表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/139

新領土と新戦力 ⑥

「こいつがグラマンの「ワイルドキャット」か・・・さすがにアメリカさんの機体だけあって、頑丈そうだな」


 賢人は目の前の機体を軽く叩くが、反響する音からも、零戦などより頑丈な機体構造を有しているように感じられた。


「でもカクカクして変な形」

 

 ルリアの言葉に、賢人は苦笑する。


「まあ、お世辞にも外観はよくないわな」


「でもこいつの武装はブローニングが6基だからな。先輩たちはこいつの銃弾のシャワーに、本当に泣かされたからな」


 主翼の銃口を睨みつけるように見ている武が、少し悔しそうに言う。


「ラシアはどう思う?この飛行機」


 武は機体を細かく見て回っていたメカルク空軍より出向中の女性飛行士、ラシアに感想を聞く。


「う~ん。「疾風」とか零戦よりも不細工だけど、賢人の言う通り頑丈そう。それに造りもこっちの方がしっかりしているみたいだし、艤装も上等ね」


 彼女はこの機体の本質をしっかりと衝いた発言をした。


 今一行が見ているのは、護衛空母「レンネル」に搭載されていた米海軍の戦闘機、FM2「ワイルドキャット」である。大戦初期に零戦のライバルであったF4Fのゼネラル・モータース社転換生産機である。


 大戦後半、艦隊空母の主力戦闘機は新型のF6F「ヘルキャット」やF4U「コルセア」に置き換えられていたが、小型の護衛空母ではまだまだ主力機として活躍していた。


 空母「レンネル」には固有搭載機として、12機が搭載されており、もちろん全て日本国が接収してその戦列に加えた。


 とは言え、まだ陸揚げされたばかりなので、塗色も国籍マークも米海軍のそのままであった。


 曲線を多用した零戦に比べると、角ばったデザインで「バッファロー」とは別の意味で不格好に見えるが、これが中々侮れない機体であることは、賢人や武も先輩たちから聞き及んでいた。


 旋回性能で言えば、その極致とも言うべき零戦にかなうべくもないが、機体は他の米軍機と同じく頑丈で、機銃弾を多少撃ち込んだくらいでは撃墜することが出来ない。もちろん急降下性能も良い。急降下されると、零戦では機体強度が持たず、追尾が難しかった。


 また水平速度も零戦と同等であり、武装に至っては米軍共通のM2型12,7mm機銃を当初は4挺、後期では6挺も搭載している。防弾力の乏しい日本機にとっては、十分以上の威力だ。


 高村三佐たちの乗るF8F「ベアキャット」より2世代前の機体だが、未だに複葉機が主力のこの世界であれば、十分すぎる性能を持っている機体だ。しかも、ありがたいのは纏まった数の機体があり、さらに「レンネル」に予備のパーツもストックされていたことだ。これなら戦力として数えられる。


 とは言え元は敵国の機体で、しかもスタイルも今一歩なせいか、搭乗員たちの中で積極的に乗ろうとしている人間は、今のところ少なかったが。


「私はやっぱり、賢人たちと同じ零戦に乗りたいな」


「ルリア、本気でお前飛行兵になるの?」


「うん、決めたから」


「本当に、国に帰らなくていいのか?」


「・・・私の故郷はもうないから。だからここが私の故郷。ここが私の国だよ」


 今回練習機も手に入ったので、日本国では本格的に飛行兵の養成を一から開始する。その第一期生に、ルリアは応募する腹積もりであった。


 日本国は搭乗員のの不足から、男女に制限を加えていなかった。募集の対象になるのは、民間人で年齢条件などが一致する者、或いは軍籍にあっても年齢条件などをパスできる者であった。志願するとその後体力と学科試験を行い、合格すればパイロット養成コースに入る。


 一応対象は日本国民であったが、人員の不足から日本国としては同盟国からの志願兵なども受け入れる予定であった。なお現在日本国では、民政局が戸籍の作成を急いでいた。これがないと、今後国を維持するうえで必要なシステムが全く要をなさないからであるのは、言うまでもない。


「ルリアがそういうなら良いじゃないか。しかし零戦は人気だから、簡単には乗れないだろ」


「ええ~!零戦も新しく手に入ったって整備の人から聞いたよ」


 武の言葉にルリアが抗議するが、横からラシアが突っ込む。


「手に入ったって言っても、残骸同然でしょ。補充機分にしかならないって」


「・・・女って言うのは、耳が早いのかね?」


「俺に聞くなよ」


 2人がいち早く情報を手に入れていることに、賢人と武も半ば呆れる。そして2人が言ってることはそれぞれ正しかった。


 まず今回の騒動で零戦も手に入ったのは間違いない。この内12機は「レンネル」がサイパンで鹵獲後、後方へ研究用に輸送していた機体で、ある程度原形を留めていた13機が手に入っている。いずれも型式はバラバラで、しかも放棄された機体なので損傷していた。整備班の話では部品を共食いとすることで半分程度しか再生できないとのことであった。もちろん、その半分でも今の日本国にとっては大きな戦力となるが。


 ちなみに零戦以外に「レンネル」の鹵獲機には、99式艦爆と97式艦攻が1機ずつあり、こちらはかなり状態がいいので復元できそうだと聞いていた。


「ま、ルリアが戦闘機に乗るにしても、まだまだ先だって。まずは地上での座学に基礎訓練、それからようやく「赤とんぼ」か「ユングマン」だろ」


「その「赤とんぼ」と「ユングマン」も3機だけじゃ、練習生が乗るのも一苦労だぞ」


「「赤とんぼ」だって海軍のは1機だけだぞ」


 話題が練習機へと移った。そう、パイロットの育成は実戦用の機体だけでは出来ない。基礎から学ぶのであれば、レベルに応じた初等から高等までの各種練習機があることが望ましい。


 この内高等練習機としては「テキサン」が手に入ったので、必要となるのは初等練習機だ。


 そんな初等練習機として使えそうな機体、「赤とんぼ」こと93式中間練習機も、今回手に入った機体だ。こちらは空母「インディゴ・ベイ」に搭載されていた終戦後接収機である。ちなみにもう1機「赤とんぼ」があったが、そちらは陸軍の95式練習機であった。


 陸海軍ではそれぞれ「赤とんぼ」と呼ぶ練習機を装備したが、海軍のは空技廠製の93式で、陸軍のは立川飛行機製で95式という、愛称は同じの全く別物の飛行機であった。


 また武の言う「ユングマン」は、初等練習機としてドイツのビュッカー社製のBU131「ユングマン」練習機を、ライセンス生産した機体だ。陸海軍がそれぞれ別々に生産・運用し、陸軍は四式練習機、海軍は二式基本練習機「紅葉」として使用した。ただし、パイロットたちは原形機の「ユングマン」という愛称で呼んでいた。


 この「ユングマン」も今回1機手に入ってる。


「他に練習機は「白菊」と零式練戦、あとは陸軍の二式高練に九九式高練、それから一式双練があるけど、「白菊」は機上作業練習機だし、他のは陸軍さんのだからな。うまく使えそうなのは零式練戦だけだな」


 今賢人が言った「白菊」は単発だが、機上での無線電信や天測などの実習に使用する機上作業練習機である。その他の機体は陸軍の機体で、海軍の物とは作りが異なっており、上手く練習用機材として利用できるか微妙なところである。


 二式高等練習機は名機97式戦闘機を母体とした練習機、99式高等練習機も98式直協機を母体にした陸軍の練習機である。1式双練も陸軍機で、「白菊」と同じく機上作業練習機だ。全金属性の双発で、近代的な機体だがやはり陸軍機なので、習熟に時間がいるだろう。


 そしてただ一機、戦闘機パイロットして使えそうと賢人が見た零式練戦は、零戦の練習機バージョンである。教官席が設けられ、着陸脚にカバーがなく、20mm機銃も搭載していないなど、本来の零戦と趣を異にする機体だが、貴重な海軍の戦闘機パイロット養成に利用できる練習機である。


 ちなみにこれらの練習機のほとんどが、特攻機として運用されている。


「どれも1機ずつだから、これじゃあ使える機体云々言うより、飛行機博物館て言った方があってるぞ」


「だな」


 武の言葉に、賢人は言い返せなかった。


「インディゴ・ベイ」と「サスケハナ」が載せていた鹵獲機は、どれも研究用にアメリカ本国へ持ち帰られるものであったから、1機ずつしかなかった。だから戦力としてほとんどカウントできない。一品ものでは、整備に手間がかかり長期的な運用など望むべくもないからだ。


「隊長たちはこれどうするんだろうな?」


「フリーランドあたりに研究機材として高く売りつけるんじゃないか?」


 と男性陣二人が言うと。女性陣二人が文句の声を上げる。


「ええ~。勿体ないよ!」


「カッコイイのも一杯あるじゃない!アレとか!私アレに乗りたい!!」


 ラシアが指さした先には、流麗なフォルムを持つ双発機が鎮座していた。


「アレはたしか、陸軍のキ83ていう試作戦闘機だったな。確か最高速度は700km以上らしいぞ」


 賢人の言葉に、ラシアが目を輝かせる。


「700!?スゴイ!乗りたい!」


「でも発動機が不調らしいから、多分望み薄だな」


 すると、ラシアは途端に項垂れた。


「なんだ賢人。お前も情報早いな?」


「実は朝起きたら一番に見に来てさ。そしたら近くにいた技師の人が教えてくれたんだ」


「なんだよ!抜け駆けかよ!」


「ズルいよ賢人!」


「私も連れてきてよね!」


「アハハハ」


 賢人は皆の抗議を笑って誤魔化した。

 

御意見・御感想よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ