本格参戦 3
作戦会議開催から1ヶ月後、軽空母「麗鳳」を旗艦とする軽空母2、巡洋艦1、駆逐艦4隻からなるエルトラント攻撃艦隊は出撃した。この艦隊に先行すること2日前には、前路警戒と偵察のために潜水艦「伊50」が出撃している。
艦隊指揮官は「麗鳳」艦長の坂本少将である。
「まさかこんな形で航空打撃作戦を行うことになるとはな。1年前には考えられなかったことだよ」
「1年前は、まさか異世界に飛ばされるなんて想像外でしたからね」
坂本の言葉に、「麗鳳」副長の瀬野忠治大佐は苦笑しながら答える。
「まあな。その異世界の敵相手で、乗員たちも複雑だろうな」
「どうでしょう。もう1年経ちますからね。皆吹っ切れてますよ」
「そうじゃないと困るがな。俺たちには新しい故国も出来たんだ。そのために戦うしかない」
「そうですね。我々は自分の国がまだあるだけ、ありがたいと言えましょう」
瀬野は今回乗り込んでいるエルトラント人の顔を思い出す。
今回乗り込んだエルトラント人、サルタ・トワ中佐はエルトラント海軍から派遣されてきた連絡士官である。
彼の故国であるエルトラントは、現在マシャナに完全占領されており、一部のゲリラ部隊やレジスタンスが山などに篭り抵抗を続けているという。エルトラントの王室も、国内の拠点を転々として逃げ回っているという。
そんな彼らにとって、現状の亡国の状態は屈辱であるし、祖国奪還は当然の悲願である。しかしながら、彼ら自身にはもはや自力で祖国を奪い返す力はない。
かつてあったという陸海空軍は、マシャナとの戦争でその戦力のほとんどが喪われ、捕らえられた兵たちも捕虜として強制労働に従事させられているという。
そのため、メカルクやフリーランドに秘密裏に接触、援軍を度々打診していたようだが、彼らの力をもってしても奪回は容易ではなく、エルトラントは占領されたままであった。
そんな状況下で登場したのが、日本国である。そのためトワ中佐はじめエルトラント人は期待半分、不安半分という心境で日本国の動きを見ていた。
「祖国を喪うって言うのは、哀れなもんだ」
地球においても、祖国を喪った人々はたくさんいた。ナチス政権下で迫害を受けているユダヤ人はそのもっともたるものであろうし、そうでなくても動乱の時代によって祖国が占領されて解体されたり、傀儡政権や併合という事態となって実質的に国としての存在が喪われたに等しい国だっていくつもあった。
坂本ら日本人にとって、それはどこか他人事であり、遠くの国の話であった。しかしながら、これから向かう国は現にそうした状態であるし、それどころか坂本ら自身も1年前にはそれに近い状態にあった。
幸運であったとすれば、彼ら自身は流血などの手段に拠ることなく、新しい祖国を打ち立てられたことだろうか。
「今考えると、我々は別の世界に来たからこそ、新しい祖国を作れたとも言えますね」
「確かにな。瑞穂島を得られたのは本当に僥倖だったな」
帰る場所がある。これがどれだけありがたいことか。坂本たちはしみじみと感じるのであった。
「そんな彼らのためにも、今回の戦いは勝たないとな」
「信用も得られませんしね」
「ああ。お客さんたちはしっかりとついて来てるか?」
「我が艦隊の後方2000をしっかりとついてきています!」
見張りから報告があげられる。
今回の作戦には、フリーランドとメカルクからそれぞれ2隻ずつの艦艇が、観戦と援護目的で付いてきている。しかしながら、その目的に監視があるのは間違いないことだった。
同盟国になったとはいえ、彼らは日本国がマシャナと実際に戦ったところを見たわけではないし、さらにいえば日本国の本当の実力も見ていない。それを今回、しっかりと見届けるつもりなのだ。実際に監視の艦艇だけでなく、連絡士官も数名乗り込んでいる。
「観客もいるからな。しっかりとその目の前で力を見せておかないとな」
「と言っても、航空攻撃では目の前といきませんがね」
「確かにな」
二人は顔を見合わせて笑った。
2日後、艦隊は航空隊の発進予定地点に近づいていた。航空隊の発進は奇襲効果を発揮するために、黎明を予定していた。
航空戦に通じている坂本としては、薄暮に発進して黎明に攻撃としたかったが、それだと慣れないパイロットによる事故が起きる可能性が高く、結局夜明け前の黎明に妥協した。
「総飛行機発動!」
軽空母「麗鳳」では、対地攻撃用の爆弾を装備した97艦攻と99艦爆が発動機を回しはじめる。今回「麗鳳」が搭載したのは、この2機種だけで零戦は搭載していない。
零戦は全て「駿鷹」に搭載されていた。これは商船改造空母のため小型で速力も遅い「駿鷹」では大型の艦爆や艦攻の運用が難しかったためだ。
「「蔵王」の水偵からは何も言ってこないな?」
「はい。「蔵王」からも先行している「伊50」からも何の報告もありません」
「よし。では、予定通りに攻撃隊を発進させるぞ」
「了解!」
敵艦隊や航空機の接近と言った万が一の事態に備えていたが、その兆候は全く認められなかった。これなら、作戦を当初の予定通り実行できる。
「司令、時間です」
各機の暖機運転も終わり、最終確認を行った搭乗員たちも愛機に乗り込んだ。艦は風上に向かって速力を上げ、機が発進するのに必要な合成風力を起こしている。
坂本は満足げに頷くと、力強い声で命令を下した。
「よし。攻撃隊、発進はじめ!」
坂本の命令とともに、攻撃隊に発進開始の合図が送られる。
「発進!」
攻撃隊の発進が始まった。対地用の爆弾を装備した99式艦上爆撃機、97式艦上攻撃機が次々と発進していく。
手空きの乗員たちは帽子を振り、坂本ら幹部は敬礼をして発進する機体を見送る。
艦爆が18機、艦攻が12機。計30機全てが無事に空へと舞いあがった。「麗鳳」の全搭載機であり、これで「麗鳳」には、1機も飛行機が残っていない状態となる。
それは戦闘機を発艦させている「駿鷹」の方も同じで、33機搭載してきた艦戦の内27機を発進させている。
文字通りの全力出撃であった。艦隊周囲の索敵や、防空にもっと機体を残すべきではという意見もあったが、坂本は一撃での敵飛行場撃破を目論見、全力での投入を決めた。
攻撃隊は97式艦攻の半分に800kg爆弾を、残り半分には250kg爆弾2発を搭載している。99式艦爆は250kg爆弾である。さらに戦闘機にも60kg爆弾を搭載させて、少しでも破壊力を確保するようにしてあった。
「しっかりやってこい」
坂本は、航空隊が見えなくなるまで見送った。
「ト連装発信!」
母艦発進から2時間半後、目標到達直前で隊長の二見中佐は全機に突撃を命じる暗号電を発進した。
「敵は迎撃機を上げてないぞ。奇襲成功だ!」
目標となった飛行場が前方に見えてきた。滑走路に指揮所、格納庫と言った付帯設備。そして、駐機する飛行機の姿も見えた。その上空に機影はなく、完全な奇襲となっていた。
上空に敵機がいないとなれば、戦闘機隊も対地攻撃に移る。攻撃隊で一番速度が速い彼らは、真っ先に飛行場上空に進入した。
「て!」
機銃を乱射し、搭載してきた60kg爆弾を投下する。飛行場に次々と爆炎が起きる。
ようやく攻撃に気づいたのか、地上をマシャナ兵が走る。彼らは反撃を行うために対空陣地や、戦闘機の列線へと向かおうとするが。
「そうはさせんぞ!」
対空陣地に向かって、99艦爆が降下する。まるで垂直にでも落ちているかの如く、深い角度で彼らは突っ込む。そして、照準を付けると250kg爆弾を次々と叩きつけていく。
艦爆の攻撃によって、多くの対空陣地が発射する暇もなく破壊され、吹き飛ぶ。
また勇敢にも発進を試みた戦闘機の方は、上空から覆いかぶさるように突進してきた零戦隊の銃撃を受ける。7、7mmと20mmの機銃弾を受けたマシャナの戦闘機は、次々と引きちぎられ、或いは炎上していく。
マシャナ戦闘機の列線は、1機も飛び立てないままにスクラップの山へと変貌した。
格納庫や指揮所、管制塔と言った設備も次々に被弾して倒壊し、或いは燃え上がっていく。97式艦攻から水平爆撃で投下された250kg爆弾が、それらを破壊したのである。
この飛行場が壊滅状態に陥ったのはもはや誰の目にも明らかだった。
「よし、トドメを差すぞ」
最後に、二見中佐も乗りこんでいる6機の800kg爆弾を搭載した97艦攻が滑走路上空に進入した。
「て!」
1発が戦艦の主砲弾クラスもある重い爆弾が、97艦攻の胴体を離れて地面に吸い込まれていく。
滑走路は舗装されていたが、そこにめり込んだ800kg爆弾は盛大な爆発とともに、アスファルトやその下の土を空中に吹き上げる。その後には、巨大な穴が残る。
その巨大な穴が都合6個も滑走路に空いたことで、この飛行場への航空機の離発着は出来なくなる。復旧には、滑走路の巨大な穴を埋め戻すしかない。
この飛行場は完全に機能を喪失した。
「母艦に向け発信。攻撃は成功セリだ!」
二見は自信を持ってその報告を母艦に向けて打電させた。
こうして、作戦の第一段階である制空権の確保に、日本側は成功した。
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