16話 王都を観光しよう
今回は完全なほのぼの回です。
王都の商店街。そこは王都の中でも特に人が集まって賑わいを見せるエリアだ。
各国から集められた品々が店頭に並べられていたり、どこの物か、どんな物かさえも分からないような怪しい品を扱っている店があったりと、感覚的に言えば市場のような感じに近い。
そして、今回僕たちが受けた依頼は「薬草」の配達。
これは定期的に出ている依頼だそうで、足の悪い友人のおばあちゃんに薬草を届けてほしいという、「何でも屋ダミソー」と言う店の店主からの依頼だ。この依頼の報酬は体力回復薬が5本。
薬草は用途が多い植物として幅広い分野で扱われている。
代表的な所を挙げると、ファンタジー小説でもお馴染だけど体力の回復薬としてや、麻痺、毒耐性の薬の効果の増幅剤。さらには、薬草は燃やすと現代日本の「バ○の森林の香り」がするため、燃やして部屋の香りづけなどにも使われている。
ギルドから出て、五分ぐらい歩いたところで商店街エリアに着いた僕たち三人は、とりあえず町の観光をしながら依頼主である、「何でも屋ダミソー」を目指すことにした。・・・「ダミソー」って、「ダイ○ー」かよっと心の中で突っ込んだのは僕だけの秘密である。
「それにしても、本当にユリウスは強いんだねぇ!流石、「大量殺戮少年」って呼ばれているだけの事はあるよ!」
「当たり前でしょう。ユリウスの両親は元宮廷騎士と元宮廷魔法士で、その二人から色々と訓練を受けていたんだからっ!」
「いやいや、僕が訓練を受けていたって自慢するならまだしも、何でエリスが自慢げに話してるの?!」
何故か、僕の幼馴染―――エリスが胸を張って僕の事を自慢げに話していたのでとりあえず突っ込んでおく。
「それに、ミチェルも、あまり外で大っぴらに僕の二つ名の事は言わないでほしい」
「えっ?何で?」
「何でって、恥ずかしいでしょ!」
「そう?僕はとてもカッコいいと思うけどなぁ・・・まぁ、ユリウスがそう言うんだったら、僕も外では口にしないよう気を付けるよ」
「うん。そうしてくれると助かる」
それにしても、「大量殺戮少年」って・・・厨二臭いし、どうにかなんないかなぁ・・・せめて、「終焉」とかにしてほしかったな。って、これも厨二臭いか。
もういいや。今まで僕の二つ名を聞いて笑った人はいないし、こっちの世界では、厨二っぽいのが意外と受けるのかもしれない。しばらくは気にしない方向で行こう。
そんな感じで他愛もない会話を続けていると、目的地である、ダミソーへとたどり着いた。
「何だか・・・物騒なお店ね」
その店の外見を見たエリスがそう呟く。
「うん」
「そうだね」
それに僕とミチェルも同調した。
『何でも屋ダミソー』
そう書かれた看板が取り付けられている店の外観は、一言で言うとボロイだった。
少し裏道に入った所に入り口を構えているせいか薄暗いし、何よりジメジメしている。
何か、店主もろくでもない人って感じがしてるんだけど・・・僕の気のせいかな?
とりあえず、店の前でいつまでも突っ立てるわけにもいかないので店の中に入ることにした。戸はすでに開いていたので、そこから入る。
やっぱり中も薄暗く、所々カビみたいなものが繁殖しているのが見えた。それは、エリスも気が付いたようで
「ここの店主、店を営業する気あるのかしら?」
と結構ひどい事をさらりと言った。僕が即座にその事を指摘しようとすると
「そんなに、この店が嫌なんじゃったら、さっさと出ていけばいいんじゃよ」
突然、店の奥から顔が皺くちゃの妖怪が出てきた・・・「きゅああああぁぁぁぁぁ!?」それを見たミチェルが本当に妖怪が出てきたのかと思ったのだろうか、大きな悲鳴を上げながら、僕の腕に抱き付く。っておい、エリスでも大丈夫だったのに、男であるミチェルが本気で怖がってどうするんだ?!
「怖いよっ!ユリウス!助けてぇえええええ」
「ちょ、ミチェル、落ち着いて!相手はタダのおばあちゃんだからっ!」
僕は腕に抱き付いてきたミチェルを引きはがしながら、何とか宥めようと声をかける。それにしても、ミチェルは見かけは物凄い美少女なので、いきなり腕に抱き付いてこられると物凄い困る。なんだか、いけない扉を開いてしまいそうだな。
そんな事を頭の端で考えながらミチェルに声をかけ続けること十分。ようやくミチェルも落ち着いた。僕は、少し不機嫌そうなおばあちゃんに非礼を詫びながらも、ここに依頼を受けて来たと伝えると、薬草の束を三つ渡される。ついでなので、僕も薬草を十本買う事に。値段は10本で20マキだった。
「そういえば、薬草は10本で30マキが王都での適正価格って聞いてましたけど、ここはそれよりも10マキ安いんですね?」
僕がそうおばあちゃんに聞くと
「何だい?何か文句でもあるのかいっ!」
何か切れられたので「いえ何でもありません・・・」とりあえず何となく謝っておいた。
それを見たエリスがおばあちゃんに詰め寄るも、完全に無視されている。・・・あぁ、かなりエリスが頭にきているな。後で、何か甘い物を食べさせてご機嫌を治しておこう。
それから、僕達はおばあちゃんから薬草を受け取ると、店を出た。
エリスは「こんな所、一生来たくないわ!」と言っているけど、ザッと店内を見た所、売られている商品は全部適正価格よりもかなり安かったし、僕はしばらくこの店を利用しようと思っている。まぁ、確かに店主のおばあちゃんは気難しそうだったし、店内は汚れていて薄暗かったけど、あの雰囲気は嫌いじゃない。何だか、「隠れた名店」って感じがするからね。
僕たちは店を出ると、すぐさま依頼主の家に向かう。
商店街を離れ、少し入り組んだ裏路地を抜けると住宅地に出た。
「で、ユリウス、依頼主の家ってどこなの?」
住宅地に出るなり、ミチェルがそう僕に聞いてきた。
「うーん、この辺りのはずなんだけどなぁ・・・」
僕はギルドでもらった配達する家の近辺地図と照らし合わせながら道を辿っていくが、中々見つからない・・・あ、そういえば僕って、若干、方向音痴だったっけ?
「あ、ユリウス、あそこじゃない?」
僕が迷ったかなぁと一人心配になっていると、少し前を歩いていたエリスがそう言いながら一軒の家を指差した。地図を確かめてみると、確かにあそこが目的の家の様だ。
「本当だ。エリス、見つけてくれてありがとう」
「えへへ・・・じゃあ、いつもみたいに・・・ね?」
エリスはそう言いながら、僕の方に頭を差し出してくる。
「しょうがないなぁ」
僕はそう言いつつ、エリスの頭を少し乱暴に撫でた。「えへへ・・・」とエリスの表情はいかにも幸せそうだ。うん。やっぱりエリスは可愛いな。
そんな事をしている内に、目的の家にたどり着いた。依頼の薬草は郵便受けに入れておいてほしいと、依頼の紙にあったので、その言葉通りに薬草を郵便受けに入れて僕たちはそこを離れる。
「さぁ、これで依頼も完了したし、寮に戻ろう。依頼の完了報告は、また明日にみんなで行けばいいと思うし」
「うん」
「そうしましょ」
僕の提案にエリスとミチェルの二人は頷いた。
僕たちは、そのまま住宅街を離れ、魔法学院へと足を進めた。
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