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本格参戦 4

「司令。攻撃隊より入電。敵飛行場完全に撃滅セリです」


 その報告がもたらされると、軽空母「麗鳳」の艦橋内にどよめきが起きた。


「やったな」


 司令の坂本も満足げに頷く。


「これで作戦を次の段階に動かせますね」


「うん」


 作戦予定では、航空隊の攻撃で制空権を確保。その後敵艦隊を撃破することになっている。


「今のところ、「伊50」からも水偵からも何も報告はないな?」


「はい」


「我が国の諜報員からもです」


 と付け加えるのは、眼鏡を掛けた白人。今回観戦と連絡目的で「麗鳳」に乗艦しているエルトラント海軍のサルタ・トワ中佐だ。なお会話は通訳を通してのものとなっている。


「ということは、敵艦隊は南北の軍港に引っ込んだままか」


「北部はともかく、南部の艦隊はこの飛行場攻撃を受けて出港してくるのではないでしょうか?」


 部下の言葉に、坂本は海図を覗き込んだ。


「それにしても、軍港出口に「伊50」が貼りついているから、発見されないわけがない。航空隊を収容後、すぐに補給に掛かれば今日中にもう1回攻撃を仕掛けられる。それで敵艦隊を撃破できれば、今回の作戦はほぼ成功だ」


 マシャナ艦隊は北部のヤンザと南部のトレアの軍港に分散配置されている。今回の作戦では、南部の制空権確保後、南部の敵艦隊を撃破することになっていた。出来れば他の艦隊や飛行場も撃破したいところだが、艦に搭載できる燃料や弾薬に制限があるのと、敵の反撃の可能性を考えればあまり欲張りはできない。


 加えて、マシャナ艦艇はいずれも高速であるから、万が一発見されれば追いつかれて逆撃される恐れがある。坂本が潜水艦や水偵からの報告を気にしているのも、そのためだ。


 そうした観点から見ても、エルトラント側の諜報員による情報はありがたかった。決して豊富とはいえない日本側の偵察能力を十分に補っていた。


「あなた方の飛行機が優れているのは理解できますが、本当に飛行機だけで戦艦や巡洋艦を含む艦隊を撃破できるのでしょうか?」


 トワが恐る恐ると言う感じで質問してきた。


「トワ中佐。我々の航空隊は既にマシャナの戦艦を撃沈した実績がある。撃沈できないなどということはない」


「しかし、あんなちっぽけな飛行機で、本当に巨大な戦艦が沈むものでしょうか?自分にはどうも信じられません」


 彼の言葉を見て、坂本ら日本人は全員こう思った。


(((航空機で戦艦は沈められないと思ってるんだな)))


 航空機が戦艦を沈められない、少なくとも洋上で航行中、戦闘状態にある戦艦を沈められないという考え方は、日本海軍でも極最近まで論争の的であった。少なくとも開戦前までは、広く信じられていた。


 しかしながら、それは大東亜戦争(太平洋戦争)開戦直後に決着がついてしまった。仏印より発進した日本海軍の陸上攻撃機隊が、英東洋艦隊の戦艦2隻を撃沈してしまったからである。しかも、航行中で無傷の戦艦をである。おまけに撃沈した内の1隻、「プリンス・オブ・ウェールズ」は当時の大英帝国の最新鋭戦艦であった。


 そして今の日本国では、この世界に転移後にマシャナの戦艦を撃沈した実例もある。


 だから坂本ら日本国人にしてみれば、戦艦でも飛行機で沈められるという自信があった。何せ実例があるのである。


「安心したまえ中佐。君らの飛行機には無理でも、我々の飛行機ならそれも出来る」


「はあ・・・・・」


 いくら言っても、トワにはどうも信じられないようだ。


(まあ、彼らの飛行機の常識がアレではな)


 エルトラントも、かつては飛行機を保有していたらしい。しかしながら、彼らが持っていた飛行機はメカルクが保有していたのと同じレベル。すなわち、地球で言えば第一次大戦のレベル。木製骨格に帆布張の複葉機であった。そんな飛行機では、戦艦どころか駆逐艦を撃沈することさえ一苦労であろう。


 そんな彼らからすれば、全金属製の飛行機の性能は脅威に違いない。単に速度や、搭載できる爆弾が大きいだけではなく、急降下や超低空からの雷撃を可能にしているなど、格段に違う技術の差があった。


「ま、とにかく見ていたまえ」


 わからなければ実際にやって結果を見せるだけである。坂本は彼に早くそれを見せてやるべく、攻撃隊の帰還を心待ちにしていた。


 それから2時間ほどして、攻撃隊が帰還してきた。対空砲火で損傷した機はあったが、損失は無しの全機帰還であった。


「再出撃可能な機体は急ぎ燃料と弾薬を補給しろ!次は戦艦が待ってるぞ!」


「予備機を引っ張り出せ!」


「給油急げ!」


「魚雷の調整出来てるな!」


「爆弾を出せ!」


 機体に取り付いた整備兵たちが損傷機の修理や、予備機の組み立て、再出撃に向けた整備に補給作業にと、大車輪で作業を進めていく。


 その間に機体から降りたパイロットたちは、搭乗員控室で昼食として用意されたおにぎりやサンドイッチを、砂糖をタップリ加えたコーヒーや紅茶で流し込んでいく。そして食事が終わると、短時間の仮眠をとる。


 体力を消耗するパイロットにとって、栄養のある食事と睡眠は必要不可欠なのである。


 整備や補給には大体2時間ほどの時間を要する。パイロットたちはその時間を食事や休養に使い、次の出撃に万全の状態で臨むのだ。


 整備兵の必死の働きで出撃準備を終えた機体が、飛行甲板へとエレベーターで上げられ始める。そして発動機の暖機運転など、最後の準備に入った。


「搭乗員整列!」


 食事と短い休養を終えたパイロットたちも、整列して出撃前の作戦説明を受ける。


「あと15分もあれば攻撃隊の発進を開始できます」


「よし」


 飛行長の報告に、坂本は時計を見る。時刻はまだ正午も回っておらず、充分出撃可能な時間帯だ。あとは機とパイロットの準備が終わり、出撃させるだけである。


「司令、緊急電であります!」


 通信室からの伝令が、血相を変えて走って来たのはそれから10分後、攻撃隊発進5分前であった。


「どうした?」


「はい。「伊50」より入電です!」


 坂本は報告電を手に取って一瞥すると、苦笑いした。


「やりやがったな、河西中佐」





 その3時間前、ちょうど航空隊による空襲が開始されたこと、エルトラント南部トレアの軍港入り口に「伊50」潜水艦はあった。同艦は海中にジッと潜み、聴音器で周囲の警戒をしつつ、定期的に潜望鏡を短い時間上げて見張りを行っていた。


 既にこの任務を始めて丸2日近く経過していたが、艦が発見された兆候はない。夜間には大胆に浮上して換気とバッテリーの充電を行っていたが、港の方は灯火管制している様子もなく、出てくる艦艇もいなかった。


 そんな感じで退屈な監視任務を行っていた「伊50」であったが、この時初めて聴音が艦艇の航行音を捉えた。


「潜望鏡深度まで浮上!」


 艦長の河西は、艦を潜望鏡まで浮上させてその姿を確認した。


「駆逐艦らしき艦が1隻・・・おお!その後ろから戦艦が来るぞ!」


 潜望鏡には、駆逐艦らしい小型艦と、戦艦らしい大型艦が映し出された。


 マシャナの軍艦は地球の軍艦には信じられない高速を発揮できる。河西はそう聞かされていた。しかしながら、目の前に現れた駆逐艦も戦艦も、15ノットほどの速度で航行していた。


「港から出たばかりで、まだ速度が遅いんだ」


 とはいえ、水中の潜水艦の最大速度は10ノットに満たず、それすら電池を僅かな時間で放電してしまわないと出来ない。


「遠いな。雷撃は無理だな。やり過ごして敵艦の出港だけ報告しよう・・・しかし、出てきたのは2隻だけか。訓練か何かかな?」


 確認できるのは駆逐艦と戦艦が1隻ずつだけだった。たった2隻で出撃はありえないので、おそらく訓練と河西は判断した。


 それからしばらく、河西は2隻の様子を見ていた。そして、思いがけない事態が起きた。


「天祐だ!敵艦が戻って来るぞ!」


 外洋に出るかと思った敵艦が、艦首を翻して港の方へと向かい始めた。それも「伊50」に近い場所を通って。


 本来であれば報告を優先だが、相手は2隻でこちらを発見している様子はなく、低速で直進航行を続けていた。絶好の標的である。


「魚雷戦用意!方位280!距離4000!的速15から16!」


 乙型改に分類される「伊50」には艦首に6基の53,3cm魚雷発射管を装備していた。もちろん、魚雷も搭載されたままだ。それも、強力な潜水艦用酸素魚雷である95式魚雷だ。


 河西はこの時とばかりに、魚雷戦用意を命じた。魚雷発射管室では水雷員が魚雷の調整と発射管への装填を行う。


「魚雷装填完了!」


「了解・・・いいぞ!絶好の射点だ!」


 距離はさらに近づき、敵艦の姿がハッキリと見えた。


「魚雷・・・全弾撃て!」


 6発の酸素魚雷が、一斉に発射された。艦首の重量物が放出されたことで、艦が前方に浮き上がる。それをすぐに、乗員たちがタンクのバラストで補整する。


 一方河西は、潜望鏡で敵艦の姿を凝視し続けていた。


 敵は相変わらず低速で直進航行しており、魚雷に気づいた様子はない。


「間もなく命中時間!」


 ストップウォッチで時間を図っていた部下が、河西に知らせる。


「おう」


 その直後、轟音と衝撃が「伊50」を揺さぶった。そして、河西は高々と上がる水柱をその目で見た。


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