一寸法師
今だ名前のないおとーさんが息子、純に話すは一寸法師。誰がいつそんな話を聞きたいといった、俺はパズルしたいんだけど。とか思ってるのに、なんか無理やり聞かされた。でも、もうこれでもか! というくらいズレた話はなんか突っ込まずにいられない。お椀はモーターボート、箸は充電用ソーラーパネル……?
「純、昔話聞きたくない?」
「いらん」
「……いや、そうあっさり言わ「いらんと言った」……昔は可愛かったのに」
「で?」
可愛くない息子め。
昔々、あるところに……
「光か岳を呼んでくる。んで俺はパズルする」
「え、純のための特別話なんだけど」
「いつも思いつくままに適当に話してるくせに」
ぎく。
「まぁ聞けって」
「ヤだ」
一寸法師を、飼っている、爺婆がっおりました!
「大外狩りに合わせながら話すな。後飼ってるって?」
「やっと聞く気になったか」
「なってねぇし。親父が押さえつけて無かっ……」
しばらくして、一寸法師は鬼退治に行くことになりました。
「展開早っ。鬼退治って、桃太郎かよ。……っつか、退け」
京都にいる鬼のところへ行くため、一寸法師は針の剣を腰にさし、お椀の船に橋の櫂を持って、淀川を上って行きました。
ドッドッドッドドドドドドドド……
「ちょっと待て、何の音だ」
「モーターボートの音」
「どんな機能付いてんだよお椀。櫂いらねっ」
しばらくして、
ドドドドドッドッドッドッ、ドッ……
船が止まりました。
『しまった、充電切れだ』
「充電式?」
一寸法師は橋の櫂を縦にパカッと割りました。
そこにあったソーラーパネルから出たコードをお椀の底につなぎ、
「……エコだな」
『よし、一時間で充電ができる』
そのまま、どんぶらこっこ、どんぶらこっこと流されていきました。
「船どっかに繋いどけよ!?」
「生憎ロープを持っていなくてな」
「……せめて岸に上げるとか」
それはともかく。
一時間後。
『よし、充電ができた。行こう!』
ドッドッドッドドドドドドドド……
また、淀川を上って行きました。
しばらくして、京都府へ入りました。
さらに少しして、
『む。しまった……川が三つに分かれている!?』
宇治川、桂川、木津川になります。
「ガイドかよ?」
「知らないかと思って」
「……そりゃ、知らなかったけど」
「良かったじゃないか、また一つ知識が増えて」
「何かムカつく言い方だな」
「続けていい?」
「まず俺を押さえつけている手と足を離せ」
どれに行こうか悩んでいるうちに、
「無視かよ」
ドドドドドッドッドッドッ、ドッ……
充電が切れました。
「馬鹿だろ、一寸法師」
そして充電中また流され、まぁとりあえずそんな事を数回繰り返して、やっとこさ京都市に着きました。
『鬼は……どこだぁあああああああっ! っつか、ここどこだ!?』
「本格的に馬鹿だろ」
途方に暮れた一寸法師は、近くの店に入りました。
『お、どないした? 一寸法師』
バイトの若い兄ちゃんが話しかけてきます。
「えらく親しげだな。というか、よく見つけたな」
ミジンコよかでかい。
「比べるもの間違ってねぇ?」
一寸法師は、ドカッと椅子に座り、はぁーっと、盛大な溜息をつきました。
否、そうしようとしたのですが……。
『い、椅子高ぇよ!』
「だろうな」
一生懸命よじ上ろうとしたのですが、垂直に伸びた椅子の脚はツルツルと滑って上れません。
見かねた兄ちゃんが、ひょいっと上に乗せてくれました。
『あ、悪ぃな』
『気にすんなや。ほんで、どないしたん?』
『あぁー、それがさ、ちょっと聞いてくれよ。またうちの爺婆が八つ橋買って来いって……』
「鬼は!? 鬼はどうした?」
愚痴をこぼした一寸法師の話を、兄ちゃんはうんうん、と頷きながら聞いています。
そこに、一人の美人が店に入ってきました。
『姫っ!』
一寸法師は、その美人を見た途端急に元気になり、飛びつこうとしました。
「俺だったら即叩き落とすな」
『い、一寸法師!』
「って、知り合いかよ?」
二人は抱き合おうとしましたが、いかんせん、一寸法師の身長は一寸しかありません!
するっと一寸法師は、姫の細い腕から離れてしまいました。
『く、くそ……拙者の背が、もっと高ければ!』
『うん……どないしよう……』
打ち出の小槌を使えばいいのですが、それは何も知らない爺婆が燃やしてしましました。
「爺婆……名前しか出てきてねぇし」
名前があるだけましじゃないか!
……爺婆って、名前なのか?
『打ち出の小槌どや? 安ぅしとくで』
『買いますっ!』
「打ち出の小槌燃えたんじゃねぇのかよ!?」
打ち出の小槌なんてそこらへんにいくらでも転がっているモノだったのです。
「……いいのか、それで」
いいのだ。
『で、いくら!?』
『十万になりまっす!』
「高ぇよ」
高いな。
『うっ……は、はらいます!』
「姫……無駄遣いはするべきじゃねぇぞ」
うんうん。
姫は買いたてほやほやの打ち出の小槌を振り上げ、
『一寸法師……大きくなれやコラァッ!』
思いっきり振り回し始めました。
「口悪っ」
百回ほど振ったころ、
一寸法師は五十三センチになっていました。
『ひゃ、百回振って……伸びたのたった五十センチ!?』
「……一回につき、五ミリ?」
そゆこと。
『な、何センチになりたいん?』
『んー……百八十センチ』
「贅沢言うなー、こいつ」
「ん? 純は何センチだったっけ」
「さぁ?」
さぁって。
姫は一生懸命、打ち出の小槌を振り回しました。
何度も何度も、振りました。
……その際、兄ちゃんの頭に当たって彼が倒れたことについては、もう姫は必死になっているので黙っておいてあげましょう。
『大きくなぁれ、大きくなぁれ』
外からは、もう鬼神が暴れているようにしか見えなかったそうです。
「えらいことになってるな」
姫がゼイゼイハァハァ言いながら、
『こ、これでどや……?』
『くびがいたい』
一寸法師の首は、天井につっかえて折れ曲がっていました。
「デカすぎだろ」
『もーちょっと小さく』
『わ、かっ……た……。一寸法師よ……小さくなぁれ!』
シュンッ
一瞬、沈黙が店を支配しました。
そして、
『元の大きさに戻ったぁああああああああああ!?』
店が粉々に砕けそうな叫び声が響き渡りました。
「打ち出の小槌……何か、万歩計みたいな奴だな」
ちょっとずつしか増えないのに戻るときは一瞬。
結局、一寸法師は姫の家に連れて帰ってもらい、ゆっくりと身長を伸ばすことにしたのでした。
「お終い」
「やっとか」
「とか言いながらノリノリで突っ込んでたくせにー」
「ノってねぇし。つか、いい加減本気で離せ」
うん、いい加減暑い。
「よし、んじゃ一発いいな?」
「へ? 痛っ」
な、な、な、
「親を殴るとはどう言う事だぁっ!」
「手加減したろ?」
「それでも痛いわっ」
「さっきの重かったから相子という事で」
ちょっと話をしただけで何でこんな目に合うんだっ!
……え、話関係ない?