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攻撃隊出撃!

「コンターック!」


 日本海軍独特の発動機起動の掛け声と共に、栄、金星と言った発動機の爆音が、瑞穂島第一飛行場に轟く。これまでは、多くても同時に発動機を始動させるのはせいぜい4~5機であったが、今発動機を始動させた航空機の数は、ゆうに50機を越えている。


 零戦は21型、22型、32型など合わせて25機。それに爆弾を抱いた99式艦上爆撃機が17機に魚雷を搭載した97式艦上攻撃機が15機。そして試製「天山」艦攻2機の計59機。それらが一斉に発動機を回し、轟々とエンジン音を轟かせながら、プロペラを回している。


 いずれもトラ4032船団に搭載され、本来は南方のトラックやラバウルに展開する航空部隊に供給される筈だった航空機で、瑞穂島の飛行場完成後に陸揚げされたものだ。


「搭乗員集合!」


 出撃する搭乗員に集合が掛かり、特設の号令台の前に集合する。


「これより全機、発見した敵艦隊攻撃のために出撃する。打ち合わせどおり、まずは戦闘機隊が進撃し、艦爆と艦攻は距離をとって後を追え!」


 今回の攻撃隊隊長である二見少佐が、作戦の再確認をする。


 今回の航空攻撃では、本来行うべき59機での集団行動をとらない。と言うのも、確かに航空機の数もパイロットの頭数も揃ってはいるが、この中で統制がとれた集団と言えるのは273航空隊のみで、それも戦闘機が中心である。艦攻や艦爆はラバウルやトラックに展開する各部隊への補充機と補充兵であるため、統一した訓練をしたことがない。


 訓練を行っていないため、共同行動を行うのが難しい。もちろん出来ないことはないが、無理に編隊を行って衝突事故などを誘発するのは、補給が望めない現状ではリスキーであった。


 そのため、各部隊は小隊程度の小編隊で緩い編隊を作って進撃することとなった。もちろん、この場合今度は各個撃破される危険性が高くなる。


 しかし、偵察機の報告によれば敵戦闘機の存在も、空母の存在も確認されていなかった。そのため、このまま行くこととなった。


 ただし、編隊飛行訓練を行っている273航空隊の戦闘機隊は、露払いを兼ねてまず先行することとなった。


「敵についてはまだよくわかっておらんが、「麗鳳」や水偵の搭乗員の話では、敵の対空火器は大したことないらしい。だが、だからと言って油断するな!一瞬の油断が命取りになるぞ!いいか、我々には機材も命も無駄にする余裕はない!攻撃を終えたら、二度三度と出撃し、この島を守らにゃならん。だから絶対に攻撃を成功させ、帰ってこい!安易な自爆は許さん!わかったな!・・・・・・貴様らの奮闘を期待する!」


 二見少佐の訓示は良くありそうで、それでもって帰ってこいと厳命しているあたりが、瑞穂島に展開するトラ4032船団の現状を表していた。


 帝国陸海軍では、被弾すると脱出して捕虜になることを潔しとせず、パラシュートをつけず出撃したり、或いは被弾するとすぐに自爆したりする傾向があった。


 軍神として持てはやされていた陸軍の飛行第六四戦隊隊長、加藤建夫少将も敵機を迎撃中に被弾し、そのままベンガル湾へと自爆している。


 しかし、今のトラ4032船団には安易に自爆させるほど機材も人員も余裕はない。二見の言ったとおり、生きて帰り何度でも出撃してもらわなければ困る。


 だから今回の出撃でも、自爆を許さないよう命令が出され、搭乗員全員にパラシュートの装備が義務付けられていた。


「敬礼!解散!各員搭乗!」


 先任士官の合図と共に、パイロットたちは愛機へと走る。


 今回273空の戦闘機パイロットして参加する賢人もその1人だった。今回彼が乗るのは、零戦の22型だ。バランスの取れた性能を持つ型式と言われる同機だが、賢人は乗り込む寸前、翼の下を見てげんなりした表情になる。


「こんな物ぶらさげてちゃ、やり難いよ」


 彼の機体には、主翼の下にそれぞれ一発ずつの60kg爆弾が搭載されていた。


 零戦は爆弾架をつければ、主翼下であれば60kg。胴体下であれば250kg爆弾を搭載できる。ただし、あくまで搭載できると言う話だ。爆弾を搭載すれば、当然重量が増して燃費は悪くなるし、なにより零戦の命とも言うべき運動性能を犠牲にする。


 また機体強度の弱い零戦では、爆弾降下時に一歩間違えると空中分解する可能性すらある。さすがに60kg爆弾だけなら空中分解までは行かないだろうが、運動性能が落ちるのは間違いない。だから通常は零戦に爆装などさせない。


 今回敢えてそれをしているのは、敵に戦闘機のいる可能性が限りなく低いこと。そして、数限られた数の航空機で、少しでも敵艦隊に打撃を与えるためだ。


 しかし、賢人はその上の考えには不安以外の気持ちが浮かんでこなかった。


 まず60kg爆弾と言うのは、海軍の航空機が使う爆弾の中でも特に小型の部類だ。当たり所がよければ、駆逐艦や海防艦あたりなら沈められるだろうが、そうそう、そんな幸運が転がり込むとは思えない。戦艦や巡洋艦に対しては、焼け石に水だろう。


 加えて、そもそも賢人たちは戦闘機乗りである。本業は敵航空機を撃墜することであって、敵を爆撃することではない。爆撃訓練はあまりしていない。そんな自分たちが、海上を高速で疾駆する艦艇を狙い、爆弾を命中させるのはとても難しいと思っていた。


「ま、適当に落とせばいいさ」


 と、直属上官である中野中尉は笑い飛ばしていたが、爆弾だって貴重である。だったらそもそも搭載しない方がいいと思ってしまうのだ。


 浮かない顔をしつつ、賢人はパラシュートを座布団代わりにして機体へと乗り込んだ。


「一飛曹。どうかされましたか?」


 ベルトを付けるのを手伝うために翼の上に乗ってきた整備兵が、げんなりした表情の賢人を見て、怪訝な表情で訪ねてきた。


「あ、ああ。何でもない。ちょっと緊張しただけだよ」


「頼みますよ。自分たちの分まで、しっかり戦って来てください」


「わかってる」


 整備兵と敬礼を交わし、彼が降りるのを見送ると。


「やれやれ」


 と呟き、発進の時を待つ。


 程なくして、簡素な指揮所の脇に立てられたポールに、軍艦旗が翻った。発進開始の合図である。


 賢人も両手を振って整備兵に車輪止めを外させる。そして、誘導係りの整備兵の誘導に従い、先の機に続いて滑走路へとタクシーする。


 燃料満タン。おまけに爆装をしているので充分な滑走距離を稼がなくてはならない。出撃する各機は滑走路の所定の位置(機種ごとに必要な滑走距離は違う)から、発動機を最大出力に上げて、目一杯に滑走路を使用して発進していく。


 賢人は自分の番になると、機体を滑走させる。と、横に流れていく景色を見ると、整備兵や基地に残る将兵が旗や帽子を振って見送っている。


 その中に、賢人は長い髪とスカートを風に靡かせる二人の人影を見た。おそらくルリアとラミュの二人だ。飛行場にほいほいと出入りできる女の子など、他に考えられない。と言うよりも、瑞穂島にそんな格好をする女の子など二人しかありえない。


 遠目ではあるが、そんな二人はどうやらハンカチか何か、布を振っているようだった。


 賢人は二人に向けて、見えるわけもないのに敬礼をした。




「全船戦闘配置!」


 敵艦接近の報に、それまで警戒配置だった瑞穂島残留の各艦船の上でも戦闘配置が掛かった。各船に設置された砲座や機銃座に兵士たちが走る。既に砲や機銃のシートは外されていたが、さらにそれらが旋回俯仰を掛けられると共に、弾薬箱が開けられ砲弾や銃弾の装填準備が行われる。


「対水上、対空警戒を厳に!」


 電探などと言う高尚な物を搭載していない各船の見張りは、人間の目だけが頼りになる。マスト上の見張り台や、艦橋張り出しなどに配置された見張りの兵士たちが、双眼鏡で空と海を睨む。


「たく、艦隊の連中はなにやってるんだ!?」


 船団旗艦である「東郷丸」のブリッジで、若い士官が悪態を吐く。最近はさほどでもないが、以前は自分たちに対して偉そうにしていたくせに、島への敵の接近を許した艦隊にいらだちを隠せないようだ。


 そんな士官を、残留船団指揮官の長谷川はたしなめる。


「そう言うな。敵は何時どこから来るかわからない。最後に頼りになるのは自分自身だ。愚痴を言ってる暇があったら、今出来ることをしっかりとやれ」


「アイ!キャプテン!」


 悪態を吐いたものの、若い士官の所作はしっかりとしている。ここ最近ほとんど出港できない状況の中にあっても、船員たちの士気は高く、規律はしっかりと保たれていた。


 その様子に満足そうに頷いた時、上空を飛行機が通過する。


「味方攻撃機、上空を通過します!」


 長谷川は船橋の窓から、上空を見やる。すると、そこには堂々の大編隊の姿があった。


「しっかり頼むぞ」


 先ほどああは言ったが、やはり戦闘は本職に任せるしかない。


「頼んだぞ!」


「しっかりやれよ!」


 船団内のあちらこちらで、攻撃隊を見送る声や、帽子や手を振る船員たちの姿があった


 長谷川ら船乗りたちは、上空の攻撃隊が大戦果を上げ、敵を撃退することを強く願った。


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