7話 幼馴染とイチャイチャしよう
今回は前回から直接つながってます。
「あーっ!また負けたああああ!」
トールに突きつけられていた剣が首もとから離れるなり、僕は後ろにばたりと倒れる。
「そりゃそうだ。まだ五歳の息子に負けてちゃあ、元宮廷騎士としての名が廃れる」
トールは割と本気で悔しがっている僕を見て、そう苦笑する。
確かに、僕もトールがむっちゃ強いのは理解している。ステータスやスキルレベルだけじゃなく、戦闘経験の差が歴然とあるので、僕がいくら魔法をうまく扱えようがその差を埋めることは至難の業だという事も分かっている。
でも、自分でもよく分からないが無性に悔しいのだ。
日本の時はそんなことなかったけど、もしかしたら、これがアニメや漫画で良くある「親父を超えてやるっ!!」という気持ちなのかもしれない。
「ほら立て。汗をかいたままでいると風邪をひくぞ。・・・それに、女の子を待たせるのはナンセンスだぞ。我が息子よ」
トールがそう言いながら僕に笑いかける。すると、その直後。
「こらぁ!ユリウス!」
倒れた頭のさらに上から可愛らしい怒鳴り声が聞こえる。
「そんな所で寝転がってちゃだめでしょっ!」
そう言いながら僕の方に近づいてきたのは一人の可愛いヒューマンの女の子。
髪は艶やかな黒。顔は小さいのに目は大きく、髪の色と同じ黒い瞳がその奥で輝いている。ただ、その眼が少し吊り上がり気味なのと、気が強いのが難点な、僕の幼馴染であるエリスだ。
歳は僕と同じ五歳で、隣の家に住んでいる。
ちなみに彼女も僕と同じく魔法適正があるので、来年は一緒に魔法学院に通う予定だ。そのため、ここ三か月くらいは、午後に僕と一緒にティオナから魔法の指導を受けている。
そして、正午近くなるとエリスは手作りの弁当を持って僕の家へとやってくる。
えっ?持ってきた弁当は誰が食べるかって?・・・それは勿論、僕とエリスだ。トールなんかには食べさせやしない。僕の将来のハーレム要員が作った手作り弁当を他の男になんて、死んでも食べさせるようなことはしない。
それにしても、「女の子の幼馴染」・・・良い響きだな。日本にいた頃の幼馴染なんて、野郎しかいなかった。・・・そういえば、あいつらや日本の親は今頃どうしているのだろうか。
「―――ねぇ!聞いてる?ユリウスってばぁ!」
「―――っ!う、うん」
おっといけない。思わず感傷に浸ってしまったみたいだ。いつの間にか僕は裏庭の芝の上に胡坐をかいていて、真正面からエリスが僕の顔を心配そうにのぞき込んでいた。
「もう、ユリウスは本当にのほほんとしてて、見てて危なっかしいわ」
「あはは・・・。ごめんごめん」
「もういいわ。・・・それより、今日もお弁当作ってきたの・・・一緒に食べよう?」
立ち上がった僕にエリスが上目づかいで問いかける。
いつもは勝気なくせに、こういう時だけしおらしいんだよな、エリスは。まぁ、でもそういう所も可愛いんだけどさ。
「勿論。僕、腹がぺこぺこだよ」
僕がそう言うと「うんっ!」エリスは花のような笑みを浮かべる。
やばい。何だか無性に背中がかゆい。日本ではこういう事に慣れてなかったからか、最近のエリスの一挙手一投足に一々心を揺り動かされてしまう。・・・はぁ、小さい女の子に振り回されて、何が美少女ハーレムを作るだよ。まったく。
早く、女の子というのに慣れないとな。
「今日はサンドイッチを作ってきたわ。中身はね、トムトと、レジスと、卵。ちゃんとバランスを考えて作ったから、好き嫌いせずに食べてね」
「エリスが作った物なら、好き嫌いせずに食べられるよ」
「えっ・・・!」
僕の言葉を受けて、エリスの顔があからさまに真っ赤になった。
それを見て、やっと僕も自分が言ったセリフと、それをいう事の意味を思い出す。
うわっ、やべぇ!今更ながらに恥ずかしすぎるっ!
「ヒュー。お二人さん、熱いねぇ、青春してるねぇ!」
すぐ近くから、僕たち二人の様子に気が付いたトールが茶々を入れる。
「・・・ストーム」
ブオォォォォォ!
「ちょっ!?ユリウス!?落ち着けぇえええええええええ・・・うぐっ・・・」
とりあえず、邪魔なトールには魔法で吹き飛んでおいてもらった。
「あ、あのさ・・・エリス」
「・・・何よ」
あーっ!もう何だよ、この歯がゆい感じは!?
「さ、さっきのは、そ、『そういう事』じゃないからな・・・?」
「・・・わ、分かってるわよっ!」
あ、分かってたんですね・・・はい。僕の思い上がりでした。すいません。
僕は思ったよりも心に傷がついた。・・・あれ?どうしたんだろう俺。こんなことで・・・あれ、目から水が。
僕は心の中で葛藤を続けながら事務的に口の中にサンドイッチを放り込んでいく。
いつもは、かなりおいしいはずのエリスの手作り弁当の味がいつものように感じられない。・・・まぁ、それでもおいしいんだけど。
そして、僕が最後に残ったサンドイッチを意の中に収めた時、その知らせは届いた。
「と、トールさんっっっっっっ!!」
突然、町の衛兵がトールの名前を叫びながら駈け込んで来た。
「どうした?ナバック」
いつの間に僕の魔法のダメージから回復していたのか、トールがナバックと呼ばれた衛兵に近づく。
「そ、それが・・・この町に、五千の魔物の大群が押し寄せてきていますっっ!」
衛兵は叫ぶかのようにその知らせを告げた。
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うん・・・いいですよね。「女の子の幼馴染」