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エルトラント奪回作戦 ①

 重機の音が鳴り響き、メリメりと音を立てながら木が倒される。倒された木を集まった作業員たちがトラックから伸ばされた縄を掛け、その場から外へと運び出す。


 熱帯の太陽に照らされながら、森の伐採と整地が急ピッチで進められていく。


「いやあ、さすがに機械があると早いな」


 休憩時間となった作業員の一人が、腰かけて用意された水で喉を潤す。


「ああ。聞けばアメリカさんはこんな機械をたくさん持ってたって話じゃないか」


「お話にならねえよな」


 そんな彼らの目の前では、多数の重機が忙しなく動き回っている。日本製の均土機やダンプカーの姿もあるが、それとともにフリーランド製の車両の姿も目立つ。いずれも国交樹立後に、同国から兵器サンプルや技術の供与と見返りに引き渡された物だ。デザインは少し古めかしいが、実用性は充分で、これらの導入で瑞穂島の開発速度は急速なものとなった。


 遅々として進まなかった油田や精製設備の整備や埠頭の工事なども、これらによってかなり進捗した。


 その多数の重機が、今未開のジャングルを開拓し、新たな住宅街の建設工事にあたっていた。整地が済んだ場所では、伐採した木を柱などの建材に加工し、組み立てる作業が始められていた。


 その作業には、兵隊だけでなく民間人の姿もあった。今回やって来た沖縄と樺太からの一般市民の内、なんとか労役に就ける者が選抜され、土方仕事の手伝いをしていた。今休んでいる作業員たちも、民間人であった。


「しっかし。ここも人遣い荒いよな。こっちは年寄りで、おまけに着の身着のまま逃げてきたってのに、すぐに働かされるんだからな」


「そうは言っても、ソ連軍に追い回されるよりはいいだろ」


「そりゃそうだけどさ」


「それに仕事がもらえたんだから、ありがたいと思おう。何もしないよりマシさ」


「まあ、船に押し込められてる連中のためにも、がんばるしかないか」


 瑞穂島にやってきた民間人の中で、労働力に数えられない子供や老人、そして子供の世話をしなければならない母親を除く女性たちに対して、日本国は作業への協力を要請した。


 命令ではなく、要請と言う形になったのは、着の身着のままで理由もわからぬまま異世界にやって来てしまった彼らに配慮してのことであった。


 比較的体力のある者は、避難者用の住宅や学校建設の作業手伝いに、また代用教員であった青年や少女たちはそのまま正規教員として、日本国が突如として多数抱えてしまった子供たちの世話を。さらに数は本当に少なかったが、元々公務員や医者と言った元から手に職を持っていた者は、その職に就くこととなった。


 とにかくあらゆる職種の人間が不足しているので、このような形になった。


 樺太からの避難民はソ連軍から命からがら逃れ、また沖縄からの疎開民は出発する1か月前に那覇が大空襲に遭い、焼け出されて本土に疎開しようとしていた。そうしてなんとか船に乗り込み脱出したかと思えば、いきなり異世界である。


 肉体的にも精神的にもかなり苦しい立場に彼らは置かれた。失神や気絶、中には錯乱した者も出たほどである。ただしそうした人々の数は極少数で済んだ。


 来てしまった以上は仕方がないし、他にどうしようもないのも事実である。それにソ連軍の進撃やアメリカ軍の上陸に怯えなくて良くなったのも事実である。何より、日本国も戦時中ではあったが大日本帝国のような戦時下のギスギスした空気もなかった。


 これまでと同様、多くの人間が一時的にこそ困惑したが、すぐに新しい生活作りへと動き始めた。


 こうして、日本国が抱え込んだ新たな人々を巻き込んでいく中でも、時間は進んでいく。瑞穂島では1万人の新たな国民のための様々な設備や施策の整備が、これまで以上に急ピッチで進められた。


 それと平行して、エルトラント奪回作戦の準備も進められる。フリーランドとメカルクから陸軍部隊の準備状況と、上陸作戦発動予定日が伝えられ、日本国は艦隊ならびに航空戦力、さらには輸送艦艇をその作戦に協力させる。


 ちなみに島内の開発が急ピッチなのは、現在この作戦に充当する可能性のある輸送船の一部を、一時的な避難民の収容施設として利用しているというのも理由であった。


 少数の陸戦隊と陸軍兵しか陸上兵力を持ち合わせていない日本国には、大規模な地上戦を行うことはできない。その代りとして、航空戦力と艦隊戦力などを提供する形になる。


 このため、「おきつ丸」をはじめとして、今回の上陸作戦に参加する予定の輸送船は全てメカルク公国に移動していた。現地のドックで上陸作戦に備えての船体整備ならびに、終結したフリーランド、メカルク、エルトラント各国の軍隊との共同訓練を行うためであった。


 そして瑞穂島でも、航空隊や艦隊の出動準備と訓練が行われていた。




 賢人は徐々に近づいてくる「駿鷹」に、緊張しながら接近していく。決して「駿鷹」は小さな船ではないが、海上では豆粒でしかない。そしてその飛行甲板上に張られた着艦用フックをしっかりとキャッチしなければ、大事故につながる。


 計器と自分の目を頼りに、風防を一杯に開けて入り込む海風に身をさらしながら、機体の速度、高度、角度を適正なものとする。


 みるみるうちに「駿鷹」の飛行甲板が迫る。そして艦尾を通過した直後、機体が一瞬軽く衝撃を受ける。と、そのままスロットルを再度入れて速度を上げて、上昇させる。


 着艦の動きを行いつつ、直に着艦せずそのまま飛び上がるタッチ・アンド・ゴーだ。


「よし、いいぞ平田」


 無線から中野の声が聞こえてくる。見れば、いつの間にか彼の乗った零戦が横に並んでいた。


「着艦は何度やっても緊張しますよ」


「そうだな。だが自転車と同じだ。慣れれば体が覚えているもんさ。まあ、だからと言ってなまるのも事実だからな。緊張感は持っていて悪いもんじゃない」


 今日賢人は、仲間のパイロットたちとともに模擬着艦の訓練を行っていた。ここ最近は地上基地からの出撃や訓練ばかりで、着艦の訓練を行っていなかったパイロットたちに、近々行われるエルトラント上陸作戦支援任務に備えて行われていた。


「よし、お前は予定回数やったから、佐々本と一緒に帰れ」


「了解」


 賢人はこの後もパイロットの監督役として残る中野と離れ、武が訓練を終えるのをグルグル旋回しながら待つ。


「待たせたな」


 しばらくして、武の乗る零戦が上がってきた。


「おう。じゃあ、帰るぞ」


 2人は編隊を組み、瑞穂島の飛行場へと戻る。島の周囲の海上から飛行場へ戻るコースは、もはやお馴染みの飛行経路である。


 島内に入り、飛行場へのアプローチに入る。その途中で、形成されつつある市街地の上空も通過する。


 すると、その一角の整地されたばかりの空き地に、数個のテントが並び、さらに子供たちが並んで座っているのが見えた。開設された小学校の青空教室だろう。教室も教科書も満足にないと聞いているが、賢人よりも若い代用教員たちが頑張っているとも聞いていた。


 上空を通過するのは一瞬だが、賢人には子供たちが立ち上がってこちらに手を振っているのがわかった。


 その光景に微笑ましい気持ちになりつつも、賢人はすぐに気持ちを着陸に集中する。着艦よりは簡単だが、それでも事故の起こりやすい瞬間だけに、ここでのミスは命取りになる。


 脚を出し、滑走路を注視しながら機体を降下させた。そして、指揮所に上がっている旗や誘導のために立っている整備兵も、特に異常を示していないため、そのまま通常通りに滑走路へと機体を滑り込ませた。


 舗装するまでには至っていないが、滑走路も以前に比べて大分整備された。その結果、着陸時の衝撃や発生する砂埃などが改善されている。


 整備兵の誘導に従い、賢人は零戦を駐機場の所定の位置に止めた。すぐに整備兵が駆け寄ってくる。


 その隣には、遅れて着陸した武の機体が止まる。


 賢人は機体に載せておいたサイダーの瓶を取り出すと、1本を整備兵に渡した。


「整備頼むね」


「はい。任せてください!」


 上機嫌で答える整備兵に機体を託し、賢人は機体から降りた。そして隣の機体に歩み寄る。


「お疲れさん」


「ああ、お疲れ」


 武も同じように冷えたサイダー瓶を持って降りてきた。


「着艦は毎度のことだけど、疲れるな」


「だよな。でも、着艦訓練するってことは、今度は俺たちも出撃するわけだろ」


「それはどうかな。搭乗割が出るまでわからないぞ」


 前回のトレア軍港空襲では、出撃したのが「麗鳳」だけであったので、多くのパイロットが留守番となった。


 しかし、今度はより大規模な作戦であるため、前回は留守番組だった賢人らにも出撃の可能性があった。ただし、彼の言う通り島を防衛する戦力が必要である以上、また留守番の可能性もあったが。


「それに、出撃できなくてもこの島を守ることだって大事だぞ」


「まあ、お前の場合コレもいるしな」


 武が意地悪そうな顔で小指を立てる。


「うるせい!お前だって、ラミュとマナがいるじゃないか」


 ラミュはマシャナの捕虜。マナはこの島の先住民の娘。二人とも女性で、最近はルリアとともに軍属扱いで色々な補助業務に携わっていた。自然仲も良くなる。


「やめろよ。俺がまるで二股掛けてるみたいじゃないか」


「事実じゃないか」


「二人はそんなんじゃねえよ!そんなこと言ったらラシアはどうなるんだよ!」


「あいつのは一方的な好意だって!」


 そんな感じで2人は女に関するお喋りをしながら、報告のために指揮所に向かうのであった。随分ふざけているように見えるが、こういう会話ができることこそ、まだ平和である証と言えた。しかし、戦雲は着々と近づきつつあった。

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