ワレ奇襲ヲ受ク! ⑤
久々の更新です。お待たせしてすいません。ちょっと感覚取り戻せていないかもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。
「姫様、本当にこの飛行機で空戦する気ですか!?」
「もちろん!敵が目の前にいるのに逃げ回るなんて屈辱は、もうごめんだから!」
「だけどこの飛行機、練習機ですよ!」
「練習機でもちゃんと武装はしてあるし、実弾も積んでる!それにマシャナの蚊トンボみたいな飛行機相手なら、これでも充分だって!それよりもルリア、あなたの方こそ後部機銃任せるわよ!」
伝声管越しになんとかトエルの翻意を促し続けたルリアであったが、戦場の空が間近に迫ったことで諦めた。
「どうなっても知りませんからね!」
ルリアは覚悟を決めて後部に搭載された7,62mm連装機銃を引き出し、弾を装填する。
トエルの方は、主翼に搭載された7,7mm機銃を既に装填済みで、いつでも撃てるようにしていた。
「じゃあ、行くわよ!」
そして2人は戦場の空に乱入した。既にマシャナ軍機は、賢人たちの零戦によってバラバラになっている。
とは言え、先ほどルリアが言った通りT6型機は本来練習機。確かに武装は搭載されている(2人の機体は射撃訓練用に後部機銃も搭載したカスタム版)し、練習機ゆえの安定性もあるが、低出力な機体であるため速度性能などは、それほど高くない。複葉機と同程度しかないのだ。しかも、今回2人の機体は通常型にはない武装を施しており、余計に重くなっていた。
相手が複葉機とは言え、戦闘機であるなら、かなり強敵となるはずであった。
しかしそれを知ってか知らずか、トエルはルリアとともに(厳密には巻き込んで)戦場の空へと乱入した。
そしてそれが単なる蛮勇ではなく、自らの腕に自信があるがゆえの行動であることが、すぐに証明された。
「祖国占領の恨み・・・今晴らす!」
トエルは1機の敵攻撃機の背後を取った。相手も回避運動をしながら旋回機銃を撃って来るが、まるでそんなことお構いなしと言わんばかりに、トエルは照準器内に敵機を収めると、ありったけの恨みを込めて機銃の発射ボタンを押した。
「行け!」
主翼に搭載された7,7mm機銃が発射音を奏で、敵機に機銃弾を撃ち込む。練習機であるがゆえに、T6型練習機に搭載されている前向き兵器はこれだけだ。零戦の搭載する20mmに比べれば軽い発射音に、威力もそれ相応でしかない。
しかし、トエルの放った機銃弾のほとんどが、まるで吸い寄せられるようにマシャナ機に当たっていた。敵機から破片が飛び散る。そして、唐突に主翼が捩れて吹き飛び、錐もみになって落ちて行った。
「やった!」
初戦果にグッと腕を握るトエル。だが、戦場では一瞬の油断も許されない。すぐに彼女は機体を旋回させて、次の敵に備える。
そしてソレは正解だった。
「姫様!後方に!」
ルリアの声が響くが。
「敵機でしょ!?ルリア!」
既に彼女は気づいていた。
驚く暇もなく、ルリアは出しておいた7,7mm連装機銃の引き金を引いた。
「はい!」
「バカ!ちゃんと狙いなさい!」
トエルの声が聞こえたのかわからないが、ルリアは一端引き金から手を放して、狙いを定める。固定機銃と違い、旋回機銃は命中率が低い。固定機銃の数分の一とさえ言われている。機体にがっちりと留められた固定機銃と違い、人が持って撃つのだから当然と言えば当然だ。
ルリアは旋回機銃上の照準器越しに敵機を捕捉しようとするが、機体が横に上下に振られるのだから、それは容易ではない。それでも、機銃を握って我慢し、射撃の機会を窺った。
「!」
機体の揺れが少しばかり落ち着き、さらに敵機が機銃の照準器の中に入った一瞬を、彼女は見逃さなかった。その瞬間を衝いて、機銃の発射ボタンを押す。
ルリアは練習生として一応訓練を受けてはいたが、まだ初心者だ。だから自分のレベル、身の程は弁えていた。また座学の過程で旋回機銃の命中率の低さも習っていた。
だから、敵機が怯んでくれればそれでいい。程度の期待しかしていなかった。
しかし。
「「嘘!?」」
ルリアが、さらには高度を取って空戦を眺めていた賢人が、同時に同じ言葉を叫んだ。
ルリアの狙った敵戦闘機の機首部から、最初は白煙が延びたと思ったら、直後には赤い炎と黒煙が湧き上がり、あっという間に機首部を包み込むと、地面目がけて真っ逆さまに落ちて行った。
少なくとも撃破確実である。
「ルリア、お見事!」
「!?・・・あ、ありがとうございます」
さらにトエルは1機の敵機の後ろに回り込み、一撃を与えて撃墜した。2機目(ルリアの分も加えると3機)のスコアを上げ、彼女の戦意のボルテージはマックスとなる。
「よし!この調子で残った連中も一掃・・・て!」
トエルはさらに撃墜スコアを伸ばそうと意気込んだのだが、そんな彼女の頭に冷や水を掛けるがごとく、彼女の目に飛び込んできたのは北の海上に向けて遁走を始めた敵機であった。
「逃げる気ね!」
「姫様、まさか追う気ですか!?」
「当たり前じゃない!マシャナの飛行機を1機でも多く撃ち落とすチャンスよ!」
「やめてください姫様!無謀すぎます!」
「黙らっしゃい!王族の命令に従えないって言うの!?」
「どっちみち、この機体のスピードじゃ追跡なんて無理ですって!航続距離だって短いんですよ!」
陣形が崩れてバラバラになっていた敵機を撃ちとるのはともかくとして、高速で逃げる敵機を追うスピードも、洋上遠く追跡する航続力も、練習機であるT6型では無理があった。
熱くなっていたトエルも、ルリアの言葉に冷静を取り戻す。それでも。
「いや、けど!」
とルリアの説得を無視しようとしたトエルだったが。
「こちら平賀、少佐聞こえますか?」
賢人からの無線連絡で、いったん言い争いを止めて交信に入る。
「聞こえてるわ」
「逃げ遅れた敵機がいます。これから生け捕るんで手伝ってください」
「どこ!?」
「あなたから見て左下方です」
少し機体を傾けると、確かにそこにはマシャナ機が1機飛んでいた。恐らく乱戦の最中に味方からはぐれてしまったのだろう。
その機の左右を、2機のスマートな機体が並行して飛んでいた。間違いなく零戦である。
「中佐、奴の真後ろについてください」
「・・・了解。ま、今日はこの位で我慢してあげるわ」
トエルが1機だけで敵機を追撃するなどという無謀なことを止めて、後席のルリアは胸を撫でおろしていた。
逃げ遅れたマシャナ機は複葉の攻撃機だった。左右を零戦にがっちりと固められている。おそらく敵のパイロットに、賢人か武がジェスチャーで着陸するよう伝えている筈だ。
トエルもその包囲陣に参加するため、敵機の真後ろにT6型機を付けた。
「高度を落としながら、そのまま滑走路へ」
「了解」
少しずつ高度を落としつつ、敵機を滑走路への進入コースへと誘導する。飛行場周辺では数カ所で火災らしきものが見えるが、滑走路自体に致命傷はなさそうだ。陸上からも、特に何も言ってこない。
高度を落として行ったマシャナ機が、そのまま接地した。
「よし!」
敵機の着陸を見届けた後、3機はいったん滑走路上をパスする。振り返れば、減速した敵機に味方兵が群がっていくのが見えた。
「中佐、お先にどうぞ」
賢人がトエルに一番に着陸するよう、順番を譲ってきた。
「あら?いいのかしら?」
「どうぞ、お構いなく」
賢人と武が、トエルに着陸の順番を譲った。
「そう、じゃあ遠慮なく」
1回グルッと大きく旋回し、滑走路への進入コースへと機体を乗せなおし、トエルは着陸に入った。
脚とフラップを降ろし、速度を徐々に緩めながら機体を降下させた。そして車輪が地面に触れ、一瞬その衝撃が走るが、そのまま何事もなく滑走した。
ブレーキを掛けて機速を落とした。すると、整備兵が手を大きく振って誘導してくる。その誘導に従い機を動かす。そして停止指示とともに、機を止めてエンジンをカットした。
その途端。
「ばんざ~い!」
「万歳!」
整備兵や飛行場守備の兵士が叫びながら彼女たちの機体に駆け寄ってきた。トエルもルリアも、その言葉の意味は理解していた。
「姫様、日本人たちが私たちを出迎えてくれてますよ!」
「なんかちょっと恥ずかしいわね」
と言いつつも、トエルはベルトを外して立ち上がり、彼らに手を振った。
「少佐たちが敵機を撃ち落とした時は皆拍手しましたよ!練習機で見事なものでした!」
最先任らしい整備下士官が機に近寄り、2人のことを褒め称えた。
「運が良かっただけよ。それよりも、燃料と弾薬の補給をお願い」
「は!おい!補給作業急げ!」
整備兵たちが集まり、2人の機体への補給作業を開始した。それを横目に、トエルとルリアは地面に降り立った。
「は~。死ぬかと思った」
地面に降り立つと、ルリアが疲れた顔で座り込んだ。彼女にとって初めての空戦は相当に応えたらしい。一方のトエルはピンピンしていた。
「あら、情けないわね。パイロット目指してるなら、もっとしゃんとしなさい!」
「私、姫様ほど戦慣れしてませんから」
2人は顔を見合わせ、笑った。
そんな2人に、基地の兵士が声を掛けてきた。
「トエル少佐にルリア練習生、基地司令がお呼びです。至急指揮所までお願いします」
「わかったわ・・・行くわよ」
「はい、姫様」
座り込んでいたルリアも立ち上がり、2人は兵士の案内で指揮所へ向かって歩き始めた。
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作者はT6型機大好きです。原因は主に映画の「零戦黒雲一家」と「アイアン・イーグル4」のせい。




