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エルトラント奪回作戦 ⑧

「ただいま上空を通過した友軍機が、通信筒を投下していきました」


 瑞穂島に接近するマシャナ艦隊を迎撃するべく出撃した軽巡「石狩」率いる小戦隊の頭上を、攻撃を終えた攻撃隊が五月雨式に帰還していく。その中の1機が、降下すると「石狩」に接近し通信筒を投下していった。


 回収されたそれが、艦橋に陣取る「石狩」艦長の緒方次郎少将の手もとに届いた。


「読んでくれ」


「はい。我敵艦隊ヲ攻撃ス。戦果駆逐艦1撃破。ソノ他ニ機銃掃射を実施ス。敵艦隊ハ瑞穂島ヨリ350度。距離85海里。以上です」


「撃破できたのは駆逐艦1隻だけか。航空隊も案外だらしないな。まあ、1隻減らしただけでも良しとしよう。巡洋艦2隻と駆逐艦3隻なら、なんとか俺たちで相手できなくもないだろう」


 60機近い航空機を出した割には少ない戦果に対して失望半分、それでもとにかく敵艦の減らしたことに称賛半分と言った所であった。


「それでも相手には巡洋艦が2隻残っています。魚雷は持っていなくても、砲撃力では侮れません。こちらは本艦の14cm6門と、駆逐艦の12,7cmと12cmが7門、それに「快風」の11cm砲が8門しかありません。敵艦の詳細は不明ですが、砲門数では我々より勝っている可能性が高いです」


 部下の言葉に、緒方は頷く。


「わかってるさ」


 日本国側が巡洋艦としているマシャナ艦には、地球の重巡洋艦と軽巡洋艦に近い艦種があることが判明している。前者は21から19㎝程度の中口径砲を搭載し、やや厚めの装甲を貼った大型巡洋艦で、後者は16cmから14、5cm程度の一回り小型の砲に、若干の装甲を備える小型巡洋艦だ。速力は最高で、どちらも40ノット以上の高速を発揮する。もちろん、雷装はない。


 ちなみに日本側が駆逐艦と識別している小型艦は魚雷がこの世界にないため、兵装は砲兵装のみだ。駆逐艦と同じく小口径砲と機銃が中心だが、速力は45ノット近くに迫る。


 対して、「石狩」は軽巡のカテゴリーに入るが、その基準排水量と全長はコンパクトだ。前者が3600t。後者は145mでしかない。


「石狩」は実験艦として建造された「夕張」の改良型であり、海軍内部では改「夕張」型と呼ばれていた。実際、艦橋や煙突の形などは「夕張」に酷似している。


「夕張」は帝国海軍内でいい意味でも悪い意味でも有名な平賀譲造船中将の作品である。日本海軍の標準型軽巡と言うべき5500t型として計画されたが、軍縮条約によって基準排水量3000t未満の小型の艦体に、5500t型と同等の武装を盛り込むという前代未聞の艦となった。


 平賀はこれを、艦体中心線上に兵装を集中して搭載することによって実現し、世界の海軍関係者を驚かせた。


 もちろん、いいことばかりではなかった。艦体が小型でギリギリの設計をしたために、武装の強化などの余裕はなく、5500t型のように水上機を搭載することもできなかった。また居住性能も犠牲にされるなど、用兵側にとっても満足のいくものではなかった。


「石狩」はその「夕張」の設計を基にしつつ、艦体を若干大型化するとともに、主砲を同じ14cm砲6門ながら、「夕張」の単装と連装の混載を止めて連装砲3基。魚雷発射管を連装2基4門から三連装1基3門としている。その代わりに後部にカタパルトを搭載。水上機を搭載可能としている。また居住性も若干向上している。


 大東亜戦争開戦後に、他の艦艇と同様に航空機対策として機銃の増備を行うなどしているが、基本的な武装はそのままである。


「夕張」と同じくコンパクトな艦体に重武装のコンセプトを引き継いでいるが、それでも倍する数の巡洋艦に対してどこまで戦えるかは未知数である。


 それでも、緒方はやる気充分であった。


 姉である「夕張」は開戦後の昭和17年8月のガダルカナルをめぐる第一次ソロモン海戦に参加し、他艦と共同で敵巡洋艦隊撃破に一役買っている。


 対して「石狩」は「夕張」のような対艦戦闘の機会に中々恵まれずに、この世界へと飛ばされている。


 相手はアメリカやイギリスではなく、異世界の大国マシャナであるが、敵には違いない。それも数でこちらを圧倒している手ごわい敵であった。不利には違いないが、その分戦い甲斐のある相手ともいえる。


 だから緒方以下、多くの乗員はむしろ戦いに向けてむずむずしていた。


「こちら電探室。1時方向に艦影らしきもの探知。詳細な距離は不明なれど、20海里から30海里」


 ついに待ちわびた報告が、電探室から来た。


「見張り員、1時方向に注意!総員戦闘配置!水偵射出!」


 戦闘用意のラッパが鳴り、乗員たちが持ち場へと走る。また後部に搭載されたカタパルトからは、零式水上偵察機が射出される。


 水偵は敵艦隊上空へと向かい、そこで敵艦隊の動きを逐一確認し、戦闘開始後は弾着観測の任務にあたることとなる。


「1時方向に艦影視認!高速です!距離1万5千から急速接近!」


「面舵一杯!敵艦隊の針路を妨害する!」


「ようそろう!面舵一杯!!」


 舵手が舵輪を右に一杯に回す。高速で走っているため、舵が利くまでに少々タイムラグが発生するが、利き始めると遠心力が襲い掛かってくる。緒方ら乗員は、近くの物にしがみ付きながら体を支える。


 だがその最中であっても、緒方は次の命令を下していく。


「砲術長!適宜撃ち方はじめ!当てることは考えなくていい!まずは敵を妨害しろ!」


「了解!射撃準備完了次第、撃ち方始めます!」


 前部に2基、後部に1基搭載された14cm連装砲が旋回を始め、砲に仰角が掛けられる。


「撃て!」


 準備が完了した砲から次々と発砲する。


「全弾遠弾!」


「構わん!撃ち続けろ!」


「敵艦隊、取舵をとります!」


 緒方の予想通り、敵は左に回頭した。


「よし!丁字を書いたぞ!今のうちにどんどん撃て!」


 敵が回頭し終わるまでの間、相手は正面の砲しか撃てないのに対して、こちらは全砲門を向けられる。一時的ではあるが、砲門数が敵に勝る瞬間が現出する。


 ここぞとばかりに、「石狩」をはじめとする各艦は、装填速度の速い小口径砲の特性を生かして、つるべ撃ちで敵を叩く。


 とは言え、敵も黙ってはいない。


「敵艦発砲!」


「敵艦隊増速!我が部隊のさらに前方に回り込む模様!」


 敵も撃ち出したのと、速力を上げて緒方らのさらに前方へと回り込もうとしていることが報告される。


「1発でもいい!早く命中弾を出せ!」


 そんな緒方の願いが届いたのかわからないが、3番艦の敵駆逐艦に爆発の閃光が起き、煙が立ち昇り始めた。


「「山波」の砲弾が命中した模様!」


「先を越されたか」


 先に撃ち出したにも関わらず、「石狩」よりも先に後続の「山波」が命中弾を出した。これは緒方にとっては残念な結果であった。


 とは言え、こちらが先に敵に打撃を与えたことは間違いない。


「「山波」に負けるな!」


 部下に発破をかける。そしてようやく、「石狩」の砲弾が先頭の敵巡洋艦に命中した。


「よし!行け!」


 だがしばらくして、後方から強烈な爆発音が聞こえてきた。


「「海棠」被弾!」


「しまった!」


 こちらも「海棠」が被弾してしまった。


「「海棠」の様子は!?」


「大火災発生の模様!」


「クソ!」


「海棠」は二等駆逐艦である。艦体が小さい分、被弾には弱い。当たり所によっては、既に致命傷を負っているかもしれない。


「「海棠」に信号。無理せず戦線を離脱!必要ならば艦を放棄せよ」


 艦を喪うのは惜しいが、それ以上に艦を操れる人間は貴重である。緒方は「海棠」の春日艦長に、必要であれば艦を放棄するよう伝達する。


 日本国にとっては初めての艦艇の大被害であった。


「「海棠」の仇討ちだ!どんどん撃て!」


 敵艦隊との距離はさらに縮まりつつあった。そのため、日本艦隊の砲弾がかなり命中するようになった。とはいえ、逆を言えば敵の砲弾も命中するようになる。


「石狩」、「山波」、「快風」もそれぞれ被弾した。ただし、幸いだったのはいずれも致命傷にはならなかったことだ。


 一方先に命中弾を出しただけあり、日本艦隊はより多くの命中弾をマシャナ艦隊に与えていた。しかし、小口径砲弾ゆえに、こちらも致命傷にならず、それどころか時間が経つにつれて相手との速度差から再度距離が開き始めた。


「いかん!」


 このままでは敵を逃がしてしまう。緒方の額に焦りの汗が浮かぶ。


 そして、「石狩」の主砲弾が敵の巡洋艦に着弾する。その砲弾は艦尾に近い箇所に着弾して爆発した。


「な、なんだ!?」


 緒方は信じられない光景を目の当たりにした。今命中弾を与えた巡洋艦の艦体が文字通り吹き飛んだ。巨大な爆煙を残して、敵艦の姿は掻き消えてしまった。


「何が起こったんだ!?・・・まあいい。主砲照準、後続の敵に変更!」


 だが、またしても予想外の報告が舞い込む。


「敵艦隊再度取舵をとります!離脱する模様!」


「バカな!何故逃げる!?」


 確かに巡洋艦を1隻血祭りにあげたが、敵はまだ4隻が健在。対してこちらは3隻。十分競り勝てる可能性はあるのに。


「旗艦を喪って怖気着いたのか?」


「追撃しますか?」


 部下の言葉に、緒方は少し考え込んだが。


「いや、どうせ追いつけん。それに俺たちの仕事は敵を瑞穂島に寄せ付けないことだ。こっちも被害が出てる。今はそちらを優先する。火災の消火急げ!それから「海棠」の援護に向かう」


「了解!」


 緒方はこれ以上の水上戦闘は無理と判断し、後は航空隊に任せることにした。



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