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10「受けよう」ペナルティ、安らぎの色

〜ギルドマスターの部屋に招かれ、ペナルティの話をする事になったイツキ。いったいどんなペナルティが?〜

 中には応接室のようなセッティングをされた場所があり、そこに座る様促すルビルス。

 指定された場所、でないところに座るイツキ。


「なにもありゃせんわ。全く…お茶でいいかの?」

「いらん」

「はあ…そうかい」


 そういい諦め、イツキの対面に座る。


「さて、今回ペナルティじゃが…選択肢をやろう」

「…選択肢、ねぇ」

「左様。ギルド規定にある面倒なものと、ワシ個人の質問に答えるものじゃ。無論、全て答えろとは言わん。幾つか拒否権をやろう」

「個人か。職権乱用だろう」

「偉いんじゃからいいのじゃ。ペナルティなんて目に見えるものではないからのぅ。与えた、と言えばそれで終了じゃ」

「…」

「さて、どうするかのう?面倒なペナルティか、この場でわしの部屋で質問に答えるのと。ペナルティは一定数まで依頼達成報酬の減額と、数回、無報酬で市内依頼をクリアしてもらう。後回しにされた面倒な依頼を、片付けてもらおうかのぅ」

(そこまでして、何が聞きたいのか…)


 そこまでしてイツキに質問しようとするルビルスに訝しむイツキ。

 イツキの決断は…


「いいだろう」

「! 本当か!では質問を…」

「ペナルティを受けよう」

「…へ?」


 ペナルティを受ける事だった。


「な、何故じゃ!?面倒じゃぞ?正直その道の者に頼め、と言いたくなる様なものばかりじゃぞ?報酬も減ってしまうぞ?折角のお金じゃぞ?」

(何故受けると思ったのか…その程度のペナルティなら、余計な情報を与えるよりもマシだろう)

「……」

「こんな時まで無視かの!?」


 この時はたまたまなのだが、今までの行いから故意に無視したのだと思い込むルビルス。

 イツキの考えだが…

 そもそも、ルビルスは前提を間違えていた。

 確かに普通の冒険者なら、このペナルティを受ける事は忌避しただろう。

 金儲けにために冒険者になったものが大半だ。

 減額と面倒な報酬のもらえない市内依頼。

 誰もが嫌がるだろう。

 しかしイツキは身分証明のために、とりあえず登録したのであって、金稼ぎは二の次だった。

 さらに、ルビルスには知りようもないが、イツキは地球で何でも屋をしていた。

 そのため雑用などは特に忌避感はなく、無報酬でも構わないと思っていた。

 寧ろ、人脈作りとして使えるのではないかとすら、考えていた。

 そういう裏事情から、イツキは躊躇なくペナルティを受ける事にした。


「ペナルティを受けると言った」

「……はあ。今更撤回もできん。後から増やすなんて出来んしの。仕方あるまい。依頼は後日、受付嬢から話が行くじゃろう」

「そうか」


 イツキは終わった、と立ち上がる。

 今夜泊まる宿を探しに行こうと目的を決めながら、出て行こうとすると…


「少し…待ってくれんか」


 と、ルビルスがいう。


「勝手で悪いんじゃが、幾つか質問に答えてもらえんかの?もちろんその分、ペナルティは減らすし、答えたくない事は言わなくて良い」

「…いいだろう」


 ふと、浮かんだ事があったため、許可を出すイツキ。

 ルビルスは、此れ幸いと今日最大の懸念事項を聞く。


「そうか…!助かる。早速じゃが…今日の昼過ぎに都市の外。正確に言えば森の中にいたかのぅ?東門の方の森なんじゃが…どうじゃ?」

「確かにいたが」

「本当か!そこで何をしていたか、いいかのう?」

「ふむ…盗賊狩りだ」


 流石に何を聞きたがっているのかわかってくる。


「!!な、ならもしやその時…」

「その通りだな」

「……気づいておったのか?」


 イツキが森の中で殺気を爆発させた件だろう。

 かなり強く、都市の中のルビルスが気づき、その危険性を悟るほどだった。

 ルビルスがかなりの実力者、というのも関係しているのだが。


「ああ、ずっと探っていただろ」

「その通りじゃが気づかれておったのか。あの殺気、盗賊にも間違えられたかの?相当じゃぞ、森からここまで届くなんて。おかげで強力な魔物でも発生したのかと…。なんともなくて良かったがのう、他の者たちになんと説明したものか…」

「それで?」

「…む?他に聞いていいのかの?」

「答えるかは別だが」

「なら、あの武器はどうしたのかの?いつの間にか消えておったが、収納魔法は使えんのじゃろ?魔力も感じなかったしの…」

「……」


 他に質問を許すイツキ。

 あの時出していた謎の武器について聞くが…

 イツキは無視。


「ダメか。うむ…なら、どれだけ実力を隠しているのかの?お主が実力者だとわかっていても立ち振る舞いなどがの?そこらの市民にしか見えんのじゃ。正直、直接あの瞬間を見ていなかったら、あの殺気の持ち主とは信じられんわ」

「自分で考えろ」

「ぐぬぅ。ダメか」


 イツキの実力について尋ねるが。

 一言、ばっさり切る。


「…人間と信じてもらえない、というのはどういう意味かの?」

「そのままだな」

「おっ、答えおった。そのまま…というのは?」

「私の体質が、人間とは言えぬものがあるからだ」

「ふむ?それはどういうものじゃ?」

「………さぁ」

「!!答える気はあるのかの!?とりあえずもう無い。以上じゃ!」

「そうか」

「約束通り、ペナルティは減らし…」

「いい」

「て、なに?いいのか?」

「別のを聞け」

「…まあ良かろう。なんじゃ?」


 別の事を要求するイツキ。

 最大の懸念事項をイツキは答えたので、許可するルビルス。

 イツキの要求とは…


「この都市、もしくは別の場所で、腕の良い鍛治職人を紹介しろ」


 だった。


「ほお?何故じゃ?」

「私には何の伝手もない」

「それで?…………それだけかの!?それで察せというのか!」

「…お前なら腕の良い者を知っているだろうと」

「…おぉ、そうか。それにギルドマスターである、わ・し・の紹介なら問題もないと。よく考えるのぅ」


 わざわざギルドマスターである事を強調するルビルス。

 最初のヒントでは察せるか、と言ってはいたが、ある程度推測はできていたのか。

 イツキの言葉の後に、イツキが考えていたであろう、紹介云々の話しをする。


「それで?」

「うむ、良かろう。王都にも店を構える、中央の大陸5指に入る者を紹介しよう。最大の作業場はこの都市にあるのでな、大抵はここにおるのじゃ。紹介状は書いておくから、明日にでも受け取りに来るのじゃぞ」


 なんと、中央の大陸でトップ5に入る者が紹介された。

 これにはイツキも満足であった。


「それにしても、何故鍛治職人を?他にもいろいろあると思うんじゃが。武器だって良いものがあるじゃろう?……ああはいはい。検索せんよ」

「ついでに宿も教えろ」

「はあ、ちゃっかりしとるのぅ。宿ならちと高いが、安息の森が良かろう。一見さん御断りじゃが今紹介状を書くでな、ちょっと待たれよ」


 思ったよりも世話を焼く爺さんに、少しだけ警戒心を見せるイツキ。

 そんなイツキに爺さん、もといルビルスは…


「そう警戒するでない。ただお主は、味方にしておいたほうが良さそうと判断したまでじゃ。情に流されるようなやつではなくても、好印象にしておいた方が良いからの。……ほれ、書けたぞ。贔屓にしてやるから、これからはよろしく頼むぞ?」

「…そうだな」

「お、そうかそうか。甲斐があったのぅ」


「礼を言う」


「!?…なんと!礼とな!?お主、一体どうし…」

「……」

「ああ、すまん、冗談じゃ。そう怒るでない…」


 素直に自分の考えを喋るルビルス。

 秘密にするより、開示するべきと考えたのだろう。

 書き終わった宿の紹介状を手渡す。

 そんなルビルスにイツキは珍しく本音で礼を言った。

 その本気が伝わったのか、ルビルスが半分本気でイツキを問い掛ける。

 そんなルビルスに軽く威圧する。

 感謝はするが、馴れ合う気はないイツキは、もう用はないと立ち上がる。


「む、帰るのかのう?なら、宿の場所じゃが、ギルドを出て南に行くと直ぐに噴水があったのには気づいたかの?その近くに、見てるだけで安らぐ不思議な緑色をした建物がある。それが安息の森じゃ」

「あれか」


 どうやらギルドに来る際、見かけたようだ。


「心当たりがあったかの?まあ、特徴的じゃからのぅ、直ぐにわかるじゃろう。…ああ、そうじゃった。それとペナルティの依頼じゃが、ソフィアにでも渡しておくから、確認しておくようにの。とまぁ、これくらいかのぅ。それでは、の」

「ああ……そういえば」


 帰ろうとしたが、ふと気になることがあったため、聞いてからにした。


「お?どうしたかの?」

「貴族でないなら、何故名前が?」

「…ああ、それはの。偉業なり何なりを成し遂げると、国王から褒賞とともに1回だけ名前をもらえるのじゃよ。だからじゃな」

「そうか」

「どうじゃ?見直したかの?」

「……」バタンッ

「…」


『無視して帰りおったーー!!』


 後ろで何か叫び声が聞こえるが無視して離れる。

 宿も決まり、用事を終わったのでルビルスに返事をして、部屋を出た。

 そのまま会議場を通り、階段を降りる。

 依頼を終え帰ってきた冒険者達がチラホラといる。

 2階から降りてきた謎の人物に視線が集まるが、既にフードは被っているため、大きな騒ぎはない。


 酒場で倒れていた冒険者達は掃除を済ませて帰ったようだ。

 …そういえば、1番の被害者は、Dランク冒険者ではなく、彼らかもしれない。


 〜〜〜〜〜

 完全に巻き込まれた形で威圧され、イツキのカミングアウトに驚愕してしまったがために、制裁対象に入ってしまった。

 粗相をして、謝罪など何もなし、起きて自分のソレを掃除する羽目になり、踏んだり蹴ったりな1日になってしまったから。

 他の者にはその痴態を見られていなかったことが、不幸中の幸いか。


 しかし、誰もイツキに対して文句を覚えた者はいなかった。

 イツキに与えられた恐怖が、それを上回ったためだ。

 何一つ文句も言わずに掃除して帰っていった冒険者達を、ソフィアは驚きと同情と疑問が混じった目で見送った。

 被害者である彼らに掃除をさせたことには、罪悪感でいっぱいだったが、自分で出したからしょうがない、と無理矢理納得することにした。

 〜〜〜〜〜


 ということがあったのだ。

 イツキは文句を言われようが言われまいがどうでも良かったのだが。


 〈おい、あれ誰だ?上から出てきたぞ?〉

 〈そんなこと知るかよ。今戻ってきたんだぞ〉


 ヒソヒソと2階…マスター部屋から出てきたと思われる者について、会話する冒険者達。

 もちろんイツキの耳にも届いていたが、性別に関する話題にならなかったのが幸いか、何もリアクションせず、ギルドを出た。

 この時はまだ騒ぎがあったことを誰も知らず、壁の凹みに気付いた者も特に気にしていなかった。

 先程はいなかった酒場に勤める者も、やけに綺麗になっている部分や、椅子テーブルが無くなっていることに、特に疑問は覚えなかった。


 この騒ぎが明るみに出るのは、まだ先のこと…


 *****


 ギルドを出て、視界に入った噴水の方へ歩くイツキ。

 丁度噴水の陰に隠れていた、明るい緑だが毒々しさは感じない、むしろ心落ち着く不思議な色をした、建物が見えてくる。

 それなりに大きく、3階建ての建物で、ギルドのように高さはないが、『立派』という言葉が似合う。


 ドアまで近づき、ふと違和感を感じる。

 此方を窺うような、探るような視線、いや気配を感じた。

 高めの宿であり、紹介が必要な宿である。

 監視などの何らかの防犯対策をしていてもおかしくはない。

 況してや魔力なんてものがある世界だ。

 変わった道具の一つや二つ有るだろう。

 イツキはその類だろうと当たりをつけ、中に入った。

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