本格参戦 2
今年もよろしくお願いします。
瑞穂島に造られた日本国の軍司令部。かつては木造の粗末な建物であったが、現在は同じ2階建てながら、コンクリート造りの頑丈そうな建物に改められ、背後には無線通信用の鉄塔まで立っていた。
当初は建物の不足から司令部は軍事と政治、両方の司令部を兼ねていた。しかしながら、その後メカルクやフリーランドと国交を結んで建築資材が持ち込まれ始めたことや、さらにこの世界に新たにやってきた陸海軍軍人から兵役を解除して役人を増やしたことにより、軍司令部と政庁の二つにわけられていた。
ただし人材面で言うと、現在も軍の総司令官と行政面での国家の代表は寺田大将(他国への体面的に必要として司令部要員の同意を得て昇進)が兼任したままであるし、他にも軍事と行政を兼任している人間は多かった。佐官や将官の数が不足しているがゆえだ。
寺田大将らは商船乗組員も含めて、トラ船団内部の人間の階級昇進を独自に行うなどしているが、それでも足りない。士官の絶対数がそもそも少ないのだから仕方がない。そのため、幹部陣は多忙であった。
そんな多忙な彼らが、今日は軍司令部の大会議室に一堂に会していた。エルトラント王国のマシャナ軍に対する攻撃計画に関して、メカルクやフリーランドの連絡士官、当のエルトラントから脱出してきた軍の士官なども参加しての会議を行うためである。
「メカルクやフリーランドの協力により、我が軍の戦力はかなり強化されました。しかしながら、兵隊の頭数が少ないために、エルトラントに上陸して全土を解放することは出来ません。そのため、我々の任務はエルトラントに駐留する敵艦隊と航空戦力を、出来る限り削ぎ、メカルクならびにフリーランドより派遣される上陸軍の上陸を容易ならしめます。これは既にこれまでの会議で確認されたことです」
新たに参謀長となった大石少将が司会を勤める。今回の作戦案も彼を中心とした参謀部によって作成され、それに寺田が裁可した形となっている。
「現在までに、我が方の潜水艦による偵察やメカルク側の諜報員の協力で、エルトラントに展開しているマシャナ軍の戦力はほぼ把握できています。よって制空権と制海権確保の観点から見て、我々が最重要攻撃目標とするべきは、敵の航空戦力と敵艦隊であります」
大石は黒板に提げられたエルトラントの地図に、棒を使って敵の戦力配置を示す。
「エルトラント王国は北緯20度から22度に掛けて南北に延びる形をしており、敵艦隊は北部のヤンザと南部のトレアに分散して停泊しているのが確認されています。飛行場は島内に最低でも4カ所が確認されており、他に1カ所飛行艇基地があります。我々がまず狙うのは、島の南部に存在する敵飛行場です。これを撃破し制空権を確保するとともに、敵艦隊に攻撃を掛けます」
大石はエルトラント王国南部にある飛行場のマークと、最南端に存在する軍港を棒で示して叩く。
「この2つを叩けば、王国南部の制空権と制海権を実質的に奪取したことになります」
「敵艦隊は確実に分散しているのか?もし南部もしくは北部の1カ所に集まると、厄介じゃないか?」
軽空母「麗鳳」艦長兼第二航空戦隊司令官の坂本少将が手を上げて質問した。
「確かに敵が急遽戦力の移動、或いは増援を行うことはあり得ます。そのために、エルトラント側の現地諜報者が24時間監視を続けています。敵に動きがあれば、確実に情報が寄せられます。それに、仮に敵艦隊が集まったら集まったらで、それは敵を一網打尽にする機会でありますし、逆に分散したままであれば各個撃破しやすくなります」
「なるほど」
「動員戦力は燃料や弾薬の備蓄などを考慮して、軽空母「麗鳳」に「駿鷹」、そして巡洋艦「蔵王」に駆逐艦「山彦」「海棠」「山波」「高月」、それに支援戦力として「伊50」を予定しています。その他の艦艇は瑞穂島の防衛と、整備中であるため外してあります」
瑞穂島の守りを空っぽにするわけにはいかない。また、メカルクやフリーランドと同盟を結んだことで、両国のドックを借りて艦船の整備を受けられることとなった。このため、日本国の艦船は交代でドック入りして整備を実施していた。
こうした状況から、保有艦船全てを作戦に投入するわけにはいかない。
「そうなると、航空機は60機というところか。航空機も艦艇の数も十分とは言えないな」
空母「駿鷹」艦長岩野少将が表情を厳しくする。「麗鳳」にしろ「駿鷹」にしろ、搭載できるのはそれぞれ30機がやっとだ。
「ですが敵には魚雷攻撃に対する備えがありませんし、航空機の性能でもこちらの方が1日の長があります」
この世界には魚雷や潜水艦と言った地球ではあたりまえであった武器に、無い物が存在している。特に魚雷を装備していることは、日本国にとって大きなアドバンテージであった。
この魚雷に関しても、現在フリーランドにサンプルが提供されて、量産に向けて研究が行われているところであった。
「それでも、敵艦隊が事前に出撃してこちらに挑んで来たらどうする?マシャナの軍艦は皆高速なんだろう?」
「そうならないよう、「蔵王」の艦載機による索敵を徹底させるとともに、電探を有効活用します。電探に関しても、フリーランドから一部の部品の供給を受けたおかげで、稼働率が向上しているとのことですので。また敵艦隊と洋上で戦闘を行うような事態になった場合は、敵艦隊の撃滅を最優先とします」
「そうなると、最終的な作戦の達成目標はどうなるのかね?艦隊もしくは飛行場を撃破した時点で終了となるのかね?それとも、両方撃滅するまでは続行するのかね?」
岩野が最終的な作戦の目標を確認する。これに関してしっかりと意思の疎通を取っておかないと、現場での混乱を惹起することになる。今回の作戦では、攻撃目標が艦隊と飛行場に分かれているのだから、なおさらであった。
「状況にもよりますが、仮に敵艦隊が事前に出てきた場合はその撃滅を最優先し、弾薬などに余力あれば飛行場も撃破してください。もし敵が出てこなければ、まず制空権確保のために飛行場を撃破し、しかる後に敵艦隊を撃破します」
「では、敵艦隊が飛行場の航空機の行動圏外から出ないような行動をとった場合は?」
「その時は、敵飛行場をアウトレンジで撃破してから、敵艦隊を攻撃となります。敵の使用する飛行機は、一部の飛行艇を除いてはこちらの艦載機の航続距離より短い行動半径しか持っていませんので」
マシャナの使用する航空機の性能は、この世界ではトップクラスであったが、日本国の使用するそれと比べると1~2世代古い。その分性能も劣っていた。
マシャナの航空機や艦艇の性能も、以前接触した航空機や艦艇から得られた情報に加えて、同盟国となったメカルクやフリーランドから提供された分も加わり、かなり詳細なものが入ってきている。
エルトラントのスパイの情報やこうした情報は、日本国はエルトラントに展開するマシャナ軍に対する作戦を作成する上で、大きな材料となっていた。
「今回の作戦では、「伊50」に先発してもらい、事前に艦隊の予定航路を偵察してもらいます。1隻だけで厳しい任務となるでしょうが、偵察機の数も限られているので非常に重要です」
「なあに、参謀長。敵はまともな対潜装備は持っていない。これまでエルトラントには本艦も2回行ったが、敵から攻撃を受けたことはない。1隻でも充分勤めを果たして見せますよ」
と自信満々に言うのは、「伊50」艦長の河西春吉中佐だ。
「そうはいいますが、浮上中に砲撃されたり爆撃を受ければ危ない。どうか油断せずにやってもらいたい」
「もちろん。今更死ぬ気なんてないですからね。それに、「回天」運ぶより遥かにやりがいのある仕事ですし」
「伊50」が日本国に合流したのは4か月前のこと。沖縄方面への「回天」部隊輸送中に敵艦の攻撃を受けた衝撃でこちらの世界に飛ばされてきた。
「回天」は酸素魚雷を改造し、中に操縦席を設けた有人誘導魚雷である。つまりは必死の特攻兵器であった。攻撃目標までは潜水艦によって運ばれるが、「伊50」はその母艦に改造されていた。
「回天」は一撃で敵大型艦を葬ることが可能とされていたが、実際のところは操縦が難しい上に、母艦諸共優秀な米軍の対潜兵器に探知されることが多いとのことだった。河西も二度ほど「回天」による攻撃を行ったが、実際に戦果を上げたかはかなり疑わしいと思っていた。
しかも、「回天」に乗り込むの操縦士の多くは学徒出身の予備士官や予科練出身の下士官で、つまりは若い人間の命を犠牲とするものであった。
そんな犠牲を出しながらも戦果も不透明な特攻兵器の運び屋よりかは、真っ当な攻撃任務の前路警戒の方が、河西ら生粋の潜水艦乗りとしては歓迎であった。
「よろしくお願いします・・・エルトラントやメカルク側からは、何か質問などございますか?」
大石は参加しているエルトラントとメカルク側の人間に質問がないか問いただした。
すると、一人のエルトラント人が手を上げた。
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