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初日なので、もう一話。
お付き合いくださいませ。
「君色☆パレット」の話を少しだけしよう。
もともとこの乙女ゲームは、普通の青春ラブストーリーをコンセプトに作られている。
だから戦国時代であったり、芸能関係でなかったりするのはそういうわけで。
あくまで日常生活の、普通の青春を描くことで親身にプレイしてもらうのが目的。
花ちゃんが絵の天才って時点で既に普通ではないとは思うけど。
では、この攻略キャラ5人の共通点とはなんなのか。
それは言うまでもなく、ただ、〝イケメン〟ということだけである。
この5人はイケメンを武器にあっという間に学年で、学園中で噂になり、今は四人だが、来年入ってくる水垣さんも含め〝五天王〟と呼ばれるようになる。…誰がつけたのかわからないがひどいネーミングセンスであった。
類は友を呼ぶというか、このイケメンたちはそういう風に括り付けられたからか、仲良し五人組となるのがまた、腐の方々には美味しいところ。
まあ私は千花ちゃん一筋だったから、まあ。みんな好きだけどね。
あっ、でも、腐だったらマイナーだけど姫神はじめと結城真白が……、っと、げふんげふん。
そんな五天王はアニメのシナリオではおのおの、絵画に打ち込む花ちゃんのその真っ直ぐな心に惹かれて行く。
そして隠しキャラも加わりワイワイと楽しく過ごすのである。楽しみだね!わーい!
で、この中でアニメで突飛するのがトゥーピュアピュアボーイ夏希。
考えれば、この世界は乙女ゲームの世界ではあっても、間違いなく私、佐々倉麦というモブが、15年間生きてきた現実の世界。
この世界で乙女ゲームのように一人のキャラクターに絞って花ちゃんが突っ走って行くのよりも、アニメのように5人+1人とワイワイ進むのが妥当だろう。
おそらくこの1年は攻略キャラの2人がまだいないから、恋に発展することはないと思うんだけど…。これは現実だし、ゲームの設定は裏切ってくる可能性が大いにある。
いや、いいんだよ。
6人誰と花ちゃんがくっついたって。
だけどさ。何度も言うけど、私は千花ちゃんが好きなんだよ。
一目でいいから、あの2人が、あの二人で幸せになるところをこの目でみたいのだ。好きなCPのある乙女ならきっとわかるだろう。この目で見れたら、どんなに幸せか。
花ちゃんの真の幸せを考えたら、私が首突っ込んではいけないとも思うけど。(なんせモブ倉だし)
でも、でも〜!
…すみません、私の我儘をお許しくださいませ。
逆に考えれば、私がこの世界に転生したのはなんでかってそういう話になるでしょう、そうでしょう。そうだよ、千花ちゃんを祝福するためじゃないか。決して開き直りなんかじゃないんだよ。
とにかく。
千花ちゃんを守ると再び決意を固めた私は今、花ちゃんの教室に来ていた。
知り合いがいるのを装って、クラスの掲示板をみつつ潜入に成功。
横目で確認すれば、自分の席に座る花ちゃんとその隣で笑う羽瀬川夏希。やっぱりそばには姫神はじめもいて……、おっとおっと?
花ちゃん、初っ端からそんなエンジェルスマイルを向けたら二人とも惚れてまうやろーー!!やめたげて!泣く!主に私が!可愛くて!!
羽瀬川夏希は人懐っこいのもあってか、初めから好感度が割りかし良いのだ。
だからきっとすぐに花ちゃんに惚れてしまう。夏希が一方的に惚れる分にはいいのだけど、花ちゃんが気づいたら困るのだ。
その証拠にほら!笑い合ってるだけで羽瀬川夏希、頬軽く染めてるから!だめだよ羽瀬川夏希!早まるな!
いっそ私に注意がいってくれれば……ハッ、無理だ。何を考えた。イケメンが私ごときモブに視線さえくれるわけがなかろう。ぐぬぬ。
私の思いが届いたか否か。
助っ人が登場した。
「こーら、羽瀬川!花を困らせてるんじゃないでしょうね」
みんなのアイドル、北大路雅ちゃん。彼女が花ちゃんの親友である。のちの。
ナイッス雅ちゃん、ナイッス。思わず影でガッツポーズ。
そんな雅ちゃんはもちろん、容姿端麗、頭脳明晰。非の打ち所がないまさに女神様であった。はじける笑顔の雅ちゃん素敵。私は花ちゃんゴリ押しだけど。
花ちゃんと羽瀬川夏希の間を割り込むようにしている雅ちゃんに、姫神はじめは菩薩のように(マジで文字通り)微笑み、羽瀬川夏希は急に眉を下げて焦り始める。
「ええ?!ごめん栗栖、困らせた?」
…これだからトゥーピュアピュアボーイは困るんだ畜生。
エンジェル花ちゃんがそれを放っておくわけもなく。花ちゃんは笑顔のまま首を横に振った。
「ううん、そんなことないよ」
「本当?よかったぁ〜」
「もー、花は甘いんだから。しつこかったらあたしにいいなよ?ガツンとやってやるから」
そういって拳を掲げた雅ちゃん。いや、雅様。雅様さすがっす!よっ!ガツンとお願いします!
「まったく、雅は乱暴だなー」
「あんたは少し気を引き締めたらどうなの、さっきからヘラヘラと」
姫神はじめの言葉に言う雅ちゃん。
そうだ、この2人は幼馴染みだった。
この二人の組み合わせも人気だったんだよね〜。わー、なごむわ〜。
あのね、雅ちゃん若干ツンデレ入ってるからこれがまた可愛いのよ。姫神はじめはそれを全てモーラする雰囲気がね。どんなこと言われてもだいたい怒らないんだけど、雅ちゃんのことになると顔色が変わるのよね〜。はじめルートではそれに花ちゃんが嫉妬しちゃったりして、これまた悶えるんだけど、私が。
でも、雅ちゃんの言うとおりなのだ。
何が楽しいのかその菩薩のような笑みを軽々と……。確かに姫神はじめはキャラの中でも一番大らかな方だけど、こんなにヘラヘラしていたかどうか…。奇襲にあったらいの一番に吹っ飛びそうである。過去は地元のヤンキーボスだったくせして。…そうなんです。
だからやっぱり、ゲームとは少し異なるのだろう。機械じゃなくて、彼らも生きているのだ。私はとても嬉しい。
本当に嬉しい。生きている彼らをみるのがこんなにも嬉しい。
嬉しすぎてニヤついた顔を抑えられなくて、誰かに見られる前に窓に思いっきり頭を出して外の空気を吸い込むふりをしたーーつもりが、実際吸い込みすぎてむせた。
「2人は仲良いんだね」
と、羽瀬川夏希。
「もー、腐れ縁みたいなもんよぉ」
「小さい頃から一緒にいるから、兄妹みたいなもんだよな」
とかいって?ほんとは?姫神はじめ素直になれよ〜も〜。花ちゃんのことは放っておいて〜。くっついちゃえよ〜お前ら〜。
「いいなぁ、そういうの」
花ちゃんがいうと、雅ちゃんは顔の前でブンブンと手を振って、それを見て姫神はじめと羽瀬川夏希は笑っていた。
花ちゃんは小さい頃転勤が多かったから、元の控えめな性格もあいまって友達が少なかったってファンブックに書いてあったな。そういえば。
大丈夫だ、花ちゃん。私も幼馴染みとかいないから。羨ましいよね、わかるわかる。
「栗栖は兄弟とかはいる?」
「あ、弟がいるよ。まだこんな小さいけど」
こんな、と胸の前で楕円を書くように羽瀬川夏希に答える花ちゃん。
へえー!花ちゃんには弟、小さい弟がいるんだ!それは知らなかった!
「そうなんだ!」
「まだ小さいんだな」
「ふふ、そうなの」
「花に似て可愛いんでしょうね」
「そんな。あ、写真あるよ」
「え、どれどれ」
花ちゃんの取り出したスマホを覗き込む三人。雅ちゃん筆頭に、可愛いーー!!と声があがる。
えっ、えっ、私もみたい。お願いします。みたい。すごいみたい。
かといって乗り出すわけにもいかず、唇を噛み締めたまま目の前の掲示板におでこを打ち付けた。クソォ!
せめて花ちゃんとお友だちになりたいよお!
まあ…私はあなたを見守るキューピットですから……ここはでしゃばりませんよ……ええ…。
ちなみに私には兄がいますよ、みなさん。え?どうでもいい?すみません。
もうちょっと四人を見ていたいところだけど、そろそろチャイムが鳴るしずっと掲示板見てるのも変だし、引き際だろう。
まあとりあえずは、この調子であれば雅ちゃんがガツンとやってくれる……かな?…なんだかんだ言って流しそうだけど、とりあえずは。
最後に花ちゃんのエンジェルスマイルに心をやられてから私は自分の教室に戻った。