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初外交 4

「異世界!?空想小説の話ですか?」


 小郡中佐が素っ頓狂な声をあげる。となりに座る浜田陸軍大尉も信じられないと言う表情をしている。


「いや、我々も信じられなかったことなのだが、事実だよ」


 田島は二人に、トラ4032船団の現状について語った。小笠原沖で海底火山の噴火らしきものに遭遇して異世界に流れ着いたこと。瑞穂島と名付けた島を拠点にして、日本国と言う国を立ち上げたこと。そして、マシャナと言う帝国と数度戦闘を行い、現在その敵対国であるメカルク公国との外交関係を結ぼうとしていることなどだ。


「貴官らもおかしいとは思うはずだ。嵐を抜けたらハワイの東に移動したり、我が軍の無線などが一切入らなくなるなど、常識ではありえんだろ?」


「確かに、その点では否定できませんが。さすがに異世界とは・・・」


「他に証拠はないのでありますか?」


 小郡に代わって浜田大尉が聞く。


「証拠ねえ。瑞穂島か、今我々が向かっているメカルク公国を見れば嫌でも信じるしかないぞ」


「しかし我々は船舶司令部からの命令で動いています。勝手な行動をとるわけには」


「その上級司令部は消滅しているのだぞ。もちろん、貴官らがどうしても基隆に向かいたいと言うのであれば、止めはしない。ただそこまで行くにしても、現海域からは遠いぞ」


「確かに。輸送船はいいでしょうが、本艦と掃海艇45号はとても燃料が足りません」


 小郡が切実なことを言う。小型艦艇の航続力は弱い。特に掃海艇は最大でも2000海里程度だから、あっという間に燃料切れを起こしてしまう。


「では我々と来るしかないだろう。補給できるかはわからんが、一緒にこればとりあえず港には入れるはずだ」


 日本国の艦船が入港することは、瑞穂島出港前にメカルク公国にオットーらが打電している。外交関係が出来ていない以上、燃料の補給の見込みは立っていないが、少なくとも辿りつけば停泊は出来るはずだ。海上を漂うより数千倍もマシである。


「わかりました。「山波」と45号は、私の権限で同道させていただきます」


「うむ・・・浜田大尉はどうする?燃料のある限り台湾に向かうかね?」


「いえ、護衛も無しで丸裸で行くことなどできますまい。大佐殿の言うことが嘘だとしても、敵潜水艦の好餌にしかなりません。「おきつ丸」と「本末丸」も私の権限で同行いたします」


「よろしい。では、簡単にだが現在わかっているメカルク公国の情報について。語っておこう・・・副司令、よろしいでしょうか?」


「それで頼む」


 すると、小郡と浜田は微妙な顔をした。本来は予備海軍中佐の長谷川に、海軍大佐の田島が敬語で話しているのだから、当然である。先ほどのトラ船団の話の中で、現在長谷川は日本国のナンバーツーとは言ったのだが、やはり実感に乏しいらしい。


 とは言え、上官の田島がそのような態度であるから、文句は口にしないが。


「ああ、二人とも慣れないだろうが。よろしく頼むよ。で、状況確認だが使節団よりもたらされた情報によればメカルク公国は・・・」


 それから30分ほど、4人はこれから向かうメカルク公国についての情報を確認した。


「ということだ。我々も色々とわからないことが多い。特に言葉の類は通訳が数名しかいない状況なのでな。くれぐれも不用意な行動はとらない様にだけ注意してくれ」


「「はい!」」


 二人は長谷川に向かって敬礼した答える。実際の所、内心でどこまで彼に敬意を持ったかは不明確だが、とにかく日本国の指揮系統に表面上は従う姿勢を見せたので、長谷川も田島も一安心であった。


「ところで浜田大尉。「おきつ丸」ともう1隻の輸送船・・・「「本末丸」です」そう、その「本末丸」なんだが、積み荷は一体何かね?「おきつ丸」の甲板には飛行機がビッシリ積まれているが?」


 田島が積み荷について尋ねる。


「「おきつ丸」も「本末丸」も、フィリッピンの部隊への補充物資を搭載しています。「おきつ丸」の航空機は半数をフィリッピン、もう半数はビルマ方面に展開する部隊向けの補充機材です。「本末丸」にはフィリッピンへ運ぶ戦車とトラックを搭載しています」


「ほう。そうなると、それを我が軍に編入できれば大きな戦力になるな」


 現在補充のないトラ船団にとって、それらの物資が加わるだけでも大きな戦力アップになる。ところが、浜田は微妙な顔をした。


「ただし、海軍の方が使いこなせればの話ですが」


「どう言う意味かね?」


「操作する人間がほとんどおらんのです」


「何だって!?」


「先ほど申した通り、我々は物資の搭載が遅れましたので船団を後追いしました。なので空中勤務者や戦車兵は主に先行した船団か空路でフィリピンへ向かいましたので、2隻に乗り込んでいるのは搭載の監督のためにわずかに随行した人間だけなのです」


「それは残念だな」


 どんな兵器も、それを使いこなせる人間がいてこそ効果を発揮する。同じパイロットであっても、使う機種が変われば慣れるまでに時間を要する。しかも、日本の場合陸海軍の航空機は仕様に細かな差異がある。

 

 例えば海軍の零式艦上戦闘機と陸軍のキ43(キは機体のこと)一式戦闘機「隼」は発動機は同じ中島の海軍名「栄」発動機、陸軍名ハ25(ハは発動機のこと)を搭載し、サイズ的にも似通った戦闘機である。


 しかしながら、同じようなサイズで心臓たる発動機も同じなのに、内部の艤装などには差異がある。特に計器の配置や武装に違いがあり、簡単には共用できないのだ。同じ口径の機関銃でも、弾丸の形状が違うのだ。


 ちなみに浜田の言う空中勤務者とは、海軍の搭乗員のことだ。


「まあ、それでも1機でも2機でも新しい稼働機が手に入ることはありがたいことだし、陸戦兵器は我々にとって一番不足している物だから、あって悪いことはどちらにしてもあるまい。とにかく、ここで出会ったのも何かの縁だ。同じ日本人として、ともによろしく頼むよ」


 残念そうにする田島から言葉を引き継いだ長谷川がそう締めくくった。




「というわけで、あの4隻を船団に編入してメカルク公国に向かう。使節御一行にもその旨を後で説明する。よろしく頼むよ」


 新たに合流した4隻を加えて、メカルク公国への航行が再開された。船団は慣れない合同であるため、単純な単縦陣をとって航行する。先頭から「蔵王」、「東郷丸」、「おきつ丸」、「本末丸」、掃海艇45号に、最後尾が駆逐艦「山波」だ。


 2番目に位置することとなった「東郷丸」は実質的に船団の旗艦となった。その船橋では、操船する乗員以外に、長谷川をはじめ使節団警護の面々が頭を突き合わせて今後のことを話し合っている。


「しかし新たな漂流者ですか、喜ぶべきか同情するべきか」


「東郷丸」に戻ってきた長谷川は、航行を再開すると早速中野や賢人たちを船橋に呼んで、現況を説明した。そして中野は、異世界へ迷い込んでしまった同胞に、複雑な想いを抱いていた。それはまた賢人や武も同じであった。


 仲間が増えることは喜ばしいことであるが、一方で彼らはどこかもわからぬ異郷の地に放り出されてしまったのである。自分たちも経験しているだけに、彼らの心痛は簡単に予測できることであった。


「そのことについては、彼らには悪いが後だな。我々は我々の仕事をしなければならない。とにかく、今は6隻で無事にメカルク公国に到着することと、それから現地で出来れば燃料を手に入れることも考えなければならない」


 船団に新たに加わった掃海艇は、航続力が短いので補給が必要であった。そのためには、どうしても目的地であるメカルク公国の協力が必要であった。


「先方が受け入れてくれますかね?」


「受け入れてもらえないと困るがね」


 メカルク公国から補給をしてもらえないと、駆逐艦と掃海艇は燃料不足で動けなくなる。そうなると最悪自沈させるしかなくなり、日本国にとって大きな痛手となる。


「とはいえ、タダでくれと言ってもさすがに無理があるだろうがね。そこは今後の交渉次第ということになるだろう」


「となると、我々の責任も重大になりますな」


 中野の言葉に、賢人と武も緊張する。3人はメカルク公国で航空機のデモ飛行を行う。その結果如何では、メカルク公国との外交関係にも大きな影響が出ること間違いなしであった。


「ルリア嬢にも迷惑を掛けますね」


「うむ」


 通訳が彼女を含め数名しかいない現状では、数少ない通訳に過重な負担を掛けざるを得ない。


「中野大尉。くれぐれも使節団とルリア嬢には万全の待遇を尽くしてくれ。到着前に機嫌を損ねられてはたまらないよ」


「よくわかっております」


「それから、こんなこと平田君や佐々本君には言うべきではないかもしれないが」


「「?」」


「先方の御機嫌取りを、これまで以上によろしく頼むよ」


 長谷川が申し訳なさそうに言う。


 確かに、二人にとっては好きになれるセリフではない。しかしながら、そうせざるを得ない状況にあったし、事態の深刻さは説明を受けて理解している。だから、二人とも不承不承ではあったが。


「「はい」」


 と答えるしかなかった。


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