〜10〜 ギルドマスターの憂鬱
〜ギルドマスターであるルビルス=ジンガスの(イツキの所為で)散々な1日〜
*ルビルス*
「どうじゃ?見直したかの?」
「……」バタンッ
「…」
「無視して帰りおったーー!!」
「…」
「………はぁ、まったく」
イツキから聞いてきたくせに、無視して部屋を出て行ったことへ、怒りの叫びを上げる。
虚しくなり、ソファに腰をかけ、ふう、と息を吐き力を抜く…この時に気付く。
(力を入れていたのか…今更緊張とはのぅ)
微かに苦笑いを溢す。
たった今出て行った、失礼な期待の新人を思い返す。
(かなりの実力者じゃろう。今でもバリバリ現役のつもりじゃが、全盛期には劣る。その全盛期のわしですら敵わぬかもしれん。殺気と実力は比例するとは限らぬが…)
あやつが発したと思われる殺気。
2度目もかなりのものだったが、1度目ほどではなかった。
あの殺気を察知した時、死を覚悟した。
もしあれほどの殺気を放てる魔物なら、間違いなく勝てぬと思ったのだ。
まあ、実際は違ったのだが…イツキも危険であることに、変わりはないと言える。
キレたと思われるあやつはその原因に対し、 かなりの重傷を負わせた。
いや、殺そうとまでしていた。
性別を間違われただけで…
(いや、恐らくあやつはただ馬鹿にされた程度では、なんとも思わぬじゃろう。性別を間違えられた上で何かあるとキレるのじゃろう。ソフィアも、勘違いしていることは気づかれ指摘されたらしい。じゃがキレてはいないようじゃったしのう)
そうイツキを分析する。
だがしかし、だがしかしだ。
その程度で一々キレられて重傷人、いや──死人を出されては適わない。
冒険者には、喧嘩っ早い者が多い。
イツキのことが広まるまで、何人犠牲者が出るかわかったものではない。
(どうしたものかのぅ)
悩む。
ふと、殺気の察知と、期待の新人であるとともに、危険人物なイツキとの邂逅を思い出す。
〜〜〜〜〜
わしはギルドマスターをしておる。
この地位について早10数年じゃ。
50を超えた時にギルマスの地位に誘われた。
Sランクに成ってちょっとした功績を上げたが、それ以降に成長は見込めず、引退期かと当時お世話になっとったマスターに、報告に行った際に誘われた。
若い者を手助けしていけるならと、2つ返事でその誘いに乗った。
当時から拠点としていたこの都市で。
慣れぬ書類仕事で大変じゃった。
だが思いの外、ギルド職員が優秀じゃった。
おかげで特に問題もなく、今までやってこれた。
この都市の周りにダンジョンは無く、魔素異常地もない為、魔物による災害が起き難い。
その為、今の今まで緊急依頼も出ず、わしが出動する事態にはならなかったし、慌てるような異常もなかった。
今日この日まで…
*****
いつも通りの書類整理や周辺の情報、ほかギルドからの情報を確認していた。
あらかた片付いたため、一息つこうと席を離れようとした瞬間──
…ズズズッ
「っ!!」
──殺気が吹いてきた。
かなり薄く、遠くのものがこちらまで伸びてしまったと思われる程薄い。
しかし、常人には察知できないほど薄まっていても、思わず戦闘態勢に入ってしまう程、危険さを感じる強い殺気。
勝てぬ、と…目の前に元凶がいたならば、本来の濃さを持った殺気だったなら、膝を折ってしまうだろう…と。
そう感じてしまう程、強力な殺気だった。
この、現役を引いた元とはいえ、Sランクであったわしが…
幸いというべきか、発生源は都市の中ではなく、騒ぎも特に聞こえない。
殺気の持ち主は、東の…恐らくは森の中。
しかし、この周辺に強力な魔物はいなく、発見された報告もない。
近辺の都市や村で発見された報告もない。
(新しく湧いたかのぅ…)
そう考えるが、その場合はかなりまずいことになる。
その魔物は最低で上級中位になる筈で、この都市に討伐できる程の強者はいない。
王都に要請するか、周りにSランク以上の者が複数いる事を祈るしかない。
もし、その魔物が暴れようものなら、この都市は滅んでもおかしくないのが、上級中位を越す魔物の強さなのだ。
(とりあえず、受付の者に異常がないか、あったらすぐ知らせるよう、伝えに行くかの。殺気はすぐに収まった。この都市に敵意があった訳では無さそうじゃし、時間は有ると信じたいのぅ)
そう考えつつ、受付に向かう。
今の時間帯は誰もいない、こともなく。
朝からパーティで集まって、酒場で会議をしている者たちがいる。
Dランクがリーダーの将来有望なパーティだ。
リーダーは正義感が強めなのでよく揉め事を起こすが、誠実で親身、と市民や若い冒険者から人気がある。
低ランクで珍しくパーティを組んでいるため、わしも記憶していた。
パーティを組んでくれれば死亡率はかなり減る為、どんどん組んでもらいたい。
(これを機に、低ランクでもパーティを組む者たちが増えると良いのじゃがのう)
思考が逸れてしまった。
急いで受付に近寄るわしに気づいたのか、受付嬢のミリアが立つ。
そんなミリアに…
「いいかの?何か異常があれば、すぐわしのもとに来なさい。なんでもいい。とにかく小さくとも、異変を感じたら来なさい」
「えっ、あ、はい!」
と用件だけ伝えさっさと上に戻った。
ミリアは新人なのだが、もっと詳しくした方がよかったか?と考えたが、言っていることは理解できているようだったので、そのままにすることにした。
(あの娘はわしの事を敬ってくれる数少ない良い娘じゃからのぅ。情けない姿は見せられないのう。新人だからかもしれんが…数年経ったら他の者のようになってしまうのじゃろうか…?)
ぶるり、と嫌な予感に軽く震える。
自分の事をまるでギルドマスターではなく、お爺ちゃんを相手にしているような接し方をしてくる、職員たちを思い出す。
(そうなって欲しくはないがのぅ…わしに威厳はないのじゃろうか?)
悲しい現実に少々意気消沈しながら、部屋へ戻る。
残っていた僅かな書類を片付け、王都に連絡を入れようか…と考えオーブに手を伸ばす。
遠話のオーブという、遠距離で連絡を取り合うことのできる高価な魔道具だ。
距離に比例して魔力の消費が激しくなるのだが、仕方がないと使う事にした、その時──
「─、─は──か?──の──な─。──い。」
──何者かが、このギルドに走り込んで来たのを察知した。
慌てているような声が微かに聞こえる。
もしや、あの殺気の件か…いや、そうだろう。
というよりそれ以外に何かあるのは勘弁してほしい。
禿げてしまう………話が逸れた。
と、その時、1人がこの部屋に近づいてくる者の気配を察知した。
コンコンコン
「マスター。Aランク冒険者の方がマスターにお会いになりたいとの事です!」
やはり、と自分の考えが正しい事を悟る。
軽く話を聞く為、入室の許可を出す。
「うむ、入るのじゃ」
「失礼します!」
「何用か聞いとるかの?」
「はい!慌てた様子でこのギルドに入ってきまして。マスターと同じような事を聞かれた為、マスターが似たようなことを仰っていたと伝えたところ、お会いできるか、と!」
「分かった。連れてくるのじゃ」
「はい!」
遠ざかっていく足音を聞きつつ、考える。
(Aランク冒険者の情報ならかなり信憑性の高いものになる。近くにいたなら、それなりに詳しい事が分かるじゃろうし、連絡を入れるのはその後でよかろう)
そう考えると、王都への連絡を後回しにし、先に話を聞く事にした。
そして今度は2人の足音が近づいてきた。
『マスター。Aランク冒険者の方をお連れいたしました!』
「うむ、入れ」
「失礼します!」
「ご苦労じゃったな。ミリア、お主はもう戻って良いぞ」
「はい!それでは!」
(元気じゃのう)
ミリアが退出し、改めてAランク冒険者を見る。
と、やっと気づく。
19歳と、若いながらにAランクまで上り詰めた、まだまだ伸びしろのある若者であった。
(確か、Sランクも確実と言われておった、瞬斬と呼ばれておる者じゃな。SSにも届くやもしれぬとか…)
瞬き一つという刹那の瞬間に間を詰める。
相手にしてみれば、気がつけば目の前にいる、そう認識する時には斬られている。
そんな高速戦闘を得意スタイルとする、かなりの実力者だ。
そう、簡単にプロフィールを思い出し、口を開く。
「瞬斬じゃな。わしに用じゃとか。なんじゃ?」
「そう呼ばれていますが、ご存知とは…光栄です。用件ですが、もう推測できているでしょうが、森に突如現れた、尋常じゃない殺気についてです」
「まあ、そうじゃろうのう。東の森付近に居ったのか?」
予想通りの要件。
どうやら近くにいたらしく、殺気を直に浴びてしまったのだろう。
その時を思い出したのか、『尋常じゃない』のところで、顔がかなり青ざめている。
「はい。丁度、依頼を終えここに戻る途中でした。近道をするために森の中を突っ切っていたのですが、都市から1〜2キロの所で急に獣たちがこちらに向かって走ってきたのです。何事かと身構えた瞬間、殺気が吹き付けてきました」
「ここから1〜2キロ、のう」
(わしはあまり感知能力は高くない。近くならともかく、キロも離れると察知などできぬのじゃが…それほどまでに強いものだったのか…。まずいのう…)
瞬斬の情報から、思っていたより遠く、予想以上に殺気が強かったと思われ、危険度が上昇した。
何故なら、わしが浴びた殺気はかなり薄まっていた。
たとえ薄まっていたとしても、1〜2キロも届く殺気を放てるものがどれだけいるだろうか?
いや、都市の入り口からギルドまでにも距離はあるためさらに遠い計算になる。
その考えから、魔物の強さを上方修正したのだ。
「身構えていた事が幸いしたのか、距離があったのか、なんとか耐えました。しかし身動きはとれず、自分は死んだのでは、と錯覚してしまう程恐ろしい殺気でした。あれは以前対峙した事のある、上級中位の魔物と同等かそれ以上のものでした」
(なんと…上級中位と対峙とな?わしでも2度しか無い。どちらも相打ちがせいぜい、といったやつだったが。よく生きておったのう)
瞬斬の言葉に驚きを隠せなかった。
殺気に耐えられのはその経験もあったからだろう。
今回ばかりは運が良かったと言えるだろう、と考えていた。
もちろん話はしっかり聞いている。
「幸いすぐに殺気は無くなり、動けるようになりました。近くに魔物の…いえ生物の気配がしなかったため少し発生源に近づきました。すると殺気に耐えきれなかったと思われる死骸がたくさんありました。こんなものが都市に近づいては大変だと急ぎ、都市に向かい、ギルドに来ました」
「なるほどのう。まずはご苦労じゃった。よく情報を持ち帰ってくれた。殺気の発生源に近づいたのは褒められた事では無いのじゃが、無事生還したからよかろう。お主の速さなら、見つかっても逃げ切れたやもしれんしの」
(いかんいかん。どうも説教じみてしまう…。年かのぅ…)
一連の流れを聞き終わり、労いの言葉と注意の言葉をかける。
ほかに気になることがあったわしは、幾つか質問をすることにした。
「いくつが質問させてもらうぞ?大きな物音、木々が倒れる音など、大きさを推測できるものはなかったかの?もしくは鳴き声や臭いなど種を判別できそうな特徴など」
「いえ何も。強いて言うなら、ですが。小さいのではないかと。気配や音がが全くしなかったため、よほど隠密な魔物で無い限り大型魔物では無いと思われます」
「ふーむ、なるほどのう。分かった。情報感謝する」
聞きたいことは終わったため、話を終わりにする。
これから対処するための準備があるため、慌ただしくなる。
そのために少々無理矢理感があるが、話を打ち切った。
「いえ、お役に立てたのなら。これからどうなさるおつもりで?」
「うむ。王都と周りのギルドへの呼びかけと要請をするつもりじゃよ」
「そうですか。では私は周りの森を異常がないか、見回ってきます」
「無茶するでないぞ。死なず、命を最優先にの」
「無論です。では失礼します」
そういい、瞬斬は退出していった。
「はあ、連絡をするかの…」
瞬斬を見送った後、連絡のためのため息を吐ながら、準備を始める。
本当なら、王都のギルドへの連絡は入れたくない。
もちろん大勢の命が掛かっているため、躊躇などしてられない。
しかしこれはわしだけでなく、ほとんどのギルドマスターが思っている事。
これがそこらのギルド同士の連携なら何の問題もなかった。
では何故、王都のギルドのみ嫌なのか。
それは──
(あそこのギルド、中央の大陸本部じゃからな。そこに要請をすると大事になりかねんし。始末書やら報告書やらの書類を書かされるのじゃよな。ああ、めんどくさいのぅ…)
──書類を書かされるのが面倒くさい為だった…
こんな時にふざけているようにも思えるが、いたって真面目なのだ…真面目に面倒なのだ。
本部が要求してくる報告書などはかなり詳細に書かなくてはならない。
要請するに至った経緯をその時刻とともに記入したり、要請する必要性やどのように解決したかなど他にもいくつもあり、地球でいうA4サイズの紙、100枚を超える事だってある。
もし訂正を求められれば、更に面倒にもなる。
(わしをギルドマスターに誘った先輩もこれだけは嫌だと言っておったな…。手伝わされたしの。何故あんなにも書かされるのかのぅ…)
書く量だけではない。
ギルドマスターは全ての者が元Sランク以上の冒険者であり、書類仕事など得意としている者は極々僅かなのだ。
だからこそ職員は皆優秀なのだが…
それはともかく。
というわけで、嫌われているのだ。
そうこう悩んでいる内に、他の周辺ギルドへの要請と注意喚起は終えた。
長い間マスターをしているだけあって仕事は早く、思考と並列して行うスキルを身につけているのだ。
「あとは、王都だけじゃのぅ…はあ」
少々話は逸れるが他ギルドが問題ない理由とは、要請をされたギルドが要請してきたギルドに対し、報告書などを要求しない為である。
『面倒だからお互いしなくていいよね?』という同盟を結んでいるのだ、彼らは。
憂鬱な気分になりながら市民の為だと、連絡しようと魔力を込めようとした時──
「っ!!」
何者かがこの部屋に向かってくるのを察知し止めてしまう。
集中しすぎて全く気がつかなかったのだ。
と、その時…
コンコンコン…
「どうぞ」
と、ノックがしたため、つい許可を与えてしまう。
「失礼します。受付嬢のソフィアです」
「む?なにかあったか?」
「いえ、問題では無く、マスターに頼みたい事がございまして。お時間はございますか?」
「うーむ。暇はあるのだが、余裕が無くてのぅ。頼み事とはなんじゃ?」
(ソフィアじゃったか。警戒して損したのう。少々ピリついてしまったが…問題なさそうじゃのう。流石じゃな。それにしても、もう交代の時間を過ぎとったか。気づかんかったのぅ。…頼み事かの。今はちと厳しいのう)
今都市の危機に余裕などないのだが、中に入れてしまったのでので用件だけ聞いておく事にした。
「いま新しく冒険者登録に来ている方がいまして、Eランク昇格試験をしたいのですが試験管が不在でして。代わりにマスターにお願いしようと来たのですが」
「このタイミングで冒険者登録に、のう。見た感じ、特徴などはどんなものじゃ?」
(この異常があった時に登録に来るとは。いささか怪しいのう。疑うなという方が無理な話じゃ。どんなやつかの?)
「見た目は女性にしか見えない、男の方です。強そう、という見た目ではないです……………というものでした。このくらいでしょうか」
「ふーむ…そうか。ご苦労。申し訳ないが日を改めるよう、伝えとくれ」
「…承知しました」
(女のような見た目、のう。ハズレかの。肝は座っている。実戦経験もあると思われる、か。しかし人間と信じてもらえない、というのには引っかかるが…殺気とは別かの。申し訳ないが今日のところは、引き取ってもらうかの)
ソフィアからもたらされた情報から、殺気の件と関わりがあるか考えるが、敵=魔物という先入観からこの者を除外してしまった。
結論を出したあと、先ほどから気になっていた事をソフィアに伝える。
「のう。ところで、先程から怒鳴り声や大きな物音がしとるが、大丈夫かの?」
「…!?大丈夫なわけないでしょう!!早くそれを言ってくださいよ!マスターなら争いを止めようとは思わないのですか!?」
「ワシに向かって何て事を…仮にもマスターじゃよ?それに早く言えといってものう。冒険者なんてそんなもんじゃろ?いちいち止めてたら、きりがないわい」
(全く。ギルドマスターに向かってなんて事を…昔は緊張気味じゃったが可愛げのある娘じゃったのにのぅ。時とは無情じゃな…それに争いなんて勝手にやらせておけばいいのじゃ。死ななければなんでも良いわ)
遠慮の無いソフィアに、流石に文句を言う。
冒険者同士の喧嘩も、勝手にやっていればいいと考えているのだ。
「では、失礼します!表から行きますがいいですよね!?」
「う、うむ。よかろう。では行って参れ……っ!!待つのじゃ!!」
急いで戻ろうとするソフィアに表から行くことを許可し、送り出そうとした時…
下の階から殺意が湧き上がってくるのを感知し、ソフィアを引き止める。
そしてその瞬間…
ズズン!
と大きな物音とともにギルドが少し揺れた。
そして次の瞬間、殺気が天から降ってきた。
ズン!
(なんという殺気じゃ!まるで重力鎚のようじゃ!)
上から叩きつけられたような衝撃と、体が重くなったように感じる重圧。
攻撃性はないが、この似たような状態になる魔法、特殊属性の重力鎚のようだと例える。
そして殺気に違和感…いや既視感を感じた。
それはまるで、そう。1時間前に察知したあの…
(これは!弱めじゃが、あの時の殺気と同じもの!下にそいつがいるというのか!?…まさか、新人かの!?)
正解を導き出す。
そして、何故か平気そうなソフィアは急いで下へ戻ろうとしていた。
「じゃから待ちなさい!わしも一緒に行こう。…それにしてもよくこの中で動けるのう?なんともないのかの?」
「なんの事ですか!?確かに体が重くなった気はしましたがっ。それよりも急ぎますよ!」
「ふむ…不思議なことがあったものじゃのう。実力…では無いの。ならなんじゃろうか…」
(いくら冒険者を相手にしているとはいえ、この殺気を耐えれるほどでは無い。一体どういうことじゃ?まあよい。それより、発生源をどうにかせねば…先ほどのことも聞きたいしの)
少しだけ苦しそうだが平気な様子のソフィアに疑問を覚えるが…
しかしそれどころでは無いと、わしも急いで下に行くことにした。
そして下に降り、目に付いた光景は…
フードを被った何者かが、不気味な色をした、この辺では珍しい刀を振り切ろうとしていた。
その光景に焦るが…
「待ってッ!!」
隣の大声で静止し、刀を降ろしたことに安堵した。
フードの者はこちらを見る。
刀を降ろした時点で殺気は弱まっていたようだがこちらに注目したため、また少し強まったようだ。
それにしても少し古めの木造とはいえ、威圧で軋むとは…なんということだろうか。
「これは何!?一体どうしたの!?」
「これはこれは…。人が壁にのめり込んどるわ…相当強く吹っ飛ばされたんじゃのう」
(周りに凹みが少なくしっかり壁に埋まっている。無駄に力を入れず、しっかり壁に埋まるように狙ったのじゃろう。相当な技量じゃぞ…周りの者も巻き込まれたのかの?床に伏しとる……なんとまあ、汚いのぅ…仕方ないとはいえ、ひどい有様じゃな)
ソフィアの驚愕の声を聞きつつ、状況を見る。
あの者がどういった理由でここまでしたのか、殺そうとまでしたのか。
それを見極め敵であるかを判断しなくてはならず、余裕をなくしていた。
…伏している者たちにかなりひどいことを言ったが、仕方ないのだ。
ソフィアが気を取り直し、4人の手当てに向かうがフードの者に近づき過ぎたのか、苦しそうな表情をしている。
その様子にわしは…
「ほれ、もうよかろう?とりあえずその殺気をしまいなさいな」
というと素直に聞いてくれたのか、サァという音が似合うように殺気が散っていく。
気を張った状態から一気に緩んだため、全員気絶してしまったが。
おかげで話が聞けず、より面倒になってしまった。
なので張本人に話しかけたがどうにもならないので、ソフィアが目を覚ました4人、というより、Dランクの者から話を聞き出した。
事情は理解したのだがかなりやり過ぎだし、何もなしに解放させられないので、ペナルティや弁償などをさせる事にした。
仲裁に入っただけの者や巻き込まれただけの者には申し訳ないが、把握しきれていないフードの者を刺激したくないため、それ以上のことはできない。
Dランクの了承を得たところで、イツキというフードの者をペナルティの話をするという事で、部屋に呼んだ。
森の殺気について話を聞きたかったわしは、それを聞くためにペナルティの内容に選択肢を、イツキに与えた。
ペナルティには面倒な、誰もやりたがら無い者と、話を聞くだけの選択肢にした。
面倒な依頼に対し、質問に答えるだけで、しかも多少の拒否権はありという好条件。
これならいけると思った。
だが…
「いいだろう」
「! 本当か!では質問を…」
「ペナルティを受けてやる」
「…へ?」
イツキが了承したのは面倒なペナルティを受ける事だった。
「な、何故じゃ!?面倒じゃぞ?正直その道の者に頼め、と言いたくなる様なものばかりじゃぞ?報酬も減ってしまうぞ?折角のお金じゃぞ?」
本当に面倒なものばかりなのだ。
例えば『ペットのための小屋を作って欲しい、快適なもので』といったものや、『怪奇現象が毎晩起きるからどうにかしてくれ』といったもの、果ては『お見合いのセッティングをして、出来れば成就するよう手助けして!』といった何故、冒険者に頼もうとしたのか?といったものばかりなのだ。
内容を教えてはいないとはいえ、そんなものを受けるとは思っていなかったわしは、かなり驚愕した。
しかし…
「ペナルティを受けると言った」
「……はあ。今更撤回もできん。後から増やすなんて出来んしの。仕方あるまい。依頼は後日、受付嬢から話が行くじゃろう」
「そうか」
話は纏まってしまった。
せめてもと、交換条件とともに引き止めてみると質問の許可が出た。
なので最大の懸念事項であった森での殺気をぼかして聞くと…
東の森で盗賊狩りをしていたという。
殺気を放出した事も認めた。
盗賊にも性別を、間違えられたのだろう。
あちらの方が下衆な事をたくさん言えそうなので、今さっきよりも強力なものを放出したのだろう…いい迷惑だ。
そしてイツキの要求だったが…最高の鍛治師の紹介だった。
懸念事項である森の殺気について答えたので、紹介する事を了承した。
幸い伝手があったため、その鍛治師を紹介をする事になった。…ついでに宿も。
その後に一悶着あったがイツキは退出していった。
こうして冒頭に戻る。
〜〜〜〜〜
(なかなか大変な1日じゃったな…まあ王都へ要請せずに済んで良かったのじゃが……っ!しまった、他のギルドへなんて説明したものか。あぁ、面倒じゃのぅ…)
既に要請を済ませてしまった他のギルドへの解決と原因の説明をどうするか、イツキの犠牲者をどのように出さ無いようにするか、悩むことになった。
結局、問題は解決したとだけ連絡をし、その他の説明を後回しにするという、先延ばしをして、イツキの対策は絡む奴がい無い事を願うというもはや対策ではない望みを掛ける事にした、が…
「あ、瞬斬への説明、どうしようかの…?」
まだ、悩みの種は尽きそうになかった。
長くなってしまいましたが、途中で切るのもなー、と考えて1話にまとめて投稿しました。読みずらかったらすいません。




