桃太郎
妹に頼まれ、おとーさんが話始めたのは桃太郎のおじいさんと
おばあさんをちょっと(ちょっと?)ダークにしたお話だった。
とにかくギャグ。最初もギャグ、最後もギャグ。
シリアスなんて物はない。そんなお話。
始めまして。
あたしは高山忍
といいま「お父さん~、何かお話して~」
……ろくに自己紹介もさせてくれないのでしょうか、こいつは。
この自己紹介を途中でぷちっと切りやがった……いえ、切ったこの小娘……。
ではなくて女の子はあたしの妹で高山光。
あたし達(おとーさん、おかーさん、あたし、光)はただいま晩御飯を食べていて、
光がおとーさんに何かお話をするように頼んでいる訳であります。
「よーし、じゃあ『桃太郎』を話してあげよう」
桃太郎?
「むか~し昔、ある所に、おじいさんとおばあさんがおりました。
ある日、おじいさんは山へ芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯をしに行きました
おばあさんが川で洗濯をしていると、川下の方からどんぶらこ、どんぶらこと、大きな大きな桃が」
「ちょっと待て! 何で川下から桃が流れてくんの!?」
「誰がいつ『流れてくる』と言った」
む、確かに流れてくるとは言ってなかったけど……。
「大きな大きな桃が、流れてきまし」
「今言ったぁ!!」
「うるさいな~。黙って聞いてよ~、お姉ちゃん~」
黙ってられるかっ。
「流れてきました。
おばあさんは、『おいしい桃ならこっちへ来い、不味い桃ならあっちへ行け』と言いました」
贅沢だな、ばーさん。
「すると、桃はすすすすすーと、」
近寄ってきたのか。
「遠ざかっていきました」
おいっ! それじゃ桃太郎生まれないじゃん!
「『あら、残念。今の桃はおいしくなかったの』と、おばあさんは言い、また洗濯を始めました。
最後のおじいさんのジーパンを洗い終わっ」
「なんで桃太郎の時代にジーパンがあるんだ!?」
「細かいことは気にしちゃ負けだよ~、お姉ちゃん~」
……細かい、かなぁ。………………百歩譲ってそういうことにしておこう。
「終わった時、洗濯籠の中に男の子の赤ちゃんがいるのを見つけました」
なんでそれまで気付かなかったんだばーさん!
「『あら、可愛い男の子だこと。おじいさんにも早く教えてあげなければ』と、
おばあさんは喜び、タップダンスを踊りながら帰」
「なんで桃太郎の時代にタップダンスがあるんだ!」
「お姉ちゃん~、気にしない~、気にしない~」
むむむむむ……
「帰っていきました。
おばあさんが家に帰ると、おじいさんはもう帰ってきていて、ヒーターの前に座っていました」
なんでその時代にヒーターが!?
……口には出さない。また光に『気にしない』って言われるだけだから。
「『おお、ばあさんや、今日はいいものを拾ったぞ』そう言っておじいさんは懐から、
あの大きな大きな桃を取り出しま」
「桃、山まで行ったの!? ってかおじいさんの懐どうなってんの!? 四次元ポ○ット!?」
「『あら、わたしも今日男の子を拾ったんですよ』おばあさんは言いました」
え? スルー?
「おじいさんは言いました。『ばあさんや、今日の夕飯は豪華じゃのう。
桃のソテーに赤子のパフェか』」
……もう、突っ込む気力もないや。どうにでもなれ。
「おばあさんはニコニコして『いいですね』と答えました。
そして、二人は桃のソテーと赤子のパフェという、
今までで一番豪華な食事にたどり着けたのでした。 おしまい」
「……ごちそうさま」
「あら~、忍~?もうご飯いいの~?」
「もういい」
食欲なくなった……。