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04

滑り込み…眠いです寝ます




忘れていた。忘れていたよ。


日々花ちゃんを見守ることに夢中で忘れてた。断っておくけど、決してストーカーとかそういう類じゃないから。言うならば守護神だから。そこんとこ間違えないでくれる。頼むよ。



で、何を忘れていたかと言えば。



体育祭だった。



この学校では5月に体育祭が行われるんだった。というか先生の話聞いてなかったからだ。ワタシッテホントバカ。


体育祭の見所はクラス対抗戦。

それぞれ学年で競い、優勝したクラスにはなんと温泉旅行が当たる!…別にだからといって何もないけど。ドキッ☆とかビビッ☆とかそういうの前世に置いてきたっぽい。多分。

以前よりそういうのに無頓着になってる気がする…、いかんいかん、心を若くもて!佐々倉麦よ!それでもモブ選手権大会優勝実力者か!


いいか、モブは逆に恋だってするのだ。なんの変哲もないのだ。

私も若い頃はしてた…。多分。


とにかく温泉旅行とかぶっちゃけどうでもいいんだけど、優勝っていうのはその言葉がすでに嬉しいよね。

だいたいみんなそんな感じだと思う。


だからモブはモブなりに頑張ろうと思う。



「温泉旅行かぁ〜。ハッ、優勝したら椎名くんといけるってこと!?」



気づけば隣に前の席の女の子がいた。びっくりした。

え?何?私懐かれたの?どういうこと?ていうか温泉に目を輝かせる女子、いた。

彼女はセミロングの髪を横に結んでいて、白いハチマキをしていた。私も同じクラスだから白いハチマキしているんだけど。


そして几帳面なのだろう、ハチマキのはじに、しっかり丁寧な字で棚咲(たなさき)ののと書いてあった。

5月になってようやく前の席の子の名前を知るとは。



「棚咲さんは、し、椎名くんのどこがそんなに好きなんです?」


どもってしまった。なんだか。

聞けば「棚咲さんだなんて堅苦しいよぉ〜!のんでいいよのんで!」なんて背中を叩かれた。かなり痛い。怪力女か。


「いや、棚咲さんでいいです…」


無理、こわい。そんな気軽に呼べない。

「えー?」なんて言うけど棚咲さんはそれほど気にしていないようだった。


「で、椎名くんのどこが好きか、だっけ?」

「あ、はい」

「もー!麦ちゃんそんなこと聞くの!」

「痛っ!」



恥ずかしいのは分かるけど、照れながらすごい勢いで背中をひっぱたくのホント怖い。そして麦ちゃん呼び。嬉しいけどこわい。



「顔!と雰囲気!」



やだぁ!なんてまた照れて腕をバタバタさせて来てどうにかよける。こわい。

ていうか。顔と雰囲気って。…もろ騙されてるう〜。



「王子様みたいで?カボパンと白い馬が絶対似合うわあ!」

「本人絶対嫌がると思いますよ」

「笑顔でやってくれるわよぉ!」



完璧に補正が効いてるなあ…。

あいつの本性は腹黒ドS魔人ですよー、なんて言えないけど。


基本的に私は褒められて伸びるタイプなので怖い人とはあまり関わりたくないのが本音。鑑賞用にはバッチリもってこいだけど。だから割と好きだよ椎名脩。客観視してれば。客観視してれば。


と。ふと前を通った椎名脩と一瞬目が合った気がしてドキッとした。恐怖で。

た、多分気のせいだ。私モブだし。こわ。ていうか確実に棚咲さんが椎名脩の話してたからだろ。自分の名前が出たらそら気になるわ。

今日怖がってばかりだ(主に隣人のせい)。



ちなみに棚咲さんは真近で見れたことに興奮したらしく、私の背中をばしんばしん叩いてきた。

おー、こりゃ今日終わった時には背中の骨粉砕してるかもしれない。

ていうかいつも近くでみてるじゃんよ。


…って言ったら、「いつもは半目なのよ!」と言われた。直視できないらしい。半目って新しいですね。さすが棚咲さん。拍手。



それから、全てにおいて平均である私はもちろん運動能力も平均。

リレーの選手になることなんてないし、黙っていれば玉入れとか綱引きとか、そんなものだけで終わる。

結果、私はほとんど花ちゃんの見守り隊と化すわけであった。


五天王ならぬ四天王はここらで頭角を現してくる、というか確実に目立つだろう。

そして一躍学園の脚光を浴びること間違いなしだな。

あいつらみんな運動得意だしな…。ていうかイケメンってなんでもできるよね…。



花ちゃんはと言えば。

絵の天才である花ちゃんなので、運動は出来ないだろうと勝手に思い込んでいた私。


それは幻想であった。


グラウンドに立つ彼女は、まるでジャンヌダルクであった。

女子の騎馬戦では肩の上の女豹となり、徒競走ではボルトの化身。侮っていた。


前世、花ちゃんの運動能力についての記載はどこにもなかったため、拝見した同人誌でも運動系のイベント漫画で花ちゃんは運動出来ない破壊的なドジっ子で笑いを誘ったものである。

多くの人は彼女が運動が出来ないと思い込んでいたのだ。


侮っていたのだ、栗栖花を。



そして同じくしてこちらは想像通り運動神経抜群の雅様と肩を並べる花ちゃんの凛々しいお姿。


私は戦慄した。



そして汗拭きタオルに顔をうずめて叫んだ。「花ちゃんカッコイイイィィイイ!!!!!」と。泣きながら。


こんな2人の姿を見る日が来るなんて…私は幸せものであります!!!神よ!!!





そして四天王の話は、男子騎馬戦で持ち上げられる…。



それはうちのクラス対花ちゃんのクラスの試合であった。

椎名脩の追っかけという謎の奇行に移った棚咲さんがいつの間にか私の隣に戻ってきていて、となりでやれかっこいいだの、やれビューティフルフェイスだの叫んでいた。ビューティフルフェイスの発音がよすぎて気持ち悪かった。


で、だ。



羽瀬川夏希、椎名脩、結城真白の三人は騎馬の上。

でもって姫神はじめは羽瀬川夏希の下前衛である。


そして各大将は羽瀬川夏希と椎名脩。

なんとまあ、図られたようなメンツで。


いやだわいやだわ。どうでもいいけど、てめーら全員花ちゃんには手を出すなよ頼むから。私の頭はそんなことでいっぱいだった。


そしてピストルの音で試合が始まる。

そこからはめんどくさくて、みんなが立ち上がって空いた、生徒席の椅子をくっつけて横になって寝ることにした。



が、隣の棚咲さんがね。またやってくれますよ彼女は。

逐一、主に椎名脩の状況を何故か私に小声で教えるのである。

いやいや、その辺の黄色い歓声に混じってこいよ。誰も文句いわないから。ほっといてくれていいよ私のことは。モブだし。


彼女によると、先手を打ったのはうちのクラス、専ら特攻隊の結城真白だそう。椎名脩は大将さながら、一番後ろで素敵な趣きでそれをみていた。

結城真白がその身軽さと持ち前の運動神経で軽々と、みてるこっちが気持ちいいくらいに抜いて行ったそうだ。椎名脩は大将さながら、一番後ろで素敵な趣きでそれをみていた。


そこで兵の減った羽瀬川軍。こちらは大将自らが出動した。椎名脩は大将さながら(以下略)



「おおっと、大将羽瀬川!抜きます!これは抜きます!彼は綾取りをしているかのようにハチマキをスルスルとーー」

「例えがよくわかんないです」

「そして椎名くんが!椎名くんが動いた!大将戦か!?大将戦か!?椎名くんが素敵な趣きで動いた!!」

「素敵な趣きはもういいです」

「椎名くんの細い髪が風になびく…」

「詩人ですか?」

「たまにポエムるよ」


書くんだ。ていうかポエムるって何。


「あっ、結城くんが突っ込んだ!!羽瀬川大将に突っ込みましたぁ!!そして?そしてそして?回り込んでる!椎名くん回り込んでます!グヒョオオオ!!羽瀬川大将、気づいていません!!結城くんのハチマキが綾取りのように奪われーーあっ」

「どうしました、勝てました?」


覇気のあった声が急に意気消沈したように気の抜けた声が聞こえたから、思わず目を開けてみれば、寝そべっているから戦場は見えないんだけど、棚咲さんの顔はよくみえる。彼女はグラウンドからゆっくりと私に視線を落とすと、ごくん、と唾を飲んだ。


どうしたんだ、棚咲さん。様子が変だ。

まさかあの状況から負けたとか?



「ーーた」

「え?」

「笑い、ました」

「は?」



すると。棚咲さんは体を起こした私に抱きついてきた。

…だだだだだだ!!!!やめてくれ!!!今すぐはなして!!死んじゃう!!おばあちゃん!!!



「麦ちゃああぁぁん!!私を殴ってえええ!!!」

ぜひ殴りたい。けど体をバカ力で拘束されてて無理です。


「し、試合には勝ったんですか…」

命からがら聞けば、棚咲さんはしきりに頷いた。


「椎名くんと結城くんの連携プレイ!結城くんは囮だったんだけど、ハチマキを羽瀬川大将に取られた瞬間、ニヤ。って!!!!笑ったの!!!かっこよかったのすごく!!!私は椎名くんのファン失格よおお!!!結城くんにきゅん、ときたものおおお!!」

「別に…いいんじゃないです…」



それで、その後椎名脩が後ろから羽瀬川夏希、姫神はじめ軍のハチマキを奪ったと…。


視界の隅になんとか捉えたグラウンドでは、「負けちゃったなー!でも楽しかった!」「そうだな」と微笑み合う羽瀬川夏希と姫神はじめのホモォな姿…。いかん、生命の危機すぎて思考がおかしい。


「え!?麦ちゃん私を許してくれるの!?本当に!?麦ちゃああぁぁん!!私まだ椎名くんのファン、やっていいのねえええ!!!麦ちゃんありがとう!!麦ちゃ…、あれ?麦ちゃん?おーい?どうしたー?」


その後のことはよく覚えてません。苦しかったことと、棚咲さん許すまじと思ったことだけ。



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