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新領土と新戦力 ⑭

「こいつはスゴイな」


「瑞穂島や紺碧島よりもデカいぞ」


 FM2「ワイルドキャット」戦闘機で出動した賢人と武は、眼下に広がる大環礁に感嘆の声を上げる。瑞穂島や紺碧島も良港であるが、今二人が見ている環礁はさらに規模の大きなものだった。


「トラック環礁がこのくらいなのかな?」


「どうだろうな」


 この日二人は、新たに発見された大環礁を撮影するために発進したTBF「アベンジャー」雷撃機の護衛として発進していた。3機の編隊は一見すると米海軍の部隊のように見える。アメリカ製の機体に、米海軍機の特徴である濃い青色に塗装されているのだから、遠目には確実に間違われる。


 しかし、その胴体と主翼に描かれていた白い星は塗りつぶされ、変わってシンプルな赤い円、日本の国籍のそれへと描きなおされていた。


「おい!お二方。見とれるのはいいが、しっかりと護衛してくれよ。もし敵が出てきたら、いくら頑丈なアメさんの飛行機とは言え、こっちは鈍重な艦攻なんだからな」


 二人が実に性能の良いアメリカ製無線機で気軽に会話していると、雷撃機に乗り込んでいる中野の声が聞こえてきた。


「あ、すいません中佐」


「申し訳ありません」


「よろしく頼むぞ。こっちはこれから写真撮影始めるからな」


「「了解」」


 二人は気を取り直して、周囲への警戒を行う。しかし、空に敵の気配はない。敵、あり得るとすればマシャナ軍であるが、ここは彼らの本土から遥かに離れた赤道を越えた、地球で言えばニューギニアあたりに当たる位置だ。早々出てくるとは考えられなかった。


 だからやはり、賢人は敵がいる可能性の低い空よりも、眼下に広がる大環礁。そしてその大環礁を埋め尽くさんばかりに浮かぶ艦艇群に意識が行ってしまう。


(高度1000か・・・この高度で全く撃ってこない。それに動く気配もない・・・やはり無人なのか?鳥居少将たちが言っていた標的艦群なのか?)


 3機は高度1000という、高角砲どころか機関銃でさえ届く低硬度を飛行している。しかしながら、眼下の艦艇群が彼らに発砲する気配は全くなかった。

 

 この艦艇群が発見されたのは10日前のこと。遠く北で「泰北丸」が空母「勇鷹」を含む艦隊と接触したのとほぼ時を同じくして、南方に向かった重巡「蔵王」を旗艦とする調査部隊が発見した。


 大環礁は艦隊の停泊地として最適であると見られ、また拠点となりえる大きめの島も内包した周囲150キロはあろうかという大規模なものであった。


 現在の所この大環礁から電波の発信など、マシャナ軍がいる痕跡は認められず、調査部隊は当初そのまま接近しての上陸を試みようとした。


 しかしながら、発進させた水偵の1機が、環礁の南東部の半径10km程の海域に、小規模な環礁と多数の艦艇を発見。上陸調査はとりやめられるとともに、調査部隊は瑞穂島に援軍を要請した。


 そのため、新たに空母「つるぎ」を含む機動艦隊が編成されて、増援へと赴いた。もちろん、この増援部隊が向かっている間も、調査部隊は決死の覚悟で発見した大環礁と艦隊についての偵察を続けた。


 すると、数日の間に奇妙な点がいくつも見つかった。まず発見された艦隊も含め、環礁には一切の人の存在が確認できないこと。夜間にも偵察機を飛ばしてみたが、上空からは一切人工的な灯が観測できなかった。調査部隊の艦艇も、環礁付近から発せられる電波などは全く探知できなかった。


 さらに、発見した艦艇は偵察機が接近しても全く動く気配がなく、停泊を続けているということであった。


 この異様な状況は暗号電で逐次発信され、さらに増援部隊合同後は「蔵王」艦長の田島から増援部隊司令で「ちくご」艦長の鳥居少将(階級呼称変更の上昇進)にも直接伝えられた。


 そしてここで、鳥居はあることに思い当たった。


「環礁内に停泊する大量の人気のない艦艇ね。まるで原爆実験の標的みたいだ」


 遠目に撮影された写真を見ながら、鳥居は顔をしかめて言った。


「原爆実験?」


 田島他帝国海軍出身者はわからなかったが、鳥居ら海上自衛官らには大いに思い当たるもの。それが環礁を使用しての原爆実験である。


 第二次世界大戦において、アメリカは日本本土の広島と長崎に原子爆弾を投下したが、戦後も断続的に実験を行っており、中部太平洋の環礁地帯で良く行われた。特に戦後翌年にビキニ環礁で行われた原爆実験では、日本より接収した戦艦「長門」や巡洋艦「酒匂」を使用したので、戦後生き延びた帝国海軍軍人にとっては嫌な部分で縁のあることだった。


 そしてそうした原爆実験のフィルムは、ニュース映画などにより、日本の映画館で見ることもできた。


「となると、もしこれが原爆実験の標的艦なら、放射能が怖いな」


 原爆によって発生する放射能汚染は、戦後の日本人にとって現在進行形で起きている大問題である。原爆は、火炎や爆風すら通常爆弾と隔絶した威力がある。それだけでも恐ろしいというのに、通常の爆弾には絶対にありえない激しい放射能汚染をもたらす。まき散らされた放射性物質から出る放射線は、人が一切感知することができず、それでもって体内の組織を破壊して人を死に追いやる。


 健康な人間が、何ら外傷を負うことなく体を内部から破壊され、苦しみながら死んでいく。悪夢そのものである。


 とは言え、そうした原子爆弾や放射能汚染に対する恐怖は戦後日本人にとっての感覚であって、原子爆弾のげの字も知らない大東亜戦争(太平洋戦争)中の日本人には、口で言われても中々実感しにくいものである。


 事実鳥居の言葉にも、海上自衛隊出身者は真剣な表情となったが、海軍出身者の人間は理解できず、顔をしかめるしかなかった。


 これが帝国海軍軍人だけであったなら、敵艦に人気のないことを確認した時点で、より接近しての、場合によっては直接乗り移っての調査にまで踏み込んだかもしれない。しかし、戦後を経験している鳥居ら海上自衛官らがいたことで、ブレーキが掛けられ慎重に調査が進められることとなった。


 幸いと言おうか、戦後の核兵器が登場した時代の運用を考慮して、「ちくご」と「つるぎ」にはガイガーカウンターがそれぞれ数台搭載されており、いずれもまだ艦内にあった。瑞穂島ではガイガーカウンターを使う宛など全くなかったからだ。


 このガイガーカウンターを使っての、放射能汚染の計測作業が始まった。現在部隊が遊弋する地点から始まり、さらにより環礁に接近し、最終的に環礁内の艦艇へと距離を近づけて作業は実施された。ちなみに観測方法は水上機と内火艇によって空中と海上から行われた。


 この観測作業によって、鳥居らの不安は杞憂で済まされた。いずれの地点の観測でも、放射能汚染の事実は一切確認できなかった。


 そうして放射能汚染は確認できなかったため、本格的に空中と海上から、より詳細な調査が環礁と艦艇群に対して行われることとなった。


 まず空中から写真撮影を行い、最終的に環礁内に存在する島や暗礁、艦艇の数や位置を明確にするところから始まった。


 この空中撮影が、今賢人らが行っている写真撮影であった。


(にしても、本当にスゴイ数だな)


 眼下に見える艦艇の数は凄まじい。100はいそうだ。もちろんその全てが大型艦ではない。戦艦や艦隊用空母と思われる大型艦は、せいぜい10隻程度(それでも多いが)だ。その他はそれ以下の艦艇、巡洋艦や駆逐艦、それに輸送艦や小型艇らしきものであった。


 ただどちらにしろ、恐らく現在日本国が保有している総艦船数より多そうだ。


(これは調べるだけでも骨が折れそうだな)


 鳥居らの言うようなホウシャノウ(賢人らはイマイチ理解していない)の汚染がなかろうと、艦船が無人だろうと、調査するには1隻1隻直接乗り込んで調べるしかない。全部調べるのにどれだけの時間が掛かるか、見当もつかない。


 放射能汚染の観測作業にさえ2日間の時間を取られている。さらにこのままこの海域に留まることが長引くとなると、当然瑞穂島に帰るのも先に延びる。


 慌ただしい出動だっただけに、このいつ帰れるかわからないというのは、中々に精神に来る。


 賢人にとってありがたいのは、飛行機を飛ばせることと、眼下の艦艇の中に空母と思しき艦艇が数隻混じっていることであった。


「今度はどんな飛行機に出会えるかな?」


 昭和18年から飛んできた賢人であるが、その後の時代から来た艦艇や人々によって、賢人たちのいた頃より後に登場した機体や、大戦中は触れることの出来なかったその他の国々の機体の情報が彼の元には入って来ていた。


 そうした機体がこの艦艇群にも搭載されていたら、彼にとってはさらに楽しいことになる。もちろん、性能の良い機体ならなお良しであった。


(もっとも整備兵たちは発狂するかもしれないけど)


 航空隊の整備兵隊は、今でさえ雑多な機体のメンテナンスに神経をすり減らしている。ここでさらに機種が増えれば、彼らにとってさらに頭の痛い問題になることは確実だった。


 そんな彼らに悪いと思いつつも、賢人は新たな機体への期待に胸を膨らませるのであった。

 



 

御意見・御感想よろしくお願いします。


 この原爆実験で、艦艇群が大量転移したのは、以前書いていた二次創作よりの流用、さらに言えば市販の某架空戦記へのオマージュです。

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