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複雑な期待

 旅行などで書くのが遅れました。お待たせしてすいません。

「捕虜を尋問した結果、どうやら連中は我が方の主力部隊が留守の隙に、瑞穂島への機雷敷設を画策したようです。なので、撃沈した巡洋艦も通常のものではなく、敷設巡洋艦だったようです」


 捕虜からの尋問結果を伝える川島大尉の言葉に、軽巡「石狩」艦長の緒方は頷く。


 海戦から2日、損傷した艦艇の帰還や沈没艦艇の乗員の救助、捕虜の収容などでゴタゴタしたが、ようやく主だった人間が集まっての、戦訓会議が開かれていた。参加しているのは戦闘に参加した主だった指揮官たちと、寺田ら司令部の人間の一部だった。


「やっぱりな。あの爆発は機雷の誘爆だったんだな」


 敷設巡洋艦とは、日本海軍にはなかった艦種だ。


 敷設とは字のごとく機雷を敷設することであり、その機雷を敷設することを専門とする艦艇を敷設艦や敷設艇と言った。敷設巡洋艦は日本海軍にはない艦種で、これまた字の如く敷設能力を備えた巡洋艦のことだ。


 巡洋艦並みに強力な砲兵装と、高速が売りであり、マシャナのそれも例外ではなかったようだ。余談だが帝国海軍の場合巡洋艦並みの強力な砲兵装を備えた艦もあったが、全て分類上は敷設艦としていた。


 こうした敷設艦艇は機雷を何十個、何百個単位で搭載する。広い海面に機雷源を設置するにはそれくらい必要というわけだ。


「しかし機雷敷設をするにしても、白昼堂々乗り込んでくるとは。勇敢を通り越して無謀だぞ」


 日本国代表にして軍最高司令官の寺田は、今回突っ込んできたマシャナ艦隊の行動に、理解の苦しむ部分があった。


 敷設巡洋艦2、駆逐艦4隻からなるマシャナ艦隊は瑞穂島に高速接近を図ったものの、航空隊と水上艦の迎撃によって駆逐艦2隻を残して全滅し、残存艦は遁走。沈没した艦の乗員も、生存者は全て日本国の捕虜となった。


 機雷を敷設する場合、自軍の港湾や拠点、航路への敵の侵入を防ぐ防御的な敷設と、敵の拠点や航路に対し、その行動を積極的に妨害する目的の攻勢的な機雷の敷設がある。


 今回マシャナが行おうとしたのは、攻勢的な機雷の敷設であるが、これは先に述べたように敵地へ乗り込み行う。確かにマシャナ艦艇は高速ではあるが、制空権も制海権もない海域に白昼に突入するなど、自殺行為に等しい。しかも機雷を撒くまでは、各艦は巨大な海に浮かぶ火薬庫状態となる。わずかな被弾が致命傷となりかねない。


 事実、今回敵敷設巡洋艦の1隻も機雷庫への砲弾の直撃で轟沈していた。


 もちろん、万が一機雷を敷設されていれば、瑞穂島の周辺海域は艦船の航行が制限され、大打撃を受けていただろう。それでも、あまりにも勝算のない行為であったとしか、寺田ならずとも誰もが思う所であった。


「残念ながら、今回捕らえた捕虜の中に高級士官はいませんでした。なので、敵の作戦の詳細までは掴みかねます」


「しかし、状況的にエルトラント奪回作戦への牽制、もしくは我々の主力がいない間に瑞穂島の港湾を封鎖し、その基地機能を奪おうとしたのかもしれません・・・どちらにしろ、再度襲撃を受けた以上、瑞穂島の防備を強化する以外に手がありません。エルトラントから艦隊が戻ってきたら、編成の見直しを行うべきかと」


 大石参謀長が提案する。


「そうだな。今回はこちらも無傷とはいかなかったからな」


「貴重な艦と乗員を喪い、申し訳ありません」


 駆逐艦「海棠」の春日艦長が頭を下げる。彼が指揮した「海棠」は海戦によって被弾。復旧を試みたものの、浸水と火災が激しく、総員退艦となった。日本国海軍にとって初めての艦艇喪失であった。


 また「海棠」以外の3隻も多かれ少なかれ損傷し、メカルクもしくはフリーランドに回航しての修理が必要であった。


「いや、春日大佐はよくやってくれた。特にかけがえのない乗員の多くを連れ帰ってくれたのは殊勲に値することだよ」


「海棠」の150人以上の乗員のうち、戦死は20名あまりであった。比較的犠牲者が少なく済んだのは、早めの総員退艦命令と味方艦が何ら邪魔されることなく救助作業を行えたからだ。しかも出撃した艦艇にとどまらず、瑞穂島から救援に出た艦艇も加わったため、多くの乗員を救うことができた。


「「海棠」を喪ったのは残念だが、とにかく島を守りきれた。航空隊と艦隊の奮戦故だ。皆よくやってくれた。戦死者も加えて、今後何らかの報償を行おうと思う」


「ありがとうございます」


 春日が深々と頭を垂れる。


「しかし「海棠」を喪い、「石狩」ら3隻らが戦線を離脱するのは痛いですな。代替の艦を補充できればいいのですが」


 大石が冷静に意見を述べる。春日らには酷な話だが、実際に1隻が沈み3隻が戦線離脱となると、今後の瑞穂島の防衛やエルトラント防衛に大きな不安を残す。しかもタイミング的に、エルトラント奪回作戦が終了すれば、作戦従事艦艇の一部は補修のために戦線離脱するから、余計に悪い。


「その意味から言うと、敵の攻撃も全く無意味と言うわけではなかったんだな」


「そうなりますね。我々は確かに海戦には勝利しましたが、総体的にみれば瑞穂島の防衛に大きな穴を開けられてしまいました。敵にしてみれば、何十隻か何百隻もある艦艇の数隻が沈んだくらい、痛くも痒くもないのかもしれません」


「大石参謀長の言う通りなら、俺たちはとてつもない金持ち相手に戦争をしていることになるな」


 すると攻撃隊を指揮した中野が皮肉るように言う。


「そんなの、地球で米英に宣戦した時点でわかりきっていたことですよ。日露戦争しかり、日清戦争しかり、つくづく我が国は強大な敵と戦う運命にあるようですな」


 確かに、今さらと言えば今さらだ。参加者たちから苦笑が漏れる。


「だが笑っていられるものではないぞ、中野少佐。航空隊にも犠牲は出ているんだ」


「承知しています。それについては私の責任です」


 今回航空隊も未帰還2機と、帰還後の全損廃棄3機という小さくない被害が出ている。


「航空隊もよくやってくれた。その点は非難できるものではない。若手も、それから外国人パイロットもよくやってくれた」


「はい。ですが航空隊も替えが利きません。致命的な打撃ではないですが、こうした被害が累積するのは好ましくありません」


 大石の言葉はキツイが、いまだに艦艇も航空機の生産能力のない日本国には1機の飛行機、1隻の艦艇の喪失も痛い。


 瑞穂島に造船所や航空機工場を建設する計画もあるのだが、現状の日本国の国力ではとてもそんなことできなかった。資源も人もいないのである。なんとか小規模な修理用のドックが間もなく完成予定なだけである。それすら、駆逐艦の入渠が精一杯の規模でしかない。


 航空機工場も生産に必要な工業機械が、そもそも手に入らない。輸送船などに搭載されていたものでは、修理が限界であった。


 どちらにしろ、こうした開発は瑞穂島に元からいた住民たちと折り合いをつける必要がある。樺太と沖縄からの避難民を受け入れて以降も、目立ったトラブルが起きていないのは幸いとは言え、早晩限界が来るのではと寺田たちは警戒していた。


 また将兵にしても、沖縄と樺太からの難民の若い世代に後継を期待したいところだが、彼らが実際に入隊できる年齢になるのは数年後。戦えるまでにはさらに2~3年掛かる。10年近いスパンを見なければならない。


「そこはなんとか上手くやっていくしかない。今はフリーランドとメカルクが味方についているし、エルトラントの作戦が成功して、かの国の政府が復活すれば、多少状況は楽になる」


 瑞穂島の苦境を他所に、エルトラント奪回作戦はその後も順調に進み、今すぐにでも戦闘終結の電文が届くのではないかと言う状況であった。


 エルトラントの奪回がなれば、同国の政府も完全復活する。その時には、日本国との間で結ばれたある条約が発効することになっている。


「またどこからかふねや飛行機がこないもんかな」


 中野がボソッと、そんなことを言う。現状艦船や航空機、それを操る人間を手に入れる手段としては、地球から流れてきたそれらを編入することが唯一と言ってよかった。捕獲艦や購入艦がなくもないが、それは未だに極少数だ


「おいおい中野少佐。そう言いたい気分はわかるが、その・・・なあ」


 寺田が曖昧な口調で、彼に注意を促す。


 この世界に流れ着いた日本人の中で、好き好んでやってきた者は一人もいない。誰しもがわけのわからぬまま、突然連れてこられたのである。


 もちろん、既にこの世界で生きていくと決めて前向きになった者や、こちらの生活に慣れてしまった者もいる。元の世界にいた時よりも、良い環境を手に入れた者だっている。しかしながらそれは結果論であり、一方で、精神的に追い詰められた者だっているのだ。


 会議参加者にはそうした者はいないが、軽率な発言には違いない。


「申し訳ありません。総司令」


 だが、寺田はそんな彼に同情の念を禁じえなかった。


(まあ、私も同じことを期待しているんだがね)


 どこからか艦や船がやって来てくれないか。内心では、彼もそれを期待しているのであった。

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