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目標敵戦艦!

「攻撃隊発艦!」


 基地航空隊出撃の報告を受けて、艦隊の空母「麗鳳」からも艦戦6、艦攻16からなる攻撃隊が出撃を開始した。艦攻のうち9機が雷装、7機が250kg爆弾二発を搭載した爆装であった。


「頼んだぞ!」


「しっかりやれよ!」


 声援を受けるまでもなく、艦攻隊の隊員たちはやる気充分であった。


「隊長、今回も見事敵艦轟沈と行きたいですな」


 攻撃隊長青木健一中尉の乗る九七艦攻。今日彼の機体のパイロットを務める木場俊一一飛曹が、明るい声で言ってくる。


 「麗鳳」航空隊はこの世界で唯一敵艦撃沈の経験があり、それもあってか今日の出撃も前回に引き続いて戦果を上げようと言う意気込みが漲っていた。


「当然だ。だが油断だけはするな。敵が前回みたいな無様なマネをしてくれるかはわからないぞ」


「わかってますって」


 そう返答はするものの、木場も前回の攻撃には出動している。そのためか、どことなくその声には楽観とは言わないまでも、警戒しているようなものは含まれていないように、青木には感じられた。


 とは言え、木場も隊長機のパイロットに指名されたのだから、今では数少なくなってきた戦前以来のベテランパイロットである。だからその腕は信頼できた。


 22機の攻撃隊は、一路偵察機が通報してきた海面目指して飛ぶ。



 攻撃開始は、先に発進させた基地航空隊の方が早かった。


「敵戦闘機は・・・・・・やっぱりいないな」


 賢人は周囲の空を見回したが、敵機らしい機影は全く見えない。


「敵戦闘機無し。全機突撃せよ」


 無線機から雑音交じりではあるが、戦闘機隊を率いる中野中尉の命令が聞こえてきた。


「よし」


 賢人は小隊を組む武と手信号で合図をとると、迷わず降下を開始した。荷物となる爆弾を抱えているため、何時もよりも慎重に機を動かす。


 一方戦闘機隊とは別に、艦攻と艦爆も敵戦闘機がいないと見るや突撃を開始する。


「青山。発信、全軍突撃せよ!」


「はい!」


 攻撃隊を指揮する二見少佐は、電信席の青山一等飛行兵曹に全軍突撃を司令するト連送を打電させる。


 この電文を受け取るや否や、各機は小隊(三機)単位で突撃体型を作り、突撃を開始する。突撃する編成が小隊毎なのは、前にも言ったとおり、各機の連携訓練が不十分であるためだ。


 二見が直卒するのも一機の「天山」だけだ。


「天山」は帝国海軍の最新鋭艦攻で、前型式の九七艦攻と同じ中島飛行機の設計・製造で、三座式を踏襲している。しかし発動機は二千馬力に近い「護」を採用しており、機体は一回り近く大きい上に速度も100km以上高速と来ている。


 帝国海軍にとっては昭和十三年に実戦参加し旧式化著しい九七式の代替機として、その採用を待ちわびていた機体であったが、機体や発動機に起因するトラブルに悩まされ、やっと少数機を配備した所であった。


「敵は・・・・・・戦艦2、巡洋艦5、駆逐艦10に輸送艦10てところやな」


 見えてきた敵艦隊を双眼鏡で確認し、二見は敵の勢力をそう判定した。それを青山に続いて打電させると、彼はパイロットに命じる。


「神野!先頭の戦艦をやるぞ!」


「ヨーソロー!」


 パイロットの神野少尉は威勢よく答えると、機体を傾けて降下させる。二見は戦闘を進む戦艦クラスの大型艦に目標を選定した。


 本来狙うべきは航空母艦であるが、敵にそうした艦艇がいない以上、次に狙うべきは戦艦だ。


「青山。雷撃隊は戦艦。艦爆隊は敵巡洋艦を攻撃するように打電!」


「はい!」


 戦艦は分厚い装甲で囲まれているため、艦爆による急降下爆撃だけでは致命傷を与えにくい。しかし喫水線下を狙う雷撃であれば致命傷を与えられる。


 一方巡洋艦は装甲がそれほどでもないため、急降下爆撃で充分だ。1年前のセイロン島沖海戦では艦爆による急降下爆撃だけで英重巡「コンウォール」と「ドンセットシャー」を艦爆のみで撃沈している。


「突撃!」


 雷撃を掛ける艦攻は低空へ、一方急降下爆撃を掛ける艦爆は敵艦への攻撃地点へと回る。


「隊長、敵艦の速度はかなり速いです」


 雷撃のために高度を落としながらも敵艦の艦影を追っていた神野の言葉に、二見は頷く。


「やっぱりか」


 数度にわたってトラ4032船団はマシャナの艦艇と遭遇したが、その相手のいずれもが驚異的な高速を発揮していたと報告されていた。


「どれくらいだ?」


「大型艦でも、35ノットは軽く出ています。40ノット近いかもしれません」


 二見らの常識からすれば、通常大型艦が出しえる速力は35ノットくらいまでだ。戦艦クラスが40ノット近い速度で走るなど、ありえない。


「照準間違えるなよ」


「わかってますって」


 と返してきたが、神野の声は先ほどまでの威勢の良さが消え、緊張感が漲っていた。


(40ノットで走るなんていう化け物戦艦を相手にすれば、当然と言えば当然か)


 魚雷は敵の速度や針路から未来位置を予測し、的確な射点に魚雷を投じて命中させる。当然ながら、相手が高速で走り、なおかつ回避運動を行えば簡単には当たってくれない。


 ましてや、敵艦の速度が40ノットと言う未知の領域となれば、これまでの演習や戦闘での雷撃とは全く異なる次元のものだ。ベテランといえば、命中させようと思うなら全身全霊を込めなければ無理だ。


 機体の高度は既に30mを切っていた。眼下には海面が近づき、その波頭までしっかりと見える。そして機体は最高速度で突っ込んでいるため、その光景が瞬時に後方へ飛んでいく。


「敵艦発砲!」


 神野が叫ぶ。


「来たか!?」


 これまでの戦闘報告では、敵艦からの反撃は機銃は確認されている。反撃は予想できるものであったが、敵艦との距離はまだ3000はある。明らかに機銃ではない。


「来るぞ!」


 その直後、機体の後方で水柱が立った。


「着弾です隊長!」


「何・・・・・・高角砲じゃないぞ?」


 敵弾は空中で爆発せずに爆発した。明らかに空中の航空機を狙った砲撃ではない。


 さらに数回砲弾が着弾するが、いずれも水柱を立てるだけで、それに巻き込まれる艦攻はない。


「主砲を使ってるみたいだな」


 敵艦には遠目から見ても、30cm以上の大口径砲と思しき砲塔を搭載していた。恐らく主砲である。敵艦はそれを対空戦闘に使用している。二見はそう見た。


「臨機応変なのは褒めてやるが、徹甲弾が高速の飛行機に当たるわけないだろ!」


 水柱の立ち方やその爆発からして、敵艦の撃っている砲弾は対空戦闘に使える榴弾や焼夷弾ではない。敵艦の装甲をぶち抜くための徹甲弾かそれに近いものだ。


 徹甲弾は装甲板を貫くために弾頭部を強化し、さらに遅延信管を用いるなどして貫通力を高めている。その分炸薬は少ないので、直撃すれば破壊力は大きいが、爆風や破片、弾子で敵を破壊する榴弾や焼夷弾に比べて面での制圧はほとんど見込めない。


 帝国海軍でも主砲による対空戦闘を行うが、使う砲弾は対空用の三式弾(焼夷弾)か榴弾が普通だ。


 しかし敵はそれを使用せず、対空戦闘を行っていた。対空用に使える砲弾がないのか、咄嗟のことで混乱しているかはわからない。


「どちらにしろ好機だ!神野、しっかりやれ!」


「わかっとります」


 照準機を覗きながら、神野は徐々に大きくなる敵戦艦を見据える。距離が近づいたことで、機銃と思しき火線も飛んでくる。


「そんなもんで止められるかい!ヨーイ・・・・・・て!」


 神野が魚雷発射レバーを引くと、機体に吊り下げられた800kg魚雷が落ちる。その重量落下により、「天山」は浮き上がりそうになるのを神野が巧みな操作で抑える。


 そのまま低空で飛行しつつ、神野は敵艦後方を通過する。


「どうだ青山!?」


「待ってください・・・・・命中!水柱一本を確認!」


「よっしゃ!」


「ようし!」


 神野と二見も思わずガッツポーズだ。敵艦に肉薄するだけでも至難の業。魚雷を命中させようと思うならさらに苦労する。その苦労が報われたのだから、喜びも一入だ。


 間もなく、三人の乗る「天山」は安全圏へと離脱して高度を上げる。


「他の機はどうだ・・・・」


 自分の機の魚雷が命中し、さらに安全圏へと逃れたことで心にゆとりが持てた二見は、双眼鏡で他の機体の戦果を確認する。


 ところが、ここで二見は意外な事実を確認することになった。


「命中率が低いな・・・・・・」


 双眼鏡で見る限り、海面上に立ち上っている黒煙は三本しかない。つまり、三隻の敵艦が被弾して炎上していると言うことだ。これは輸送艦と合わせて三十隻あまりの敵艦の内、一割にしか被害を与えていないことになる。


 敵艦の対空火力は微弱で、撃墜された機体はそう多くないと思われる状況での攻撃で、これは意外な結果だった。


 ほとんどの機体が投弾に成功したのであれば、倍の敵を撃破していてもおかしくない。あまりに戦果が小さすぎる。


「敵の高速に惑わされたか」


 考えられる原因はそこだった。想定外の高速に目測を誤って、外した可能性が高い。


 だが原因はともかく、60機近い攻撃隊で攻撃しながら、敵艦隊の極一部にしか被害を与えてないのでは、今後の戦いに影響大なこと必至であった。


「青山、至急打電。第二次攻撃の要アリ。補給準備をされたしだ」


「了解」


 その時、遠くの方から爆音と閃光が巻き起こるのが見えた。

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