ショートショート二本。【噂の真相】【仲良し】
-噂の真相-
噂があった。真夜中の十二時の合わせカガミで、未来の自分が見れるというもの。
それは最初、一部の人々の間で面白半分にささやかれだし、今では皆の知るところ。
町ではいわく「例のやつをやってみたが、なんの変化もなかった」だの、「噂は本当だった!本気で、驚いた」だの、いろんな声が飛びかっている。
きてる服や周りの状態は変わらないらしい。それで判るというわけ。け。べつの未来人ではなく、自分であることが。
むろん、真相はやった本人のみぞ知る。謎めいていて、神秘的。噂の特性。皆の、興味を引く理由だ。
なかには「そんな噂は信じない」と、強く反発する人もいるが、やはり気になってしまう。手軽にできること。我慢、できない。
いずれ噂の仲間に加わる。
そんな傾向は、若者に顕著だ。
A中学では例の噂の話題で持ちきり。あるクラスでは、こんな提案がなされる。
「皆で、噂の真相を確かめてみてはどうか?」、と。
そして皆でワイワイガヤガヤ話を煮詰めていった結果、一同が深夜の校庭に集合してやるのがよかろう、ということになった。
なるほど、それなら間違いない。ひとりでも将来の自分の姿がカガミに映ったら、そく周りの人に確認。超常現象が、実証されたことになる。
「あれは、目の錯覚だったのでは?」、などと疑問を持つ余地がない。皆が、証人だ。
しかし、いざ実行に移す段になると反対をする者があらわれる。
「わざわざそんなことまでして、なにも起きなかったら馬鹿バカしいな」、と。
むろんそれは、噂を誰よりも強く信じているからこその発言。
彼は怖くて尻込みをしている。落ちぶれた将来の自分の顔が、カガミに映し出されるのを想像して……。
けっきょくは、各々の自由意思に任せることで決着がつく。ムリヤリ参加を強要する権利は、誰にもない。
それでも、かなりの人数が集まるのだろう。彼らの瞳は輝いている。押さえ切れぬ、好奇心で。
そしてその夜の校庭。小さなカガミをふたつ手に持ったクラスメイトたちの姿がある。予想通りに、ほとんどの者が集合。皆の表情には期待と不安。期待の方が、はるかに大きい。
今日、ここに来れなかった者たちは遅かれ早かれ後悔するな。皆が、そう思っている。
もうすぐ十二時。参加者全員が校庭の真ん中にかたまる。月明かり。町明かり。合わせカガミ。あとは、その時がくるのを待つだけ。
五分前、四分前、三分前……。
ゴクリと、固唾を飲み込む音。緊張が、広がる。
二分前、そして、一分前……。
カァーン、カァーン、校舎の壁時計が夜の闇を裂く。十二時!
カガミに映っていたのは――いつもと変わらぬ、自分の顔。見慣れた、顔。 近くにいる人から確認を取り合っていく。結果は、同じ。
あちらこちらから溜め息と笑い声がもれる。
先程までの緊張感がウソのように皆、ふざけ合う。
まあ、こんなものだろう。噂は噂でしかなかったな、と。
むろん、三々五々に家路を辿りながらも、皆の話題はひとつ。今日の出来事。
「噂は、まったくのデマだったな」
「だけど何ごとも経験。思い出作りには、なった」
「思い出」
「そう大人になった時笑って話せる、思い出」
彼らは、とりとめもなく喋り続ける。胸のつかえが取れたからだろう。
今晩は、ぐっすりと眠れそう。
朝。よく晴れた街。そこでは、あの噂がささやかれる。相も変わらず、飽きもせず。
冷静なのは深夜の校庭に集まった彼等ぐらい。皆で、噂の真相を確かめたから。
彼等はいろんな人にあの体験を話して聞かせる。夜の十二時の合わせカガミ、なにも起こらなかったこと。皆で、確認し合ったこと。
しかし、噂は消えない。噂は、本当だった。時間が、なさ過ぎた。
あの夜見たものは、三日以内の未来の自分。見慣れた顔なのも、当たり前。
深夜の合せカガミをしてから三日後に、ある国が誤って爆弾を発射する。最新型の、死の爆弾。
連鎖的に始まる世界戦。誤解から生まれた憎しみは憎しみを呼び、死の爆弾が世界中を飛び交うことに。
そしてわずか数時間で、地球上の生命はすべて滅び去ってしまう。
彼等に、それ以上の未来は残されていなかったのだ。
【了】
-仲良し-
僕のお父さんとお母さんは生まれてすぐに出会いました。運命です。神様が、みちびいてくれたに違いありません。
だからお父さんとお母さんはとても仲良しです。いつでも、どこへ行くのにもいっしょです。今までただの一度もケンカなんてしたことがありません。
僕がこの世の中でいちばん尊敬するのはお父さんとお母さん。僕も、夫婦円満な家庭をきずくつもりです。自信はあります。
子供はまだだけど、彼女はいるのです。お父さん、お母さんと同じように生まれてすぐに出会いました。とても仲良しです。
ミミズに生まれて最高です!
【了】