B面カスミ
居間と台所。障子を挟んでの母子の会話
「今の電話、担任の先生からで、明日の午後の体育の授業に出席しないと出席日数不足で留年ですって。一年生から留年なんて恥ずかしいでしょう?だから明日は午後からだけでも学校に行くのよ。わかった?」
「わかった。明日の体育だけでも出席するようにする」
「良かった。ママはこれから夕飯の買い物に行って来るから留守番よろしくね」
「行ってらっしゃい」
居間。こたつテーブルで雑誌をめくる少女
――ママにはああ言ったけど、本当は高校になんて行きたくないのよね。よりによって体育に出なきゃならないなんて。あの陰険なおばさんに怒鳴られてまでバレーボールしたくないわよ
パソコンが独りでに起動。ディスプレイに近寄る少女
〉チャオ!一緒にスペイン広場でジェラート食べない?
――え、何?ナンパ?どこぞの王女に声を掛けてるつもりよ。でも、面白そうだから返信してみようかしら
〉チャオ!お生憎様。甘い物は控えるよう侍従に言い付けられているの
〉それは残念。絶対気に入ると思ったのに。ところで、どうしていつもそこに閉じ篭っているんだい?
――出歯亀?この部屋には窓が無いのにどうして知っているのかしら?
〉他人のプライベートを覗くなんて、デリカシーの無い人ね
〉他人を覗き扱いしないで、そんな趣味無いから。それよりさっきの質問に答えてよ
〉外に出たくないのよ。知り合いに声掛けられたら、気まずい思いをするに決まってるわ
〉そんなのわからないじゃないか
〉わかるわよ
〉そんなこと気にしてて楽しいの?
〉少しも楽しくないわよ。でも、どうしようもないじゃない。過去は変えられないのだから
〉それはそうだけど……よし、話題を変えよう。君にとって、何をしている時が一番楽しいと感じるのだい?
〉私が楽しいと感じる時?
〉そうそう。考えただけでワクワクすること、有るよね?
〉無いことは無いわ
〉じゃあ、今からそれをやろうよ!
〉無理よ。そんな急に出来る訳無いじゃない
〉どうして?
〉上手く行くかどうかわからないわ
〉いいじゃん。やってみなよ。同じ失敗にしても、やらないで後悔するくらいなら、やって後悔する方が良いに決まってる。それにhwqi$otmk魅s\tov2喜358jsdkf968
――あら?
ディスプレイが砂嵐になり、その後すぐに何も映らなくなる
居間。畳に仰向けになりながら回想する少女
――幼い頃、私は人前で役を演じるのが好きでしょうがなかった。日常を離れ、ステージでいつもと違う自分になりきるのが楽しかった。小学校に上がる前に両親が離婚し、親戚中を盥回しにされ、経済的な事情からレッスンに通うことが出来なくなり、徐々に演技の道から遠ざかるようになった。結局、協議の末、私は母親に引き取られることになり、母子家庭ということから学校では仲間外れにされたり、憐れみの目で見られる事に耐え難くなり、半年前から高校に通わなくなり、現在至る。
回想から数時間後、台所。卓袱台にメモを置く少女
――この書置きを見たら、ママはどう思うかしら?
〈ママへ
私の将来のためを思って、せめて高校は卒業して欲しいという気持ちはよくわかります。でも、どうしてもその気持ちに応えられません
これから一人で自分のやりたいことに挑戦して行こうと思います。
今まで女手一つで育ててくれてありがとう
カスミより〉
――私ほどの親不孝者はいまい。でも、私の両親ほど子供を自分達の都合で振り回す親もいないまい
少女は前髪を後ろに流し、カチューシャで留め、トランク一つを手に、半年振りに家の外へ




