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新領土と新戦力 ⑤

「久しぶりだな、中野」


「高村・・・老けたな」


「お前こそ、本当に戦争の時のままだな」


 瑞穂島の飛行場脇にある待機所。そこで中野少佐は一人の男と会っていた。日本海軍とは違う、開襟式の制服を着こんでいる中野より7~8歳ほど老けた人物。


「皆、紹介するよ。俺の海兵時代の同期の高村平助中尉・・・じゃなくて、三等海佐だったか?」


「ああ、そうだ。まあ、三佐でも少佐でも、好きな方で呼んでくれ」


 中野は集まっている部下たちに、海軍兵学校の同期生である高村平助元中尉、現海上自衛隊三佐(少佐相当)を紹介した。


 もちろん、集まっていた部下たちの中にいた賢人と武は、それぞれ上官に対しての敬礼とあいさつをする。


 中野と高村は腰かけながら、久々の会話を行う。


「しかし、またこうして会えるとは思わなかったよ」


「俺もだよ。だが、今回は流血の事態になり、お悔やみの言葉をまずは申しておくよ」


「俺のとこじゃないが、本当に残念なことだよ」


 高村は海上自衛隊の士官パイロットとして、パイロット団を率いてアメリカへ行き、現地で供与機の受け取りと訓練を行い、供与艦の護衛空母改め航空機搭載護衛艦「つるぎ」で帰国する途中に、今回の事態に巻き込まれた。


 それから1カ月。現れた6隻の艦艇と、乗り込み人員に対して、日本国は合流を求めた。寄る辺のない彼らには、他に行き場所がないためほとんどの人間がこれに賛成し、日本国に合流した。


 しかしながら、それに抗う一部のグループが反乱を起こした。この反乱は最終的に鎮圧されたが、反乱グループと制圧した側含めて7名の死者が出るという、痛ましい流血沙汰となってしまった。


「帰国して家族の元に帰れると思っていたら、わけのわからん世界に飛ばされちまったんだ。反乱を起こした連中の気持ちも理解できなくもないがな」


「俺たちだって、戦争中じゃなかったら同じようなことをする輩が出ていたかもしれん」


 トラ4032船団はじめ、戦争中の時代から飛ばされてきた人間の中にも、狂乱じみた行動や言動をする人間はいたが、これまでのところ流血沙汰に至ったことはなかったが。


 中野が言うように、戦争中と言う平時とは違う非常時から飛ばされてきただけに、また多くが死を覚悟した人間や、命からがら故郷を脱した避難民であったがゆえに、多少の異常事態に対して平静にいられたともいえよう。


 しかし海上自衛隊の隊員たちは、戦争が終わって命のやり取りから遠ざかった時代、しかも故郷日本への帰路の途中で飛ばされてきただけに、隊員たちに与えたショックも大きかった。反乱を起こしたグループの構成員が皆新規採用者で、結婚して日が経っていない者や恋人がいた者が大半であったと、中野も高村も聞いていた。


「そう言えば高村、お前にも奥さんと娘さんが「いないよ。独身だ」


 高村が既に結婚し子供もいたことを思い出した中野が口にするが、その途中で高村が遮る。


「え?そうだったのか?・・・いや、まさか」


 中野は彼の言葉と態度で、事情を察した。それに高村も頷く。


「そのまさかさ。実家に疎開させたのがマズかった。長崎の原爆でな・・・死体すら見つからなかったよ」


「・・・すまん」


 中野は原爆については良く知らなかったが、広島と長崎がたった1発で壊滅した程度のことは聞いていた。高村の家族はその渦中で死んでしまったようだ。


 恐縮する中野に、高村は飄々とした態度で返す。


「いいんだいいんだ。俺からしたら、もう7年も昔の話だ。気にするな・・・それよりも、今日から俺たち海自パイロットも日本国海軍航空隊に合流する。よろしく頼むよ。この世界に関しちゃ、お前たちの方が先輩だからな」


 航空機搭載護衛艦「つるぎ」には、アメリカで供与機の受け取りと飛行訓練を受けたパイロット30名が乗り込んでいた。彼らも今日から、日本国の戦列に加わる。


「だが機体はお前たちの使う機材の方がはるかに上等じゃないか」


「まあな。「ベアキャット」はすごいぞ」


「つるぎ」に搭載されていた航空機は約50機。本来の常用航空機の数を遥かに超えているが、これは日本への供与機を甲板と格納庫に、ぎっしりと動きが取れないほどに目一杯搭載していたからだ。


 この中で一番日本国側の興味を引いたのはF8F「ベアキャット」戦闘機であった。中野ら大戦中の日本海軍パイロットを苦しめたF6F「ヘルキャット」やF4U「コルセア」と言った戦闘機よりも、1世代新しい艦上戦闘機である。


 それまでの米戦闘機の武骨なスタイルから一転して、小型でスマートにまとめられた外観をしている。


「何せ「マスタング」並みのスピードで、零戦並みの旋回性能だからな。しかも武装も20mmが4挺だ。こいつが戦争に間に合っていたらと考えると、ゾッとするよ」


 高村の言う「マスタング」とは、米陸軍のP51戦闘機のことだ。時期的に中野は直接手合わせはしていないが、700km近い最高速度が出せる優秀な戦闘機だと聞いていた。速度だけなら、どの日本戦闘機でも敵わない性能だ。


 その速度に零戦並みの旋回性能となったら、もはや最強である。


 そんな機体相手では、1世代前のF6Fにさえ苦戦していた日本海軍では歯が立たなかっただろう。


 改めてかつての敵国アメリカの底力を実感し、寒気を覚える中野である。


「まったく、アメリカの底力を実感するよ。あっちの「スカイレーダー」だったか。あれもスゴイ」


「ああ!単発で3トンもの爆弾を積める。3トンだぞ、3トン!1式陸攻の3倍だ!!」


 高村が力説する。そして中野は顔をしかめる。


「化け物だな。つくづく俺たちはバカな戦争をしていたと思うよ」


 AD1「スカイレーダー」攻撃機。単発単座ながら攻撃機としては高速の500km以上の最高速度と、魚雷であれば3本分に匹敵する3トン以上の爆装が可能と言う、まさに化け物のような攻撃機であった。


「まあ、それでも俺たちから見たらこいつらも既に旧式機だな。じゃなきゃ供与されない。時代は今やジェットだ」


 高村が熱く語る。


 そう、昭和27年から来た高村からすると、これら戦争中は化け物と言える性能であったピストンエンジン搭載のレシプロ航空機も、大戦後急速に進んだ航空機のジェット化の流れからすると、もはや旧式機の部類であった。


 現に朝鮮半島上空では、既に本格的なジェット戦闘機同士の空中戦が勃発していた。


「空自の方には最新のF86が供与されるって話だけど、こっちにはそんな話もなしだ」


 高村からすると世のジェット化の中で、自分たちは旧式のレシプロ機を運用しなければならないことに、内心では忸怩たる想いがあるらしい。


 しかし中野の気持ちは対照的なものであった。


「まあ、ジェット機持ってこられても、今の俺たちには困るだけだがな」


 中野の言葉は日本国の航空機運用者としての本音であった。と言うのも、ジェット機を運用するためには、それ相応の設備が必要となるからだ。より長くしっかりと舗装された滑走路が必要であり、ジェット燃料も用意しなければならない。


 現在レシプロ機を主力とし、さらには敵にジェット機もいないような現在、ジェット機を運用するメリットがない。持ち込んでも、前述したように運用面で不都合が生じるだけである。


「うちとしては、「ベアキャット」に「スカイレーダー」、それに「テキサン」だったか?こいつらを戦力に加えられることは本当にありがたい。「ベアキャット」と「スカイレーダー」もそうだが、「テキサン」も加われば、今後の航空戦力の維持が随分と楽となる」


「つるぎ」に搭載されていたのは4機種で、この内「ベアキャット」と「スカイレーダー」が20機ずつで、残り10機はSNJ「テキサン」練習機であった。


「テキサン」はアメリカ製の練習機で、SNJは着艦フックを装備した海軍向けの機体である。陸軍向けのT6型機と言う方が有名である。


 練習機ではあるが、単葉引き込み脚の近代的な外見をしており、機銃を装備して軽攻撃機としての運用も可能である。


 ちなみにこのSNJ練習機、大戦中は五大湖の外輪式遊覧船改造練習空母を使用して、発着艦訓練に利用されたりもしている。


 練習機であるのだから、性能は当然平凡だ。しかし、日本国にはこれまで練習機が存在していなかったため、パイロットの育成がほとんど進んでいなかった。そんな状況だから、たった10機でも練習機が加わることは、今後のパイロット育成に一筋の光明が差したと言える。


 ある意味、今後の長いスパンで考えるのであれば、40機の攻撃機以上に貴重な存在であると言えた。


「しかし皮肉なもんだな。まとまった数の機体が手に入ったのはいいが、それがこの間までの敵国のアメリカ製なんだからな」


「本当だよ。昨日の敵は今日の友とはよく言ったもんだ」


 二人はわずか数年で様変わりした国際情勢の複雑さに、ため息しか出てこなかった。


 その後二人は、今後の海自隊員の編入に関する実務的な打ち合わせに話を移した。


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