17話 夜這いには気をつけよう
カンッ!キンッ!
「ハアアアアァァァァァァァァァ!!」
「GYAOOOOOO!!」
森の中で、僕は一匹の比較的小型の魔物と対峙していた。
影の様な真っ黒い体に、耳障りな甲高い声。大きさはヒューマンの大人とさほど変わらないけど、身体能力は圧倒的に高い。腕の先は剣先の如く鋭くとがっていて、少しかすれただけで皮膚が割ける。
そして、その身体能力を生かし、魔物は四方八方、あらゆる所から僕を攻めたててくる。
かと言って、僕も防戦一方と言うわけでもない。真上からの斬撃は手にしたレーヴァテインではじき返しつつ、無詠唱で風魔法のウィンドカッターを発動して牽制。真っ黒な魔物はそれを交わして後退する。それを好機と見て、僕は敵に接近してレーヴァテインを横に一閃。しかし、それは剣状の腕に防がれ、甲高い金属音が鳴る。
「くそっ!この辺りのレベルの魔物じゃないぞ、こいつっ!?」
さっき見た、この魔物のレベルは―――100。魔物のステータスの成長速度はヒューマンなどのそれよりも、実に3倍の速さを誇っている。つまり、単純計算でこいつのステータスのレベルは300。Aランク以上の冒険者を5人以上集めて、やっと相手に出来るレベル。そして、それ以上に厄介なのが、奴のスキル、「ステータス減少」と「スキル封じ」。
ステータス減少は相手のステータス値を一時的に二分の一に減少させるスキル。しかし、それを発動させるには、敵の総ステータス値が自分の総ステータス値よりも一・五倍以上であることが条件となる。運の悪い事に、僕の総ステータス値は奴の総ステータス値の二倍ほどあった。
スキル封じは、その名の通り敵のスキルを封じるスキル。
明らかに一人で相手に出来るレベルの魔物じゃない。通常よりも20倍のステータス成長速度を誇り、さらにレベルを35まで上げた僕だから抑えられているものの、普通の冒険者なら、一瞬の内に殺されてしまうだろう。
そんな事を考えながら戦っていたからだろうか、僕は木の根に足を躓かせて転んでしまった。
「―――ッ!?まずっ!」
転んでしまってから慌てるが、最早遅い。真っ黒の魔物はすでに、その鋭い剣状の腕を僕に振り下ろしていた。
「GYAAAAAAAOOOOOOO!!」
耳障りなほどに甲高い声が僕の聴覚を刺激する。数秒の後には、魔物の鋭い腕が僕を真っ二つに切り裂くだろう。僕は覚悟を決めて目をつぶり、来るであろう痛みに歯を食いしばった。
未練は・・・ある。エリスともっと一緒にいたかった。エリスを守り続けたかった。
でも、僕は・・・僕は・・・
「ユリウスッッッッッ!!」
ザシュッ
「―――っ?!」
僕は自分の上に乗っかってきた重みに驚いて目を開ける。
そこには―――
「だ・・・いじょうぶ・・・?」
「え、何で・・・エリス・・・?」
口から血を垂らしながら、僕に微笑みかけているエリスがいた。
「私も、ユリウスの傍にいたかった・・・だから・・・でも、ごめん。さようなら。大好き・・・ユリウス・・・」
エリスは、それだけ言い残すと、静かに目を閉じた。
「・・・エリス?」
僕は突然の事に驚いてエリスを揺する。でも、エリスは再び目を開けようとしない。
「う、うううう、嘘だっ!エリス?!エリス!エリスッッッッッッッ!!」
森に僕の絶望の声が木霊する。その時、
「GYAAAAAAAAA」
魔物が、また腕を振り上げた。そして、それを振り下ろす。
そして、すぐに僕の意識は遠くなり・・・
僕は夢から覚めた。
「―――ッ!?・・・ここは?」
夢から覚めた僕は見慣れない天井を見ていた。
横を見ると、見慣れたエリスの寝顔。そして、その奥にはミチェルが別のベッドで寝ているのが見える。
「・・・そうか。ここは男子寮の僕とミチェルの部屋か・・・ん?!」
あれ?何だろう。
何かが決定的におかしい気がする。・・・あぁ、そうか。ミチェルの顔が美少女っぽいから、エリスと一緒に見ると、ここが女子寮だという錯覚を起こすんだ。
「・・・って、そんなわけ、ないだろっっっ!何で、ここでエリスが寝てるんだよっ?!」
僕は、頭が覚醒するなり、そう突っ込む。
ここは、男子寮。エリスの部屋があるのは女子寮。寝ている所が違うのだ。
「う・・・ん?」
僕の突っ込みで目が覚めたのか、エリスが呻いた。
「あ、ユリウスおはよう」
「おはようじゃないよっ?!何で、こんな所でエリスが寝ているのさっ!」
「そんなの、決まってる。ユリウスが寝るところが私の寝るところ。これ、常識」
「そんな常識、あったら嬉しいけど、道徳的な面であってたまるか!」
「もう・・・ユリウスったら。そんなに騒がなくても、ちゃんと夜の相手はしてあげるから・・・ね?」
「何か、ものすごい勘違いされたっ?!」
「ふふふ・・・ユリウス、いじってると、おもしろい」
「いじってる自覚があるんなら、少しは自重してください!」
「分かった、今日の夜の相手をするのは自重するから、とりあえず今日は寝よう?・・・じゃあ、お休み・・・」
「だから、どうして男子寮で寝るんだよぉぉぉおおおおおお!?」
結局、僕の悲痛な叫び声でミチェルは起きてしまった。部屋自体は完全遮音だから、別の部屋に声は漏れていないだろうけど、念のために少しの時間を置いてエリスから二人がかりで事情聴衆を行う。
「で?どうやって男子寮に入れたの?この時間、寮は生徒は外から開けられないように、対抗魔法がかけられている、頑丈な鍵がかかっているから、男子寮に入ることはできないはずだよ?」
「そんなの簡単よ。男子寮の合鍵を入手したの」
ミチェルのもっともな質問に何でもないという風にエリスが答える。その姿は、何だか誇らしそうだ。・・・って、そんな所を誇らなくてもよろしい。
「合鍵を?誰から?」
「勿論、校長先生からだけど?」
僕の質問に、エリスはサラッとと答えた。
「・・・あの校長がッ・・・!」
「じゃあ、もうこれでいい?私、眠くなってきたから早く寝たいし。さっさと寝るわねぇ。お休み・・・」
「何で、サラッと僕のベッドで寝ようとしてるの?!」
「だって、ユリウスのだし。私、ユリウスの抱き枕だし」
「いつからそうなったんだよっ!」
「昨日、ユリウス、私に言った。『これからは、寝る時は俺の腕の中でもがけ』って」
「誰だよ、その無駄にカッコいい人っ?!しかも、何の事実をねつ造してるの!?」
「え・・・まさか、ユリウス、エリスにそんな事を・・・?」
「ミチェル、お前は何か誤解をしてる!」
あーもうっ!何だよ、このカオスな状況?!短時間でこんなにツッコミを入れたの、初めてだよ。本当に。
そして、エリスがボケてミチェルが天然さを発揮し、二人に僕が突っ込むという構図がしばらく続いた。
そして、カオスを極めた状況に終わりの一言がぶち込まれる。
「それに私、今から女子寮に帰ろうとしても、カギを持ってないから入れないし」
「・・・」
「・・・」
結局、その日はエリスが僕のベッドで一緒に寝ることになった。
そして、次の日。
「あらん。ユリウス君♪昨日はどうだったかしら?」
男子寮の廊下で僕は校長とすれ違った。
「校長先生」
「なにぃ?ユリウス君?」
「昨日、何でエリスに男子寮の鍵を渡したんですか・・・?」
「そんなの、エリスちゃんを応援するために決まってるでしょう?私は、すべての乙女の恋のキューピットなのよん♪」
僕はそれだけ聞くと、アイテムボックスからレーヴァテインを取り出した。
「・・・え?ユリウス・・・君?それをどうするつもりかし―――」
「この、校長がああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「ぎゃああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁん?!」
その後、校長の悲鳴は30分は続いたという。
恋のキューピット、マッチョオカマ・・・恐怖ですねorz
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