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05



目が覚めたのは保健室だとすぐにわかった。まだなんとなく痛む体を起こして目の前の白いカーテンを開ければ、綺麗な保健教諭の姿ーーではなく、カーネルサン◯ース似のおじさんであった。彼がこの学校の保健教諭である。知ってた。


「あ、目が覚めた?」

「…はい」


軽く落ち込んでなんかないんだからね。


「棚咲さんが運んできてくれたんだよ。騎馬戦の観戦で盛り上がっちゃったんだって?ハハハ、若い子はいいねえ」



おいおいあの女。それお前のことじゃねえかよ。何ちゃっかり嘘ついてんだよ。しかも運んできてくれたって、すごくね?普通女子が普通女子を運ぶのって割と大変なんですよ、男子諸君。本当棚咲さん実態なんなの?スタンドでも飼ってるの?



「どこか痛むところはない?佐々野さん」

「佐々倉です」

「あ、佐々木さん?」

補聴器買えよ。



カーネルサン◯ースに自らの白いヒゲ(ただしすごく短い)を撫でながら見送られて保健室を出た。

ちなみに痛いところはなかった。

なんで。超不服。


グラウンドに戻れば、どうやらお昼休憩のようで人がまばらだ。

私はとりあえず弁当を手にして、誰もいなさそうなところに行くことにした。決してみんなのところに行ったら棚咲さんに会ってしまうからとかではなく。


すると、



「お疲れさま、羽瀬川くん」

「へへ、ありがと栗栖」


水道で戯れる花ちゃんと羽瀬川夏希の姿が。

ば、番犬雅様はどうした!いないだと!?

私は急いで近くの木陰に隠れてその会話を覗く。



「騎馬戦すごかったよ〜」

「負けちゃったけどね。楽しかったよ!栗栖もすごかったな」


それな。花ちゃん照れたように笑うけど本当それな。


「でも意外だな、栗栖運動得意なんだね」

「ちょっとどういう意味ー?」

「や、ほら、栗栖美術部だし。その、華奢だし…」

「華奢じゃないよ、全然。私空手も合気道もやってたし」


ほら、と腕を曲げてムキ、と。わっ、すごいな!、と羽瀬川夏希。


……華奢じゃなかった。全然華奢じゃなかった。


そうか…乙女ゲームの主人公の身長と体重が公開されないのにはそういう理由が…。

しかも花ちゃん空手も合気道も出来るのかよ…。多才じゃん。

私ができるのってなんだ?洗濯物を綺麗に星形に畳めることくらいか?あ、あと将棋は割と得意。…うわあどうでもいい〜。



「自分の身くらい自分で守らないとね!」

「頼もしいな栗栖は」

「へへ」


花ちゃん乙女ゲーム主人公失格だよ。あれじゃん、花ちゃん敵役に絡まれるシーンもあったじゃん。だいたい奴らが助けに来てたじゃん。助けいらないじゃん。ほんと、ゲームと現実って違うんですね。勉強になります。



「羽瀬川くんも何かあったら、私が守ってあげるよ」



えへん、と言う花ちゃん。

…おおおおおいいい!!!それ、「トゥンク…」だわ!!!きゅんきゅんだわ!!!!惚れるわかっこいいわ!!!やだ花ちゃんイケメン!!!可愛……イケメン!!!!


当の羽瀬川夏希はといえば、顔を赤くしてそっぽを向いた。

拗ねてるううーーー!

前を向け前を!前を向いて進もう!後ろにな!


ここで鈍感スキルを発揮する花ちゃんは何も気づかないご様子。それどころか。



「あ、ほっぺ怪我してる!」



とあろうことか羽瀬川夏希のほっぺに手を当てたのである。


あああああああ。


待って待って。

驚いて花ちゃんのほうを見る羽瀬川夏希。ニコ、と笑って持っているハンカチを水に濡らし始める花ちゃん。

その様子を複雑な顔で見つめる羽瀬川夏希。唇を噛み締めて、花ちゃんが自らのほっぺにハンカチを当ててくれたそのときーーー



「お、俺……」

「ん?」

「俺……!」



ーー紙飛行機が二人の間を通った。

無論、私である。ポケットに入っていたプログラムを使わせてもらった。

そして2人の視線が紙飛行機にうばわれたその時。



「俺、ビフテキとか割と好きです」

「え?」

「え!?誰?!俺?!」

「あはは、何いってんの羽瀬川くん。変なの〜」

「え?あ、そうだよな〜。何言ってんだろ俺…」



大丈夫だ、ビフテキが好きなのは公式設定だから間違いないはず。

「なんだ今の声…。誰か、にしては俺の声だったなあ…」なんて頭を掻いてキョロキョロする羽瀬川夏希。羽瀬川夏希!お前の声が真似しやすくてよかったぜ…。そして若干天然入ってて。


そうして花ちゃんに絆創膏を貼ってもらった羽瀬川夏希は不思議そうな顔をしながら、2人で去って行った。きっと雅ちゃんと姫神はじめのところに行って一緒に昼を食べるんだろう。

番犬のそばならきっと心配はいらない。

でもこれで羽瀬川夏希の気持ちは確定してしまった。見張り…いや、見守りを怠ることはできんな。より一層強化せねば。

ふふん、私も行くか。


と、木陰から出て来ると。




「お、お前……!!」



木の上から声がした。え。

見れば結城真白だった。え。

なんであなたそんなところにいるの。木の上で昼寝?あるある〜。…ないわ。


「お…女……か?」


確認されました。

何それ泣くんですけど。「もさすぎてよくわかんねえ…」ってどういうこと。泣くんですけど。「夏希の、男の声真似もできるし…」ってまあそれは否定できないけど。

てか結城真白もそれ見てたんかーい。てか夏希呼びっていつの間に仲良くなってんだよーい。


…はいはい。女なら半径5メートル以内にいて欲しくないのよね。わかってるからそんなに怖い顔しないで。教室では密集してるけどね。そして私これ、クラスメイトなのにやっぱり覚えられてないよ。

まあいいよ。イケメンにはモブ倉なんか視界にも入りませんものね。アニメの背景にも出れなかったもんね。



「まあいい、お前、回りに女いないか見てくれ」


え、ここここ。ここにいますけど。


「ほら早く!」



急かされて見渡してみれば、なるほど。


おそらく先ほどの騎馬戦で脚光を浴びた結城真白。棚咲さんのようにバキュンとハートを撃ち抜かれた女子が多かったに違いない。

こーんな可愛い男の子がカッコ良くニヒルに笑ったら、まあ仕方ないだろうけど。それで迫り来る女子から逃げに逃げ、木の上に隠れていたというところだろうか。

遠くの方で「結城くーん!どこー!?」なんて呼ぶ声が聞こえたけれど、この辺は大丈夫だろう。



「ん、いないみたいです」

「そっか。よっと」


結城真白が木から降りてくるとすぐさま私と距離を取って、


「お前、女かオカマかわかんねえけど…」

「女です」

「ま、マジかよ…」


あからさまに嫌そうな顔をする結城真白。こっちが嫌そうな顔したいわ。なんだ女かオカマかわかんないって。そこまでもさいか?私。そこまで末期ですか?


距離を徐々に広げつつ、結城真白は



「な、夏希に嫌な思い、させんじゃねーぞ」



怯えながらそう言って走っていった。

…何故怯えながら?女子相手に怒り狂ってる結城真白が怯えながら?オカマ認定?わーい。嬉しくない。


しかも完璧、私嫌な奴になってるね。

確かにはたからみたらただ、羽瀬川夏希の恋路を邪魔したように見えるかもしれない。事実そうなのだけど。



「結城くーん!どこー?」



そうこう考えてたら追ってがきた。結城真白はとっくにどこかに行ってしまったから捕まることはないだろうーーって。



「あれ?麦ちゃんじゃん!」

棚咲さーん。お前かーい。


「って、ちが、違うのよ!私は椎名くん一筋なんだけど!!誰!今私の声真似したの!!麦ちゃん?!」

「違います」


棚咲さんの声真似とかしたくないから。何自分の罪人に押し付けてんの。保健室の件といいなんなの棚咲さん。

ていうかさっきの見てないよね?


棚咲さんがどんどん変な子になっていく…。

はじめは、ただイケメン好きの普通の子にしたかったのに、今ではキャラ設定に「人類の恋愛奇行種で怪力」と書いてあります。


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