。


「まず、お前らは何故ここにいた?」

「依頼でな、移動の途中だったんだ。この草原の近くの…あの森見えるだろ?あそこから色んな動物や魔物が出てきて、大移動を始めてな。その原因の調査に来たんだ」

「ああ、なるほど」

「ん?なんか知ってるのか?」

「後で話してやる」

「後か…まあ、後で話してくれるんならいいや」


 最初に、何故バーギス達がここにいたのかを聞く。

 その答えは、動物や魔物など生き物達の森からの大移動、その原因の調査だった。

 その原因に心当たりのある…というより、原因そのものであるイツキは、納得の声を上げる。

 その声に引っかかりを覚えたバーギスは、調査の短縮になるかと聞いてみると当たりではあった…が、後回しにされる。

 答える気はあるようだし手掛かりになるならと、一旦依頼の件は忘れた。


「何故あれと戦闘になった」

「そりゃ、草原ここで会っちまったからだな」

「…あの魔物の特徴」

「質問か?…へぇ、知らねぇのか」


 イツキの、何故戦闘になったか?という質問に、バーギスは、出会ったら戦闘になるのは当たり前の事、という様な答え方をした。

 その事も知ってて当然といった風に。

 そのため、魔物の特徴にそういったものがあるのかと考え、特徴を先に聞くことにした。


「特徴ね。そうだな…一から、名前からでいいな?それで名前だが、一角馬。ランクは能力によって上下するが、大抵は中級中位。高いと上級下位になる奴もいる。さっきの奴は黒化ブレス種っつうやつだ。ランクは中級上位」

「……ふむ」

「ランクで引っかかったか?どうせ推測できてんだろうし、後でわかるから続けるぞ。…えーっと、そうそう。黒化は黒く変化して、魔力が跳ね上がるやつの事。ブレス種はその通り、ブレスを吐く種の事だな」


 聞かれたあの魔物(一角馬)の特徴を、わざわざ名前から教えてくれるという親切。

 二つ目の質問から、冒険者なら誰でも知っている様な事すら知らない事から、一角馬についての知識はほぼ0と見て、1から説明するという配慮をしたバーギス。

 イツキも見習って欲しいものだ。


 バーギスがイツキへ言った、ランクで〜云々とは、イツキが先程の一角馬のランクに引っかかるだろうと予想していた為、どうせ後でわかると、話を進めるために言ったものだ。

 なぜ引っかかったのかも後ほど。

 バーギスの説明は続く。


「ブレス種っつうのは、大抵が命の危機を感じた際に、後先考えず全力でぶっ放す奴らのことで、コイツは注意しなきゃなんねぇ。これは1ランク上の威力と考えていいな。これとは別に、纒雷種っつう戦闘時に常時、雷を纏うやつもいる。それは単一では最も強力だな。身体能力の強化と、雷による突進の範囲強化といったところか」

「なるほど」

「ランクの事も理解できた様だが、続けるぞ。んで、黒化は弱ってきたり、命の危機に起きるな。他に黒化の逆に身体能力が跳ね上がる赤化もある」


 説明が抜けている、単一についてだが…

 ブレス種のみだったり、黒化のみだったり、能力が一つだけのものを指す。

 一つも無いと普通の一角馬となり、複数だと、2種、3種、4種…と増えていく。


 イツキが納得した様子を見せたのは、先程のランクについての引っかかりが完全に解けたから。


「他にもあるが、基本的にはこれだけだ。で、誰でもわかるだろうが、最悪の組み合わせが2つある。身体能力が跳ね上がっている状態での、強化と範囲拡大の赤化纒雷種。ほぼ全魔力を使うブレスに魔力増大の黒化ブレス種だ。ランクは中級にいるが発動してしまえば、上級に迫る強さとなる」

「それでも上級になりえないのは、一つ足りないから…か」

「ああ、その通り」


 イツキが引っかかったという、一角馬のランクについての答えは…


「例え、Aランクでは防げないブレスが放てても、Aランクには変身する暇もなく、もしくはブレスを貯める暇もなく、殺すことができる。だから上級にはなれない。赤化纒雷種は魔力耐性が低いからな、でかい魔法で終わらせられるしな」


 Sランクで無いと防げないブレスを吐くはずなのに、上級下位ですら無かった。

 イツキはそのことに引っかかっていたのだ。

 能力が一つに偏っているから、Aランクなら討伐できるためだと分かり、小さな疑問は解けた。


「他の能力だと、姿や魔力、気配なんかを消す隠身かくれみや、翼を持つ飛翔、幻影を作り出せる幻影種なんかもいる。これらは上級下位になるやつがよく持つ能力だな。まだまだあるんだが…時間か足りないから省くぞ?」

「先程の足に纏っていたスパークはなんだ」

「ん?あぁ、あれな…わからん。今でも新しい能力が見つかるから、新種なんじゃねぇか?纒雷にしては弱かったからな」


 細かく分ければ、かなりの種類があるようで、他の能力を省いたバーギス。

 そのことには反応せず、先程の一角馬が突進する際に、足に起きていたスパークは何かと聞くと、分からないと答え、新種ではないかと推測を口にした。

 実際は纒雷種の劣化であり、他の細かな違いの能力もそういった劣化版だったりする。


「後は、なんだ…。ああ、そうだ。最初に言ってた戦闘になったわけだな。一角馬は餌を見つけると、ずっと追いかけてくるんだ。馬が数倍の大きさになってるわけだから、かなり速い。見晴らしの良い場所にいたら、まず餌を探してると言っていい。だから見晴らしの良い草原で会ったら戦闘は不可避なんだよ。森の中より逃げにくいしな」

「そうか…もういい」

「いいのか?生息地とかまだあるぞ?」

「いい」


 特徴を先に聞く必要になった原因である、戦闘になった理由が説明された。

 突進する際のスパークも分かり、思ったより詳しく聞けたが、正直ソフィアに聞いても良かった。

 …いや、聞いた方が良かったと感じ始めていたため、この辺で打ち切ることにした。

 決して面倒になったわけではない、断じて。


「ああ、そうだ。あの魔物どうするよ?解体くらい手伝うぜ?」

「好きにしろ」

「なんだ、いらねぇのか?多分魔石あるぞ?それくらい持っていけよ」


 一角馬の話に入った為、一角馬の死体に目を移したバーギスは、ふと疑問をが浮かぶ。

 素材はどうするのか、と。

 警戒云々で色々と迷惑をかけた為、剥ぎ取りや解体は手伝うと持ちかけたのだが、イツキは素材など欲していなかったので、せっかくの行為を無駄にした。

 まあ、登録したての冒険者が単身で一角馬などを討伐したとなれば、多少の騒ぎにはなるだろう。

 その面倒を避ける為…という意味もあった。


 ちなみに、魔石とは魔力量の多い生物が死んだ際、体内の魔力が凝縮し結晶化したもの、と考えられている。

 なので魔力低い魔物や生物には見つかることは少ない、が絶対ではない。

 他に、魔蔵が結晶化したという説もある。


 人でも、SSSやXランクに到達するような者は、死亡時には大抵作られる。

 魔石は所謂電池になる…他にもあるが。

 ちなみに、ダンジョン産の魔物は弱くとも魔石が取れるが、かなり小さく質が悪い。


「…なら、それだけもらおう」

「おう、そうか。じゃあ、あいつらに解体頼んどくぞ?」

「ああ」


 この2人は解体に参加しないようだ。

 仕方ないとはいえ、ズルくはないだろうか?

 休んでいた4人に近づき、その旨を話す。

 気になって2人を見ていた4人は近づいて来た事に何かと首を傾げていたのだが…告げられた要件に顔を顰める。

 しかし他の者たちは暇をしていたので、渋々ながらも解体を始めた…が。


「魔石以外の素材は、本当に俺らが貰っちまっていいのか?」

「私のことは他言無用だぞ」

「分かった。適当な嘘を考えとくか…」


 まだ近くにいた2人の会話を聞いてやる気を出し、最速ペースで終わらせた。

 何せ、自分たちでは倒せないような魔物の素材をもらえるのだから、やる気も起きよう。

魔物の説明がごちゃごちゃしてしまい、すいません。頻繁に登場する魔物ではないので、なんとなく理解してもらえれば、と。

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