女神様の人選ミスですが、私は黙りません!
…ストレスポイント溜まって5000字でサクッと書きました!
…楽しんでいただければ幸いです。
10/27:後書き追加
気づいたら、めちゃめちゃ明るい照明の下にいた。
(何これ、オフィスの照明全部替えたの? 全部LEDにしたら破産するから、1本ずつしか替えられないんじゃないの?)
まぶしいなと思いながら顔を上げると、目の前にはやたらキラキラした金髪の男と、目に痛い白いドレスの女がいた。
彼らを見上げる位置に、私は立っているようだから、多分あちらは段の上にいるんだろう。
「マージョリー! 貴様は我が愛が欲しいばかりに、日ごろからこの可憐なリリアンヌ嬢をしいたげていたそうだな」
「ジェイソン様、私つらかったです」
「あぁ、かわいそうにリリアンヌ!」
抱き合う二人を見ていると、記憶の中からノベルの口絵が浮かんでくる。
(あー同じだわ、『無一文で捨てられて皇国で聖女になりましたが、溺愛されているのであの国には死んでも戻りません!』の巻頭の断罪シーンのイラストだ)
同時に、この体、おそらく『悪役令嬢マージョリー』の記憶も蘇る。
10歳で実母が亡くなり、3か月後に義母と義妹が屋敷にやってきて虐げられるが、婚約者の王太子はそれに気が付かないばかりか、義妹に攻略されてしまうというテンプレ展開だ。
冬の初めに行われる祈念祭で婚約破棄され、この後国境付近に捨てられ、寒さの余り『仮死状態』になって聖女の能力に目覚める……のだが。
(あーマージョリー、唯一の心のよりどころだった王太子による断罪のショックが強すぎたのね。国境に行く前に、魂がどっかいっちゃったようね……)
引き裂かれた胸の痛み、その余韻がまだ身体に残っていた。
そういえば、目を開ける前、誰かの
『ちょっとしたアクシデントが起こったの、貴女に任せるわ。ゲームの流れは知ってるよね! 頑張ってね!』
という、超軽~い激励の言葉を聞いた気がする。
聖女に力を授けたのは女神という設定だったから、おそらくあれは女神の声。
(転生? 転移? ……どちらであっても、私がこの先、この胸元の空いたドレスのまま荒野に捨てられ、ピンヒールでさまよい歩いて、震えて『仮死状態』になるの?)
絶対いやだー! と心が叫ぶ。
南国育ちの私は寒いのが苦手なのだ。
会社のエアコンでさえ辛いので、席を替えるかエアコンを止めろと管理職に詰め寄った事がある。
勿論、『無一文溺愛聖女(略)』は悪役令嬢の『ざまぁ返し』物なので、優しい村人に助けられるし、目覚めた力で恩返しをして、神殿に運び込まれ聖女と認められるのは知っている。
(メインは皇国の皇子に見初められ溺愛される事だから、ゲームだと苦労編はサクサク進むけど、現実には結構長いよね!?)
それに皇子は結構屈折してるから、最初はいじわるされるし、皇子の幼馴染の令嬢にいじめられるし……正直、先の分かってる苦労なんてしたくない!
そもそもあのゲームは、オタ話を共有したい友達から『ノベライズ本』を無理やり押し付けられたんで、私は溺愛を見るのもされるのも面倒に思うタイプだ。
(これミスキャストだよ! 女神様!)
『ゲームの流れは知っているよね?』
女神の声がふと脳裏に蘇る。
そうだ……ゲームの知識は一通りある。なら……。
「何とか言ったらどうだ、マージョリー!」
「婚約解消は承りますが、罪は認めません!」
がばっと顔を上げて言い返したら、王子がびびって後ずさった。
「む、無駄だ。証拠も証言もある!」
「証拠も証言も作られた物です。大体その子のどこが虐げられている状態ですか、髪も指もピカピカじゃないですか!」
王子は反射的に、ツヤツヤで高そうな指輪のはまった義妹の手を見る。
「そんな事では……」
「虐げられているっていうのは、こういう手をいうんです!」
私は長い手袋をばっと外す。
マージョリーは長年の水仕事でボロボロなのを、王宮に行くときは手袋で隠していたのだ。
(それに気づかない、王子も王妃も教育係も、みんなおかしいよねっ!)
「そ、それくらいでは騙されないぞ!」
「それに先ほど、女神様の神託が私に下されました」
「なにぃ?」
「ご自分の聖女である私が虐げられている事で、女神様は大変お怒りです!」
「なんだと!?」
「嘘よ! お姉様が聖女の訳ないじゃない」
「そうですよ、信じられる訳がない」
「そうだ、証拠を見せろ!」
王子と義妹とその後ろにいた、取り巻きの側近達がわめきだす。
(OK! 女神から選ばれた人間である証拠を聞かせてやろーじゃない!)
「証拠をお聞かせします。まずそこにいるランツェ伯爵子息、貴方は昔、騎士団長のお父様に怒られた腹いせでお父様の大切にしていた白馬を逃がし、それを厩舎の人間のせいにしました」
「なっ!」
少し離れたところから「何だと?!」という雄叫びが聴こえ、ドカドカした足音が聞こえて来た。
察するところ、当時は幼い彼がやったとは思えず疑わなかった騎士団長であろう。
ノベライズ特典の『こぼれ話』によれば……
『厩舎の人間はクビになり故郷を追われたが、二週間歩いて着いたお隣の国の辺境伯領で、同じようにたどり着き暴れ馬となって持て余されていた騎士団長の馬と再会。これを宥めた事で、彼はつつがなく辺境伯家へ雇用された。一人と一頭はそのまま仲睦まじく暮らしたという』
(えぇ話や~)
私がうんうん頷いている間に、息子にたどり着いた騎士団長とその部下たちは、『嘘だ!』『あいつが知っている訳がない!』等とわめく伯爵子息の口を布でふさぎ、羽交い絞めにしていた。
「……お前には他にも聞きたい事が山ほどある」
父親の低く強い声のつぶやきを聞くと、観念したのか大人しくなった息子はそのまま会場から連行されていった。
手を振って見送った私は、更なるターゲットを見据えた。
「次は、ローヴァー公爵令息。貴方は日頃からリリアンヌに貢物を欠かさず、ついには家宝の『蒼の薔薇』まで渡したそうですね」
周囲から悲鳴が上がる。
大抵の家宝は、その家の宝であるだけでなく、国から各家に渡された記念の品だ。
手放すのは、家を返上する時だけと言われている。
つまり、紛失したり、売り払ったりしたらお家断絶も止む無しだ。
「違う! あれは貸しただけだ! リリアンヌがドレスに着けるアクセサリーがなくて寂しいと言うから……」
公爵令息が、自慢の黒髪を振り乱してあわてて叫ぶ。
だからと言って家宝を渡すかしら? と思ったのは私だけでなかったらしく、ナイスミドルの具現化のようなローヴァー公爵がつかつかこちらに歩いてきて、エレガンスな仕草で……息子を殴り倒した。
意外とバイオレンスだが、若かりし時は闘う外交官として、国の内外でブイブイ言わせていたと『こぼれ話』にもあった。
「……先ほどからのお前の言動は、聞くに堪えん」
そのまま公爵が鋭い視線をリリアンヌに向けると、リリアンヌは「ひっ!」と叫び、あわてて腕から青い石の入ったブレスレットを外して駆け降り、公爵に捧げ渡した。
公爵は顔をしかめ、胸のハンカチーフでそれを受け取ると、倒れた(倒した)息子の横で膝を突き、何故かこちらに向かって礼を取った。
「マージョリー・グレイス侯爵令嬢、非礼ながら今夜はここで失礼する。後日必ず、お詫びに伺います」
そう言うとこちらの返事も待たず、公爵は片手でズルズル息子を引きずって、会場から出て行った。
「……次は僕の番ですか? 残念ですね、僕には後ろ暗い過去も、現在もございません」
王太子の最後の側近、ファイン侯爵令息がメガネをクイッと上げて、挑戦的に私に言い放った。
(君にも裏話がなくはないんだが、まーそれはさておいて)
私はそっちを無視して、観客に向かって呼びかける。
「ファイン侯爵閣下」
「……お呼びですかな、グレイス侯爵令嬢」
余裕のある声が応える。
宰相である彼は、最初から割と近くにいた。
「宰相閣下に認めてもらえれば話は早いので、女神様からの取っておきのお話……宰相閣下が奥様に言ったプロポーズの言葉などを」
宰相閣下の顔色が変わる。
「私は君のくっ……」
「認めます!! 認めますぞ、侯爵令嬢。貴女は確かに女神様の御使いです!」
最後まで言わせてもらえなかった。仕方ないけど。
とりあえず、宰相閣下が味方に付いたので、会場の雰囲気も変わった。
「では、宰相閣下にお願いします。今からこの会場を封鎖してください」
「何と?」
聞き返しはしたものの、宰相は素早く部下に指示を飛ばし、この会場のあらゆる出口が閉ざされた。
扉が閉じられる重低音を聞いた後、私は改めて口を開いた。
「女神様はおっしゃいました。この中に、我が国を陥れる裏切者がいると……」
程なくして、皇国から送り込まれていた、スパイの親玉は捕まった。
この人は我が国の貴族と入れ替わり、ずっとこちらの情報をあちらに漏らしていたのだ。
王太子の婚約者が国外追放になった事も……。
ゲームではマージョリーがこの国を出て行って、10年足らずでこの国は皇国に吸収される。
その時手引きしたのが、彼らのスパイ組織だった。
「本当にすまなかったね、マージョリー嬢」
「いえ……」
あの宴から一か月後、私は病床の国王陛下に呼ばれていた。
陛下は長患いで、祈念祭は欠席していた。
それをいいことに、好き勝手やった王太子は王位継承権をはく奪され謹慎中。
王家所有の森の中にある、高い塔の上にいるらしい。
食事を受け取るためには、階段を上り下りしなければならないので、体がなまる事だけはなさそうだ。続けばだけど。
王太子を止めるどころか、逆にけしかけていた王妃は――……その他にも、王が病に倒れた後にやらかしていた他の案件(公金横領、人事権乱用、不倫……その他)もバレて離縁され、遠くの戒律の厳しさで有名な尼僧院へ送られた。
私はといえば、あれからずっと王宮に部屋をもらって住んでいる。
実家の侯爵家で虐待されていた疑いで保護され、その後事実が確かめられた事で、帰る場所も無くなった。
実の娘であり、また『聖女』を虐待したとして、実父の侯爵は遠縁のド田舎で監視付き蟄居。
義母とリリアンヌは、元の平民に戻され、国の北にある島へ追放された。
一年中解けない氷がある場所だ、と聞いて私が震えたのは言うまでもない。
陛下は、醜聞の大きさからグレイス侯爵家を取り潰して、私を王家の養女に迎える事にしたらしい。
実母は陛下の従姉妹だから、マージョリーも王家の血を引いているし、何よりも『女神の聖女』であるので、宰相はもちろん、誰も反対しなかった。
(実はまだ聖女じゃないんだけどね……)
ゲーム通りに進めなかった事で、女神の怒りが降りかかるのを予想していたが、今のところ何も起こっていなかった。
「君に王位も継いでもらいたいんだが……」
「それはお許しください」
私は苦笑を浮かべて辞退する。
陛下の病気が長引いたのは、王妃によって薬がすり替えられていたせいなので、その内回復する筈である。
まだ30代で若いのだから、是非側妃を迎えて新たなお子様を儲けてほしい。
ゲームだと『マージョリーの追放→王様の死→国の崩壊が始まる→皇国が攻めて来る』展開だった。
王様が元気になれば、この国はまだまだ大丈夫だろう。
(少なくとも私が生きている内は、ノベルズ知識で何とかなる……かな?)
それ以降は知らん。
無責任と言われても、代理がする事なんてそこまでで十分だろう。
「マージョリー様なら、立派な女王陛下になれますよ」
入ってきた宰相閣下が、白々しい笑顔を浮かべ無責任なことを言う。
性癖ばらすぞ、この野郎。
「マージョリー嬢なら、私も支えるよ」
宰相と一緒に入ってきたローヴァー公爵まで、おかしなことを言っている。
しかも、けしからん流し目付きだ。
(この人、社畜だった私の好みにドストライクなんで、心臓に悪いわ……)
ちなみに彼らの息子は、全員元気に再教育中だ。
宰相の息子は夫人所属の白百合騎士団でビシバシ鍛えられていて、公爵の子息は神殿で平民に交じって行儀見習いをさせられているらしい。
騎士団長の息子は、問答無用で辺境騎士団に送られた。頭は空っぽだが、体力があり、顔はいいので需要はあるらしい。へー。
「ほら、皆私の味方だ」
陛下が笑うと、絵で見たマージョリーの実母に似ているので、冷たくしづらくて曖昧に微笑んでしまう。
ズルズル流されるのだけは、避けなければ。
……ただ、その夜見た夢には、淡いシルエットの女神が出て来て、
『流れの通りに行かなかったけど、面白かったからヨシ! これからも楽しいの頼むね! 女王になっても応援するよ!』
と笑っていたので、この先も続投させられるらしい。
……解せん。
……Happy End?
…最近また気圧が暴れて眠れんので、一日、一晩、うーうー唸りながら書いてました。
…書き切った爽快感でUPしますんで、誤字脱字あると思います。毎度本当にすいません…_| ̄|○
▼―――ご感想いただいたので、宰相家の『こぼれ話』をちょろっと。
『宰相の奥方は女性騎士です。結婚後は、一線から身を引きましたがまだ騎士団に顔を出しています。彼女の所属する『白百合騎士団』は基本全員女性(トレードマークは白い騎士服と白のハイヒール)。
ですが時々、女性蔑視のモラハラ男が、心配した身内の手引きにより放り込……仮入団します。彼らは先輩女性騎士達の丁寧且つ力強い指導の下、プライドを粉砕され、性根を叩き直され、シャバへ戻る頃にはみちがえるようなジェントルマンになって、女性の影すら踏めなくなります。ご家族は深く騎士団に感謝し、彼女たちの名声はまた上がるのです……』




