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14「着いて来い」冒険者パーティ、一転して

〜冒険者パーティを救ったイツキ。何故?〜

 馬型の魔物の首を落としたイツキ。

 珍しく赤の他人を自発的に庇い、助けたイツキは今…


「アンタ凄ぇな!あの一角黒馬のブレスを防いじまうなんて!」

「ホントね!それに首、切り落としたんでしょうけど、全く見えなかったわ!」

「相当な速さですよね。Aランクの瞬斬みたいです」

「つか、さっき持ってた片刃の剣、どうした?」


 囲まれて質問責めにあっていた。

 わざわざ助けたとはいえ…いや、助けてやったからこそ、この状況にはくるモノがある。

 ちょっと黙らせようか、と考えていると…


「お前ら、その人が困ってる、離れろ。何より、助けてもらった礼がまだだろ」


 彼らのリーダーから、鶴の一声。

 4人はハッとなり、口々に礼を言い離れる。

 そこに、先ほどから自然体を装いつつも警戒を解かないリーダーが、イツキに近づき口を開く。


「悪いな。あいつら普段はこうじゃないんだが…死にそうになったしな」

「まあいい」

「そうか、助かるよ。…と。遅れたが、俺はバーギス。助けてくれてありがとうよ。お陰で、ああなっちまうほど喜んでるよ。あいつらはパーティ仲間で、そのリーダーをやっている」

「うっ」

「いやほんとすまん」


 しっかり者という印象を受けるリーダーもといバーギス。

 実際にしっかり者なのだろう。

 イツキに礼を言い、自己紹介ついでに他の仲間に皮肉を言う。


「ほら、お前らも」

「じゃあ、改めて。助けてくれてありがとよ!おれはラディタっつうんだ!よろしく!」

「次は私ね。ローニアよ。おかげでホントに助かったわ!ありがとう!」

「助けていただいて、ありがとうございます。エミャリーといいます。よろしくお願いします」

「最後は俺ね。ビリッツ、て名前。さっきはマジカッコよかったわ。ありがとさん」


 ***

 バーギス

 最初にイツキに長々と説明していた者。

 中衛で指示を出しつつ、いろいろしていた。

 5人の中でのリーダー。


 ラディタ

「アンタ凄ぇな〜」の台詞を言っていた者。

 前衛の剣士をしていた。

 バカそうな男。


 ローニア

「ホントね〜」の台詞を言っていた者。

 後衛の攻撃魔法を使っていた。

 強気な女性。


 エミャリー

「相当な〜」の台詞を言っていた者。

 後衛の補助・回復魔法を使っていた。

 丁寧な口調の女性。


 ビリッツ

「つか、さっき〜」の台詞を言っていた者。

 前衛の剣士をしていた。

 軽そうな口調の男。

 ***


 次々と自己紹介をしていく中、イツキはというと…


(何故、いきなり自己紹介を始める?…少しでも情を沸かせるため、か)


 リーダーが唐突に自己紹介を始めた目的を探るために、バーギスの考えを読んでいた。

 そして、読み取れた感情や状況から、目的を察した。

 その目的とは、少しでも襲われる確率を減らす事であり、その為に知人程度でも関係を作っておこうと考えた。

 その取っ掛かりとして、個人情報の共有を図っていたのだ。

 まあ、実際のところ、イツキには無駄だし、イツキでなくとも大きな違いはないとは思うが。


「それで、アンさんは名前、なんて言うんだよ?」

「さてな」

「えー、なんでよ」

「いいじゃないですか。何か事情があるのかもしれませんし」

「…」


 ビリッツに名前を聞かれ、遠回しに拒むイツキ。

 不満が見て取れるしかめっ面でローニアが文句を言うが、まあまあ…とエミャリーが宥める。

 そのせいで、さらに警戒心を強めたバーギスへ、イツキは本題に入るための会話を振る。


「…お前は、あいつらよりランクは上か」

「ああ、その通り。あいつらはCランクで、俺がBランクだ。といっても、あいつらもあとちょっとで、昇格できると思うけどな」

「そうか」


 と、イツキの予想を確かめる。

 しかし、判断の要素は特にないはずなのに、ランクの差を言い当てられたバーギスは、イツキをさらに警戒して、こう聞く。

 そのセリフが、誘われたものだとも知らず。


「それより、よくわかったな?」

「お前は、他の奴より状況判断ができていた。逃げろといったのも、他のギルドに伝えて欲しかったからだろう?」

「…よく、そこまで読み取れたな」

「なにより、先程も今も、警戒しているのは…お前だけだからな、私の事を」

『え!?』


 イツキは他の者よりランクが上だと当てた、理由の一例を挙げる。

 そして、一番の理由として、自分のことも警戒しているだろう?といい、暗に『気づいているぞ』と仄めかす。

 自分たちのリーダーが、恩人を警戒していることに驚く4人だったが、なによりもその事…警戒していることに気づけなかった事が、驚きだった。


「!…はぁ。やっぱりばれてたわけか。そりゃそうか…。だってあんた──


 バーギスは、警戒を隠しているつもりではあったが、隠しきれるとは思っていなかった。

 そのため然程驚きはしなかった…


──Sランク程度の実力持ってるもんな?」

『っ!?』


 自分程度が何人束になろうと相手にすらならない、圧倒的強者だという確信があったから。

 その可能性に全く行き着いていなかった4人は、冷水を浴びせられたように、一気に冷める。

 そして、B目前のCランクと言われるだけあり、冷静になると、目の前にいる者の危険さを、リーダーが警戒していた意味を理解する。

 あまりにも良すぎるタイミングでの登場。

 この辺りでは不自然な、殆ど情報のない謎の強者。

 名前を言うことも拒んだ。

 警戒するには十分な条件であり、今までの無警戒な態度に、4人は背筋が凍る思いがした。

 そんな一気に警戒心を上げた4人を眺めたイツキは…


(随分な変わりようだが、丁度いい)

「それで?」

「…なに?」

「私がSランク並みの実力者だったとして…だから、なんだ?」


 本題に入る事にした。

 だがその前に、この警戒心をどうにかする。


「それは…」

「その様な実力者が、タイミングよく現れたのが信用ならないか?」

「……」

「なんだ、図星か」

「…目的はなんだ」

「命の恩人に、随分な態度だな?」

「それについては感謝はしている。だが、あまりにもタイミングが良すぎる…」

「それはそうだろう。なにせ…あの馬が変化しだしてから、お前らの方へ向かったのだから」


 イツキの揺さぶりにだんまりし、無言の肯定をしてしまうバーギス。

 更に図星を突かれ、警戒する理由を説明しようとするが、それを途中で遮り、様子を見ていた事実を認めるイツキ。

 その事実にさらに警戒心を強める冒険者達。


「やっぱりか…ただ、理由によ…」

「なんだよそれ!」

「そうよ!どれだけ大変だったと…」


 ただ、やはりリーダーなだけあり、イツキの事情を把握してから結論づけようとした。

 そのリーダーの冷静な判断を無駄にする、傍観していた事に文句を言い出すバカ(ラディタ)勝気ローニアが出てきた。


「待てって。そんな文句を言うな」

「な、なんでよ!」

「…その2人に感情を抑える事を教えたらどうだ?」

「それに限っては、申し訳ない。しかし、こちらも死ぬ思いでいた事だけは、承知してほしい」


 直ぐに文句を言った者を抑えるリーダー。

 すぐ冷静さを失い、しっかりとした判断ができなくなる悪癖を暗に指摘すると、バーギスは悩みの種の一つだったのか、否定する事もなくすぐ謝る。

 しかし、その後に続いた、『死ぬ思いをした』から不安定になっているという言葉に、イツキはかなり呆れた。


「冒険者は、死と隣り合わせではないのか?死ぬ思いをしたから…なんだ」

「あっ」

「そ、それは、確かにそうだが」


 そう指摘するイツキこ言葉に、全員がハッとなり顔をしかめたり慌てる3人と、雲行きの怪しい現状からか、不安そうに顔を歪める2人。

 冒険者として覚悟が足りていない、という意味を持つその言葉に、バーギスは傍観していた理由へと話を逸らそうとする。


「お前らの戦闘を傍観していた理由か?途中で割って入って止めを刺して、横取りだなんだと言われたら、どうしろと?」


 しかし、イツキが先回りして傍観していた理由を説明する。

 本当の理由とは違い、後付けで考えた嘘の理由なのだったりするが。


 まあ実のところ、嘘の理由ではあるが間違ってもいない。

 助けた後にいちゃもんをつける、バカな揉め事もあり得る事であり、それが殺傷事件に繋がるという事もある。

 イツキもその点を全く危惧しなかった、というと嘘になる為、100%嘘ではないのだ。


 普通の頭を持つ者なら納得の出来る、良い理由なのだが、しかし、例の2人の内の1人が、また頭の悪い発言をする。


「はぁ?俺らはそんな事言わねぇし!」

「そんなこと、私が知るはずないだろう」

「ぐっ…」

(本当に…呆れるほどバカだな。ちょうどいいかと思ったが、やめるか?……口封じでもしておくか…?)


 完全に何も考えずに放ったであろうバカな言葉に、いい加減イラついてきたイツキの指摘に、言葉に詰まる男。

 今までの会話から使えないと判断したのか、内心で殺して無かったことにするか…などと、かなり物騒なことを考え始めたイツキ。

 その心の内を読んだわけでもないだろうが、エミャリーが慌てた様に口を挟む。


「何をそんな、責めることがあるんですか!私たちは知り合いでもないんですよ!そちらの方の理由は正しいです!」


 エミャリーは、声を張り上げてイツキを庇う。

 5人の中で唯一、警戒心をあらわにしてもイツキを睨みもせず、悪いとも思わなかった者であった。

 そのためか、まともな思考を持ったままでおり、助けてもらった事実から感謝の念を覚え、責められるイツキを庇いに出た。


「それに一角馬が変化を始めてから、こちらに来たということは、私たちでは勝てないことを察して、助けに来てくれたってことじゃないですか!そして実際助けてくれました!この事実は変わりません!」

「確かに、そうだねぇ。助けてもらったし、警戒を解かなくても、そんな敵対心を見せる必要もないね」


 更に重ねる、割と大正解の推測と正論。

 その勢いに乗りエミャリー側についた、傍観を決め込んでいたビリッツ。

 エミャリーの言葉と、何より2人がイツキについた事に動揺するラディタとローニアは、言葉が出てこないようで、意味もなく口を開閉していた。

 その流れを黙って見ていたバーギスは…


「もういい。確かに俺らが警戒し過ぎた」

「な、警戒しすぎるくらいが生き残れるって言ったの、リーダーじゃない!」

「不必要に警戒を続ける事に意味はないんだ」


 自分達が悪かったと、場を収める方向へ動くことにした、

 まぁ実際、イツキに他の者達を害する気はなく、殆どバーギス達が悪い。

 強いて言うならイツキも、もう少し愛想がよければ円満に進んだだろから、少しだけ自業自得と言える。


 仲間達(2人だけ)を宥めたバーギスは、イツキの方へ警戒心が薄れた目を向け、話を続ける。


「ここまで騒いでも、アンタを責めても何もする素振りがない。俺らが悪かった、エミャリーが正しかった。そういう事だ」

「…」

「じゃ、ここまでだな。…それで、結局アンタが俺らを助けてくれた理由ってのはなんだ?無償の行いってわけじゃないんだろ?」


 警戒云々の話は終わり、やっと本題に入った。

 未だに納得のいかない顔をしている者もいるが、険悪なムードがなくなりホッとしている者が大半であった。


 自身の非を認め場を収めたバーギスは、謎の人物(イツキ)が無償で人助けをする者には見えなかったため、理由を問いた。

 ここまで疑われ続け、バカな問答を繰り返し、若干どころではなくイラついてはいたが、話を進める為飲み込む。

 そして、無論無償のつもりはないため、肯定する。


「そうだな」

「なんだ?金…ではないな。その実力なら稼ぐ事は簡単だよな。他か…」


 バーギスは相手が望む物を推測するが、圧倒的な実力者が遥か下の者に望む物など簡単に推測できる訳もなく、悩んでいると…


「お前だけ着いて来い。そこで話す」

「他の奴らに聞かれて困る事でもあんのか?まあいいけどよ」


 イツキがリーダーのみを呼び出し、そこで話すと伝えると、先に離れたところに歩いて行ってしまった。

 少し怪訝そうに、しかし迷いのない足取りでそれに着いて行こうとすると、ラディタが引き止める。


「ちょ、おい、リーダー!?一人で行くのか!?」

「当たり前だろ?俺だけお呼びなんだから」

「危険じゃねぇか!もし何か企んでいたら…」


 割と当然の理由で引き止めた。

 いくらバーギス達が悪かったとはいえ、未だ素性の知れぬ相手に1人で付いて行こうなど、誰でも引き止めるだろう。

 ただし、ラディタの言う理由は無意味であると言える。

 何故なら…


「その警戒はもはや無駄だ。もし命を狙ってたとして、ここまで俺らに付き合う意味は?…無い。何より抵抗する暇もなく殺されるくらい、実力差があるんだ。なら従った方がいいんだ。わかったな?」


 その相手が、5人全員の生殺与奪権を持っていると言えるほど、実力差があるから。

 警戒しようが何しようが関係ないのである。

 ここまで来れば流石に理解できたのか、それともやっと落ち着いたのか、2人は従う。


「…ああ、悪かった」

「わたしも、ごめんなさい」

「わかりゃあいい。あからさまに怪しい格好してるあいつも悪いしな。ま、とにかくだ。あいつも言ってた様に、もっと冷静にな?」

「おう」「うん」


 …そして何気にシリアスに突入したバーギス達。

 誰よりも率先して警戒していたくせに、これ以上は無駄だと諭すバーギス。

 まあ、リーダーとして、パーティの身を守るための警戒だったので、仕方がなかったのだが。

 反省した2人を励ますためか、心なし暗くなった場を和ませるためか、イツキをなじる。


「エミャリーだが、よくあの場面であいつを庇ったな。あの瞬間、見切りをつけられたと思ったが、お前のおかげで大丈夫だった。助かった」

「い、いえ。そんな、何かを考えてのことじゃなくて…ただ思ったことを言っただけで…」

「その、思ったことをそのまま言ったことが、良かったんだ。打算ありきだったら、あいつは最悪の方向に動いていたかもしれない。本当によくやった」

「はい…ありがとうございます」


 最初にイツキを庇ったエミャリーのことを褒めるバーギス。

 確かにあのままだったら、イツキが排除に動いていた可能性はあった。

 それを阻止したのは本当のため、全員の命を救ったともいえるエミャリーは、大金星なのだ。

 嬉しそうに頬を緩めながら礼を言うエミャリー。

 そして最後に…


「…んじゃ、行ってくるわ」

「………」


 行ってくるとだけ言い、イツキの方へ歩き出した。

 予想外の事に呆然とする男が1人。


「…あれ?ちょ、俺は!?無いの!?」

「…ん?お前なんかしたっけ?」

「ぐっ」

「……そうだな。お前がしたことといえば、エミャリーについたくらいか?」

「そ、そうだよ!それがあるじゃん!」


 唯一何も言われなかったビリッツは叫び、その声に足を止めて振り返ると一言、何をした?と。

 その言葉に詰まったビリッツ。

 その様子を見て哀れにでも思ったか、ビリッツが唯一取ったといえる行動を指摘すると、調子に乗った様にその事を持ち上げだす。

 しかし、バーギスはその代わり用に呆れつつ、何も言わずにいた理由を話す。


「それ、保身のためだろ?」

「ぬぅ。それは、まあ…」


 実際事実のため、反論もできず唸るビリッツ。

 しかし責めるつもりがないバーギスは、顔を和らげ続ける。


「いや、それが悪い訳じゃ無い。むしろあの時の選択としては悪く無いんだ。風向きが変わり、それを強めたのはお前だからな。ただ褒める事も反省するべき事も、無いだけ」

「あ、そうなの?ならいいや」

「…はぁ。その軽さはどうにかすべきかもな?」

「いやあ、ははは」


 ただ、本当に言う事が何もないのだと付け足す。

 ビリッツは、その事実に心の中で割と本気で安堵し、しかし表では軽く流すと、その軽さを指摘され、笑ってごまかした。


 そうしてようやく、バーギスはイツキの方へ歩き出した。

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