バカな科学を世界のために
注 この物語はフィクションです。作品中に出てきた地名、人名は、架空のものです。
ショートストーリーが3本はいっているので、理解して上で読んでください。
【序章】
とある街のとある研究所。
そこでは今日も、人類の知恵と能力をいかした研究がおこなわれて――
「ふははは!どうだ、私の3連勝!」
「……博士ずるい。ハメ技は禁止」
「ゲームオタクの前田君に正々堂々かてる自信は持ち合わせていないのでね。
格闘ゲームはハメ技が重要なんだ」
――いなかった。
研究室と思われる部屋は綺麗に片づいてはいたが、大きなハイビジョンテレビの周りだけは、お菓子や飲み物、ゲームのケースなどが散乱している。
テレビ画面には、〔裏路地ふぁいと!〕という有名ゲームの画面が表示されている。
そのテレビの前では、2人の男がコントローラーを握りしめている。
この男達は徹夜でゲームに没頭していたのだ。
「……博士、琉実さんがきたら怒られますよ」
「はっはっは、白河君は今日はこないよ。休暇だからね」
博士とよばれた男がそういって、コップにはいっていたカフェオレをすする。
まだカフェオレは熱をもっていて、湯気が立ち上っていた。
「? 博士、琉実さんが玄関にきてますけど」
前田君が、玄関の様子を映し出している防犯カメラを見てそういった。
「なにぃ!?
早くゲームを片づけろ! 私は助手を食い止めておく!」
死亡フラグのようなセリフをいい、博士と呼ばれた男は玄関に走った。
廊下を走りながら、男は考える。
――何故だ?
琉実はもう玄関をあけ、中に入ろうとしていた。
「やぁ、おはよう。今日はずいぶんと早い出勤じゃないか。
しかも今日は休日だぞ?」
「? 朝8時にくるのはいつも通りでしょ。
ていうかミッちゃんなんで今日早起きしてるの?」
「私だって早起きぐらいするさ。
それより休日ぐらいやすんでもいいんだぞ?」
「いや、昨日博士、明日いくから違う日休みにしてっ、っていったらオッケーしてくれたじゃん」
「……。ははは、最近はどうも物忘れが激しいようだ。そうそう、そんなこともいってたきがするぞ」
博士、もとい益川水鳥(通称ミッちゃん)は乾いた声でそう答える。
「……ミッちゃん、なにか隠し事してるでしょ?」
「ぅっ、そんなことはないよ、白河クン!
それより前田君もきてるし、実験始めよう!うん、それがいい!」
「ミッちゃんって隠し事あるとき、早口になるよね。あと博士口調くずれるし」
白河琉実は、あきれた様子でそう言った。
「そうだ白河くん、美味しいカフェオレがはいったんだが、飲まないかい?」
「ごまかさないでください!」
話題を逸らそうとした水鳥を、白河は切り捨てた。
「商店街にできた美味しいケーキ屋のクッキーもあるんだが」
「ホント!? 食べる食べる!」
しかし、お菓子の誘惑には勝てないらしい。
――ふぅ、上手くごまかせたか……。水鳥は心底安心した表情でため息をつく。
「ついでに隠し事も聞かせてもらうから」
だが、彼の自慢の助手は、そう甘くはなかった。
◇◇◇
「……はぁ、やっぱり」
白河は額に手をあて、ため息をついた。
研究室にはいると、前田君がせっせとゲームを片づけていたからだ。
「博士……、どういうことか、しっかりきっぱり説明してもらうから」
彼女が、水鳥のことを博士と呼ぶときは、たいがい怒っているときだ。
水鳥は観念した。
「いやぁ、実は前田君がゲームしたいっていって聞かなくねぇ。
はっはっは」
罪をさりげなく逃れようとする水鳥。
「僕に責任押しつけないでください」
前田君も、負けじと責任を押しつける。
「そうよ、博士のせいに決まってるわ。遊んでばかりでニートみたいよ。
……前田君にも反省してもらうけど」
前田君がその一言で固まる。
「とにかく! 仕事もしないで遊んでいたなんて最低!
このクッキー、私がもらいますね!」
「ちょ、それはいくらなんでも理不尽すぎ――」
「……なにか?」
「ぅぐ」
白河に睨まれ、水鳥も固まってしまった。
まさに、蛇ににらまれた蛙である。
「ふぅ、まったく。もう24才にもなって……、まともに仕事しようとは思わないのかしら……」
白河は、汚いものをみるようなジト目で水鳥達を睨んでいる。
このジト目が、水鳥の心のスイッチをオンした。
「……仕事をすればいいのだな?」
水鳥がうつむいてそう呟く。
「え?」
いつもとは違う声色に、白河は動揺する。
「ふっふっふ……、いいだろう。仕事をしてやろうじゃないか……。
白河君を恐怖に陥れる発明を……」
「ちょっと博士? 何言ってるんですか!?」
完全にいつもと違う水鳥に、白河は焦りを感じた。
――まさか……。
「前田君! 仕事だ! 白河君を恐怖に陥れる発明を作るぞ!
こんなに好き勝手いわれてだまってられるかぁ!」
白河の思った通り、そのとき水鳥は完全に拗ねていた。
◇◇◇
「さぁ白河君! みるがいい、私が一週間をかけた最高傑作を!」
そういうと水鳥は、ポケットから握り拳ほどの大きさの、“鈴”を取り出した。
「くっくっく、これこそ我が発明品!
〔カムオンゴーストさん〕だっ!」
「……カムオンゴースト、さん?」
――なんだそれ。
白河は思った。思っただけで口にはしなかったが。
「この鈴の音を聞くと、脳に錯覚が与えられ、目の前に幽霊が見える、というものだ」
水鳥は自慢げに説明する。
「でも、幻覚よね」
「ふん、幻覚でも怖い者は怖い。
……実際、効果を前田君に試したところ、失神してしまったし……」
少し後ろめたそうにいう水鳥。
前田は、今日研究室にはきていなかった。
「それは凄い……。あの何事にも動じなさそうな前田君が……」
「あぁ、あいつはいい研究員だったんだがな……。
安らかに眠ってくれ……」
完全に故人の扱いを受けている前田。
そして、水鳥はニヤッと笑い、耳栓をつけた。
「さて、白河君にも体験してもらおうか……。クククク」
「はぁ? なにいってのよ。私はやらないわよ?」
「問答無用! なんのためにこれを作ったと思っているぅ!」
水鳥が悪魔に魂を売ったような目で、白河に近づく。
「ちょ、こないでよ……」
「ぐへへへへ。さぁ、くらえぇ!」
チリーン、チリーン……。
「……あれ、なんにも見えないわよ?」
「へ? そんな馬鹿な。私の発明は完璧のはず……」
そういうと、博士はポケットから、設計図のようなものを取り出した。
そこには、前田からの注意書きがずらずらと書かれていた。
その中には、
「……え、女性には効かないの?」
水鳥の表情が絶望に変わる。
「やっぱりミッちゃんってバカね」
これ幸いと、水鳥からカムオンゴーストさんをひったくる白河。
「はぁ、もう怒る気にもなれないわ。馬鹿らしい……。
私帰るんで。あ、これ没収ね」
「え? あ、あぁ」
以外な反応に、ハテナマークを浮かべる水鳥。
――まぁいっか。
「じゃあ、気をつけて帰れよー」
「はいはーい」
白河はそういって、研究所を出た。
そして一言……、
「これぐらいで許すわけないじゃない、バーカ」
白河の目は、復讐に満ちていた。
◇◇◇
そしてその夜……
チリーン、チリーン……
「うわぁぁ! くるなぁ! くるなぁぁぁぁっ!」
研究所の仮眠室に、水鳥の叫びが響き渡る。
「……やっぱり凄い威力ね」
仮眠室の窓の下で鈴を鳴らしていた白河は、そう呟いた。
それから一週間、水鳥は熟睡できませんでしたとさ。
***
【死亡フラグにご用心!】
「死亡フラグなんてあるわけないじゃん」
白河はそう言った。
そう、死亡フラグとは架空のものである。
「いや! 絶対ある! これは研究するべきだ!」
しかし水鳥は科学者のくせに、死亡フラグを信じてやまなかった。
「ねぇ、ミッちゃんなんかあったの?」
前田に耳打ちをする白河。
「なんか死亡フラグみたいなこといってしまったせいで、最近危機に陥ってる、とかいってるんですよ」
「……なに言ったの?」
「幽霊なんているわけないだろ、ばかばかしい、です」
「まだ引きずってるんだ……」
白河があきれ気味にそういう。
「バカにするな! この前だって、階段から落ちそうになったし、街歩いてたらマンションから花瓶が落ちてきたりもしたんだぞ!」
必死に訴える水鳥。
――偶然だろ……。
白河は思った。思ったが、口には出さなかった。
「とにかく! 死亡フラグを回収するマシンを作る!
前田君、手伝え!」
「ちょっと博士、そんな研究につきあってられませんよ!」
「知るかぁ!」
暴君のような言葉を吐き、前田を強制連行する水鳥。。
「はぁ……」
バッカみたい、と白河は思ったが、それ以上に自分のいたずらもやりすぎたかな、と反省はした。
◇◇◇
数日後……
「見ろ白河君! 〔フラグブレイカー〕だっ!」
水鳥は手に持っていた掃除機のような機械を掲げて叫んだ。
「……前田君は?」
白河は、ネーミングに突っ込もうとしたが、前田の姿が無いことに気づき、とりあえずそっちに突っ込む。
「……彼は犠牲になったのだ。研究に犠牲はつきものだ」
哀れ、前田君、君の犠牲は無駄にはしない、白河はそう自分に言い聞かせた。
「で、それはどういう効果があるの?」
「死亡フラグを破壊する、つまりフラグ回収だ」
水鳥は得意げにいう。
「そもそも言葉には昔から言霊という力が宿っているといわれ、死亡フラグはそれに関係している。
従ってその死亡フラグ発言者の周りに飛び交う言霊をこのフラグブレイカーで――」
「あぁもう説明はいいから見せてください!」
長々と話しそうな水鳥の説明を、白河はぶつ切りする。
「え? あぁ分かった。
……じゃあまずフラグをたてんとな」
そういって水鳥は、あるサイトを開いた。
死亡フラグ一覧表でだった。
「えぇと、まず簡単なのからいくぞ。
『……ここは俺に任せて先にいけぇ!』」
そういうと、水鳥のもっていたフラグブレイカーから、ピコピコと電子音がなり出す。
「あ、成功?」
「ちょっと待て、何か起こるはずだ……」
水鳥がそういった直後、彼の頭上にあった電球がポロッととれて落ちてきた。
「よっと」
水鳥はそれをヒラリとかわす。
「うむ、フラグは実在するようだな。
もう一回言ってみよう。
『……おや、誰か来たみたいだ』」
ピンポーン……。
「……ミッちゃん、それはホントに危ないフラグだと思うんだけど……」
玄関モニターに映った怪しい外国人を見ながら白河が言う。
「そ、そうだな。ここで使おう……」
水鳥はそういうと、フラグブレイカー〔掃除機〕の電源を入れた。
ブォォンと音がなり、フラグブレイカーが何かに反応する。
「おぉぉぉ! きたきたぁ! 言霊エネルギーがどんどんたまってるぞ!」
そうこうしている間にフラグブレイカーは停止し、玄関モニターに映っていた外国人も去った。
「どうだ! やはり私の仮説は正しかったのだ!」
水鳥がドヤ顔で言い放った。
「うーん、今のだけじゃ信じ切れないなー。もう一回やってみてよ」
白河は念のため、もう一度見ることにした。
「あぁ、いいぞ。よし……、
『俺、この研究が終わったら結婚するんだ……』」
ピキッ、と、なにかが切れるおとがした。
「お、反応してる……、ってなんで白河君に?」
フラグブレイカーの先端は、白河をさしている。
そして、その白河の目は、うつろになっていた。
「……おーい、白河君? なにか勘違いしてないで……すか?」
水鳥が一瞬言葉につまる。
なぜなら、白河が憤怒の表情をあらわにしていたからだ。
「……博士? 誰と結婚するんです? 私にも教えてくださいよ……」
白河の声が震えている。
――怒りで。
「ちょっと白河君、なにか勘違いしてないかい!? これは実験のためにいったのであって――」
「このバカ博士に結婚なんてできるかぁぁぁ! っざけんなよぉ!
博士は研究だけしとけばいいんだぁ!」
「ちょっと白河君!? なにをそんなに怒ってるんだい!?」
白河の変容ぶりに、たじろぐ水鳥。
彼女がこんなに怒ったのは、水鳥がプリンを勝手に食べたとき以来だ。
と、そこへ前田がやってきた。腕に包帯を巻いている状態で。
「おぉ! 生きてたのか!」
「生きてますよ。
……それで、これはどういう状況です?」
「実はな……」
かくかくしかじかと説明をする水鳥。
「――というわけだ。何故だと思う?」
本当に訳が分からない、といったていで、前田に問う水鳥。
「……バカですね。ちょっとは女性の心ってもんを勉強してください」
しかし、前田から帰ってきたのは、水鳥の意に反するものだった。
「え? 女性の心? 今そんなの関係ないだろ。
っておい! ちょっと待て! 逃げるな置いてくな!」
研究室から出て行く前田を追おうとした水鳥の肩に、手が置かれた。
「はぁぁかぁぁせぇぇぇ……」
「ぎゃぁぁぁ!」
「……バカですねぇ」
前田は2人のやりとりを聞きながら、しみじみとそう呟いた。
***
【原点】
公園のブランコに、8才くらいの少年少女が揺られていた。
もう日も暮れ始めていた。
「ねぇ、××の夢ってなに?」
「僕? 僕の夢はかがくしゃかな」
女の子の質問に、照れくさそうに答える男の子。
「そーいう××はなんなの?」
「私の夢、かぁ。××の助しゅなりたいな!」
「僕の? 大変だよ?」
「私がんばるもん。絶対にじょしゅになるから!」
女の子はそういって、えへへ、と笑った。
「じゃぁ、約束だ。僕はかがくしゃになる。××は僕のじょしゅになる。
絶対約束だぞ?」
「分かってる!
あ……、あともういっこ夢があるの」
「へぇ、なになに?」
女の子は少し顔を赤らめた。
そして……、
「いーわない。大きくなってから教えてあげるね」
「なんだよそれ」
「いいのいいの、ほらもう暗くなるからかえらなきゃ」
「あ、ホントだ。じゃあバイバイ!」
「うん、また明日ね!」
そういって、男の子と女の子は、別々の帰路をたどった……。
◇◇◇
「あれ、白河さん。なんだかボーっとしてどうしちゃったんですか?」
「うーん、昔のことを思い出してたのよ」
そういうと、白河はため息をついた。
「まだ叶いそうにないなぁ……。私の夢……」
「……?」
前田は少しポカンとしていたが、あまり関わらないほうがよさそうだったので、仕事に戻ることにした。
「はぁ……」
白河はもう一度ため息をついた。
そしてチラッと、机で書類を書いている水鳥を見た。
水鳥はタバコをくわえて(害のないカフェオレ味の電子タバコだが)、めんどくさそうに仕事をしていた。
――バカは私のほうなのかな……。
こんなにも長く夢を追い続けて、まだその夢にかすりもしていない。
あいつはあんなにも充実した生活をしているというのに。
すると、白河の目線に気づいたのか、水鳥がポケットから電子タバコを出して、白河に投げた。
反射でタバコを受け取る白河。
そして水鳥は何事も無かったかのように、仕事に戻った。
――たぶん、こういう優しさに惹かれているのだ、私は。
自分でも分かってはいるが、どうすればいいのか分からない。
ぐるぐると渦巻く、この感情をどう表せばよいのか。
「夢、約束、か……」
白河はそう呟くと、電子タバコをくわえた。
研究所は珍しく、静かな時間が流れていた……。
続きはあります。
クリスマスや、正月など、イベントがある日にこの作品は投稿されます。
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