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初外交 9

「ルリア~機嫌直してくれよ。別に俺が抱きしめたくてあの抱きしめたわけじゃないんだし」


 ツーン!


「アハハハ。すっかりルリア嬢の臍が曲がっちまったようだな。平田」


 顔を膨らませ、賢人の言葉を無視し続けるルリアと、御機嫌をとろうとあたふたする賢人を見る中野は、面白そうに笑う。


 夜、交渉を終えて帰ってきた中野は昼間のことを聞かされた。賢人がメカルクの女性パイロットを「バッファロー」のコクピットに座らせた。それは別にいい、どうせ旧式機で売却予定の機体なのだから。


 問題はその後のことであった。そのことを聞いた中野は笑うだけであった。


「大尉。大尉からもお願いしますよ。俺別に悪くないんですよ」


 賢人が中野にも説得を懇願する。


 ルリアの機嫌が悪いのは、賢人がメカルクの女性パイロットに抱きつかれた話が、中野だけでなく彼女の耳にも入ってしまったためだ。それを聞いてから、ルリアの機嫌が極度に悪化した。賢人に「バカ!」とだけ言って、それ以降全く口をきいてくれなくなった。


 話を聞く限りだと賢人の言う通り、一方的に抱きつかれたから悪くないと言えば悪くないのだが。


「そうやって他人のせいにしたり、人に頼ったりするのは感心せんぞ。女の子の御機嫌一つ取れないで、何が戦闘機パイロットだ。自分でなんとかせい」


 中野は本気なのか面白がっているのか、手を貸す気はさらさらないようであった。


「はあ~了解」


 中野に援軍を断られたとなれば、もはや助けは期待できない。なんとか自分自身で彼女の御機嫌をとるしかなかった。


 と、賢人がルリアに四苦八苦している中、中野は武と一緒に今日行われた交渉の内容について話し合っていた。


「じゃあ、交渉は上手くいきそうなんですね」


「言葉通じんから苦労も多いが、とにかく両国の友好と通商関係締結に向かうことは合意したよ。それからあちらの使節団を助けた見返りってことで、掃海艇の燃料も手に入りそうだ。戦闘機の売却と、それと交換する形での物資の入手も上手く行きそうだ」


「それは何よりですね」


「だが難しいのはここからだ。メカルク側は、俺たちにマシャナに対する共同戦線を張るように提案している」


「共同戦線ていうことは、メカルク以外にもマシャナと戦っている国があるってことですか?」


「ああ。マシャナから手に入れた世界地図でも、この世界には他にデカイ島や大陸があることはわかってたからな。メカルクと外交するのは、単に一番近いからと敵の敵は味方てことだからな」


「そうですか。しかしそうなると、俺たちはマシャナと戦うことになるってことですか?」


「まだそれはわからん。今交渉内容を瑞穂島に打電して、回答を待っている所だからな。だが、俺が思うに多分寺田司令はメカルク側の提案を飲むと思う。今の日本国に提供できるもので一番高く売り込めるのは軍事力だからな。それに、俺たちは何度かマシャナと戦って実質的には敵対している。今後のことを考えると、共同戦線を張るって言うのは悪い話じゃない・・・佐々本は戦うのは嫌か?」


 すると、武は笑顔で返す。


「いえ、むしろ戦いたくてうずうずしてるくらいです。何せアメリカさんと本気で戦う前にこの世界に飛ばされて、肩透かしを食らいましたからね。敵機と真正面から空戦をしたいですよ」


「俺も武と同じです」


 会話に賢人が割り込んできた。


「何だ?ルリア嬢の説得は終わったのか?」


「いえ、諦めました。時間が経てばその内気分も変わるかもしれませんから」


「お前な~。まあいい。二人とも戦意旺盛なのは結構だ。今後マシャナと戦うことになった場合、どうなるかは俺たちの知るところじゃない。しかし、航空戦力の価値が地球よりも大きい以上、航空隊は大いに働くことになると思う。その時はよろしく頼むぞ」


 日本国の持つ航空戦力が、この世界では隔絶した性能を持っていることは、既にこれまでの戦いなどで実証済みだ。そうなれば、今後戦う時に航空隊が活躍するのは必然であった。


「望む所です・・・しかし、そうなると機体の補充がないのが痛いですね」


 船団に搭載されていた航空機を始めとする武器は、今のところほとんど消耗していない。しかしながら時間が経てば戦闘を行わなくても消耗する。訓練時の事故や、経年劣化など、理由は様々だが永遠不滅ということはありえない。いずれは全て消え去る運命にある。


 だから絶対に補給は必要なのだが、今の日本国にはその見込みはない。異世界であるのだから、日本から持ってくるのは不可能であるし、今後メカルク等と同盟を結んで生産を依頼したとしても、現状わかっている彼らの技術力では複製など無理だろう。


「今回は「おきつ丸」の戦闘機が手に入ったけど、今後もそんな偶然が続くとも思えんしな」


「もっといろんな艦や飛行機が来てくれませんかね~戦艦とか大型空母とか」


「そりゃ高望みし過ぎだって」


 武の言葉に、賢人が笑う。そんな偶然が続くのなら苦労しない。


「そうだぞ佐々本。それに、この世界に来るってことは、ほとんど日本に帰れないも当然だ。連れてこられる方はたまったもんじゃない」


 この世界は異世界である以上、日本に帰れるかは全くわからない。中野などはもう帰れないと決めつけていて、この世界で生きていくことを考えていた。賢人と武にしても、二度と日本には戻れない。この世界で生きていくしかない、という覚悟はあった。しかし、やはりそのような事態は誰だって嫌だというのはわかっている。厳に瑞穂島などでは、それが原因で精神を病む者がチラホラといる。


「そうですね。失礼しました」


「うん。だが、実際そういうことが起きないと装備の補充はままならないのも事実だからな。頭が痛い問題には違いない・・・それでも、俺たちには止まることは出来ない。この世界で生き残るために、やれることをやらないとな」


 中野の言葉に、賢人も武も無言で頷いた。


「さてと、難しい話はここまでにしておこう。そろそろ寝よう」


「そうっすね」


「平田はルリアを部屋に送ってやれ」


「え!?俺ですか?」


 突然のことに、賢人がギョッとする。


「ああ。何だ嫌か?」


「いや、嫌じゃないですけど・・・」


 すると、中野はちょいちょいと賢人を手招きする。


「?」


 首を傾げながらも、彼は中野に近寄る。


「耳貸せ」


「はあ」


 賢人に、中野は何事かを囁く。すると、賢人が仰天した顔になる。ついでに、顔が真っ赤になる。


「あの、それマズくないですか?」


「別に俺は構わないよ」


「いや、そりゃ大尉はいいかもしれませんけど。ルリアが余計に怒ったりすんじゃ」


「とにかく、ダメもとでやってみろ!だいたい俺に助け求めてきたのはお前じゃないか。嫌なら自分でなんとかしろ!」


「はあ・・・わかりました。やってみます」


 難しそうな顔をしながら、賢人はルリアに声を掛ける。


「ルリア、部屋まで送るよ」


「・・・」


 彼女は無言のまま立ち上がり、扉の方へと向かった。


「それじゃあ、送ってきます」


「おう」


 2人は連れだって、部屋を出て行った。


「大尉、賢人に何吹き込んだんですか?まさか・・・」


「バカ!外国の基地であんま変なことさせられるわけないだろ。ルリアを抱きしめてやれって言ったのさ」


「それだけですか?」


 中野の言葉に、武は拍子抜けする。


「それだけだよ。まあ、平田にはそれすらも恥ずかしかったらしいけどな」


「あいつ、というかあの2人。ああ見えて初心なやつらですからね」


「本当だよ。もっと大胆になってもいいんだがな。お似合いだし」


「全くですよ。とっとと結婚しろですよ」


「「アハハハ!」」


 2人は本人たちがいないことをいいことに、笑いながら話のネタにするのであった。色恋沙汰はいつの時代も面白がられるものなのである。


 ちなみに、しばらくして戻ってきた賢人の顔は真っ赤であったが、少なくとも顔をはたかれたような跡はなく、翌日からルリアとは普通に会話できたのであった。ついでにルリアの機嫌も良くなっていた。



 この3日後、日本国とメカルク公国との間で暫定的な外交関係締結に関する覚書が結ばれ、両国は友好関係の樹立と貿易、さらには軍事面での協力関係を結ぶことで合意することとなる。


 その誠意の証として、日本国はメカルク公国にデモ飛行用に揚陸した3機の戦闘機を譲渡することとし、メカルク側は燃料と食料の補給を今回来訪した艦艇に行った。


 もちろんこれは暫定とあるように仮の条約でしかなかった。今後両国はより詳細に貿易や軍事協力における内容を詰めていくこととなる。


 またその一方で、日本国はメカルク公国を仲介にして、反マシャナ帝国陣営各国との関係構築に動き出した。この世界で生きていくためには、協力者を増やすことに越したことはない。


 それはまた、日本国がマシャナとの戦争に本格的に舵を切ることも意味していた。彼らは生き残るために、戦う道を選んだ。


 そしてトラ4032船団がこの世界にやって来てからちょうど1年が経過した頃、物語は大きく動き出す。


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