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新領土と新戦力 ⑦

 お待たせいたしました。架空戦記創作大会作品などとの兼ね合いで遅くなりましたが、更新いたします。

 賢人たちが指摘するまでもなく、日本国上層部でも今回手に入れた艦艇や航空機の処遇は重大な課題になっていた。


「まとまった数が揃っている機種はともかく、1機か2機しかない飛行機など意味がありません。フリーランドに売却するか、他の機体の部品取りにしてしまうのが妥当でしょう」


「お待ちください。手に入れた機体の中には、試作段階とはいえかなり高性能な機体があるのでしょう?それを簡単に手放すというのは、いかがなものかと思います」


「そうです。それに、フリーランドに何でも売却するというのはマズいでしょう。確かに今は同盟関係を結んでいますが、それはあくまでマシャナと言う共通の敵がおり、さらには我々が彼らにとって有益な技術を持ち合わせているからです。それを惜しみなく渡したら、優位性が崩れてしまいます」


「であれば、渡して差しさわりあるものを除去してならいいのではないか?」


「いいや、将来的なことを考えるなら保有し続けるべきだ。今後日本国が大きくなり、量産できるようになれば大きな武器になるかもしれない」


「そんな何十年掛かるかもわからないことより、今目の前のことを議論するべきだ」


 主要な軍幹部が集まっての会議は、喧々諤々の状態になった。


 これまでの会議では、寺田をはじめとする高級幹部が、場をまとめて最終的な結論へと比較的短時間で持って行ったが、今回はそうもいかなかった。というのも、今回手に入った機体が数も種類もバラバラである一方で、先進的な試験機が多く、その方面への知識が不十分な寺田たちとしては、早急な結論を出し難かったからだ。


 そのため、各々の意見をまずは出させたのが、会議は踊るものの、参加者の考えがそれぞれ違いすぎ、あっちへこっちへ飛ぶので、容易に結論に持っていけない。


「総司令としては、どう思いますか?」


 ついに一人が寺田に振るが。


「どう思うって言っても、飛行機は門外漢だからな」


 これまでは飛行機に精通する人間に任せたり、補佐を受けてきたのでボロを出さずに済んだが、門外漢の飛行機に関して、それも見たことも聞いたこともなかった試験機に関して意見を求められても、容易に考えは浮かばない。


 そこで、寺田はまず元の持ち主かつ専門家に意見を求めた。


「坂少佐も広少佐、技術者としては何か意見はないかね?」


 日本国軍に合流した二人は、それぞれ少佐の階級をもらい、航空行政に関しての貴重な御意見番となっていた。航空戦術に造詣が深い人間はいたが、整備兵以上に航空技術に精通している人間はトラ船団にほとんどおらず、その点からも得難い人材であった。


 まず本チャンの海軍出身である坂が口を開く。


「まずこの度、我々とともにやってきた航空機の内、特に「インディゴ・ベイ」と「サスケハナ」搭載の機体については、先ほど出た意見の通り、現状戦力としては数えられないのは間違いないでしょう。それは我々も認めます。いずれも試験段階の機体であり、まともな稼働機数としてカウントできませんので」


 と、まずは戦力としては数にならないと否定的な意見を口にする。


「しかしながら、技術者として言わせていただければ、野放図な技術の流出は望ましいものではありません。もちろん、同盟国に対しては信義上ある程度は流すべきですが、流し過ぎれば脅威となりえましょう。例えばの話ですが、戦艦「大和」の46cm砲が1門だけあって、自分たちでは手に余るから36cm砲しか持っていない国へ引き渡す。と言えばいいでしょうか?」


「確かに、それは危険だな」


 航空機には弱い寺田でも、「大和」型戦艦については知っている。世界最強の46cm主砲を搭載した戦艦。海上自衛官らの話では、46cm砲を実用化したのは日本海軍だけだったという。


 帝国海軍の最高機密の艦艇であったが、さすがに将官クラスであり、現役将官に知己が多かっただけあって、それくらいの情報は耳にしていた。


 渡す相手が弱小だとか、遅れているとか甘く見て技術を渡して、自分たちを越えて襲ってきましたではシャレにならない。


「特に「震電」、「橘花」、「秋水」などの前翼機、タービンロケット(ジェット)機、ロケット機の技術は万が一先に実用化されれば、取り返しのつかない事態になりかねません」


「震電」、「橘花」、「秋水」はいずれも大戦末期に開発されていた画期的な性能を持つ新型機である。


「震電」は通常の飛行機とは逆型式のスタイルを持った、前翼エンテ型の戦闘機で、最高速度と上昇力に重点を置いた、対重爆撃機用の局地戦闘機だ。


 坂の話では、試験飛行を数回行った後、全力での試験飛行が予定されたが、そこで終戦を迎えてしまったそうだ。


「サスケハナ」に載せられていたのは、戦後接収された4号機で、後部プロペラがトルクの打消しのために、二重反転プロペラになっていた。計算上では最高速度は750km越えを期待できるとのことで、実現できればF8Fとともに、現状では化け物のような性能である。


 また「橘花」は特攻機であるが、日本初の実用的なジェット機である。急造作ゆえに性能はレシプロ機並みでパッとしないが、ジェット機が造り方次第で高性能を発揮できることは「伊508」乗員や海上自衛隊員から伝えられていることなので、これも容易に渡していいか迷う技術だ。


「秋水」はロケット機であり、短時間しか飛行できない半分グライダーのような機体だが、最高速度は900kmにも達するという。これも驚異的な技術の産物だ。


「では、売却も含めて他国には秘匿するのが一番だというのかね?」


「いえ。そこまでは言いません。秘匿するのは難しいでしょうし、有力な共通の敵がいる現状では望ましいことではないでしょう。それに我が軍には、各国からの派遣士官もおるということではないですか。隠し過ぎると逆効果です。ただ安易に売却などするのは、危険と言っているのです。そうですね、自分としてはやはり機体自体はなるべく我が国が保有し、必要に応じて機体の技術を提供したり、技術者への見学を許可する程度にとどめるべきかと」


「なるほど。広少佐も同じかな?」


 寺田は民間出身の広にも意見を求める。


「自分も大筋では広大尉、ではなく少佐の意見に同意です。ただ付け加えるなら、将来的にはこれらの機材を生かして、我が国独自で機体の生産を行えるところまで行ければと思います」


「そんなの我が国の国力では不可能だ」


 と言うのは、加藤民政長官だ。現在の日本国の文官のトップであり、国力に関して知り尽くしている人物だけに、彼の発言は重い。


「確かに現状では不可能ですし、先ほども出ましたが、もしかしたら10年も20年も掛かることかもしれません。しかし、だからといって何もしなければ、我々は武器その他の供給を海外に依存することになります。それは望ましいことではないでしょう?」


「それはそうだがね」


 現在の所日本国で消費する物資の過半は海外頼みだ。いちおう瑞穂島には石油などの資源があるが、その採掘にしてもフリーランドなどの助力がなければ難しかった。


 武器に関しても同様で、トラ4032船団に搭載されていたストックを消費しているが、残弾が心もとないものなどは、既にフリーランドの軍需企業に委託発注していた。


 つまり、同盟国があってこそ保たれている部分が大きい。しかし、それは逆に言えばもし同盟国が敵となれば、一気に苦しい状況に追い込まれる。燃料も弾薬もなければ、飛行機も軍艦もただのガラクタになってしまう。


「飛行機工場を造るかどうかは今後の課題とするとして、坂少佐も広少佐も、今回手に入れた機体の売却や譲渡に関しては慎重に行くべきと言うことでいいね?」


 とりあえず、寺田はその点に関して意見を集約することにした。飛行機工場の建設は、興味深い話であったが、いつできるかわからないことよりも、今は当初のことに関して結論を出したかった。


「はい」


「その通りです」


「ならば司令官、とりあえず機体は保管と言うことにして、今後の試験なり他国への公開に関しては、坂少佐と広少佐に一任するというのはどうでしょうか?」


 大石参謀長の意見に、寺田も頷く。


「そうだな。あまり専門外の人間がとやかく言うのもなんだ。それが一番だろう」


「そうなると、飛行場を預かる身としては、もっと余裕ある保管場所が必要となりますが、どうしますか?すでに瑞穂島の飛行場は収容力一杯ですよ?第二飛行場の建設も急いでいますが、そちらが完成してもなお不十分です。」


 航空基地司令の安田中佐が指摘する。瑞穂島に建設された飛行場は現在の所一つだけだ。トラ船団が上陸して以来、鋭意整備拡張が行われてきたが、今回一気に数十機を受け入れてしまったのだから、手狭になってしまっていた。


 瑞穂島ではさらにもう一カ所、第二飛行場の建設が進んでいるが、空母艦載機や今後の練習飛行隊の訓練に使用することも考えると、それでもなお設備として不足気味であった。


 今回やって来た機体は、一応シートを被せて野外に置いたり、応急の簡素な格納庫(掘っ立て小屋)に入れてあるが、もちろんそうした保管方法では一時しのぎにしかならない。雨風には弱いし、それはすなわち機体の劣化を招く。


「となると、今回手に入れた島が役に立ちますな」


 大石の言葉に、寺田ら参加者のうちの何名かが頷いた。


 


御意見・御感想お待ちしています。


なお作中登場の「震電」4号機は架空の機体です。実際の「震電」は二重反転プロペラを搭載する計画はあったようですが、中止になっています。

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