01
乙女ゲームの転生ものです。
誤字脱字、質問等ありましたらよろしくお願いします!
私のモブの捉え方は、
別に悪くないけどよくもない、クラスで浮くこともないけど目立つこともない背景に溶け込むスペックをもつ
です。
主人公は少し地味寄りのモブ(どこにでもいそうな人)です。
私の名前は佐々倉麦。
麦のように、踏まれても踏まれても、何度でも立ち上がって真っ直ぐ生きるようにって蕎麦屋のおじいちゃんがつけてくれた名前がほんの少し珍しくて気に入っているけど、それ以外、容姿、性格、勉強、運動、芸術センス、家柄などなど全てに置いて平均かつ平凡をこれでもかと組み合わせてまるで作られたかのような平凡少女、それが私。
この春から高校生になった。
小、中学時代、クラス目立つことも暗すぎることもなく、先生に言われせれば何も問題なく周りに溶け込むことができる生徒。褒め言葉だと思ってます。
元クラスメイトからすれば、名前を聞けば、「あ〜そんなひといたよね〜なんとなく。でも顔は…思い出せないわ」と取り分けて覚えられていることはない。
クラスで必ずいる中心となる人たちからすれば、はっきり言って、モブ。友だちがいないわけではない。むしろ多い方。
そして無論彼氏いない歴=年齢の、本当にどこにでもいるフツーの、なんの変哲もない、〝モブ〟だった。
誰かに聞いたけど影であだ名がモブ倉だったらしい。佐々倉だからか。嬉しくないからうまくないから。悲しすぎる。
でもまあ、私はそんな状況に何の疑問も、不満もなかったし、気に留めたこともなかった。
あの日までは。
あの日。
それは高校に入学した日。
同じクラスにすごく目立った男の子が2人いた。クラスの女の子も初日にも関わらずこそこそと噂でいっぱい。
一人は色素の薄い、柔らかな雰囲気の背が高い、まさに王子様という言葉がピッタリな人。
もう1人は背が低く、女をやめたくなるような可愛い人。くりくりな茶色の大きな目に真っ白な肌。耳にはピアスがついていた。
私は確かに、はー、こんなかっこいい人たち本当にいるんだなあ、と観光するように眺めていたのだけど、ふと胸のあたりにもやもやしたものが残った。
どこかで、みたような…?え?あんなかっこいい人たちを?平凡モブ少女の私が?そんなバカな。
気のせいかと思いつつも、すっきりしなくて答えを探るべく二人を凝視していると前の席の女の子が何を思ったか、
「あの二人、やっぱりかっこいいと思うよね?芸能人かなにかかな…。どっちが好きなの?」
なんて唐突なことを聞いてきて、驚いた私は「どっちも!?」と慌てて言ったら、だよね、と笑われた。
いやいやいや。ぶっちゃけどっちが好みかとか、そんなの平凡モブの私には考えられませんよ。
ああいう方々は私みたいな人眼中にないですから、そんなこと考えるのだけでも罪深いですよ。
まあでもどっちかというと小さいほうが可愛……。
そこまで考えて、前の席の女の子は「私は椎名くんかなあ」と呟いて。
……椎名くん?
その瞬間、なにかがすごい勢いで頭の中になだれ込んできた。ズゴゴゴ、と。
一瞬だけズキッと痛み、めまいがした。
ーーーーわかった。
わかってしまった。
ここは、昔流行っていた乙女ゲーム、「君色☆パレット」の世界なのだと。
唐突だけど決して中二病ではないはずだ。
そしてその昔とは、私の前世のことであることが。
前世の名前とか家族とか、いつ死んだとか死んだ理由ははっきりと思い出せなくてもや〜としているけど、そのゲームの内容だけはしっかりと思い出した。
絵の才能のある主人公が5人(+隠しキャラ1人)のイケメンのうちの一人と愛を育む、そんなありがちな乙女ゲーム。
アニメ化、コミック化もされ、もちろん私も大ファンであり、主人公同様絵を描くのが趣味だったため調子に乗って同人誌などに手をだしたものだ。
主人公のように絵の才能はなかったのだけど。
基本的に乙女ゲームをやらない私。
そもそも男兄弟に挟まれていた(確か)せいで、バトルものやRPGのゲームばかりをやっていた私がハマった理由。
それはまさに、その主人公だった。
主人公が可愛い。私だけでなく幅広く人気が高かった。
まずなんの取り柄もない普通の女の子…というわけではなく、絵をかけるという才能があることが一番惹きつけられたのだ。
それに典型的な鈍感純粋天然少女であるにもかかわらず、人気が高いのはその彼女の芯の通った真っ直ぐな性格と容姿だ。
美少女という設定ではないが、この容姿が私の好みにドンピシャで、多分「君色☆パレット」の中で私が一番好きなキャラクターはこの主人公だと思う。
しかし私がはまった頃、まだ丁度今くらいの年だったため(あと無駄に頭が良かったから進学校だった)、バイトもできない小遣いだけで生きていた私には高いゲームには手がでなくてスマホで落とせる無料ゲームでかじった程度。
けれど内容はやった人の感想ブログなどを読み漁りいつか自分もやりたいと妄想を膨らましていた。
アニメは完璧に何度も何度もみたし漫画も持っていた。勢い余って二次創作なんかをしていた。今考えると黒歴史。
スマホで課金なんかもできなかったから、結局はこの目でハッピーエンドをみたことがないのだけど。(例によって結果だけなんとなく知ってる)
そして、問題の彼ら。
背の高いほうが椎名脩、小さいほうが結城真白。
2人はその攻略キャラだった。そして二人の髪色はそれぞれミルクティー色とオレンジだった。実際、2人は普通に黒?茶?なのだけど。
椎名脩はこんなふうに王子面して、実は腹黒ドSというギャップ萌えなる処遇を重視したキャラクター。独占欲が強く、嫉妬深くてすぐ拗ねてしまうのもまた母性をくすぐられて人気が高かった。
実はお金持ちのお坊ちゃんで、その攻略の上でのシンデレラストーリーも人気のひとつだと思う。
私もわりと好き。
そして結城真白は見た目は天使だが、大の女嫌いという美味しい側面を持つ男の子。可愛いと言われるのが嫌で、日々努力しているのだと言う。なんだそれ。いいじゃん可愛いの。好きだよ可愛いの。
彼は母親との問題がメインストーリーとなっていて、またこのお母さまが大変可愛らしいのだけど…それはおいとく。主人公によって女嫌いが克服されていく、アットホームなストーリーだ。ほくほく。実に可愛い。
しっかし、受験する時に学校名でなぜ気づかなかったのが不思議なくらいだ。
「桜ノ宮学園」というのだけど、かなり気に入っていた名前だったのに。なんで椎名脩でピンときた。解せぬ。わりと好きだけど。
実際「君色☆パレット」は絵の才能がある主人公が芸術科でもなんでもない、ここ「桜ノ宮学園」に入学し、二年生になったところから始まるのだ。
もちろん、それに気づいたとき、私はこれでもないくらいに喜び飛び回りたい衝動に駆られた。
間近で主人公を見かけた時は歓喜で死ぬかと思った。いや、二、三回は死んだ。
可愛かった。ほんっとーに可愛かった。エンジェルだった。空から天使だった。
しかし。
しかしだ。
当の私の立場といえば、言うまでもなく主人公ではなく。かといって敵役となる女の子でもなく。
主人公の親友…でもなく、その親友の友だちのクラスメイトだった。
……なにこの微妙過ぎる立場。どうりで自分の名前に見覚えがないはずだわ。
「君色☆パレット」で出てこないはずだよ。出てきたら逆にどこまで製作者凝ってるのって話。
始めてモブに生まれたことに泣いた。
どうせなら親友ポジションをゲットしたかった。あの麗しい笑顔をそばで拝見したかった。
主人公の公式の名前は栗栖花。
そして私は攻略キャラの1人、水垣千尋とこの花ちゃんのカップル、つまりは〝千花(千尋×花)〟に夢を抱く乙女であった。
二次創作はもっぱらこの二人を題材とさせていただいていた。
水垣千尋のことは敬意を込めて水垣さんとお呼びしていた。
水垣さんは容姿こそ申し分なく、童顔なのに背が高く美しい方であった。そして後輩であった。
初めは冷たく、花ちゃんを突き放すような態度を取るのだけど、これが、ねえ。攻略していくうちにだんだん打ち解けていくから萌える。ただ、実際ありがちな設定だけどこの水垣さんには重い病気があったりして…まあそれは後々ゆっくり話すとして。
千花のCPをゴリ押しする私としては、いくら私が麦なんて珍しい名前であるにもかかわらず本編に全くでてこなかった、アニメの画面端くれにも出てこなかったモブ中のモブだとしても、どうにかこうにか、2人にくっついてもらいたいわけである。
リアルにこの目で、千花ちゃんを拝みたい。私の野望である。
ちなみにこれは私の推測だけど、赤髪の少年こと羽瀬川夏希というキャラクターがいる。彼も実際には(おそらく地毛の)茶髪だったけど。
このままでは彼と花ちゃんはくっついてしまうだろう。
夏希は一番はじめに登場する優しく、明るい懐っこいキャラクター。彼には姉が2人いるせいか少女漫画の影響をまんま受けたような、パンピーの私には少々かゆすぎる台詞を天然で連発するトゥーピュアピュアボーイである。その実態は大家族の真ん中っ子なのだけど。つまり家が貧しいということ。
夏希と花ちゃんはクラスメイトで隣の席。1番仲よくなる確率が非常に高い。
2人と同じクラスにもう一人の攻略キャラ、姫神はじめがいるが彼はきっと二人の仲を取り持つほうに回るはずだ。
そういう、所謂自己犠牲野郎だから。でも妹思いのいい人だよ(ロリコンとは言ってない)。
姫神はじめもゲームでは緑がかった黒髪をしていたけど、やっぱり実際はただの黒髪。光にあたったら緑色に見えたりしないかと少し期待している。そんなことないだろうけど。
現にアニメ、コミックでははっきりとはされていなかったものの、夏希ルートがじんわりと。じんわりと醸し出されていた。
完結してなかったから正確ではないけど。いや夏希ルートも大変素敵。美味しい。トゥーピュアピュアボーイまじ最高。
だけど千花ちゃんが私を呼んでた。声が聞こえた。許せ夏希。
そのため私は誓った。
影から、千花ちゃんに祝福を与えるため全力で手助けをするのだと。
水垣さんが桜ノ宮に入学するのは来年のことだ。だからそれまで。花ちゃんに変な虫がつかないように、私は。
モブだけど。頑張るよ。ずっと見守ってるよおじさん。モブだけど。
ちなみに、隠しキャラも来年、水垣さんとともにさりげなく転校してくる。彼の話はまたその時にしよう。
教室の隅の席で私は拳を握りしめて硬く誓った。
花ちゃん、私はあなたのキューピッドになります。
その瞬間、「ち、近寄るんじゃねえ!」とさっそく女嫌いを公開してる結城真白が投げた消しゴムが頭に当たったけど、そのくらいで私の意思は揺るがないのだ。
…え、前の席の女の子が羨ましがってきた。Mかよ。